若年者心疾患・生活習慣病対策協議会

若年者心疾患・生活習慣病対策協議会の
活動と参加への意義

若年者心疾患・生活習慣病対策協議会とは

 若年者心疾患対策協議会(以下若心協と略す)は昭和43年(1968年)に設立された半世紀以上続いている伝統ある研究会です。児童生徒の心臓病に対する集団検診は昭和29年に初めて試験的に実施されました。当時リウマチ熱による心疾患が多く、早期発見することが大きな目的でありました。昭和31年に京都で心電図を含めた検診が初めて行われたと記録されています。その後、昭和33年に学童心臓検診に関する文部省研究班が組織され、各地で集団検診がはじめられました。このような時代背景のもとに昭和43年、京都で第1回の若年者心疾患対策協議会が開催され、現在まで年1回の総会を開催し、令和6年までに55回の総会を開催してきました。また、1980年代には年1回の研究会では不足であるということで検診に携わる医師を中心に研究会が開催され、年2回開催されたこともあります。
 平成22年(2010年)までは若年者心疾患対策協議会の名称のもとに児童生徒の心臓検診や心疾患が主なるテーマでありました。毎年、府県医師会が中心となり医師会長が総会長となって開催・運営してきております。しかし、現在、生活習慣病も成人期の循環器病に深く関与し、将来の循環器疾患予防として小児期からの生活習慣病予防がきわめて重要であるとの観点から、生活習慣病検診が各地で行われるようになってきました。そのため、児童生徒の生活習慣病に対する関心が高まり、平成23年度(2011年)より若年者心疾患・生活習慣病対策協議会と名称を改め、学校心臓検診だけでなく、児童生徒の生活習慣病にも重点を置くこととなりました。
 現時点で若心協に参加している地域は東海地区、北陸地区、近畿地区、中国地区、四国地区であり、東は愛知県、富山県、西は山口県となっています。当協議会は最も早期に設立され、現在も継続し、半世紀近くの間毎年欠けることなく研究総会が開かれて来ましたが、全国的な協議会とは成り得ていません。
 当協議会の組織としては現時点では長嶋正實会長のもとに副会長2名、研究委員長8名、顧問(多くは府県医師会長で16名)、理事(専門医や地域で中心的に活動している医師及び日本医師会推薦者25名)、監事2名、評議員(専門医を中心に54名)、名誉会長3名、名誉会員2名、名誉顧問1名で総会員数は225名となっています。
 若心協の参加者は循環器疾患に関心の高い医師(医師会、学校医、循環器専門医)だけでなく学校養護教諭、保健指導主事、教育委員会関係者、検診機関関係者などの幅広い方々であります。また日本医師会や文部科学省の関係者も若心協に深い関心を払っていただき、また、本会に参加していただくことも多くなり、日本医師会長と常任理事が毎会出席して頂くようになって参りました。
 若心協の初代会長は京都大学名誉教授高安正夫先生、第2代会長は滋賀医大名誉教授河北成一先生、第3代会長は大阪大学名誉教授川島康生先生、第4代会長は国立循環器病研究センター名誉総長北村惣一郎が務め、令和6年度から愛知県済生会リハビリテーション病院名誉院長長嶋正實が会長を務めております。事務局は令和5年度から倉敷中央病院内(〒710-8602 岡山県倉敷市美和1-1-1 Tel:086-422-0210)に置いており、ホームページ(http://plaza.umin.ac.jp/jakushinkyo/)も開かれているので御参照賜りたいと思います。

若心協の目的

 本会会則第2条に本会の目的は「我が国における若年者(新生児・乳幼児・児童・生徒・学生並びに同年齢者を含む)の心疾患および生活習慣病の早期発見ならびに管理に関する諸問題を取扱い、健全なる社会人を育成とすることを目的とする。」と書かれています。また第3条には「本会は大学、医療機関、地区医師会、保健所、学校保健会の会員によって構成され心疾患と生活習慣病の対策を講ずるものとする」と記載されています。
 初期の協議会は心臓検診をそれぞれの地域でどのように普及させるのかということが大きな課題であり、目的であり、目標でありました。当時は心電図記録がすべての地域で取り入れられていたわけではなく、聴打診やレントゲン写真などを使用した検診でありました。現在から考えれば精度が低く、また種々の不整脈は見逃されていたと考えらます。若心協では心臓検診の目的、重要性、また、方法論などが真剣に討論され、その中でも心電図の有用性が強調されて来ました。従って若心協が開催された地域では急速に心臓検診の関心が高まり、検診の方法論や精度も飛躍的に改善しました。その結果、各地で心電図を含めた心臓検診が普及し、学校心臓検診の質が急速に向上する要因になりました。及ばずながら、当協議会の努力・貢献もあったものと思っています。
 このような経緯を経て、平成7年から文部科学省は小・中・高校の各1年生に学校心臓検診に心電図を含めることを義務化しました。若心協の活動も大きなインパクトになったと考えられます。一方、心電図をいかに期間内に正確に記録し判読するか、また要精検者の抽出、二次以降の精密検査なども重要な検討事項になっています。また心臓検診にまつわる種々の問題点、例えば、突然死の予防や先天性心疾患患児や術後患児の診断・管理、不整脈の管理、心筋症の診断・管理、川崎病既往者の検診など、現在でもなお検討すべき事項はきわめて多い状況にあり、ここに当協議会の存続の意義があると思っています。

