グロームス (グロムス) 腫瘍 (側頭骨内)の手術について
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グロームス (グロムス) 腫瘍 (glomus tumor)とは

 化学受容体である傍神経節 (glomus body)が発生起源と考えられている、非常に血流に富む良性腫瘍です。
 日本語では傍神経節腫や化学受容体腫瘍 (chemodectoma)などと訳されています。
 頭頸部のグロームス腫瘍の発生頻度は年間に1000万人に1名と言われ、聴神経腫瘍の約100倍まれという
 ことになります。40-50歳代の女性に多い (男:女=3:7)とされています。
 カテコラミンを産生するものが1-4%あると言われ、その場合は高血圧・頭痛・発汗過多・動悸などを呈する
 ことがあります。


頭蓋底グロームス (グロムス) 腫瘍の分類

 発生部位は主として、鼓室内・頸静脈球部・頸動脈小体・迷走神経があげられますが、
 ほとんどが鼓室型 (glomus tympanicum tumor)か頸静脈球型 (glomus jugulare tumor)とされています。


グロームス (グロムス) 腫瘍の局在と進展具合

 Fischの分類
   ・Class A: 鼓室内に限局 (すなわち鼓室型グロームス腫瘍)
   ・Class B: 鼓室と乳突洞に進展するが頸静脈窩への進展なし
   ・Class C: 頸静脈窩から下方・上方・外側・内側へ進展 (すなわち頸静脈球型グロームス腫瘍)
   ・Class D: 頭蓋内進展を示すもの   
 

グロームス (グロムス) 腫瘍の症状

 拍動性耳鳴や難聴、耳痛
 顔面神経麻痺 
 下位脳神経症状 (飲みこみの障害や声嗄れ、頸部の筋肉の萎縮など)


頭蓋底グロームス (グロムス) 腫瘍の診断方法

 耳鼻咽喉科で鼓膜を介して赤黒い腫瘍が透見されて発見されることが多く、
 側頭骨CT、造影のMRIで腫瘍の進展具合を確認し、血管撮影で確定診断されます。


グロームス (グロムス) 腫瘍の治療

 基本的には手術が第一選択として奨められますが、無症状ないしは軽微な症状の場合には経過観察が
 行われているのが現状です。
 手術が危険性が高い場合や、手術で残存した腫瘍などに対して放射線治療が行われる機会も増えてきて
 いますが、この腫瘍に対する放射線治療の長期成績はないので、その点を十分に理解する必要があります。


グロームス (グロムス) 腫瘍の手術について

 [鼓室型グロームス腫瘍]
  概して腫瘍は小さく、中耳腔という小さいスペースに限局していることが多く、
このタイプについては耳鼻科の
  チームのみで手術
が行われます。
  手術アプローチも経耳法が用いられ、
われわれ脳神経外科医の出番はありません

 
[頸静脈球型グロームス腫瘍]
  こちらのタイプは極めて手術が難しく、頭蓋底外科の総合力が要求され、
われわれ頭蓋底外科医の領域です。
  小生はこれを
「頭蓋底外科の究極の手術」だと考えています。
  その理由は、
 1.側頭骨内・頭蓋底という部位に存在しており、大事な神経や血管に接触していたり、巻き込んでいることがある
 2.腫瘍が極めて血流に富んでおり、手術に際しては血流のコントロールが要求されること
 3.内頸動脈損傷などの事態が生じた場合やそれが予測される場合には、脳血流の血行再建(バイパス)を考慮
  しなければならないこともあり、そのようなケースではバイパスのできる脳外科医の関与が必要となります。

手術を行う際に必須となる事項:
 1.あらゆる頭蓋底手術アプローチが使いこなせなければならない→頭蓋底外科医でなければ手術不能
 2.大きな静脈洞の処理や脳神経の扱い、髄液漏対策が必要→脳外科医が行うべき
 3.鼓膜・中耳の処理が必要な場合は耳鼻科医の協力が必要
 4.血流を手術前に脳血管内治療 (塞栓術)で落としておくことが必須→脳血管内治療チームとの共同作業
 5.術中に下位脳神経群や顔面神経などのモニタリングが必要→
                     普段から術中神経モニタリングを行っているチームが理想的
 6.あらゆるタイプのバイパス手術ができること→脳卒中を専門としており、バイパスの技術をもった施設であること

この疾患に対して、上記のような必須事項を満たすチームは全国的にも限られています。したがって、
この疾患はどこの施設でも取り扱えるものではなく、専門性の高いチームでの手術をお薦めします。
当科は、頭蓋底外科・血管内治療・バイパス手術のすべてを満たしている限られた施設です。


頸静脈球型グロームス (グロムス) 腫瘍の手術の実際 (当施設の場合)

 ・皮膚切開の後に、乳様突起の露出と頸部の剥離を行い、内頸静脈の確保と副神経をはじめとする
  下位脳神経群を確認します。
 ・外耳道や鼓膜の処置が必要なケースでは耳鼻科医が参加しこれを行います。
 ・乳突洞の削開を行い、顔面神経管・腫瘍の同定とS状静脈洞の露出を行います。
 ・第一頸椎の横突起を部分切除して視野を展開し、S状静脈洞から内頸静脈の移行部と下位脳神経群が
  十分に直視できるようにします。
 ・S状静脈洞を髄液漏を作らない当科独自の方法で結紮し、内頸静脈も遮断して、S状静脈洞から内頸静脈を
  切開して内部に存在する腫瘍を摘出します。
 ・腫瘍を最後まで切除すると、奧の下錐体静脈洞から出血が見られるので、これを処理すれば腫瘍は全摘です。

       

      

       

        手術前に塞栓術で血流量を減らしておきます  →    それから手術を行い、腫瘍を全摘出します。


[手術のイラスト]  右側

  腫瘍摘出前
        「TUMOR」とある灰色の部分が腫瘍です。

     


              腫瘍摘出後 腫瘍は全摘され、遮断したS状静脈洞の裏に下位脳神経群を確認できます。

                         



     


            第一頸椎の横突起を部分切除して視野を展開し、S状静脈洞から内頸静脈の移行部と
            下位脳神経群が十分に直視できるようにします



◎顔面神経麻痺で発症した患者さんの例
   (右頸静脈球型グロームス腫瘍 赤丸内 )

 手術前   

     手術後   

                    腫瘍は頭蓋底手術手技を用いてほぼ全摘されています。



◎右胸鎖乳突筋・僧帽筋萎縮・嚥下障害・声がれで発症した患者さんの例
   (右頸静脈球型グロームス腫瘍 赤丸内 )
  術後に上記の症状は著明に改善しました。


  


◎左難聴で発症した大きいグロームス腫瘍の患者さんの例 (硬膜内にまで進展している難しいケース・赤丸内
  

  
















               

       
          業 績  kouno-nsu@umin.a
c.jp



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当科では、聴神経腫瘍をはじめとして小脳橋角部腫瘍の手術を専門的に行っており、
手術中の神経モニタリングを徹底して行い、また、さまざまな手術方法を患者
さんによって使いわけて、最新の治療により良好な成績をあげております。
気になる症状等ございましたら、お気軽にご相談いただければ幸いです。








                


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