靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

魔法について

例えば魔法使いが,わらじをわらじのようなビーフステーキに変えたとする。
それを饗された人は,わらじを喰ったのか,それともビーフステーキを喰ったのか。

食べた人が,別にお腹をこわしもせず,藁にもそれなりの滋養が有るとしたら,あるいはそもそも肥満気味で節食した方が良かったんだとしたら,だまされたなどと言うことは無い。口が満足しただけめっけものである。もともとわらじであったことを,ついに知らずにいるとしたら,なおさらである。
しかし,魔法使い自身はどうなんだろう。自分でわらじをわらじのようなビーフステーキに変えて,おいしくいただくというのは難しいのではあるまいか。
魔法は自分には効きにくい。名医が早死にする理由の一つである。
難儀なことである。
紀昀『灤陽消夏録』には幻術の話として,以下のようにある。
泥をこねて豚を作り,呪文をとなえると,その豚が少しずつ這い出した。また呪文をとなえると,急に鳴き始め,もう一度呪文をとなえると,ぱっと立ちあがった。そこで,その豚を料理人に渡して料理させ,客に食べさせたが,あまりうまくはなかった。食べ終わったあと,客たちはみな反吐を吐いたが,吐き出したものは泥ばかりであった。(平凡社ライブラリー641)
幻術とはそうしたものなのか,それともこの幻術師が未熟だったのか。

Comments

Comment Form