1. はじめに
サイバーナイフシステムは、米国スタンフォード大学の脳外科医 J.アドラー教授が開発した放射線治療装置で、世界一号機は1994年に稼働を開始しました。本邦では1997年に一号機が稼働を開始し、2012年11月末現在27台が設置されています。頭頸部の定位放射線治療装置として開発されたサイバーナイフシステムですが、様々な改良を加えて現在では第四世代となり、体幹部へとその治療領域を広げています。
サイバーナイフは大きく2つの特長を有します。
第一は、6軸の回転軸を持つコンピュータ制御のロボットマニュピュレータに小型リニアックを搭載しているため、多方向からの照射が可能になり、正常組織や重要臓器に対する線量を出来得る限り低く抑えながら、腫瘍病巣に対しての線量集中が容易に行える点です。
第二は、治療部位・臓器の動きに対応するトラッキング機能です。サイバーナイフは、頭蓋内病変のように体動のみに影響を受ける照射部位、呼吸運動による周期的な動きのある部位あるいは前立腺のように必ずしも周期的な動きを呈さない部位というように、照射部位の動きの特徴に合わせてトラッキングをIntra-fractionに行います。
本稿では、これらの特長を説明します。
2. システムの構成 (図1)
システムは主にロボットマニュピュレータ、直線加速器、患者寝台、X線管球、フラットパネルディテクタ、シンクロニーカメラ、治療計画装置(MultiPlan)で構成されています。
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① ロボットマニュピュレータ
優れた位置制御精度と繰り返し精度を有し(機械精度±0.12mm)、自動車産業あるいは航空機産業等の製造ラインで数多く採用されているロボットマニュピュレータを使用しています。サイバーナイフ全体の平均誤差(治療実行時)は、呼吸運動無しの場合で±0.95mm以下、呼吸運動有りの場合で±1.5mm以下です。6軸の回転軸をコンピュータ制御により、従来の高エネルギーX線治療装置では不可能であった多方向からのX線照射を可能にしています。機械的な回転軸がなくIsocenterを有さないため、コプラナー照射及びノンコプラナー照射が可能となり、マルチセンター(図2)あるいはコンフォーマリティーを重要視した照射法(図3)が選択でき、治療目標や腫瘍形状に合わせた線量分布が効率的に得られます。
① 直線加速器
X Band 6MVのX線エネルギーの小型直線加速器を搭載しています。発生するエネルギーは6MVのシングルエネルギーで線量率800MU/minを有し、5mmから60mm(SAD80cm位置)までの12サイズの円形コリメータにより絞られたX線ビームを使用します。第三世代までのサイバーナイフは、12サイズの円形コリメータを治療中に手動で交換をしていましたが、第四世代のサイバーナイフでは、Xchange ロボティックコリメータチャンジャー(図4)によりロボットマニュピュレータが治療計画に従って治療中自動的に交換を行います。コリメータ交換による治療の一次時的な中断がなくなり、治療の効率化を実現しました(図4)。オプションのアイリスコリメータの使用で、5mmから60mmまでの12サイズのビーム径変更を一つのコリメータで再現できるようになり、更なる治療時間の短縮に寄与します。(図5)
① 患者寝台
患者寝台RoboCouchは、6軸の機械的回転軸をコンピュータ制御することにより患者寝台天板の前後・左右平行移動、RAO-LAO回転、Cranio-Caudal回転、水平方向回転を可能にしています。固定的な回転軸を持つ患者寝台と異なり、RoboCouchでは複数の回転軸の回転を合成します。サイバーナイフの標準寝台と比べて寝台天板の調整が容易となり、治療前の患者セットアップの精度向上につながります。(図6)
② X線管球・フラットパネルディテクタ
治療前の患者セットアップおよび治療部位やフィデューシャルマーカ(以下、金マーカ)のIntra-fractionの動きを検出するためのKvX線撮影システムです。RAO45度、LAO45度の撮影位置にセットされた一対のX線撮影システムに撮影されたディジタル画像データを利用したステレオ撮影の原理による空間位置の算出を行います。
③ シンクロニーカメラ
患者胸壁あるは腹壁に装着されたLEDマーカの光の運動を読み取り、呼吸運動をモニターするカメラです。後述する呼吸追尾機能の際、④で説明したX線画像より算出される治療部位の体内での運動と呼吸運動の相関モデル作成に使用します。
① 治療計画装置(MultiPlan)
サイバーナイフ専用治療計画システムであるMultiPlanは、治療ワークフローに基づいて設計された放射線治療計画システムで、不整形腫瘍に対しても最適化された線量分布の治療計画の作成が可能です。
MultiPlanでは、治療計画CT、参照用CT、MR、PET、血管造影などから最大4種類6枚の画像が使用可能です。これら3D画像のフュージョンは、DICOM画像のインテンシティーベースの自動的なものと、解剖学的ポイント及びその参照ポイントを利用する方法さらには画像ツールにより手動で行う方法があります。
治療計画は、腫瘍形状に合わせてisocentric 照射、non-isocentric 照射が選択でき、インバースプランニングが可能です。条件に合わせた治療計画を作成するための最適化アルゴリズムとしてiterative、simplex、sequentialの各方法が用意されており、不均質部分に対してはMonte Carlo法による線量計算も使用できます。
