靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

桃園結義


 上は青木正児「支那の絵本」に紹介されている元刻全相三国志平話の挿図である。
 「筆致は素朴の中に姿態備わり、洵に珍とするに足るものである。」
 絵の評価はこれに尽きようが、画かれている内容は、細かく見ると興味が尽きない。先ず桃園結義なんだけれど、桃は右上端にちょこっと画かれただけで、柳の木が二本有りそうで、ここも桃と柳の組み合わせだ。絵の右半は専ら酒宴に興を添える楽団である。野郎ばかりなのは三国志の性格から武骨を貴んだのだろう。太鼓と鼓と笛と、右端のはおそらくは拍板だろう。簡単に言えば短冊状の板からなるカスタネットのようなもの。太鼓が平たいようだが、これは今でも普通に有るものなのかどうか。中央のテーブルに載っているのはたぶん酒瓶で、左のテーブルには各人にそれぞれ酒杯と箸と小皿が有る。酒肴は三皿。少しずつ違って画かれているみたいだから三種であって、三人に一皿ずつではなさそうである。だから小皿は取り皿だろう。盛り上げた姿から乾きものかと思ったけれど、箸が添えられてるところからするとそうとも限らない。テーブルの下には黒犬が横たわっている。中国だからといって狆やチャウチャウばかりではない。三人の豪傑の脇にはそれぞれの武具を従者が捧げ持っている。張飛に青竜刀、劉備に剣、関羽は何だかわからない。青竜刀は関羽じゃないか、などと言うなかれ。演義ではこうして飲んでいるところへ商人の一行が通りかかり、鉄の寄贈を承けて、劉備は二振りの剣、関羽は青竜偃月刀、張飛は蛇矛をあつらえている。この図はむしろ正確なのである。鉄は当時の統制品で、そう簡単に好みの武具をあつらえることはできなかった。つまり、鑌鉄一千斤を贈ってくれた商人というのもそんなにまともな商人ではなかろうし、志に感じてなんてきれいごとじゃなくて、暗に強請ったのかも知れない。関羽を関王としるしているのも面白い。三国志の中でも関公とくらいは、呼ばれておかしくなかったろうが、今や関帝である。ここではその中間の関王。
 で、ここにながながと三国志の図をながめて戯言を吐いてきたのは、実は「刘俻」を見つけたからなんです。こういう俗字、元代にすでに有ったんですね。関王も關じゃなくて「関」です。

Comments

Comment Form