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先天性大脳白質形成不全症とは

先天性大脳白質形成不全症は、脳の白質(詳細は下記)の発達がうまくいかないことが原因で起こるこどもの脳の病気の総称です。この中には現在11種類の病気があることがわかっています(診断基準を参照)。症状は、患者さんの病気によって幅がありますが、生後1年以内に気付かれる発達の遅れと異常な目の揺れ(眼振といいます)、そして徐々に現れる四肢の突っ張り(痙性)などが多く見られます。ほとんどの患者さんは、自由に話したり歩いたりすることが出来ません。
先天性大脳白質形成不全症の診断には、MRIなどの画像検査(下記)や遺伝子解析が重要です。他の検査を併用することにより、6割程度の患者さんでは、確定診断(診断基準を参照)を得ることが出来ます。一方で、検査をしても原因がはっきり分からず、確定診断に至らない患者さんも多くおられます。
先天性大脳白質形成不全症は、非常に稀な病気です。日本全国でも数百名の患者さんがいるのみと予想されています。この病気を治すための治療法は、残念ながら未だありません。しかし、リハビリや対症療法などにより、患者さんが少しでも豊かな生活(QOL)が送れるような医療が行われています。

先天性大脳白質形成不全症の原因

白質とは、脳のなかでミエリンを多く含む部分を指します。生まれたばかりの新生児では、この部位は水分が多く、MRIのT2強調画像では、水っぽい高信号(白色)を呈していますが(図1,矢印)、発達と並行して徐々に脂肪を反映した低信号(黒色)になっていきます。白質ではこの間、神経細胞伝導路の(アクソン;図2C,橙色の部分)の周囲をミエリンがロール状に巻いてゆきます(図2C,青色の部分)。この過程を髄鞘化(ミエリネーション)と呼びます。何らかの原因で、この髄鞘化が正常に起こらない先天性の疾患を先天性大脳白質形成不全症と呼びます。ミエリンの構成成分の異常や、髄鞘化に必要な因子の障害が考えられ、代表的な疾患であるペリツエウス・メルツバッハ病は、ミエリンを構成する最も多いタンパク質であるプロテオリピドプロテイン(PLP1; 図2D)の異常で起こります。

図1,MRI(核磁気共鳴画像)、T2強調像
図1,MRI(核磁気共鳴画像)、T2強調像

新生児期には、白質は水分に富むため(矢印)白く見えるが、髄鞘化に伴い脂肪含量が増し徐々に低信号(黒色)になり、1歳6ヵ月でほぼ成人と同様の画像になる。
患者さんでは、新生児の白質より、高信号(白色)なのが特徴である。

図2,脳を構成するニューロンとミエリン、プロテオリピドプロテインの関係
図2,脳を構成するニューロンとミエリン、プロテオリピドプロテインの関係

A; 脳に存在する神経細胞の概念図 B;ニューロンのアクソンを取り囲むミエリン(青)
C;アクソン(橙色)がミエリン(髄鞘;青色)に層状に囲まれることにより(髄鞘化)、速度の速い伝達が可能になる。D;ミエリンは細胞膜が接着因子を介して、層状にアクソンの周りを取り囲んでおり、ミエリンを構成するタンパク質の半分以上が、プロテオリピドプロテイン(PLP1)で占められ、細胞膜上に存在している。