靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

本輸の使い分け

 『霊枢』に於ける五輸穴の運用法は、四季に応ずる選穴を主とするようだが、未だ洗練されているとは言い難い。つまり、四季に応じて取るべきところの指示に、井滎輸経合以外のものが多く混入している。
 一応の完成形は順気一日分為四時篇で、冬は井を刺し、春は滎を刺し、夏は輸を刺し、長夏は経を刺し、秋は合を刺す。本輸篇ではその他に、春には絡脈や分肉の間に取り、夏には肌肉皮膚の上を取り、秋には(春と法の如しというから)絡脈や分肉の間も取り、冬には諸輸を取る。つまり本輸篇では井滎輸経合のうちの何を選択するかの他に、部位名称を挙げている。本輸篇の冬は「取諸井諸輸之分」であるが、順気一日分為四時篇の井を引き算すれば諸輸であり、この諸輸は井滎輸経合の輸ではなくて、所謂ツボということになる。
 では部位名称だけを挙げる篇はというと、寒熱病篇に、春は絡脈を取り、夏は分腠を取り、秋は気口(腕関節橈側とは限らず、一般に気の発する口だろう)を取り、冬は経輸を取るとある。この経輸について、多紀元簡が「総言経穴,非諸経之経穴兪穴」と言う。逆に推し量れば、古来、井滎輸経合のうちの経と輸と誤解するものが多かったということである。この誤解に基づいて、さらに冬至に一陽が生じるという思想による修正を加えて、冬を井と定め直し、ならば他の季節は何かと配当していったのではないか。
 四時気篇にも本輸篇に似た配当が有るが、微妙に異なる。春は絡脈分肉の間(王冰注に引くもので校正済み)、夏は盛経孫絡と部位名称を言い、秋は経輸、冬は井滎という具合に本輸からの選択を指示する。おもしろいことに、これは『素問』水熱穴論と基本的に同じである。ひょっとすると、暖かければ衛気、寒ければ営気を調節するというつもりかも。
 つまり、寒熱病篇の冬の経輸を誤解することから発して、井滎輸経合に四季を配当できるのではないかと工夫した人が何人かいて、それぞれの努力の跡が残されているのであろう。
 結論として、季節によって井滎輸経合を使い分けようとするのは、誤解に発するこじつけである可能性が高いが、結果として順気一日分為四時篇ともなると、陽気の推移にしたがって指先から肘膝までを使い分けることになるので、本来の発想の経緯とは別に、またそれなりの妥当性が生まれているかも知れない。

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