若心協の活動内容と成果

1)協議会総会の開催

 若心協は2023年度までに55回にわたる総会・協議会を開催して来ました。学術総会は各府県医師会が持ち回りで、毎年1~2月に研究会を開催し、特別講演、教育講演、シンポジウム、一般演題などの発表も行われています。特別講演や教育講演は小児の循環器の最新情報を得るため最先端の話題が専門家から報告され、またシンポジウムは開催府県の特徴や問題点を討議し、その地域の取り組みが把握でき、また他の地域を含め、検診の発展に資する内容になっています。一方、児童の生活習慣病への取り組みは各地区において、まだまだ大きな差があるのが現状です。各地域が、それぞれの特徴・利点を互いに学習する良い機会を提供しています。

2)学術研究委員会

 学術的な研究活動として7つの学術研究委員会があります。その委員会は、①突然死調査研究委員会②スポーツ心臓研究委員会③心臓手術の適応・術後管理研究委員会④川崎病対策委員会⑤心臓検診精度管理研究委員会⑥不整脈対策研究委員会⑦小児期における生活習慣病予防研究委員会であり、それらを副会長が学術委員長として統括しています。総会において研究委員長、分担研究委員長が最新情報やその分野の重要な話題について発表しています。

3)要望書の提出

 当協議会は、行政機関に対し、その活動に関する数多くの要望書を提出して来ました。例えば「脳死・臓器移植法の見直し・15歳未満の小児の臓器移植を可能として患児にも心臓移植を受ける機会を与えられるようにする法改正」と「自動体外式除細動器(AED)の設置並びに取扱いの徹底」などであります。実現をめざし毎年、要望書を総会会長と協議会会長の連名で提出してきております。これらの活動は全国の取り組みの一環となり、平成21年には「脳死臓器移植法の改正」が成立し、小児にも脳死臓器移植の道が開かれました。またAEDは現在では日本中の学校で設置され、その使用に関する訓練も成人だけではなく児童生徒にも行われるようになっています。心肺蘇生法やAEDの普及とともに突然死がかなり減少している事実があり、成果が確実に見えてきました。学校管理下の心臓性突然死数は日本スポーツ振興センターの調査によると以前は年間100名以上であったものが現在では10〜20名程度までに減少していることからも活動の効果はあたったものと考えています。最近では、心電図検診の精度管理や児童に対する生活習慣病対策、肥満検診などについて、かつての心臓検診の場合と同様、一律の検診法を普及させるべく要望しているところです。

4)会誌の発行

 協議会からは毎年2巻の会誌を発行しています。総会の抄録や学校心臓検診、生活習慣病に関わるさまざまな情報が満載されています。1巻には前年度の総会での特別講演、教育講演、シンポジウムなどの内容が細かく掲載され、2巻目にはゲストエディターに特集の構成を依頼し、専門医から原稿をいただき、これを読めば学校検診のすべてがわかるという意気込みで作成されており好評を得ています。

若心協の問題点と今後のあり方

 全国で心臓検診が普及し、質の高い心臓検診が行われるようになり、その成果は十分に認識されていますが、心臓検診に“慣れて”しまったせいか、また突然死が著しく減少したためか、また学校関係者が他の分野にも大変忙しくなったためか、全国的には心臓検診に対する関心が低下しているのではないかという懸念が挙がっています。
 しかし、心臓検診は普及したものの一次検診や二次以降の検診の精度管理は必ずしも十分とはいえません。また一次から二次以降の検診に送る基準が全国的に統一されているとは言い難いところがあります。その他、学校生活管理指導表の使い方、精密検査後の結果の把握や管理、また学校医の関わり方、医療機関と教育委員会や学校との連携など重要な問題については今後も検討して行く必要があります。さらに、次代を背負う子どもたちが将来とも健康に生活していくためには小児期から生活習慣病を予防することが大切であることは、広く認識されて来ました。若心協は「生活習慣病・循環器疾患を通して子どもの健康を考え、健全な社会人を育成する」という本会の目的を遂行するために種々の問題を討議・検討する重要かつ貴重な場所であることには変わりはないと考えます。
 若心協も発足後半世紀以上を経過しましたが、将来を担う若い世代を育成し続ける必要があります。また当協議会が九州を除く西日本が中心であり、全国的な研究会となり得ていないこともあります。このように次世代の日本を背負う若年者の健康に関する重要な問題を討議する組織を全国組織とし、全国共通の課題として検討していく必要も感じています。心臓検診だけでなく肥満検診、腎臓検診、アレルギー検診など現在、学校健診を取り巻く課題を大きなテーマとして捉え、児童生徒の健康を考える組織も必要ではないかと考えます。
 最後に、当協議会の主旨をお汲み取り頂き、御参加下さる都道府県の医師会が増えることを切に期待いたしております。御連絡賜れば幸いです。

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