一般社団法人 京都府臨床検査技師会
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会報 理事会議事録 研修会報告
研修会報告(平成22年度)
臨床化学分野

10-026


日時:平成22年09月05日 (火) 8:00〜17:30;京都大学大学院医学研究所 人間健康科学 第9講義室
参加人数:97人  分類:専-20

主題:「臨床化学講演会」
副題:第2回京都臨床化学サマー研修会 生化学検査基礎講座
講師1:藤本 一満 先生 (ファルコバイオシステムズ総合研究所)
講師2:南部 昭 先生 (京都府立医科大学附属病院)
講師3:池本 正生 先生 (京都大学大学院医学研究所 人間健康科学系専攻科)
講師4:飯沼 一茂 先生 (アボットジャパン株式会社)
講師5:山下 章吾 先生 (アークレイマーケティング株式会社)
講師6:足立 浩 先生 (アルフレッサファーマ株式会社)
講師7:山本 慶和 先生 (天理よろづ相談所病院)
講師8:金原 正子 先生 (古環境研究所株式会社 奈良研究所)

午前の部では分析化学の基礎である試薬濃度計算、基質濃度および活性値の計算、反応終了時間の計算について、午後の部では糖尿病について原因・治療、HbA1cの測定と動向、慢性腎臓病の原因・検査についてそれぞれ学んだ。
記念講演では寄生虫卵からみる古代人の食生活を、教育講演では日臨技・臨床検査値標準化部会から共有基準範囲について講演された。

【研修1】試薬調整における濃度計算、モル吸光係数から試料量の計算
演習問題を7題出題され、解説された。
モル濃度mol/Lとは溶媒1000ml(1L)中に含まれている溶質の物質量の割合を表した濃度をいう。まずmg/dlからmmol/Lへの濃度計算問題で単位を揃えることが必須であることを説明され、比率を考慮した問題、分析装置上での試薬量を考慮した問題、ランバート・ベアの法則ABS=ε×C×Lを使用する応用問題など解説された。L・dl・ml・μlと単位が入り混じるので複雑に思えるが、繰り返し演習することが理解への近道だと思われた。

【研修2】基質濃度および活性値測定の組み立てと計算法
分光光度分析法について、入射光・透過度・吸光度の関係と、ランバート・ベアの法則を用いて説明された。
分光光度分析法を用いた目的成分の定量には、検量線を用いた相対分析とモル吸光係数を用いた絶対分析があり、それぞれについて演習問題が出題された。
酵素活性の単位は「1単位(国際単位)は至適条件下で毎分1μmolの基質を変化せしめることができる酵素量」と定義されており、これについても演習、解説がなされた。

【研修3】反応終了時間の計算法と影響因子
酵素活性の反応終了時間に及ぼす影響因子には、基質(種類・濃度)緩衝液(ph・種類・濃度)温度、km値、阻害剤、活性化剤、界面活性剤、酵素の安定性などが挙げられる。反応終了時間を求める基礎理論としてミカエリス・メンテンの式を展開し、Urease活性量を計算したり、グルコースと尿酸を比較したりして高濃度では測定時間に差があることなど説明された。また基礎理論は理解しにくいとは思うが、メーカーに任せきりでなく検査技師として反応系が組み立てられるようになるべきだと述べられた。

【研修4】糖尿病発生機序および治療
インクレチンとは小腸などの消化管が出すホルモンの総称で膵β細胞に作用してインスリンの分泌を促す効果を持つ。中でも「GLP1」はグルカゴン分泌抑制と脳への食欲抑制の作用、「GIP」はインスリン分泌促進の作用がある。糖尿病患者ではこれらのインクレチンを体内で分解する「DPP4」という酵素が過剰に働き、インクレチンが分解されてインスリン分泌が低下する。インクレチン関連薬という新しい治療薬はDPP4の活動を抑制するものや、GLP1に似た人工ホルモンを注射するが、従来薬と比較してβ細胞の能力が低下するという副作用がない。
また糖尿病の原因の1つにHBV・HCV感染が関与していると報告されていることなど、最近の糖尿病治療について講演された。

【研修5】HbA1cの国内動向と測定法について HbA1cの測定法には血液中のヘモグロビンを各成分で分離し、全ヘモグロビンに対するHbA1cピークの割合を算出するHPLC法と、HbA1cに特異的な抗体を用いて凝集量を測定する免疫法がある。1990年代の国内標準化においてHPLC法を採用し、不安定分画を除去して安定分画のみを測定する検査方法に統一、施設間差を収束して国内標準法と位置づけた。2010年に糖尿病診断基準が改定され、HbA1c値はこれまでのJDS値6.1%に+0.4%を上乗せしたNGSP相当値である国際標準値に切り替わるなど最近の動向についても講演された。

