会長 開会の挨拶
第25回精神科診断学会の開催にあたり、染矢俊幸会長より、「診断学に関する学習」を重視して本学会を企画されたとのお話があり参加者の皆様方には、学会ならびに新潟の秋を十分楽しんで頂きたいとの挨拶がなされました。


理事会 ・ 議会 ・ 総会
29日10時より理事会、11時から評議員会が開催されました。
また、13時から総会が行われました。理事長が三重大学岡崎祐士先生から新潟大学染矢俊幸先生に交代されること、第26回日本精神科診断学会は、京都大学大学院医学研究科精神医学教授林拓二会長のもとで京都市内にて開催される予定であること、等が承認・報告されました。


教育セミナー
教育セミナー1「発達障害の診断と評価」
田中 康雄先生

発達障害の主に臨床的視点を基本にした概要から、診断・評価・治療での現在の課題と今後の展望についてお話されました。
診断・評価の難しさと児童精神科領域では実際に患者を含めた関係者が何を必要としているかが重要であるという先生のお言葉が大変印象的で勉強になりました。
教育セミナー2「向精神薬による副作用の診たて」
堀口 淳先生

抗精神病薬の投与に起因する副作用を、主に錐体外路症状(具体的にMeige症候群、ジストニア、食道ジスキネジア)を中心に自験例を提示しながら、その特徴や把握のコツを動画を用いて分かりやすく解説されました。
身体所見をしっかりとることが重要であると感じました。
教育セミナー3「身体表現性障害の診断と治療導入」
石郷岡 純先生

身体化障害、鑑別不能型身体表現性障害、転換性障害、疼痛性障害等の診断上の鑑別点のポイントについて分かりやすくお話していただきました。
臨床的にその分類が安易ではないとされる身体表現性障害関連疾患について整理することができ、大変有意義なセミナーでした。
教育セミナー4「前方型痴呆の症候と診たて」
田邉 敬貴先生

前頭葉優位型Pick病で特徴的とされる、多幸、我が道を行く行動、周囲への気配り欠如、心的葛藤の欠如等の症状を、実際の診察場面におけるビデオを用いながら、大変分かりやすく解説していただきました。
これからの臨床ですぐに役立つ知識を与えていただき、ありがとうございました。
教育セミナー5「精神科診断学の歴史と展望:四半世紀を振り返って」
高橋 三郎先生 

1981年の結成から四半世紀を迎える本学会に合わせ、精神科診断学の歴史を振り返りつつ、その
意義についてお話をされました。
自分自身の診断力を省みつつ、精神科診断学の重要性を再認識させていただきました。
教育セミナー6 「アルコール関連精神疾患の診断と予後の診たて」
齋藤 利和先生

アルコール関連疾患における診断、生物学的マーカー、治療等、広く全般的な内容をお話していただきました。
アルコール関連疾患には全身疾患としての視点が必要であり、フィッシャー比が認知障害や離脱症状の頻度の増加に影響を及ぼすという点が印象的でした。
教育セミナー7「精神疾患の画像診断と今後の展望」
平安 良雄先生

統合失調症を中心としたさまざまな精神疾患で、脳の形態や機能画像における異常が相次いで報告されていますが、今後、臨床面での応用が期待されることをお話していただきました。
精神科診断や治療効果の客観的評価の手段として、こうした画像検査が応用される可能性を感じることができました。
教育セミナー8「精神科診断と遺伝カウンセリング」
岩田 仲生先生

精神疾患を患った患者さんやその家族から、「この病気は遺伝するのですか?」と日常の診察場面で質問されることがありますが、その質問に答えるための知識について、実際のデータを提示しながら分かりやすく説明されました。
教育セミナー9「精神疾患の脳機能画像:最近の展開」
和田 有司先生

統合失調症の脳機能画像、主にfMRIについての最新の知見をお話しされました。
今後の脳機能画像研究により、精神疾患の病態解明に加え、疾患の早期診断、重症度評価、さらには治療反応性の評価といった臨床応用に展開される可能性を感じました。
教育セミナー10「非アルツハイマー型変性性痴呆の神経学的症候」
天野 直二先生

非アルツハイマー型変性性痴呆には多くの概念が含まれること、神経学的所見を確実に取り診断することが重要であることをお話されました。
痴呆の鑑別の重要性にあらためて気づくことができました 。
「必ず患者さんの身体に触れて診察してください。」と繰り返しおっしゃり、先生の診察における真摯な姿勢には感銘を受けました。
教育セミナー11「精神科リハビリテーションにおける診断と評価」
井上 新平先生

