新しい検査法や治療法の副作用と効き目をしらべるために、決められたやり方で患者さんに新しい検査や治療をおこなう試験を「臨床試験」といいます。くすりとして厚生労働省(国)から認めてもらうためにおこなう臨床試験が「治験」です。ここではFCD2型のてんかん発作に対する「シロリムス」というくすりの治験について説明します。
限局性皮質異形成(FCD)は、くすりの効き目は一時的なため、発作をおさえるためには手術による病変切除が必要です。切除術の有効性は70%程度で、手術後も発作が続く人や、手術によって正常なはたらきがうしなわれ麻痺などの後遺症が予想される人では、手術ができないばあいもあります。発作が続くことによって、知能や運動などのはたらきが下がることもあり、手術に代わる治療法の開発が求められています。
私たちは、FCD2型の原因が、脳細胞におきたMTOR遺伝子の変異により、細胞の中で信号を伝えるタンパク質「mTOR」(エムトール)のはたらきが強くなっていること(機能亢進による活性化)をあきらかにしました。MTOR遺伝子はmTORタンパク質の遺伝子です。mTORの活性化によっておきる病気として、ほかに、結節性硬化症や片側巨脳症、多小脳回をともなう巨脳症などがあります。いずれも脳の形成異常をともない、てんかん発作をきたします。結節性硬化症にともなうてんかん発作やヒトと同じMTOR遺伝子の変異をもつネズミでは、mTORのはたらきをおさえるシロリムスやシロリムスをもとにしてつくられたエベロリムスが、てんかん発作をへらすことがわかっています。mTORが活性化しているFCD2型でも、mTORの作用をおさえるシロリムスの内服によって、てんかん発作をおさえることが考えられます。
シロリムスは、抗免疫作用、抗腫瘍作用、抗平滑筋作用をもち、日本では、すでにリンパ脈管筋腫症のくすりとして承認されています。米国では腎移植後の拒絶反応予防薬としても承認されています。この治験では、まだ承認が得られていないFCDてんかん発作に対するシロリムス(ラパリムス®)の効果や安全性をしらべます。
この治験に参加いただくためにはいくつかの条件があります。年齢は6歳以上で、体重は20kg以上のほかに、てんかん発作が月2回以上あり、くすりを毎日決められたとおりに服用し、発作の回数をただしく記録できることなどです。逆に、ビガバトリンを過去6か月以内に服用したことがある方や、6か月以内にてんかんに対する脳外科手術を受けた方、ケトン食療法をおこなっている方、自殺をしたいと思ったことがある方、心臓、腎臓、肝臓に重篤な合併症がある方、免疫不全症がある方などは治験に参加できません。本治験は決められた施設と医師によりおこなわれます。
治験の調整は、昭和大学医学部小児科(統括責任医師:加藤光広)でおこないます。
治験はFCDの診療に精通した全国の数か所の施設で、治験審査委員会(IRB)の承認を得ておこなわれます。
治験責任医師と治験担当医師やサポートするスタッフは、治験に参加される患者さんを守ります。
治験は、2018年(平成30年)後半からの開始を予定しています。期間は、くすりの投与量を調節する期間と、くすりの量を一定にして発作の回数を判定する期間とをあわせて数か月間くすりを飲みつづけていただきます。
治験は決められた施設と医師によりおこなわれます。治験の調整は、昭和大学医学部小児科でおこないます。治験はFCDの診療に精通した全国の数か所の施設で治験審査委員会(IRB)の承認をえておこなわれます。治験責任医師と治験担当医師やサポートするスタッフは、治験に参加される患者さんを守ります。
全国で十数名が参加する予定です。
シロリムスの錠剤を、1日1回朝に内服していただきます。体重と血液中のシロリムスの濃度に応じて量を調整し、1日1回でも多いばあいは1日おきに飲んでいただくこともあります。
治験に参加していただいているあいだは、発作日誌に発作の回数や発作のようすを書いていただきます。血液検査や尿検査、心電図、脳波、頭部MRIなどの検査を受けていただき、シロリムスがどのように影響するかをしらべます。
シロリムスにはさまざまな副作用が知られています。シロリムスは免疫抑制剤ですので、感染症に対する抵抗力が低下し、感染症にかかりやすくなる可能性があります。もっとも多くみられる副作用は口内炎とよく似た口の中の「ただれ」です。ただれは自然に消えることが多いですが、痛くて食べられなくなったときには、シロリムスの内服を中止し、ただれが治ってからくすりをまたはじめます。
シロリムス服薬者の約1%に、間質性肺炎が報告されています。大部分(95%)の患者さんは、服薬中止によって改善します。しかし、心臓移植を受けた3人は、間質性肺炎が原因で死亡しています。服薬中に間質性肺炎になったばあい、投与が中止されます。他に、心筋炎が1%にみられます。心筋炎になったばあいも、投与が中止されます。
シロリムスの他の治験では、手、脚、足の腫れや高血圧が約半数にみられました。
手術やけがによる傷の治りが悪くなるばあいがありますので、手術の前後2週間は、投与が中止されます。
血液中の赤血球や白血球、血小板などが減少したり、血中コレステロールあるいは脂質(脂肪)が増加することがありますので、定期的に血液検査をおこないます。尿の中にタンパク質が増えるタンパク尿が、ほかの薬とシロリムスを併用している腎移植患者で報告されていますので、尿の検査もおこないます。
そのほか、胃もたれ、悪心、頭痛、便秘、下痢、関節痛、尿路感染のいずれかもしくは複数が約20~25%の人にみられます。まれに、重度のアレルギー反応、肝障害、腎機能低下や、皮膚癌や特定のリンパ腫(癌の一種)を誘発する可能性もあります。また、治験参加にともない、未知または予期せぬ危険が生じるばあいもあります。
シロリムスは胎児に影響をおよぼす可能性があるため、服薬中と最後に服薬した日から12週間は、妊娠を避けてください。
グレープフルーツやほかの抗てんかん薬など、たべものやほかのくすりによってシロリムスの効き目(血中濃度)に影響がでるものがありますので、治験の前にどのようなものに気をつければ良いかを説明いたします。
治験からえられた情報が将来公表されるばあいも、氏名、住所などをのぞいて個人が特定されないように情報を保護します。
治験にかかる費用の多くは国(日本医療研究開発機構)の研究費でまかなわれます。くすり(シロリムス)は、ノーベルファーマ(株)社が無償で提供します。通常の診療でおこなう分については、健康保険の自己負担分をお支払いいただきます。
治験に参加するか参加しないかは、ご自身の意思で決めてください。治験参加を決めた後でも、治験の参加をいつでもやめることができます。途中で治験を中止したばあいでも、そこまでの記録は今後の研究にやくだつ貴重なデータとして、使用させていただきます。
日本医療研究開発機構研究費(臨床研究・治験推進研究事業)
「限局性皮質異形成II型のてんかん発作に対するシロリムスの有効性と安全性に関する無対照非盲検医師主導治験」
研究開発代表者 加藤光広
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昭和大学医学部
小児科学講座
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