靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

五里

明の『顧氏画譜』を眺めていて,妙な絵をみつけた。銭唐の李嵩という人の髑髏の図で,髑髏が髑髏の人形を操っていて,幼児がそれに這い寄っていくという極めて意味深な題材ではあるが,ここに妙なと言ったのはそのことではことではなくて,左上の塀のようなものの上にある「五里」のことである。
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どんな故事によった絵なのか分からないのだから,詮索のしようが無いのだけれど,私などは『霊枢』本輸篇の「尺動脈在五里,五輸之禁也」を思い浮かべてしまう。でも塀の上に五里穴の標識を立てるべき理由はない。あるいは本輸篇などの五里のほうが五里穴などではないのかも知れない。残念ながら「五里」は『漢語大詞典』などにも載ってないので,不吉な意味が有るのかどうかも確かめられない。

菉竹氏から中国絵画史ノートというWEBの情報をもらいました。
この絵の現物は北京故宮博物院にあるらしい。で,黄公望の対詩が付けられているそうです。

 没半點兒皮和肉    これっぽっちの皮も肉もなく
 有一擔苦和愁     けれどもどこか苦しみと愁いをにない
 傀儡兒還將絲線抽   人形師は糸を操る
 弄一個小様子把寃家逗 かわいいあんたにちょっと一くさり
 識破個羞的不羞    見世物とわかっていても
 呆          阿呆のように
 你兀自五里單堠    あんたは五里駅でまだ見ている

堠は昔のひとが里程を記載する為に築いた土塁のようです。五里に一単堠を築き,十里に一双堠を築いた。
で,結局どうして「五里」とあるのかはよくは分かりませんが,十里が終着点ですでに半ばに来ているのに,何も考えずに呆けている,とでもいう意味だろうか。

 元旦や冥土の旅の一里塚 めでたくもあり めでたくもなし

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