概念

(がいねん concept)

内容なき思惟は空虚であり、概念なき直観は盲目である。

---カント

概念は個人と同様に歴史を持ち、 また個人と同様に時間による荒廃に耐え抜くことができない。

---キルケゴール


ドイツ語ではBegriff。 ロックは一般観念general idea という言い方をする。

概念とは…、と定義しようとすると難しいので具体例から述べると、 たとえば、「犬の概念」というのは、 あの犬とかこの犬とかいう個々の犬を指すのではなく、 犬一般を意味している。 すなわち「犬と呼ばれるにふさわしい特徴を持った生き物」 全体を一度に指そうと思ったときにあなたの頭に浮んでいるのが、 犬の概念である。 このように、犬でも三角形でもよいが、 ある事物一般を指し示す言葉や考えを概念と呼ぶ。

ところで、 このような概念がどのようにしてわれわれの頭の中に生まれてくるか、 というのは西洋において大きな論争の的となってきたものであり、 「概念は生まれながらにわれわれに備わっている」と考える立場が 生得説であり、 逆に、「概念は個々の事物を経験し、 それらに共通の特徴を抽象することによって得られる」と考える立場が 経験論である。

はっきりした年代はわからないが、 この語が英語圏でひんぱんに使われるようになったのは20世紀に 入ってからと思われる。 20世紀前半の言語分析を重視した哲学者たちがこの語を流行語として使っていたのは、 ライルThe Concept of Mindとか、 ハートThe Concept of Lawとか、 アイザイア・バーリンのTwo Concepts of Libertyなどというタイトル からも明らかである。 それまでは英国哲学では観念という言葉が 主に用いられていたわけだが、 ブラックバーンの哲学事典の「概念」の項によると、 観念(idea)という語が敬遠されるようになったのは、 観念という語が《頭の中の視覚的イメージ》という不必要な連想を持っていた からだそうだ(「不必要」というのは、個物から抽象された一般的な性質は 言葉によって表現できるので、頭にその像を描く必要はないため)。

05/17/99; 26/May/2001; 02/Sep/2003


冒頭の引用は以下の著作から。


KODAMA Satoshi <kodama@ethics.bun.kyoto-u.ac.jp>
Last modified: Tue Sep 2 01:14:15 JST 2003