精神科リハビリテーションについて、評価から実際のリハビリテーションまでの流れを貴重な自験例を交えて解説していただきました。
リハビリテーションの最初の段階は評価であり、この評価では専門家による精神症状・社会機能の評価だけでなく、当事者によるQOL、サービスの質に対する評価も非常に大事であることをお話されました。
精神科治療における医療者・患者の双方向からの疾患アプローチが重要であることを再認識させられました。
教育セミナー12「非定型精神病概念の歴史と意義」
兼本 浩祐先生

非定型精神病概念の歴史、類型論的考え、操作的診断との異同を説明された上で、この概念の臨床的有用性について症例提示を交え、現代的視点から再度読み解かれました。
特に、非定型精神病の概念の特徴である精神病像の反復及びてんかんとの関連について、その臨床的有用性を再確認するよい機会となりました。
教育セミナー13「睡眠障害の診断と治療導入」
大川 匡子先生

プライマリケア患者では睡眠障害を伴うことが多く、背景には精神疾患(うつ病、統合失調症、パーソナリティ障害等)が存在する場合が多いこと、そして睡眠障害の早期発見・治療が重要であることをお話されました。
臨床に沿った具体的な内容で大変分かりやすく、理解できました。
教育セミナー14「悪性症候群とセロトニン症候群」
山脇 成人先生

悪性症候群の診断、病態生理、治療等を中心にお話されました。
また、悪性症候群と対比しながら、セロトニン症候群の症状、診断、治療についても総括的に提示していただきました。
悪性症候群の病態生理に関する最近の知見である、カルシウムチャンネルの関連は興味深いものでした。


研修セミナー
研修セミナー1「精神鑑定の診断学的特性−供述の信憑性判断を中心に−」
小田 晋先生

精神鑑定の診断の特性、診断の実際において要求される視点、知識、司法精神医学上の立場について概観していただきました。
精神鑑定の診断における面接技法は日常臨床にも有用で示唆に富むものであり、非常に興味深く勉強になりました。
研修セミナー2「幻覚妄想体験への対処を援助するための診断治療ガイド」
原田 誠一先生

幻覚妄想への対処を援助するためには、患者さんへの情報伝達の際に、治療方針、見通し等を含む総合的な情報を分かりやすく伝えることが大切であることをお話されました。
患者さんに幻覚妄想という概念を理解していただけないもどかしさを感じていましたが、今後の臨床現場にきわめて役に立つ内容のセミナーであると思いました。
研修セミナー 3 「摂食障害の治療を活かす診断学」
上原 徹先生

摂食障害の中核的病理と診断基準を説明された上で、いわゆるNOS(特定不能)群と診断されるケースが多いこと、摂食障害に関連する様々な病態やcomorbidityについてお話されました。
多彩な症例提示の中で、講師の先生の個々の症例へのきめ細かい対応がうかがわれ、感銘を受けました。
研修セミナー 4「エビデンス検索と批判的評価の実際」
渡辺 範雄先生

論文検索が必要となるような状況を仮定し、実際の文献を基に、その研究論文の正確性、妥当性を評価するためのポイントをわかりやすく教えていただきました。
活発な議論もあり、大変印象深いセミナーでした。
研修セミナー 5「Structured Clinical Interview for DSM-W(SCID)」
北村 俊則先生

SCIDを用いるには十分な訓練を要することをお話していただきました。
面接技術向上のために、参加者1名が患者役(外来における診断不明事例)、講師の先生が面接者となり、ロールプレイが行われました。
さらに診断学への提言にも触れられ、大変有意義なセミナーでした。
研修セミナー 6「M.I.N.I.」
大坪 天平先生

操作的診断基準及び構造化面接の概要と有用性、MI.N.I.の実際と限界点について分かりやすくお話していただきました。
簡易構造化面接の有用性と限界点を認識することができ、今後臨床現場で用いる上で、大変役に立つセミナーでした。
研修セミナー 7  「PANSSの評価方法」
宮田 量治先生

統合失調症における評価尺度の中で最も標準的なPANSSについて、ビデオを用いて、定義や基準を分かりやすく、詳しく解説していただきました。
今後臨床場面で有効に利用することで、症状の把握に役立つことを再認識させていただきました。
研修セミナー 8 「Y-BOCSの使用法について」
多賀 千明先生

OCDに対する薬物療法の効果判定として考案された強迫症状の重症度評価尺度であるY-BOCSの使用方法について、ビデオを交えながら分かりやすく説明していただきました。強迫観念や強迫行為のタイプや症状数に影響されずに評価できるということを学ばせていただきました。
研修セミナー 9  「GRID-HAMD」
古川 壽亮先生

