看護理工学会 倫理綱領
2017年10月13日
改訂 2023年10月22日
- 会員は、社会秩序を重んじ、道徳の模範となり、誠意を持って研究にあたらなければならない。
- 会員は、本学会の会誌、学術集会、講習会その他の活動において会則規定を遵守しなければならない。
看護理工学会 倫理規定
2017年10月13日
改訂 2023年10月22日
I. 序文
看護理工学会は理工学、特に医用理工学・生体工学と看護との関わりにおいて、ケアに関する学術的進展に主眼をおいた取り組みとしての看護理工学研究を強化するための学術団体である。この目的を達成するために、また本学会の社会への影響力を鑑み、会員は国民として、医療専門職として、科学者として、そして看護理工学に携わる研究者として高い倫理感を持つ必要がある。
本倫理規定に先んじて、①人間としてまたは日本に住まう国民として法を遵守し、②各医療専門職の身分法ならびに③各医療専門職団体が作成する職業倫理を遵守することが求められる。本学会での研究活動においては多職種の会員が行なう幅広い活動であるので、各専門および学問領域のそれぞれの慣行を尊重するものであるが、活動を行なう際は、看護理工学会 倫理綱領に準拠するものである。
この倫理規定の構成は、II. 一般的事項としての研究者の心得、臨床研究に関する指針(医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、栄養士、臨床工学技士、社会福祉士、介護福祉士等の領域の倫理指針に準ずる)、III. 動物実験に関する指針、IV. 製品開発(工学)に関する指針に分類した。
II.研究者としての心得
研究者の心得とは、広く定義された研究活動を行なうにあたっての研究者として研究のプロセス上「やってよいこと、やらなければならないこと、それに伴いやってはならないこと」を理解した上で行動することである。
1.研究者として遵守すべき規範科学研究者としての基本的なあり方については、下記の5つの規範を遵守し行動するものとする。
- 日本工学会技術倫理協議会 研究と研究発表・投稿に関する倫理の第1歩 (2008年版)
(https://www.jsme.or.jp/eec/uploads/sites/5/2016/09/ethics-rule-firststep.doc ) - 日本学術会議 科学者の行動規範 (2015年改訂版)
(https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-s168-1.pdf) 加えて、医学研究を実施する場合に、ヘルシンキ宣言を含め、下記に示す各種倫理指針を遵守するものとする。 - ヘルシンキ宣言人間を対象とする医学研究の倫理的原則(2013 年(平成 25年)10 月 WMA フォルタレゼ総会((ブラジル)で修正)
(https://www.med.or.jp/wma/helsinki.html) - The Belmont Report: Ethical Principles and Guidelines for the Protection of Human Subjects of Research
(https://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/belmont.html)
(和訳:http://cont.o.oo7.jp/28_3/p559-68.html) - 日本の省庁が定める倫理指針等厚生労働省 医学研究に関する指針
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html) - ①人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(2022年(令和4年)制定)
- ②ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針(2022年(令和4年)一部改定) 厚生労働省 再生医療等の安全性の確保等に関する法律(関係法令等)
- ③遺伝子治療臨床研究に関する指針(2022年(令和4年)一部改正)
- ④厚生労働分野の研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(2015年(平成27年)制定)
- ⑤厚生労働省の所轄する実施期間における動物実験等の実施に関する基本指針(2015年(平成27年)一部改正)
- ⑥再生医療等の安全性の確保に関する法律(2014年(平成 26年)施行) 厚生労働省 厚生労働分野の研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000071398.html) - ⑦異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針(2003年(平成15年)一部改正)
