Q.署名はどのようにして集めたのか?
A.主にメール、電話、郵送、または賛同いただいた人からの広がりなど。病院長、医学部長が組織に伝えてくださった場合もあります。ホームページに意見書を掲載しており、それを見て署名いただいた方もいらっしゃいます。
Q.厚労省の試案と比べ、「現場からの医療改革推進協議会」案はどうちがうのか?
A.ADRについては、まず患者・家族の納得を一番に考え、複合的なニーズに応えるためには、裁判準拠型ではなく対話自律型ADRが必要だという点です。次に、臨床経過を明らかにすることは、患者・家族の複合的なニーズのひとつの要素に過ぎないため、解明機関設立だけで十分とは言えず、柔軟な個別対応を実現するためには、解明機関と対話自律型ADRが並存する必要があるという点が違います。(「医療ADR」(解説ウ)参照)
事案解明機関については、役所の権限・定員拡大といった行政の思惑と都合のための制度ではなく、患者・家族の想いから出発し、患者・家族の知る権利・情報へのアクセス権・自己決定権を尊重し、当事者のために臨床経過の全体像を明らかにすることを目的とする制度である点が違います。(「制度設計の考え方」参照)
Q.解剖を、原則として当該医療機関で行うメリットは?
A.解剖が必要な場合は、事情の許す限り遺族の望む形で行います。
ほとんどの遺族は、「解剖してほしくない」「一刻も早く遺体を連れて帰りたい」というニーズがあります。解剖に承諾いただけたとしても、原則として、当該医療機関で行うほうが、解剖前後にかかる時間を短縮できるため、ほとんどの遺族のメリットとなります。なお、第三者性を担保するために、解明機関から解剖に立ち会う第三者を派遣する等、現場の実情に応じた工夫が必要です。
稀に、遺族から、他施設で解剖してほしいという希望がある場合は、そのように対応します。
厚労省の「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」のように、全例を第三者機関で解剖することとすると、それを望んでいない圧倒的多数のご遺族に対してまで、第三者機関へ搬送することになります。稀なケースの要請に応えるために、圧倒的多数の要請を犠牲にする制度づくりは疑問です。
Q.他施設で解剖してほしくないという患者側の声があるのか?
A.医師法21条があるために、病院は、事故の場合に警察に届けざるを得ません。しかし、遺族の中には、それを望まない方も多くいます。「病院には非常によくしてもらった。もしミスがあったとしても、きちんと診ようとしてくれていたことはわかっているし、感謝もしている。それが、なぜ、死んだとなると、警察に届けて強制的に解剖されてしまうのか。病院はなぜ、届けたりするのか、死んでしまえばモノと一緒なのか!」といった怒りを感じ、紛争になるというケースもあるようです。
Q.事案解明の必要性をどのように決めるのか?
A.調査・解剖するか否かは、第三者による解明が必要な場合、患者側・医療側の自律的ニーズ・自己決定によって要請します。(「制度設計の考え方」参照)
Q.医師法21条から医療関連死をはずせるのか?
A.福島県立大野病院事件(参考資料イ)や、奈良県の町立大淀病院の例に見られるとおり、現行の医師法21条の運用は、医療全体を萎縮させ、診療拒否が増大するなど、国民のメリットよりもデメリットが大きいため、医療関係の死亡を異状死に含めるべきではありません。また、医療関連の死亡を異状死からはずしたとしても、もし厚労省がこれに代わる刑事・行政処分を前提とした届出義務化を行うなら、萎縮医療・医療崩壊は更に加速するでしょう。(「制度設計の考え方」参照)
Q.届出義務を課さないと刑事からの聖域を作ることになるのではないか?
A.警察の捜査権限が制約されるわけではなく、これまで通りの捜査権限をもつのですから、聖域ができるわけではありません。
Q.医療ミスを隠す医者をいかに暴き出すか?
A.「北風と太陽」という有名なイソップ物語の寓話があります。届出義務を課し、これを守らなければ罰則を課し処分をするという制度は、正直者が損をし、隠蔽者を誘発する倒錯したシステムで、医療機関が萎縮し、かえって秘密主義を招きかねず、しかも届出の効果が上がらないということになってしまいます。そうではなく、医療機関も患者側も、第三者による解明が必要だと自主的、客観的に判断したときに届け出ることにしておけば、医療機関側も、第三者の調査を得ておいた方がいいと思う事案は届け出るでしょうし、患者側も経緯を第三者に調べて欲しいという場合には、気軽な気持ちで持ち込むことができます。そうすることで、調査を契機に両者が話し合ったり、調査結果に基づいて、どうすべきか主体的に決めて次の選択に移ることが可能となります。そのような話し合いの中から、再発を抑制するための取り組みも可能となり、良い循環につながれば、医療機関はむしろ積極的に医療ミスを届けるようになるのではないでしょうか。(「制度設計の考え方」参照)
すなわち、どうすべきかを決めていくべきなのは、誰よりも患者・遺族そして医療機関という当事者自身であって、行政や司法による判断が先行するというのは本末転倒なのです。
届出義務を課したら、隠蔽しなくなるというわけではなく、隠蔽と届出義務とは元々関連性の薄いものです。むしろ届出義務を課すことによって生じてくる萎縮医療・診療拒否といった問題の方が大きく、医師法21条は、実際上、立法当初の考えに戻すだけです。むしろ、解明機関が新たにできることにより、医療の実態と当事者のニーズに即した事案解明を前提とした新たな責任の在り方や関係形成のためのシステム再構築に道を開くことになります。
Q.届出られなかった事案は誰が解明するのか?
A.第三者機関へ届ける前に、まず病院内での事案解明を充実させるため、病理解剖・病理検査等に十分な予算措置が必要です。現状では、病理解剖の予算はゼロで、完全に病院側の持ち出しで行われているため、病理部門を不採算部門と見なす病院も少なくありません。1990年には、全国で38,000例以上行われていた病理解剖が、2003年には21,480例まで減少しています(※日本病理学会「日本病理剖検輯報」)。
厚労省の検討会では、第三者機関をつくることばかりが議論されているようですが、そもそも、患者さんやご家族と医療者の信頼関係があって初めて成り立つ医療において、当事者である医療機関での十分な解明が予算上できない現状を改善しないまま、第三者ありきの議論をするのは本末転倒といわざるを得ません。
Q.事案解明機関の位置づけは?
A.公的機関です。個々の患者・家族の想いから出発し、患者・家族の知る権利・情報へのアクセス権・自己決定権を尊重し、当事者のために臨床経過の全体像を明らかにすることを目的とします。当事者の要請に基づいて、当事者が事実を知るため、専門知識のない患者・家族を支援するための任意調査を行います。(「制度設計の考え方」参照)