ハミルトンうつ病評価尺度の最新の半構造化面接であるGRID-HAMDの優れている点を説明された上で、トレーニングビデオを用い評価法を分かりやすく教えていただきました。今後の診療で、是非用いてみたいと思いました。
研修セミナー10 「薬原性錐体外路症状の診断と重症度評価」
稲田 俊也先生

抗精神病薬で発症する薬原性錐体外路症状について、診断及び薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)による重症度評価の留意点をお話していただきました。
実際の症状についてビデオを見せていただき、大変理解しやすいセミナーでした。


シンポジウム1 
「DSMの弊害と問題点:10年後、20年後の精神科診断学を考える」 
 
約200名の参加者が集まった会場で第1日目最後のセッションであるシンポジウム1が開かれました。
テーマは「DSMの弊害と問題点:10年後、20年後の精神科診断学を考える」で、5人の著名な先生方をシンポジストに迎え、北村俊則、野村總一郎両先生に司会をお願いし、活発な討論が行われました。
大森哲郎先生は、「精神病性障害」、特に統合失調症について触れられました。
統合失調症の診断はDSMにおいても、従来と同じく記述的区分に基づくことを確認したうえで、従来は診断hierarchyの最高位にありcomorbid disorder等が考慮されなかったが、DSM診断によりこれが診断されるようになったことを強調され、また診断分類には気分障害同様に経過を加味してもよいことを提言されました。
「気分障害」を担当された加藤忠史先生は、DSMの気分障害の診断基準は様々なspecifierを含み種々の臨床特徴を表現でき、従来診断に比し決して劣らず、今やその使用の是非について議論する時ではないことを強調されました。
その上で、一般身体疾患による気分障害と抗うつ薬投与中に生じる躁状態を例にとり、DSMにおける器質因・症状因の扱い方には問題が残されていることを話されました。
市川宏伸先生は、「児童青年期の精神疾患」の問題点を指摘されました。
最近臨床現場で多く出くわす発達障害ですが、「障害」という言葉の使用が、教育・福祉の現場ではhandicapやdisabilityをあらわす「障害」と混同され、誤解を生じていることを強調、また広汎性発達障害と注意欠陥多動性障害を同一スペクトラムとしてとらえる必要性、さらに成人における発達障害の診断の困難さについても触れられました。
福田正人先生は、「検査による精神科診断」の可能性について触れられました。
患者群及び健常群の比較で差を生じる生物学的指標(脳機能、構造等)は少なくないが、群間比較でなく個別データにつき判断が必要となる臨床診断となると、実用できる段階には達しておらず、精神科診断は、病因でなく症候からせざるをえない状況にあることをご指摘されました。
大田母斑で知られる皮膚科医大田の記述の引用が印象的でした。
大野裕先生は「DSM-Vの動向」についてお話されました。
DSMの改訂・診断基準集出版に際して生じるAPAへの経済的効果等「裏事情」にも触れつつ、「関係性障害」の導入等いくつかの小改訂はあるが、現時点では大改訂を迫るような新知見はなく、DSM-V策定のためのワーキンググループさえ立ち上がっていない現状を御紹介いただきました
その後、北村俊則先生の司会により、comorbidityが多く生じることの必要性、また精神科診断に検査所見をどう取り入れるかについて活発な討論がなされ、会場参加者からも様々な質疑がなされました。
1つ残念だったことは、討議の時間が短く、ディスカッションが不十分である印象があった点です。
それを踏まえて、その後の懇親会では、染矢会長が更なる論議の場を提供されました。