【研修6】慢性腎臓病と腎機能評価(eGFR)について

CKD(慢性腎臓病)の定義はGFRで表される腎機能低下(60ml/分/1.73u未満)、尿異常・画像異常・血液異常など腎障害を示唆する所見が慢性的に持続することをいう。推定GFRは血清クレアチニン値と年齢を用いた計算式(MDRD式)で、平成18年に年齢・性別・血清クレアチニン値を用いた日本人に適したJ-MDRDが作成された。
腎機能が急激に変動する急性腎不全や、腎機能に関係なくクレアチニン値が変動する筋肉量増減や経口摂取異常ではeGFRは適用できない。
eGFRとイヌリンクリアランスとの相関は良好で、今後は新たな指標でもあるシスタチンCを用いたGFR推定式を作成して、さらに正確な腎機能評価を目指し、生活習慣病から発症する糖尿病性腎臓病や高血圧による腎硬化症などを早期発見、治療に繋げることが課題であると講演された。

【教育講演】共有基準範囲の使い方、方針、処理の仕方
日臨技・臨床検査値標準化部会が全国で共有できる基準範囲を設定するべく、平成19年より取り組んでいる内容とその経過について講演された。
トレーサビリティが確保された全国の多数の基幹施設による測定値は、施設内変動、施設間変動、個体内変動および個体間変動で構成された基準値であることから、各施設は求められた基準範囲を共有することができる。
「健常である」ことを他人が評価できるように明確化、除外基準を設ける。健常ボランティアは採血数日前から運動・飲酒など控え、採血条件・検体処理や搬送などを詳細に統一、問診調査も行う。
測定基幹施設の精確さを確認するために、各項目で認証標準物質の測定を行い、長期での精確さ評価には数種類の管理血清を用いた。
こうして得られた検査値を分析すると、施設間・施設内許容誤差限界において精確さの許容範囲を超える施設が多い項目もあるが、層別化(性・年齢・地域)の検定(枝分かれ分散分析法)によって地域差は無いことが確認され、全国一律の基準範囲を求めて基準値とすることが可能であるといえる。
また基準範囲は測定値を読む「ものさし」であって正常・異常を区別するためのものでないことを、各疾患のガイドラインから診断基準値を合わせて説明された。
まだ途中経過であるが、日臨技会誌に掲載されている標準化WGの報告内容をこのような形で聴講できると、理解や啓蒙に効果的だと思われるので、今後もぜひ続けていただきたいと思う。

【記念講演】寄生虫卵からみる古代大和人の食生活
今話題の平城遷都1300年祭の舞台である平城宮跡から発掘されたトイレ遺構とそこから発見された寄生虫卵について講演された。
トイレットペーパーが無い時代、チュウ木という木のヘラで用を足していたと考えられ、写真で見た一緒に発掘された黒っぽい化石はまさにウンチ。ご夫婦二人三脚で微化石分析と検便のノウハウを駆使して検出された寄生虫卵は教科書で見たものと同じであった。
寄生虫は寄生する生物が決まっているため、それらから古代人の食生活習慣が判り、同時に検出された花粉や種実でも生活史が明らかになった。平城宮跡からは回虫・鞭虫・肝吸虫・異形吸虫など川魚に寄生する寄生虫卵の他、マンソン裂頭条虫卵、有鉤・無鉤条虫卵が検出され、肉食禁止令があった時代にブタ・ウシを食していたのか、外国人が居たのかと古代を想い議論する。ヒト由来であると断定できないが、ヒトは生きている限り排泄が必然であり考古学的にも重要な研究だと述べられた。
聴講者から、一般的な集卵法で検出するのかと検査技師らしい質問をされたが、寄生虫卵は化石化しており比重が異なるため、通常の集卵法では遠心回転数が合わず試行錯誤したこと、直接塗抹ではほとんど検出できないことや化石の厚みがありすぎて鏡検できないことなど返答された。
私個人では臨床に出て随分になるが、セロハン法でぎょう虫卵を見たくらいで実際に糞便から虫卵を検出した経験がない。検査技師として意外な分野で活躍されているのは嬉しいことで、講演内容も非常に興味深く面白かった。

平成22年9月5日報告:和田 香織 (第2岡本総合病院)

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