[Synonyms:Opitz Syndrome, X-Linked; XLOS)]
Gene Reviews著者: Germana Meroni, PhD.
日本語訳者: 佐藤康守 (たい矯正歯科),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2018.4.5 日本語訳最終更新日:2022.6.23
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原文: X-Linked Opitz G/BBB Syndrome
疾患の特徴
X連鎖性Opitz G/BBB症候群(X-OS)は、顔面奇形(眼間開離,前額部の突出,widow’s peak<訳注:一般的には「富士額」と訳されることが多いが、ここでの意味は、前頭部毛髪の生え際が逆立ってV字形の流れを成す状態を言うものと思われる。,広い鼻梁,上向きの鼻孔)、泌尿生殖器系奇形(尿道下裂、停留精巣、低形成/二分陰嚢)、喉頭気管食道奇形を特徴とする多発性先天奇形疾患である。男性罹患者の約50%に、発達遅滞と知的障害がみられる。罹患者の約50%に口唇裂口蓋裂がみられる。その他の奇形(罹患者の50%未満に現れるもの)としては、先天性心疾患、鎖肛ないし異所性肛門、正中部脳奇形(Dandy-Walker奇形、脳梁や小脳虫部の無形成ないし低形成)などがある。同一家系内にあっても、臨床像には大きなばらつきがみられる。ヘテロ接合者の女性は、通常、眼間開離のみを有する。
診断・検査
男性の発端者については、X-OSの診断は、臨床症状をもとに行われるのがふつうである。
臨床症候で判断がつきにくいときは、男性の発端者については、分子遺伝学的検査でMID1の病的バリアントのヘミ接合を同定することで診断が確定する。X-OSを示唆するような症候を有する女性については、分子遺伝学的検査でMID1の病的バリアントのヘテロ接合を同定することで診断を確定させることになる。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
形態異常に対する管理は、多職種のチーム医療で行う。医学的に重大と判断される喉頭気管食道奇形に対しては外科的治療を行い、必要に応じて気管切開を行う。尿道下裂、口唇裂口蓋裂、鎖肛、心奇形に対しては外科的標準治療を行う。言語治療、ならびに神経心理学的、教育的支援を行う。
二次的な合併症の予防:
誤嚥のリスクを最小限にするための逆流防止処置を行う。
定期的追跡評価 :
有している形態異常の種類に応じて行う。口唇裂口蓋裂を有する場合は定期的に聴力のチェックを行う。
遺伝カウンセリング
X-OSはX連鎖性の遺伝形式をとる。複数の罹患者がいる家系にあっては、罹患者の母親は必然的に保因者である。男性罹患者の母親が保因者であれば、妊娠に際してその病的バリアントを子に継承する確率は50%となる。そして、その病的バリアントを継承した男児は罹患者となる。病的バリアントを継承した女児は、保因者となり、通常、眼間開離の症候を有する。軽症の男性が子をもうけた場合、女児に対してはその病的バリアントが必ず継承されるが、男児には継承されない。家系内における病的バリアントの存在が確定した場合には、リスクを伴う妊娠をチェックするための出生前/着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
X連鎖性Opitz G/BBB症候群(X-OS)の診断は、臨床所見をもとに行われることが最も多い。同一家系内にあっても、表現型には罹患者間でばらつきがみられる。X-OSの症候は、発生頻度に従って、大症候と小症候に分類されている。X-OSの正式な臨床的診断基準は、現在のところ確立されていない。
本疾患を示唆する所見
以下のような大症候、小症候を有する男性については、X-OSを疑うべきである。
大症候(出現頻度の高い症候)
最重度のタイプでは、腎奇形を伴うことがある。
最も多いのは喉頭裂で、これにより摂食嚥下障害と呼吸機能障害が生じる。
ただし、同一家系内にあっても、罹患者の表現型には幅があることを頭に入れておく必要がある。
小症候(罹患者の50%以下に出現する症候)
診断の確定
男性の発端者
男性の発端者については、前述した臨床症候をもとにX連鎖性Opitz G/BBB症候群(X-OS)の診断が確定する。臨床症候だけで判定がつきにくい場合は、分子遺伝学的検査でMID1の病的バリアントのヘミ接合を確認することで確定可能である(表1参照)。
女性の発端者
女性の発端者については、本症候群を示唆する症候を有していることに加え、分子遺伝学的検査でMID1の病的バリアントのヘテロ接合を確認することで診断が確定する(表1参照)。
用いられる分子遺伝学的検査としては、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査,マルチ遺伝子パネル検査)と網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング,ゲノムシーケンシング)があり、表現型に応じて組み合わせて用いられる。
遺伝子標的型検査の場合は、まず臨床医が、関与が疑われる遺伝子の目星をつける必要があるが、網羅的ゲノム検査の場合、その必要はない。
X-OSは非常に広い範囲に表現型が現れる。そのため、「本疾患を示唆する所見」に示した明らかな症候を数々有する例については、遺伝子標的型検査を用いて診断を行うことになるものと思われる(方法1参照)。一方、X-OSが候補に入っていない例については、ゲノム検査で診断が行われることになるものと思われる(方法2参照)。
方法1
表現型や臨床検査の結果からX-OSが疑われる場合の分子遺伝学的検査としては、単一遺伝子検査、ならびにマルチ遺伝子パネル検査の使用が考えられる。
MID1の配列解析を行うことで、遺伝子内小欠失/挿入や、ミスセンスバリアント、ナンセンスバリアント、スプライス部位バリアントを検出することが可能である。ただし、通常エクソン単位や遺伝子全体の欠失/重複は検出できない。順番としては、まず配列解析を行うべきである。そこで病的バリアントが検出されない場合は、遺伝子内の欠失や重複を検出するための遺伝子標的型欠失/重複解析を行う。
