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研究内容

前頭皮質回路の実体、情報、可塑性

本研究室では、2光子イメージング法や光遺伝学(オプトジェネティクス)、電気生理学、分子生物学などを行うことが可能な哺乳動物、マウスと小型霊長類コモンマーモセットを用いて、運動制御・運動学習、認知学習、意思決定を含む、前頭皮質回路の動作原理を明らかにすることを目標に研究を行っています。そのために2光子イメージング法を用いて、一度に数百〜数千個の大脳神経細胞の活動をリアルタイムに計測し、課題関連細胞活動の時系列ダイナミクスを解析しています。現在は、前頭皮質全層の細胞活動と、他皮質領域や視床から入力する軸索活動を行動中のマウスにおいて計測することを可能としましたので、多次元での入力X→局所回路変換A→出力Yという情報の流れ(Y = AX + σ)を捉え、計算論的神経科学から予測される大脳皮質回路動作原理と対応を取ることができると考えています。 さらに、光照射すると細胞内外間にイオンを通すチャネルロドプシン2 (ChR2)やハロロドプシン(NpHR)というタンパク質を特定の神経細胞に導入することで、シナプス活動や神経細胞活動を操作し、行動の発現や学習に関わる神経ネットワークの情報の方向性や変換様式を調べており、このことで理論との対応を検証します。運動を発現する前段階での神経細胞の持続的な活動やワーキングメモリといった短期記憶保持、誤差信号の較正がどのようなループ回路によって実現され、どのような情報を担っているのか、について理解したいと考えています。

運動野多層回路、運動野―大脳基底核ループ、運動野―小脳ループにおける随意運動の情報表現の解明

随意運動はその名の通り、意思に随った運動であり、運動の企画、決定、実行、学習・修正など多くの段階から成ります。ある運動を獲得するためには、ある行動と報酬の関連性を認知学習を通じて理解する必要があり、またその行動を行うかどうかは、外的状況や内的状況に対する価値判断を行ったうえで決定します。随意運動を実現するためには、大脳一次運動野だけでなく、高次運動野、線条体や小脳などを含む広域なネットワークが必要であることが、ヒトやサルの研究からわかっています。皮質から線条体へのシナプス結合が ドーパミン依存的に可塑性を示すこと、平行線維からプルキンエ細胞へのシナプス結合において登上線維入力依存的に可塑性が起こること、そしてこれらが運動学習獲得に極めて重要であることがこれまでの多くの研究から明らかになってきています。さらに、大脳運動野の中でどの層のどの投射細胞または細胞種が、どのようにシナプス結合しているのかが解剖学的、電気生理学的に少しずつわかってきました。しかし、この静的な結合実体から予測される細胞集団(アッセンブリ)が運動の発現前や発現中にどのように活動して運動情報を生成しているのか、これらの細胞がどのようにシナプス可塑性を起こして新しい情報表現を獲得するのか、大脳基底核、小脳と視床を介してどのように情報交換を行って単一細胞レベルでの情報統合がなされるのか、というネットワークの情報生成機構については技術的限界もあり、殆どわかっていません。私たちは、マウスの2光子カルシウムイメージング法と情報理論解析によって、運動野深層(5a層)の細胞集団に新しい運動情報が記憶されることを見出しました(Masamizu and Tanaka et al., 2014、右上図)。この研究を発展させていくことで、運動制御・運動学習における、運動野多層構造、運動野―大脳基底核ループ、運動野―小脳ループの情報コードと機能の全容解明を目指しています。またブレイン・マシン・インターフェースの細胞基盤を理解するために、神経細胞活動を動物自身に随意的に制御させたときの細胞集団活動変化とその機構についても研究を進めています。

光制御法・光計測法の開発

上記の研究を進めていくためには、これまでアプローチできなかったことを可能にすること、すなわち、世界に先駆けた技術開発が極めて重要です。これまでに、ChR2と NpHRの大脳皮質光刺激マッピング法 (Hira et al., 2009, 2015、図左; Asrican et al., 2013)、レバー操作を用いた頭部固定マウスのオペラント運動学習課題と課題実行中の2光子イメージング法(Hira et al., 2013)、運動学習過程の長期間にわたる浅層及び深層の細胞活動やそこへ投射する視床軸索活動の2光子イメージング法 (Masamizu et al., 2014; Tanaka et al., 2018)などを開発してきました。最近では研究員各人の創意工夫によって、1.2 mm深部までの細胞活動を検出できる2光子カルシウムイメージング法(Kondo et al., 2017)、新規デバイスを用いて6 mm離れた領域を連続して2光子イメージングする方法(Terada et al., 2018、図右)、8Kカメラを用いた広域シナプス活動イメージング法(Yoshida et al., 2017) を確立し、現在これらの方法を日常的に用いています。多細胞活動解析方法に関しても、画像処理、デコーディング、情報量算出などの方法を独自に構築しています(Hira et al., 2013; Masamizu et al., 2014; Tanaka et al., 2018)。さらに小型霊長類マーモセットでの長期2光子カルシウムイメージング法と前肢運動課題を確立し(Sadakane et al., 2015; Ebina et al., 2018)、マーモセット神経生理学を世界に先駆けて開拓しています。オリジナリティーの高い技術のもとに、世界の誰もが見つけることができなかった現象を発見すること、これまで解くことができなかった本質的な高次脳機能の原理を解明することを研究室のポリシーとしています。


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