アイザイア・バーリン

(あいざいあばーりん、Berlin, Isaiah)

"Philosophy can only be done by very clever people. I didn't think I'd ever be good enough. In the end, I thought it wasn't for me because I didn't lie awake in bed at night thinking about solutions to agonising philosophical problems."

---Isaiah Berlin

"In his forties, I think as a result of going to Moscow, meeting the poet Akhmatova, seeing how Russian intellectuals were being persecuted, steel entered into him and he saw that he was a committed western liberal who loathed Soviet tyranny. And the one big thing he knew was the defence of liberty against that kind of utopia, that kind of totalitarian tyranny."

---Michael Ignatieff


20世紀英国の哲学者(1909-1997)。 エアオースティンとともにオックスフォード大学の 論理実証主義あるいは日常言語学派の代表者の一人で、 とくに「自由」の概念の分析で有名。 1958年の「二つの自由概念」(`Two Concepts of Liberty') は二十世紀後半の政治哲学に大きな影響を与えた。

「二つの自由概念」においてバーリンは、 自由の二つの用法に注目し、 有名な「消極的自由(negative freedom)」と「積極的自由(positive freedom)」 の区別を行なっている。 消極的自由は個人が他者からの干渉なしに自由に選択することができることで 「〜からの自由」とも言われる。 たとえば政府による検閲なしに『上海ベイビー』を出版できる自由は 消極的自由である。

これに対し、積極的自由は自分の行動を「自分自身の選択」によって決定する自由で、 いわば「自己の支配者」となることである。 通常この積極的自由は「〜への自由」「〜する自由」と呼ばれるが、 この言いかえはバーリンの区別をかえってわかりにくくするので注意。

「自分自身の選択によって決定する自由」と言ったときに意味されるのは、 単に他人などの外的な要因によって自分の選択が邪魔されないというだけでなく、 自己の「高貴な部分」すなわち理性ではなく、 「卑しい部分」すなわち欲望によって決定されることがないということでもある。 たとえば、積極的自由の概念からすると、 積極的自由が阻害されるのは、 「『上海ベイビー』が発禁で買えなかった」 「お金がなかったので『上海ベイビー』を買えなかった」 という場合だけでなく、 「卑しい欲望に負けてついつい『上海ベイビー』を買ってしまった」 という場合も含まれる。 理性が欲望に負けるのは奴隷状態であり、自由ではないのである。

バーリンは、歴史的に見て、 この積極的自由の概念が全体主義国家によって悪用されてきたとする。 というのは、 積極的自由は政府による個人の抑圧を正当化する手段になりうるからである。 たとえば、「お前は自分が何をすべきかわかっていないから、 国家はお前を強制的に労働させることにする。 しかし、この強制労働はお前の自由を奪うものではなく、 お前を『真の意味で』自由にするものである。 お前は強制されることによって自由になるのだ(forced to be free)」 というようなレトリックがそれである。 (この主張の背景には、 彼自身ユダヤ人であり、1919年のロシア革命、ナチによるホロコースト、 そしてソ連の圧政を目のあたりにしてきたという事実がある)

ただし、バーリンは積極的自由の概念そのものを批判しているのではない点に注意。 彼は「誰でもない、自分自身によって決定する」という目標は正当なものだ と考えている。

またバーリンは、 自由や平等や正義といった価値は単一の価値に還元できないばかりか、 常に衝突する可能性を持っているとし、 価値の多元主義を主張。 そしてそれゆえにこそ選択の自由(消極的自由)が必要なのだと述べ、 自由主義を熱心に擁護した。 (彼は、 価値一元論、あるいは「最終的な解答」が存在するという考え方は、 積極的自由と同様、歴史的に見て非常に有害であったと考えている)

12/Aug/2001


上の引用は以下の著作から。


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Fri Jan 28 03:43:18 JST 2000