聴神経腫瘍




                                                                                         
             顔面神経鞘腫について
      


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顔面神経鞘腫は、顔面神経を包んでいる膜 (神経鞘)から発生する良性腫瘍で、
前庭神経から発生する聴神経腫瘍と比較すると、
極めてまれな疾患です。
このため、一施設や一術者が多く経験することは難しく、どうしても系統的に
治療の戦略や計画を立てにくいのが現状です。

当科では、聴神経腫瘍や頭蓋底腫瘍を専門的に治療しているため、顔面神経鞘腫
の患者さんを手術する機会は比較的多くありますが、それでも現時点 (H22.8月)で
手術した患者さんが19名と経過観察中の患者さんが10名の計29名の経験に過ぎません。
(聴神経腫瘍は470例)。

最近、セカンドオピニオン外来や、掲示板でも次第に顔面神経鞘腫の患者さんから
ご意見を求められるようになりましたので、今回、顔面神経鞘腫に対する
当科の
取り組み方や考え方を、この疾患の特徴・症状・診断方法・手術適応・手術方法・
手術結果・合併症について、わかりやすく解説
したいと思い、このページを追加致しました。


[この疾患の特徴]

手術に際しては、腫瘍の分布や進展具合によっては、
様々な頭蓋底アプローチの使い分けが必要
顔面神経の再建術や場合によっては術中神経モニタリングを要する
すなわち、小脳橋角部腫瘍や頭蓋底腫瘍を常に手術していることに加えて、神経再建などにも
精通していることも必要で、
総合力を要求される手術と言えます。


[症状など]

当科の患者さんの平均年齢は44歳弱と比較的若く、男性が8名、女性が11名でした。
右側が11例、左側が8例と明らかな左右差はみられていません。
17例で顔面麻痺があり、聴覚障害は8例に合併していました。
顔面神経鞘腫に特徴的なパターンは、
  ・
一側の顔面けいれんが起こり、これが次第に顔面麻痺に移行し、その後麻痺が進行する。
  ・
何度も同じ側の顔面麻痺が起こり、悪化と軽快を繰り返す
です。これに
聴覚障害が加わるようでしたら、顔面神経鞘腫の可能性が高くなります


注)以下に8年前のデータを示しますが、河野の手術経験は2019年6月24日の時点で57例で、
国内だけでなく国際的にも群を抜いている症例数です。
時間ができた時にデータ更新を行う予定です。

H22年7月時点でのデータ


  
注) 顔面神経麻痺の評価法
     脳神経外科で通常よく用いられるのがHouse&Brackmann法 (以後
H&Bと記載)です。

     
H&Bグレード
 
     grade 1: 正常。
      grade 2: 軽い麻痺。注意して見ないとわからない。
       grade 3: 中等度の麻痺。笑えば明らかに非対称。力を入れれば閉眼可能。
      grade 4: やや高度の麻痺。安静時でも非対称。閉眼不能。額のしわ寄せはできない。     
       grade 5: 高度の麻痺。わずかな動きのみ。
      grade 6: 完全麻痺。緊張の完全消失。全く動かない。
     

[診断方法]

最も信頼できる所見は、顔面神経の膝神経節が腫瘍化して腫れあがっているのを、側頭骨CTにて
確認できた場合
です。そして顔面神経の走行に沿った腫瘍の進展が認められればほぼ診断は確定します。
さらに、前述の顔面神経鞘腫に特徴的な臨床経過が加われば、まず間違いないと考えます。
膝神経節が侵されていない顔面神経鞘腫もありますが、基本的には側頭骨CTにて顔面神経が走行している
部分に存在します。
我々の患者さんの腫瘍の分布を示します。

H22年7月時点でのデータ



    
    
    


[手術方法]

手術方法は、顔面神経鞘腫の分布によって様々です。
膝神経節に到達しやすい中頭蓋窩法が中心となりますが、これに後迷路法を追加したり、
移植神経を用いて顔面神経再建を行ったりと、かなりのバリエーションがあります。
19例中11例で、顔面神経を温存した手術
(そぎ取り法)を行い、11例中6例で最終的には手術前よりも顔面麻痺が
改善しました
(残りの5例では、不変1例・軽度悪化3例)
19例中8例では腫瘍の全摘+顔面神経再建術を行いました。


注)そぎ取り法とは、
腫瘍を顔面神経ごと切り取ってしまうのではなく、わずかに顔面神経に腫瘍を
   つけて残したとしても、顔面神経の形態を保って顔面神経再建を避ける方法です。
  
術中所見によっては、必ずしもこの方法が可能でない場合もあり得ます。





                                                                   

 



[手術成績]

顔面神経を温存した手術(そぎ取り法)を行った11例 (手術後1年を経過した10例の成績)
   顔面神経機能が術前よりも  
改善     6例 (60%)
                      不変     1例 (10%)
                      悪化 (軽度) 3例 (30%)
       
術前の平均H&Bグレード 3.1 → 術後平均 2.2  (平均フォローアップ27.5ヶ月)

腫瘍全摘+顔面神経再建を行った8例 (手術後1年を経過した7例の成績)
   顔面神経機能が術前よりも  
改善     3例 (43%)
                      不変     1例 (14%)
                      悪化      3例 (43%)
       
術前の平均H&Bグレード 4.0 → 術後平均 3.9  (平均フォローアップ55.5ヶ月)

顔面神経温存手術(そぎ取り法)と腫瘍全摘+顔面神経再建を行った対象は実際には差があります。
顔面神経温存を行ったケースは術前の顔面神経麻痺の程度が比較的軽く、腫瘍も小さい傾向がありますが、
腫瘍全摘+顔面神経再建を行ったケースは術前の顔面神経麻痺が重く、腫瘍は大きい傾向があります。

