研究について基礎研究
口腔顎顔面外科・矯正歯科では、ティッシュ・エンジニアリング部や組織幹細胞・生命歯科学講座等と連携し、ヒトの軟骨細胞、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞、骨芽細胞など様々な細胞を用いて組織再生過程のメカニズムを解明し、短期間で効率よく、質の良い再生組織を作製するための基礎研究を行っています。また、この基礎研究をもとに、臨床に即した臓器再生デバイスを開発し、臨床応用を進めています。
口腔顎顔面領域にとどまらず、機能回復が困難な全身の疾病を克服し、患者のQOLを向上させる再生治療の実現を目指しています。
研究項目および代表的な研究成果
インプラント型再生軟骨
口唇口蓋裂の鼻修正治療のためのインプラント型再生軟骨の開発
(医師主導治験および企業治験終了、販売承認申請中)
当科では、耳の軟骨組織から効率よく細胞を増殖する方法を確立し、足場素材と組み合わせて、十分な強度と3次元形態を有する3次元再生軟骨を作製する技術を開発しました。東大病院で臨床導入を行い、口唇口蓋裂を有する患者さん3名の鼻変形の修正に応用しました。さらに作製法に改良を加えて保存期間を14日間に延長させ、製造機関から遠隔地にある医療機関でも使用できるようにしました。この長期保存型の再生軟骨について医師主導治験を実施し、安全性や有効性の評価を行いました。今後は製品化を目指していきます。
骨リモデリング再構築系を用いた骨代謝研究
生体内において、骨は破骨細胞による吸収と、引き続いて起こる骨芽細胞による形成を受けており、このサイクルは骨リモデリングと呼ばれています。また、骨リモデリングにおいて骨吸収と骨形成の部位は一致していることが多く、これをカップリングと呼びます。これらの現象は破骨細胞、骨芽細胞、さらには骨内に存在する骨細胞が互いの働きを調節することで生じています。
リモデリングやカップリングといった現象は骨組織の維持の根幹を成すものであり、これらを解析することは骨代謝に対する理解を深め、骨粗鬆症などの疾患のより良い治療法を開発する上で極めて重要です。しかし、細胞間の複雑な相互作用により、数週間に渡って連続して生じるこれらの現象をとらえることは極めて困難です。
当科では、破骨細胞、骨芽細胞、骨細胞の相互作用を培養皿の中に再現し、リモデリング、カップリングを観察可能な実験系を構築しました。この実験系では、2光子顕微鏡という特殊な顕微鏡を用いることで、破骨細胞が骨を吸収し、吸収された部分が骨芽細胞が作った骨により再び充填される様子を観察可能です。私たちはこの実験系を用いて、リモデリングやカップリングが生じるメカニズムを明らかにしたいと考えています。
脂肪由来幹細胞の臨床応用への検討
再生医療では、特定の機能をもつ細胞に分化する能力を有する“幹細胞”が必要です。脂肪由来幹細胞は、採取が比較的容易であること、また脂肪吸引などで本来廃棄してしまう脂肪を利用することが可能であることから、採取技術でも臨床応用のメリットが大きいのが特徴です。また、脂肪由来幹細胞は細胞間の伝達物質である増殖因子やサイトカインの分泌が豊富で、組織再生や創傷治癒に有効であることが分かってきています。
当科ではこれまでに『ヒト脂肪由来幹細胞採取のための吸引脂肪の運搬条件の検討』や『マウスアキレス腱症モデルに対する脂肪由来幹細胞の有効性の検討』を行ってきました。さらに、今後は『脂肪由来幹細胞を用いた顎関節症治療の臨床応用』を目指して、細胞の培養条件や移植方法などの検討を行っています。
歯髄幹細胞を用いた骨再生に関する研究
口腔外科領域の組織や異物周囲に集まる幹細胞を用いた再生医療を実現できるように、研究を行っています。具体的には、抜去した歯の歯髄による骨再生の研究をしています。また、鋳型を移植して形成される組織を用いた組織再生を安全に臨床へ導入できるようにメカニズム解析研究を行っています。
組織幹細胞・生命歯科学講座は、組織に存在する幹細胞を利用した再生医療を口腔外科領域から行うため、当科と生殖・発達・加齢医学専攻小児医学講座小児外科学を母体とし、株式会社デンタルアシスト、医療社団法人富家会富家病院、医療法人三慶会指扇病院グループ、医療法人社団嘉祐会 池上ホームクリニック、株式会社イノテックのご協力の下、令和元年11月1日に開設された社会連携講座です。
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