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/) - ⑧手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発の在り方(1998年(平成 10年)厚生科学審議会答申)
- 公開データベースへの登録
研究責任者は、介入を行う研究を実施する場合には、あらかじめ当該研究の概要を公開データベース(UMIN:大学病院医療情報ネットワーク、一般財団法人日本医薬情報センター、公益社団法人日本医師会などが設置している公開データベース)に登録するとともに、研究計画書の変更及び研究の進捗に応じて適宜登録内容を更新し、研究を終了したときは、遅滞なく当該研究の結果を登録しなければならない。 - 倫理審査委員会の承認研究の実施にあたっては、所属機関等の倫理審査委員会の承認を受けることを原則とする。研究の報告を行う際は、所属機関等の倫理審査委員会の承認を得た研究であることを明示する。
研究計画に変更が生じた場合は、速やかに所属機関等の倫理審査委員会へその旨を届け、再度承認を得なければならない。 - インフォームドコンセントおよびインフォームドアセント
研究者は、研究対象者や研究協力者に対して研究についての十分な説明を行い、インフォームドコンセントを受けた上で研究を実施する。なお、侵襲を伴う研究においては、必ず文書によってインフォームドコンセントを受けなければならない。
また、未成年者等を研究対象者とする場合、親権者等のインフォームドコンセントに加えて、研究対象者本人にも理解力に応じた分かりやすい説明を行い、研究についての賛意(インフォームドアセント)を得るよう努める。
インフォームドコンセントについては文部科学省・厚生労働省の「人を対象とする医学系研究に関する指針」を参照する。 - 個人情報の保護
研究活動を通して得たデータは、研究者の責任のもと厳重に管理、保管する。その管理、保管方法は、研究計画書に明記する。第三者が共同研究者で存在する場合、結果の途中報告などでも連結不可能匿名性を常に考慮する。 - 研究にかかる情報の管理
- ①研究に係る情報の保管研究者は、研究に係る情報や資料の信頼性を保持するために、これらを適切に保管しなければならない。侵襲を伴う介入研究に用いられる情報や資料は、研究終了後 5年又は結果の最終公表後 3年のいずれか遅い日まで保管する。
- ②研究対象者への情報の開示 研究対象者や研究協力者から研究の実施に伴って得られた情報について開示の要望があった場合には、研究者はこれに遅滞なく応じなければならない。ただし、情報の開示によって本人もしくは第三者の生命や財産等の権利を害するおそれがある場合は、その限りではない。
- モニタリング・監査の実施 研究責任者は、研究の信頼性の確保に努めなければならず、侵襲(軽微な侵襲を除く)を伴う研究であって介入を行うものを実施する場合には、研究機関の長の許可を受けた研究計画書に定めるところにより、モニタリング及び必要に応じて監査を実施しなければならない。
- 著作権の尊重 著作権を有する測定尺度等を研究で用いる場合は、権利が帰属する人物や機関から使用の許諾を取り、それぞれの手続きを踏んだ上で使用する。
本学会員が学会を通じて活動する際は、以下の点に留意する。なお、次に挙げる不正行為が発覚をした場合は、学会において第三者機関を設け、当該発表、当該論文の不正行為に関する判断、ならびに、不正と判断した場合の処罰のあり方について検討し、当事者に答申を求めるものとする。最終的な結論と処罰については、常任理事会の責任で決定する。
- 不正行為の禁止
- ①「偽造・捏造」の禁止
偽造・捏造とは、研究計画書あるいは投稿論文に報告されている方法論によって得ることができない結果、事実に基づかない結果を意図的に偽造し、報告することである。 - ②「曲解」の禁止
曲解とは、データや観察事実の意図的な変更、一部分の意図的無視などによって、研究の結論に影響を及ぼしたり、正当化できない変更を加えたり、結論に不可欠なデータを省略することである。 - ③「盗用」の禁止
盗用とは、他の研究者のアイデア、研究内容、観察事実、測定尺度などを意図的に無断で利用することである。 - ④「二重投稿」の禁止
二重投稿とは、本質的に同一の内容を持つ論文を複数の論文誌に投稿することである。 - ⑤「同時複数投稿」の禁止
同時複数投稿とは、本質的に同一の研究活動の結果を分割し、複数の論文として論文誌に投稿することである。なお、上記④および⑤の可能性が否定できない時には、二次原稿投稿時に、提出先の編集委員会にその旨を告知し、引用文献に必ず列挙する。 - 報告・発表時の遵守事項
- ①研究成果発表時の「差別や偏見を助長する用語の使用」の禁止差別や偏見を助長する用語とは、研究対象者を卑下するような表現、聴衆や読者の偏見や差別を助長するような表現、特定の集団を揶揄、中傷するような表現のことである。
- ②学術集会における口頭・示説発表における匿名性、個人情報の保護 匿名性、個人情報の保護とは、事例報告、事例紹介時での写真の利用、個人情報の利用においては、個人が特定されない配慮をすることである。