シンポジウム2
「災害時のこころのケア対策と精神科的評価」
二日目の最後のセッションにもかかわらず、100名以上の聴衆が集まり、シンポジウム2 「災害時のこころのケアと精神科的評価」が、加藤進昌、金吉晴両先生を司会に開かれました。
5名のシンポジストの熱気あふれる講演とその後の活発な討論に、会長の配慮で予定時間が延長されました。
飛鳥井望先生は、「災害時にみられる精神疾患」という題目で、総論的に災害時の精神疾患について触れられました。
大規模災害の直後には、被災者の大多数に何らかの精神的ストレス反応が生じること、具体的には、心身の極度の緊張、精神興奮、不安、感情動揺や鈍麻、解離や現実感希薄等に続いて、フラッシュバックや悪夢等の再体験症状、睡眠障害や過敏反応等の過覚醒症状がしばしば出現することを示されました。
そして、急性ストレス反応におけるこれらの症状はその多くが個人の対処行動や家族同士の助け合いによって自然経過の中で回復していくことを学びました。
中島聡美先生、金吉晴先生は、「災害時のこころのケア対策」について、過去の大災害(阪神淡路大震災、雲仙普賢岳噴火災害、サンフランシスコ地震、トルコ地震等)を例に、具体的に分かりやすく述べられました。
新潟県中越大震災に関しては、災害に絡んだ生活上の持続的な出来事の方が急性の災害体験よりも重要であることを教えていただきました。
「新潟県中越大震災のこころのケア対策」と銘打って、新潟大学精神医学教室の塩入俊樹先生がご発表されました。
昨年10月に起きた中越地震を省みながら、新潟県が実施した「こころのケア対策」について説明されました。
さらに、震災後1年弱の間に同教室が調査した精神科的評価に関する8つの一般口演(全てポスター口演)のエッセンスもまとめて述べられました。
とても興味ある内容に会場からいろいろな質問がなされました。
井出浩先生は、「災害と子供のこころのケア」についてご講演くださいました。
実際に阪神淡路大震災の際に経験された症例を基に、分かりやすく説明していただき、大変勉強になりました。
特に、災害後に生じた様々な症状の回復には、養育者等の大人の支えによるところが大きく、大人も共に被害を受ける災害では、大人への援助の視点が、子供のこころのケアの活動においても重要であることを示していただき、あらためて災害時の精神保健活動の重要性を認識いたしました。
笠井清登先生は、脳機能画像研究の立場からストレス、特に災害後に生じるストレス関連障害である「PTSDの生物学的異常とその病態メカニズム」について分かりやすく紹介されました。
そして、これらの神経画像所見がPTSDの診断や治療効果の判定に役立つかどうかについて、最近の知見も踏まえて論じられました。
難しい内容でしたが、とても分かりやすいご講演でした。

一般演題
口演演題
一日目は30題、二日目は14題の一般演題の発表があり、時間を延長するほどの活発な論議が展開されました。
ポスター準備
41のポスター発表の準備が始まりました。
ポスター発表
ポスター発表は、ご覧のとおりブースに人があふれ、活発な交流がなされ、大盛況でした。
ランチョンセミナー1「うつ病の診断と治療:認知行動療法の立場から」
大野 裕 先生

うつ病の診断と治療について、認知療法の立場から概説されました。
特に治療への導入が困難とされる慢性化したうつ病に効果的だと言われる認知行動分析システム精神療法の、慢性うつ病へのアプローチについて大変興味深いお話をされました。
ランチョンセミナー2「統合失調症における診断学の変化と治療思想の変遷」
石郷岡 純 先生

統合失調症における従来型診断から操作的診断への変遷についてお話されました。
その中で、操作的診断基準の導入が定着したことによって、生物学的研究がより進展し、さまざまな治療技法の統合化が推進されていく過程を説明され、印象深いものでした。
ランチョンセミナー3「後方型痴呆の症候と診たて」
田邉 敬貴先生

Pick病に代表される前方型痴呆に対して、頭頂−側頭−後頭葉の障害を中心とするアルツハイマー病に代表される後方型痴呆について、ビデオを用いてその主症状をお示しいただき、病態機制について分かりやすく解説されました。
また、アルツハイマー病にも臨床的な亜型が存在すること等、最近の話題にも触れられ、学術的かつ臨床的なセミナーでした。
ランチョンセミナー4「発達障害と統合失調症の鑑別診断をめぐって」
丹羽 真一先生

アスペルガー障害やADHD等の発達障害と統合失調症との鑑別診断について、講師の先生が自作された行動評価表を基に、分かりやすく解説されました。
また、情報処理に伴い出現するとされている事象関連電位(ERP)を用いて、上記疾患の鑑別を試みられ、その結果についても具体的に示していただき、大変勉強になりました。


会長 閉会の挨拶
若手の先生方や医師以外の方々の参加を促し、幅広い領域の精神科診断学に関する学習を重視するという本学会の当初の目標が十分達成された、実りある学会であった旨の挨拶がなされました。
また、この学会にご協力いただいた皆様方への御礼の言葉が述べられました。


第25回精神科診断学会は、一般演題85題(口演44題、ポスター41題)、シンポジウム2題、教育・研修セミナー24題、ランチョンセミナー4題全てが無事終了しました。
ご参加された先生方、あるいはご協力をいただいた方々にこの場をお借りして、御礼申し上げます。ありがとうございました。
来年は、京都で皆様とお会いできることを楽しみにしております。
第25回日本精神科診断学会事務局
塩入俊樹