靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

西湖の柳

 杭州西湖の春は柳、夏は蓮、秋は月、冬は雪。杭州へは何度も足をのばしたが、さすがに断橋残雪には出会ってない。カラーの写真を見た記憶は有るから、近年全く降らないというのでも無かろうが、先ず望み薄だろう。上海ですらちらほらしだしたと思ったら、地に触れるまえに消える、というのを一度目にしただけ。
 春の柳は素晴らしい。しだれ柳が湖水に垂れている。薄曇りか、いっそのこと雨模様のほうが好ましい。桃と柳が中華の春の景色というけれど、桃はともかく柳の良さは西湖で始めて知った。鶯が柳の間で鳴いている。柳浪聞鶯、これも西湖十景の一つ。もっとも、中華の鶯は、我が鶯とは違う種類らしい。梅でなくて柳と取り合わせるのも面白い。
 梅も西湖の孤山に沢山に植わっているはずだが、満開を観た記憶は無い。ちょっとづつ時期をはずしていたのだろうか。


 森鴎外の史伝小説に江戸の漢学者が長崎へ商売に来る清国人に依頼して、西湖の柳を手に入れようと苦心する話が有ったように思う。当時の人々はいくら中華に憧れても、自ら赴くことは夢のまた夢だったわけだ。今ならそんなことは無いし、柳は枝を折って挿せば根付くと言われるほど丈夫なものだから、今度行ったら一枝をポケットのしのばせてこようと思っている。もう十年ほどになろうか、未だ果たせないでいる。

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