3 動体補正機能
サイバーナイフの持つ動体補正機能は、一対のX線撮影システムのX線画像とCTの3Dデータから作成された二次元投影画像(以下DRR)の比較から照射臓器・部位の動きを検出します。この検出は治療前の患者位置合わせ時および照射中にも行われます。
補正機能は、骨構造の移動を検出することによりトラッキングを行うSkull Tracking(頭部用)、Xsight Spine Tracking(胸椎、腰椎用)、埋め込まれた金マーカの動きを検出するFiducial Tracking(軟部組織用)、さらに呼吸性移動を伴う臓器・部位での追尾照射を可能にするSynchronyとXsight Lung Trackingの5種類を有します。また、周期的な動きを呈さない前立腺治療では、動きの検出間隔をコントロールするInTempo機能を組み合わせて位置確認を行うことにより治療精度向上を図っています。(図7)
① Skull Tracking
頭蓋骨を剛体とみなし、頭蓋骨内の病変の移動は無いと仮定し、頭蓋骨の3次元構造の動きをX線投影学的に検出し補正するトラッキング機能です。
・治療開始前のポジショニング
治療計画時に使用したCTデータから得られるRAO、LAO方向のDRRとRAO、LAO方向からのKvX線画像の比較解析により寝台の移動幅、回転角度を算出し寝台の動きによりCT撮影時のポジションにセットします。寝台移動・回転は治療室に入ることなく操作室から行うことができます。(図8−1)
・治療中のトラッキング
照射中の動きの補正は、照射前と同じ解析法で算出された移動量をロボットの照射角度に変換し、照射角度を補正することにより行われます。サイバーナイフはノードとよばれる照射ポイントを持ち、小型加速管が複数のノードを移動しながら照射を行います。ノードの変更時は照射口の位置・角度が変わるため、治療ターゲットの動きに合わせて照射直前に位置補正が行われます。(図8−2)
① Xsight Spine Tracking
椎骨は個々が別々に動くため、頭蓋骨のように骨構造を剛体とみなしたトラッキング機能は使用できません。Xsight Spine Trackingは、個々の椎骨の動きを考慮に入れたトラッキング法です。CTデータから得られるRAO、LAOのDRR画像上に設定される8x8のグリッドの各頂点がKvX線画像上でどのように移動するかをベクトル解析し、画像の中心部分に重み付けされた3次元ベクトルの計算結果を基に、椎体の移動方向を検出し照射角度の補正を行います。(図9)
② Fiducial Tracking
軟部組織に埋め込まれた複数個の金マーカの動きを検出することにより動きの補正を行います。LAOやRAOのDRRの金マーカとKVX線画像の金マーカのFusionによる解析から3次元空間の動きを算出し補正をします。(図10)
③ Synchrony
肺・肝臓・膵臓等呼吸性移動を伴う臓器の腫瘍病変の追尾照射を行う機能です。従来これらの臓器への照射は圧迫固定や同期照射等が行われておりますが、固定精度や治療時間に課題がありました。サイバーナイフのSynchronyによる追尾照射は、体表に装着されたLEDマーカー(図11−1)の動きとKvX線撮影より得られた腫瘍近傍の金マーカの3次元重心の動きの相関(図11−2)から予測追尾照射をするもので、固定あるいは同期照射がもつ欠点を解消することが出来ます。相関モデルは、治療中に随時再計算を行うことができるため、呼吸パターンの変化に追随することができます。
④ Xsight Lung Tracking
肺がんでの金マーカの埋め込みは気管支鏡的あるいは経皮的に行われ、金マーカの脱落のリスクや気胸のリスクを伴います。Xsight Lung Trackingは肺がんそのものをターゲットに追尾する機能で、これらのリスクを回避することができます。DRR上に示された肺がん部分のプロファイルパターンと同じパターンを呈するKvX線画像を抽出し、算出された肺がんの三次元位置を追尾することによりマーカ無しでの追尾を実現しています。(図12)
ただし、この機能はKvX線画像上でDRRと同一プロファイルを呈する部位が描出されなければならないため、その位置や大きさにより制限を受けます。
⑤ InTempo
呼吸性移動のような周期的な運動ではない動きに対し、Intra-fractionに動きの少ないときと多いときの動態補正の頻度をコントロールする機能で、特に前立腺治療に使用されます。
サイバーナイフはRAO、LAO45度方向からのKvX線撮影によりIntra-fractionの金マーカあるいは病変部の動きを検出しますが、InTempoは直近に撮影された画像とその前に撮影された画像から算出される3次元移動距離の比較を行い、予め設定された移動距離の閾値を越えた場合、その撮影間隔を自動的に短くすることで動きに対応する機能です。(図13)
4. 最後に
サイバーナイフがもつ特長の概略を説明しました。今後も国内のお客様のニーズを装置開発に反映させ、治療にあたられる先生方の一助になるよう努力してまいりますので今後ともよろしくお願い申し上げます。
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