理事長からのごあいさつ
このたび、日本SIDS・乳幼児突然死予防学会理事長を拝命いたしましたので、ご挨拶申し上げます。本会の理事長は初代が仁志田博司先生で、その後、戸苅 創先生、市川光太郎先生、そして前任の加藤稲子先生へと引き継がれ、私で5代目となります。本会の発足に際して仁志田先生、戸苅先生とともに尽力された水田隆三先生は私にとって京都第二赤十字病院小児科の上司でもあり、市川光太郎先生は小児救急医療における師匠でもあります。2人の恩師が深くかかわられた本学会の維持・発展に全力を尽くしたいと考えています。
本会はSIDS(乳幼児突然死症候群)の学術的研究を目的とする研究会として1995(平成7)年に設立され、第1回研究会は仁志田博司先生が会長として開催されました。その後、1999(平成11)年には日本SIDS学会となり、2001(平成13)年より学会誌が創刊されました。さらに、2010(平成22)年からは研究の対象をSIDSおよび乳幼児に突然死をもたらす疾患に拡大し、名称も日本SIDS・乳幼児突然死予防学会に変更されました。ただ残念なことに、対象となる該当症例が少ないせいもあってか、学会の一般演題は10~20題の発表にとどまり、会員数は毎年減少傾向にあるのが現状です(2005年:223名⇒2023年:143名)。
2023年時点での本会会員の専門領域をみると、小児科(67名:46.9%)、法医学(46名:32.2%)、病理(9名:6.3%)の上位3科で85.4%を占め、その他には麻酔科、産婦人科、外科、内科、救急隊員、看護師、保育士、弁護士など多様な領域の方々が参加しておられます。とくに小児科、法医、病理の3診療科の先生が同じ会場で熱く、深く議論できる点は他の学会ではみられない本会の最大の特徴と思っています。つまり、設立から30年近い歴史を積み重ね(来年の学術集会で第29回になります)、本会には小児の死亡症例を診療科の枠を越えて多角的に検証する土壌がすでに醸成されていることを意味します。一方、2018年に成立した成育基本法、2019年に成立した死因究明等推進基本法にChild Death Review(CDR)の整備が明記されてCDR開始の法的根拠となり、今後は2023年4月に開設されるこども家庭庁のこども成育局(母子保健課、こども安全課共管)においてCDR実施に向けての検討が進められていくことはご存じのとおりです。
小児の死亡検証に関する研究対象は、死因究明の精度向上、救命のための治療成績の改善、搬送体制の充実、避けられた死亡の予防対策、残された遺族へのグリーフケアなど多岐に及びます。しかし、死亡症例のモデル実験は難しく、とくに突然死例では生前の検査データも不十分なことが多く、すべての死亡の振り返りの出発点は法医、病理を問わず解剖所見であることを考えると、わが国のCDR推進において本会が果たせる役割は大きく、大いに貢献できることが期待できます。
以上の点から、今後の本会の方向性としては、検討の対象を「SIDSおよび乳幼児に突然死をもたらす疾患」から「すべての小児死亡症例」へとさらに拡大して多角的な検証のあり方を追求し、医師以外の多職種(行政、司法・警察、教育、保健・福祉、工学、基礎医学、疫学・感染症など)も交えた多機関連携を進め、小児の死亡検証における学問的支柱となることを使命とすることが望ましいのではないかと考えています。学会の名称や会則に関する具体的なことについては今後理事会で継続的に審議を重ね、会員の皆様にもご報告します。会員の先生方におかれましては、これからは「すべての小児死亡症例」を対象に多数の一般演題を応募して学術集会を盛り上げていただきますようお願いします。
本会のさらなる発展を目指して微力ながら尽力する所存ですので、会員の皆様におかれましてはどうぞよろしくお願い申し上げます。
2023年3月吉日
日本SIDS・乳幼児突然死予防学会理事長
長村 敏生