靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

日進月歩

現代医学は日進月歩で,ついこの間まで不治とされていたものが,それほどまで絶望することはない,という。無論結構なことである。しかし,考えてみると,最先端の知識に基づいて摂生,治療していたのが,人の短い生涯の間に何度も覆されて,そんなことをしていたから病気になった,かえって良くなかったなどと言われたのではたまらない。卑近な例で,スポーツ選手が途中で水分を補給することは,ついこの間まで禁じられていた。これはコーチの精神主義,根性論が元凶だったのであろうが,すくなくともスポーツ医学による指導が根性論を打破するには無力だったということである,ついこの間までは。これでは熱中症で死んだ子供は浮かばれない。ひどい腰痛にはさっさとメスを入れるというのも30数年前には先端的な考えだったそうです。でもだいぶ前から反省が有って,むやみにメスを入れないというのが現在の先端的な考えだそうです。むかし最先端に走った人には取り返しがつかない。虫垂炎も,虫垂なんてものは人間にとって無用であるから,疑わしければ切除しておけ,というのが常識であった。明日から(盆休みとか年末年始の)休暇に入るから,今日の内に手術してしまう,なんてことも別に批判の対象にはならなかった。でもね,手術の痕が季節の変わり目に,やっぱり痛むんだそうです。なんとなく不調なんだそうです。そこで,不要な手術はするな,虫垂炎も散らせるんだったら散らし切れ,という傾向もぽちぽち出てきたそうです。虫垂炎の手遅れで亡くなる,なんてこともついこの間までは有ったんですから,疑わしければ切除してしまえという方針を今更批難するのもなんだけど,どうして手術なんかしたの?と同情される日ももうそこまで来ている。

日進月歩しない医学というのも,案外すてたものではないかも知れない。

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