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研究紹介

会員から最近のレチノイドに関する研究の紹介・報告です。

タミバロテン(OAM80)のアルツハイマー型認知症に対する探索的臨床試験(治験総括報告書)

合成レチノイドであるタミバロテン(Am80 = OAM80) は急性前骨髄球性白血病(APL)の極めて優秀な治療薬である。本薬は免疫疾患、神経疾患、脂質代謝などに多大な影響をあたえ、なかでも、アルツハイマー病の治療効果も期待されている(Biol Pharm Bull 2012; 35(8): 1206-12; doi: 10.1248/bpb.b12-00314)。このたび、GCP にもとづく二重盲検による表題の試験結果がまとまったので、本会に要旨を報告するとともに、治験総括報告書を本会ホームページを借りて公開する。ご批判を仰ぎ、今後の展開に役立てたい。
(首藤紘一、山形尚子、深澤弘志、影近弘之)

【要旨】(総括治験報告書はこちら

タミバロテン(OAM80 = Am80)のアルツハイマー型認知症に対する探索的臨床試験(治験総括報告)
Alzheimer’s Disease: Efficacy and safety of tamibarotene. A double blind exploratory clinical study

大阪市立大学医学部附属病院 老年内科・神経内科教授 三木隆巳、奈良県立医科大学付属病院 精神科准教授 安野史彦
Miki Takami and Yasuno Norihiko

【目的】

タミバロテン(OAM80 = Am80)は非天然型合成レチノイドであり、レチノイン酸受容体RARαとRARβに極めて選択的な分子標的薬である。Am80は、2005 年に再発又は難治性急性前骨髄球性白血病(APL)の治療薬アムノレイク錠として承認され、既に臨床現場で広く使用されている。動物では、アミロイドβ蓄積の抑制、損傷部位での2 次炎症の軽減、自己免疫疾患におけるTヘルパー細胞の制御性T細胞への分化促進、神経の再生促進などの薬理作用が確認されていることから、アルツハイマー型認知症(AD)の患者に対するAm80の有効性と安全性を探索的に検討する目的で、プラセボ対照二重盲検試験を医師主導治験として実施した。

【方法】

2010年9月から2018年3月まで、大阪市立大学医学部附属病院及び奈良県立医科大学付属病院で、軽度及び中程度AD(MMSE:10-26)の患者を対象として、Am80 4mg/日またはプラセボを24週間投与し、投与終了後約12週目に後観察を行った。有効性の主要評価項目は、Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale (ADAS-JCog)、Mini-Mental State Examination (MMSE)、the Clinician's Interview-Based Impression of Change plus caregiver input (CIBIC-plus)、Alzheimer's Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living (ADCS-ADL) の4項目とし、スコアの変動(投与開始前から12 週間後、24 週間後、中止時、後観察時までの変化)をプラセボ群と比較した。MRI-PIB-PETにより皮質アミロイド集積値を測定し得た症例では、治験薬投与前後の変化率を副次的に評価した。安全性は、治験期間中に観察された自覚症状・他覚所見及び臨床検査値から、有害事象及び副作用の発現頻度を評価した。

主要評価項目の解析は、混合効果モデルを用い、時点ごとの変化量の治療間差(Am80-プラセボ)の区間推定及び被験薬群とプラセボ群との群間比較を行った。臨床検査値は、評価時点ごとに実測値、投与開始時からの変化量について要約統計量を算出し、t検定を用いてプラセボ群及びAM80群間の比較を行った。なお、本治験は探索的な治験であるため、多重性は考慮しなかった。

【結果】

組み入れ基準を満たした27例がランダム化され(Am80群:18例、プラセボ群:9例)、このうち9例が治験を中止したが、全例を有効性及び安全性の解析対象とした。被験者は65歳以上の高齢者が24例 (88.9%)、性別は女性が20例(74.1%)であった。ベースラインのMMSEの中央値は21点(最小値-最大値:12-26 点)であった。被験者全例が本治験に入る前からドネペジルによる治療を受けており、治験薬投与期間中も全例に継続して併用されていた。

主要評価項目であるADAS-Jcog、CIBIC-plus(下位尺度であるDAD 、Behave-AD、MENFISで評価)及びADCS-ADLはいずれも悪化の方向に変化したが、その変化量には両群間で有意な差は認められなかった。MMSEはAm80群、プラセボ群のいずれにおいても投与期間を通して低下(悪化)したが、12週時点の低下量はAm80群で有意に小さかった。

副次評価項目として測定した皮質アミロイド集積値は、Am80群及びプラセボ群のそれぞれ1例において著明な低下が認められた。

有害事象、副作用、治験薬の投与中止に至った有害事象の発現頻度はAm80群とプラセボ群との間で差は認められなかった。死亡例はなく、重篤な有害事象も治験薬との関連性は全て否定された。副作用の内容は、血中アルカリホスファターゼ増加、肝機能異常、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)増加 、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)増加、血中トリグリセリド(TG)増加、C-反応性蛋白増加であり、APL患者を対象とした市販後調査や長期投与試験で既に報告されている内容と同様の傾向であった。治験薬投与中の脂質の変化は顕著で、プラセボと比較し有意に大きなTG増加、LDLコレステロール増加及びHDLコレステロール減少が認められた。

【結論】

12週時点でのAm80群のMMSE低下量はプラセボに比し有意に小さく、認知機能の悪化を抑制したことが示唆された。また、1例ではあるが、皮質アミロイド集積値が著明に低下した例を認めた。しかし、ADAS-Jcog、CIBIC-plus及びADCS-ADLではプラセボとの差は認められず、皮質アミロイド集積値が著明に低下した例はプラセボ群でも認められ、本治験ではAZに対するAm80群の有効性を明確に示すことができなかった。AZ患者では脳内のレチノイドシグナルの不足がAZの発症や重症化に関連している可能性が示唆されていることから、今後患者選択を工夫することによってタミバロテンが有効な患者群を見出すことが期待される。


キーワード:アルツハイマー病、レチノイド、タミバロテン、臨床試験、総括報告書

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