- ③利益相反の開示利益相反行為とは、ある行為により、一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為のことである。利益相反に関する状況を研究責任者に報告し、透明性を確保するよう研究計画書に記載しなければならない。研究者は、研究計画書に記載された利益相反に関する状況を研究対象者等に説明しなければならない。利益相反については、利益相反管理綱領を遵守する。
III.動物実験に関する指針
研究において動物実験を実施する場合には、以下の法律等を遵守することが求められる。環境省 動物の愛護と適切な管理 法令・基準等(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/rule.html)
- 動物の愛護および管理に関する法律(2019年(令和元年)改正)
- 実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(2013年(平成 25年)改正)
- 動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針(2020年(令和2年)改正)
- 医学生物領域の実験動物に関する国際原則(2012年(平成 24年))
- 動物実験の適正な実施に向けたガイドライン(2006年(平成平成 18年)策定) CIOMS(国際医学団体協議会)
IV.工学に関する指針
会員が製品開発や工学分野の研究を行う際は、以下の指針に則り実施することを原則とする。
1.製品開発および工学研究製品開発および工学研究は、看護に関するケアや予防、分析解析調査、教育などを目的とした材料類や機器類、測定器などの形をなすハードウェア、また測定技術や看護および介護の手法などソフトウェア(形をともなわないもの)を扱う。
2.研究者の責務- 倫理原則の遵守
ハードウェアおよびソフトウェアの製品開発および工学研究を行う研究者は、倫理の原則を遵守しなければならない。 - 研究における重要事項
研究者が研究に関して優先すべきことは、研究検証(実験方法、統計学的手法など)である。 - 研究のテーマの設定
研究テーマは、看護に関するケアや予防、分析解析調査、教育などを目的としたもので、既に同様な研究および発表が実施され重複することがないか、海外を含めて充分に調査した上で設定することが求められる。 - 知的財産権の尊重
製品(ハードウェア、ソフトウェア)の開発においては、論文による発表だけでなく、国内外の既存製品および知的財産(特許、実用新案、意匠、商標、著作権)に類似したものが存在しないか充分に調査する。 - 研究の安全性の確保
臨床研究に伴う危険が予測される場合には、製品の安全性を充分に確認する。例えば、電気を使う機器類を使った臨床研究を実施する場合には、落雷などによる停電、電気ノイズによる製品誤動作等が回避されるように、電気用品安全法に準拠した製品を使用する。また、異常発生時の対策を含め、研究実施者に対して、製品の取り扱いや仕様を充分に説明する。臨床に関する研究については、別紙、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針他に準ずる。 - 商業的宣伝を目的とした研究の禁止
研究は、製品の商業的宣伝効果を目的としたものであってはならない。単一被験者のみの製品比較評価、特定の製品を誹謗中傷または賞賛するような発表、具体的な製品名または明らかに製品を限定するかの表現での発表など、学術的でなく商業的な宣伝効果を目的とした発表は控えるべきである。
- 共同研究で得られる成果
共同研究で得られる成果とは、医療材料や医療用具・福祉用具などの形をなすハードウェアのほか、測定技術や看護および介護手法などのソフトウェア、また研究調査結果、論文などである。 - 共同研究における契約
企業や団体に属する研究者と共同で行った研究および発表は、企業・団体内の研究開発規程および倫理指針を尊重し、社会的通念において妥当性のある取り交わしを文書で行う。文書とは、共同研究(開発)契約書を指す。 - 共同研究における知的財産権
共同研究において生まれる知的財産(特許、実用新案、意匠、商標、著作権)の権利に関しては、共同研究者および企業・団体など、共同研究に参加し知的財産の発掘に関与した関係先で、 相互に文書を取り交わす。文書とは、共同研究(開発)契約書を指す。 - 共同研究におけるデータ等の扱い
共同研究の途上で得られた各種データ、研究結果、今後の進展のための検討課題等については、可能な限り文書で保管し、派生する成果に対する取り扱いを事前に参加者間で協議しておくのが適切である。この際に取り交わす文書は、秘密保持契約書である。 - 共同研究における不適切な行為
共同研究にあたり、関係先の合意を得ずに、参加者個人や企業・団体が独自に知的財産の申請・取得を行うことは、倫理上不適切な行為である。その対策として、共同研究(開発)の契約を行う時点で、それぞれの権利と役割を合意しておくのが適切である。