そぎ取り法を行った群では、術前の平均H&Bは31に対して術後の平均H&Bは22と術後に改善が見られました。
腫瘍全摘+顔面神経再建を行った群では、術前の平均H&Bは4.0に対して術後の平均H&Bは3.9と最終的には
術前の顔面神経麻痺とほぼ同等の平均値
までは機能が戻りました。
手術した19例中、13例で聴力障害が合併していましたが、術後に聴覚の悪化を認めたのは3例でした。


[解説]
これまで、顔面神経鞘腫であれば、顔面神経機能を改善させるといった概念は存在せず、「究極まで悪くなったら
失うものがないので手術を行って顔面神経麻痺が少しでも改善すれば儲けもの」
といった考え方がとられる風潮が
あります。
これでは、顔面神経鞘腫になったが最後、ほぼ必ず強い顔面神経麻痺が残ることになってしまいます。
我々の考え方は、そうではなく、顔面神経鞘腫はもちろん顔面神経機能という観点からはきびしい疾患ではありますが、
何とか麻痺を今よりも改善させよう、ということです。

多くの患者さんが、本当に求めているのは腫瘍を取ることよりも、顔面神経機能が少しでもよくあってほしいということです。
したがって、良性腫瘍であるこの腫瘍を「がん」のような悪性腫瘍と同じ考え方で全摘しなくても、うまくコントロールして、
この病気で命を取られることのないようにしながら、顔面神経機能をなんとか良くしようと考えているのです。
今回、
顔面神経温存手術(そぎ取り法)が、顔面神経機能を平均して術前よりも改善させることが平均2年強 4-62ヶ月)の
フォローアップで確認され、その有用性が証明されました













[合併症]

術後の合併症は、
  ・聴力障害 (約15dBの悪化): 3例
  ・顔面機能障害 (顔面神経再建に伴う当然のもの) 6例

  ・側頭葉のトラブル: なし
  ・髄液漏: なし
  ・感染 (髄膜炎): 1
 
 

[手術適応]

顔面神経鞘腫の手術適応については、一般的には現在のところ明確な定説はありません。
 しかし、顔面神経再建を行うと、最終的にはどんなに良くてもH&B grade 3にまでしか
 顔面機能は戻らないことから、grade3以下になってから手術をするべきという考え方が
 あります。 
・一方、顔面麻痺が強い状態が長く続くと、顔面筋が萎縮してしまい、いくら再建を行って
 神経の伝達が徐々に回復してきても肝心の筋肉が働きにくいということも事実です。

 それでは、
顔面の麻痺が軽い状態で、腫瘍の大きさが増大してきていたり、聴力障害が
 加わってきた場合はどうでしょうか
。顔面麻痺がかなり進行するまで手術を待つべきでしょうか。
 その間に難聴は進行してしまう可能性があります。

 難聴にも2種類あり、伝音性難聴と感音性難聴のどちらもこの顔面神経鞘腫には起こりえます。
 腫瘍が顔面神経の
膝神経節から側頭骨内 (鼓室内)に進展した場合には伝音性難聴が起こりやすく、
 感音性難聴に比べて一般的に軽度で、腫瘍切除によって軽快することも期待できます。
 一方の
感音性難聴は、腫瘍が膝神経節から内耳道内や、さらに小脳橋角部まで進展する場合
 起こりやすく、この場合には内耳や蝸牛神経が障害されているための難聴と考えられます
 (内耳性・後迷路性難聴)。

 これまで10例に行った
「そぎ取り法」は、
  顔面機能を重視して、腫瘍の切除は必ずしも全摘を保障できるものではありませんが、
  手術後にむしろ顔面麻痺が改善しており、聴力の悪化もきたしていないため、1つの
  有効な手段と考えられます。
  この方法は小生が開発したものではなく、外国の論文中にも簡単に記載がされているものです。
  この考え方を導入することにより、これまで治療を躊躇されている腫瘍にも治療が可能となる
  可能性が出てきました。

注)顔面神経再建を行えば、必ず一旦は完全な顔面麻痺になり、その後8ヶ月から1年半かかって
  徐々に顔面機能が回復しますが、最も良好に回復してもH&B grade 3です。


 現時点での
当科の考える手術適応は、
  ・基本的には、65歳未満の患者さんで、顔面麻痺の強いケース (H&B grade 3以下)。
  ・
顔面神経麻痺が軽度の場合でも、腫瘍が内耳道や小脳橋角部に進展しており、
      a) 腫瘍の増大傾向が確認されている場合
      b) 感音性難聴が出現したり、進行している場合
      c) 過去に何回も重篤な顔面神経麻痺に陥った既往がある場合
          などは
「そぎ取り法」を念頭においた手術の適応と考えている。

  
最終的には、患者さんの顔面神経麻痺や聴力に対する考え方や腫瘍の大きさや部位などを
  考慮しながら、患者さん毎に最も適した治療 (経過観察を含む)を考えてゆくということが大切と
  考えています。



     



[まとめ]

 ・顔面神経鞘腫は多様であり、腫瘍の発生部位・進展部位によって、手術方法が異なる上に、
  顔面神経の再建方法にもバリエーションがあります。

 ・側頭骨ドリリングを用いた各種の頭蓋底アプローチ・神経移植と神経吻合の技術を要し、
  患者さんに応じた手術アプローチや顔面神経再建方法が要求されます。

 ・「そぎ取り法」の考え方を取り入れることにより、必ずしも顔面神経再建を行わなくても
  手術によって腫瘍切除を行うことが可能と考えられます。

 ・手術の適応や手術の時期については、いろいろな考え方が存在し、患者さん毎に最も
  適した治療を選択することが大切と考えています。





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