ミル

(みる Mill, John Stuart)

両方[高級な快と低級な快]を等しく知り、 等しく感得し亨受できる人々が、 自分のもっている高級な能力を使うような生活態度を断然選びとることは 疑いのない事実である。 畜生の快楽をたっぷり与える約束がされたからといって、 何かの下等動物に変わることに同意する人はまずなかろう。 馬鹿やのろまや悪者のほうが自分たち以上に自己の運命に満足していることを 知ったところで、頭のいい人が馬鹿になろうとは考えないだろうし、 教育ある人間が無学者に、親切で良心的な人が下劣な我利我利亡者 になろうとは思わないだろう。 こういう人たちは、 馬鹿者たちと共通してもっている欲望を全部、 もっとも完全に満足させられても、 馬鹿者たちより余分にもっているものを放棄しないだろう。 (中略) 高級な能力をもった人が幸福になるには、 劣等者よりも多くのものがいるし、 おそらくは苦悩により敏感であり、 また必ずやより多くの点で苦悩を受けやすいにちがいない。 しかし、こういった数数の負担にもかかわらず、 こんな人が心底から、より下劣と感じる存在に身を落とそうなどとはけっして 考えるものではない。

---J・S・ミル

私の、 幸福があらゆる行動律の基本原理であり人生の目的であるという信念は微動もしなかったけれども、 幸福を直接の目的にしないばあいに却ってその目的が達成されるのだと、 今や私は考えるようになった。 自分自身の幸福ではない何か他の目的に精神を集中する者のみが幸福なのだ、 と私は考えた。 たとえば他人の幸福、人類の向上、あるいは何かの芸術でも研究でも、 それを手段としてでなくそれ自体を理想の目的としてとり上げるのだ。 このように何か他のものを目標としているうちに、 副産物的に幸福が得られるのだ。…。 自分は今幸福かと自分の胸に問うて見れば、 とたんに幸福ではなくなってしまう。 幸福になる唯一の道は、 幸福をでなく何かそれ以外のものを人生の目的にえらぶことである。

--J・S・ミル

私は常に、抽象的な学問…の畑は別として、 独創的思想家としての自分の才能をあまり買っていなかったが、 すべての人から学びとるという気持および能力にかけては、 同時代の大概の人たちにくらべて、はるかにまさっていると考えていた。 事実、新と旧とを問わず、あらゆる意見のための弁護論を、 私くらいたんねんに検討する習慣の人間はほとんど見ることができなかった。 それは、たとえそれがまちがった議論であったとしてもその底には 一脈の真実がひそんでいないとはかぎらず、 また、どういうばあいにもせよ、それらの議論を一応もっともらしく見せているのが 何であるかをつきとめれば、やはり真実にとっての利益とはなるにちがいないという、 私の確信から出た習慣なのであった。

---J.S.ミル

彼は批判をそれ自体として好みました。 彼は追従を嫌い、自分の著作が褒められることすら嫌いました。 彼は他人の内にある独断的思想を攻撃し、 自分自身は本当に独断から自由でした。…。 彼は虚栄心を持たず、名声を気にせず、 それゆえ一貫性のために一貫性に執着することなく、 人間の問題が問われているときには自分自身の名誉に執着することもありませんでした。…。 理解できないなら(しばしば理解できないことはあったに違いありません)、 彼は理解したふりをしませんでした。

---アイザイア・バーリン

It was now perceived that such phrases as "self-government," and "the power of the people over themselves," do not express the true state of the case. The "people" who exercise the power are not always the same people with those over whom it is exercised; and the "self-government" spoken of is not the government of each by himself, but of each by all the rest. The will of the people, moreover, practically means the will of the most numerous or the most active part of the people; the majority, or those who succeed in making themselves accepted as the majority; the people, consequently may desire to oppress a part of their number; and precautions are as much needed against this as against any other abuse of power. [...] [I]n political speculations "the tyranny of the majority" is now generally included among the evils against which society requires to be on its guard.

---J.S. Mill, On Liberty, Ch. 1.


イギリスの思想家(1806-73)。 ジェイムズ・ミルの一人息子で、 ベンタムの弟子の一人。 功利主義の大成者であり、 自由主義の強力な擁護者であり、 女性の参政権を含め、普通選挙に基づく代議制民主主義を主唱したことでも知られる。 論理学も経済学に関しても一流の学者であり、 彼の思想と存在は19世紀後半の英国の人々に多大な影響を与えた。

主著『自由論』(On Liberty, 1959)、 『功利主義論』 (Utilitarianism, 1861)、 『代議政治論』(Considerations on Representative Government, 1961)。

2002年度の授業のPPTファイルも参照せよ。

08/Jun/2001更新; 26/Sep/2004


上の引用は以下の著作から。


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Thu Oct 2 17:58:29 JST 2014