−厚労省に意見書と署名を提出し、記者会見を行いました−
2007年4月19日、現場からの医療改革推進協議会は、厚生労働省医政局総務課医療 安全推進室に意見書、および署名をお渡しして参りました。署名は合計5716人に達しました。過半数が医療関係者ですが、約2500人の一般人の賛同を得ることができました。この中には多数の患者さん、およびその家族を含みます。厚生労働省のパブリックコメントに、これだけ多くの医療現場関係者、一般人が投稿したことまた、この署名は、学会理事会などの代表者主導による団体の意見書と違い、現場の医療者と一般市民が直接署名したことは前代未聞であり、この問題への関心の大きさを示唆しています。ご賛同いただきました皆様に心より御礼申し上げます。
その後、午後4時より厚生労働省記者クラブで記者会見を行いました。当方からは上 昌広(東大医科研)、海野信也教授(北里大学産婦人科)、田中祐次(NPO法人 ももの木《患者会》)理事長)、メディアは新聞社10社程度、およびテレビ2社が参加いたしました。当方から意見書概要を説明しましたところ、記者からの質問も活発に出て、当初の予定時間を超過いたしました。
多くの質問をいただき、私たちも更に考えさせられた部分があります。いただいたご質問を踏まえて、「よくあるご質問」をまとめ、その中でも特に、国民の皆様の間で、さらに議論を深めるとよいと思われる「制度設計の考え方」について、私たちの考えを述べさせて頂きましたので、是非ご覧下さい。
今回のパブリックコメントの提出に際しては、多くの方々の御協力を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。現場からの医療改革推進協議会は、引き続きこの問題に取り組む所存です。今後とも、御指導を賜りますようお願い申し上げます。
以下に、記者会見でご説明した意見書概要を述べます。
5715人の署名が集まり、その内訳概要は医師約2400人、会社員約1200人、薬剤師約260人、看護師約650人、患者約100人、その他でした。
対話自律型ADR(図1,図2)
医療事故発生時の患者側のニーズと、医療者のニーズは、それぞれ複合的ですが、互いに向き合って共通していますので、このような当事者のニーズを原点に考えています。金融業界などと違って、多くの患者さんは最初から金銭賠償だけを望んでいるわけではなく、図にあるとおり複合的なニーズをもっているので、まず双方の十分な対話と協力が重要であり、そのためには、対話自律型ADRが必要です。対話の促進を通して、自律的に、患者側・医療側の双方が納得を得られるような合意形成を目指します。
紛争解決の3要素(図3)
紛争解決のためには図のような3つの要素が必要です。まず、院内メディエーターによる患者側と医療側の対話の促進と、院内における事案解明です(図:上)。事案解明のためには、病理医を含め、院内スタッフの様々な医療の専門家の協力が必要です。次に、第三者による心理的ケアを含めたADR(図:左下)と、第三者による事案解明(図:右下)が必要です。
医療における裁判外紛争処理システム(図4)
詳細は対話自律型ADRの解説をご覧下さい。
(1)患者サポートにおいて、患者サポートや各種の相談に応じます。ここで納得して終わるケースもあるでしょうし、そうでないケースは、(2–a)対話合意形成(メディエーション)の手続きに進みます。ここでは、中立メディエーターの関与により、患者側と医療機関側が対話を通して柔軟な合意による解決を目指します。もちろん、単純な対話だけで解決するというのではなく、客観的な第三者による専門的(医学・法律)評価をも組み込んだ複合的な適正手続モデルです。また、中立的第三者であるメディエーターの立場は、単なる中立性(Neutrality)にとどまらず、不偏性(Impartiality)へと、考え方を発展させていく必要があります。患者側にも医療側にも共感しながら対話の橋渡しをするという、揺れ動くプロセスが重要だからです。極端に中立性だけを追求することによって、両者が納得する解決は得られません。
事案解明機関(図5)
詳細は事案解明機関の解説 をご覧下さい。
第三者機関である事案解明機関の目的は、あくまでも臨床経過の全体像を明らかにし、淡々と事実を記載することであり、法的責任の有無を評価することではありません。行政処分や刑事告発を念頭に置いたものではありません。正確な情報を速やかに患者さん・医療機関へ報告することを基本とします。解明機関は強制的な調査権限をもたず、両者の合意のもとに事案解明を開始します。医療機関の協力が得られない場合には、その旨を患者さん側へ伝えますから、患者さんがその情報をもって民事裁判や警察へ行くこともあり得ます。もし、解明機関が強制的な調査権限をもつことになると、不信や疑いを前提に調査することになり、福島県立大野病院事件以降のような事態が起こりえます。
また、解明機関は外部審査員の意見を聞き透明性を担保しますし、厚労省のモデル事業では患者さん側から申し出ができないですが、解明機関は患者さん側の申し出も受けます。
死因究明や臨床経過解明に関する目的や調査手法の違い(図6)
人間の死亡場所は3種類あります。年間100万人が亡くなるうちの、ほとんどである90万人は医療機関で亡くなります。医療機関で亡くなる場合(図:右の列)が、警察に届け出る殺人事件及び伝染病や一酸化炭素中毒死など公衆衛生学的な問題(図:左の2列)と違う点は、主治医(担当医)がいること、つまり医療機関が臨床経過を把握していることです。殺人事件や一酸化炭素中毒死では、主治医がいない、臨床経過が存在しないため、調査方法は、医療における調査方法とは全く異なります。今回、厚労省のいう死因究明機関は、あくまでも医療(図:右の列)の問題であり、左の2列の制度とは、全く異なることを念頭に置いて制度づくりをする必要があります。
医師法21条改正(図7)
詳細は医師法21条の解説をご覧下さい。
現行の医師法21条は、解釈が乱れ、医療関連死まで刑事事件に含めてしまう運用になっているため、改正を要求します。