靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

手勢令

 一度だけ手勢令というのを見たことが有る。多分、蘇州か杭州だったろう。大衆酒場で、お兄ちゃんが差し向かいで掛け声とともに、ひっきりなしに杯を口にはこぶ。いや、にぎやかなことだった。江南だから、おそらく紹興酒だったと思うけれど、あのピッチでは相当の酒量になるはずだ。
 残念なことに、その手勢令がどんなルールだったのかはわからない。今、ちょっと調べてみると、両人対座して同時に出した手の屈している指かあるいは伸ばしている指かの数を当てあうというのが有る。これを内拳あるいは豁拳と呼ぶらしい。ただし、豁拳では各指に名前がついているから、単純に数を当てるのではないという説もある。
 いずれにせよ掛け声だから、相当に騒がしい。あまり雅ではない。にぎやかであることに価値が有る。
 各指に性格を与える方法では「五行生剋令」というのがある。大指は金、食指は木、中指は水、無名指は火、小指は土で、互いに一本の指を出し合って、その相剋関係によって勝ち負けを決める。掛け声は必要ないから、静かにやることもできるけれど、ひっきりなしに杯を口にはこぶというのは、やっぱり幽人賢士の席には似つかわしくない。
 そうは言っても、いずれにせよ、日本の若者の一気飲みよりは数等ましだと思う。私は一気飲みを人に強いたり強いられたりしたことは無い。勝手にやったことは有りますがね。啤酒はやっぱり一気飲みでしょう。
 それにしてもビールを口が卑しい酒と書くのはなんともはや。中国人は漢字の民なのに、こういうのは案外平気なんですね。日本人は4は死を連想させるとして嫌うでしょう。中国では気にしないどころかむしろ良い数字みたいですね。四と死は現代中国語でも同じ発音のはずなんだけどね。諱の同音字、甚だしくは近音字まで避ける人たちが、ですよ。李賀は父親の名が晋粛で進士の進と同音だからという理不尽な難癖によって、科挙の試験を受けられなかった。ただ、そもそも鬼才と評されるような人が政治家に向いていたかどうかは問題ですがね。鬼才は幽霊のような才能という意味です。それでも、現代日本の政治家よりは数等ましかも知れないけれど。彼らは何才と呼ぶべきなんだろう。

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