意義不明のバリアントや、いま問題にしている表現型とは無関係の遺伝子の病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の原因となった遺伝子を同定しうるのは、MID1その他の関連遺伝子を含むマルチ遺伝子パネル検査であろうと思われる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、いま本章で取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によって、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
本疾患の場合は、欠失/重複解析も含んだマルチ遺伝子パネル検査が推奨される(表1参照)。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。遺伝子検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
方法2
表現型が非定型を呈するため、X-OSの診断に至らない場合には、網羅的ゲノム検査(この場合は臨床医のほうで原因遺伝子の目星をつける必要はない)が最良の選択肢となろう。
ゲノム検査の中で最も広く用いられているのはエクソームシーケンシングである。ゲノムシーケンシングを用いることも可能である。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
表1:X連鎖性Opitz G/BBB症候群で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 手法 | その手法で検出可能な病的バリアント2が発端者の中で占める割合 |
---|---|---|
MID1 | 配列解析3,4 | 25%近く5 |
遺伝子標的型欠失/重複解析6 | 10人7 |
バリアントの種類としては、遺伝子内の小さな欠失/挿入、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントなどがあるが、通常、エクソン単位ないし遺伝子全体の欠失や重複は検出されない。
配列解析の結果の解釈に際して留意すべき事項についてはこちらをクリック。
確認のためには、遺伝子標的型の欠失/重複解析を追加で行う必要がある。
一方、X連鎖性遺伝が確認されている例における検出率は、50%を上回る[Gaudenzら1998,Coxら2000,De Falcoら2003,Winterら2003,Pinsonら2004,Soら2005,Fontanellaら2008]。
具体的手法としては、定量的PCR、ロングレンジPCR、MLPA法、ならびに、単一エクソンの欠失/重複の検出を目的に設計された遺伝子標的型マイクロアレイなどがある。
それ以外に、単一エクソンの欠失の報告や重複の報告がみられる[Winterら2003,Hüningら2013,Miglioreら2013]。
臨床像
罹患男性
X連鎖性Opitz G/BBB症候群(X-OS)の臨床像は、主として正中線上に位置する構造物の異常を特徴とする。具体的には、顔面奇形、泌尿生殖器系の奇形、喉頭気管食道奇形、先天性心疾患などがある。発達遅滞や知的障害も多くみられる。臨床症候のばらつきは大きく、同一家系内のMID1の病的バリアントを有する罹患者であっても、臨床症候の一部のみが、軽重さまざまな重症度で現れるといったことがありうる。
表2:MID1の病的バリアントの同定された男性X-OSにみられる臨床症候の出現頻度
臨床症候 | その臨床症候を有する男性患者数/全男性患者数 |
---|---|
眼間開離 | 82/82 |
尿道下裂 | 65/85 |
喉頭気管食道奇形 | 46/85 |
知的障害/発達遅滞 | 28/85 |
口唇裂口蓋裂 | 42/85 |
先天性心疾患 | 20/85 |
肛門奇形 | 18/85 |
脳の異常 | 18/351 |
Fontanellaら[2008],Liら[2015]より引用。
顔貌と頭部の異常
男性罹患者の顔貌は、眼間開離(内眼角開離を伴うことがある)、前額部の突出、widow’s peak、広い鼻梁、上向きの鼻孔、低位で形態異常の耳、小頭症、大泉門の開大、前頭縫合部の突出を特徴とする。片側性ないし両側性の口唇裂口蓋裂が罹患者の約50%にみられる。
口腔に現れるその他の症候としては、高口蓋、舌癒着、小下顎症、部分性無歯症、新生児歯などがある[Robinら1996,Shawら2006,Fontanellaら2008]。
泌尿生殖器系の異常
X連鎖性Opitz G/BBB症候群の男性の約90%にさまざまな重症度の尿道下裂がみられ、停留精巣、陰嚢の低形成、二分陰嚢等、その他の生殖器の異常を伴う例もしばしばみられる。
重度の尿道下裂の場合は、尿路機能障害(例えば、膀胱尿管逆流や水腎症)を伴うこともある[Fontanellaら2008,Zhangら2011]。
喉頭気管食道(LTE)奇形
LTEの異常は、摂食時の咳や窒息、反復性の肺炎、生命に係わるような誤嚥を引き起こす可能性がある。LTEの奇形は、最重度であれば喉頭裂や気管食道裂、より軽度であれば気管食道瘻やLTEの運動不全の形で現れる。呼吸器系や胃食道系の症候の発生頻度については、おそらく過少に評価されているものと思われる。というのは、軽症例では嚥下機能障害の形でしか症状が現れず、しかもそれは経時的に改善していき、最終的には乳児期のうちに消失してしまうからである[Pinsonら2004]。
神経学的所見
X-OS罹患者の3分の1を超える数で、発達遅滞や知的障害がみられる。頻発するものとしては、歩行開始の遅延、注意持続時間の短縮、学習障害、言語障害がある。ただ、症例によっては、外科的介入に伴う二次的影響としてこうした遅れが生じているものもみられる。
MRI検査を受けたMID1の病的バリアントを有する罹患者の50%に、脳梁や小脳虫部の無形成や形成不全、Dandy-Walker奇形などの正中部脳奇形が確認されている[Fontanellaら2008]。
先天性心疾患
X-OS罹患者の約20%に先天性心疾患(例えば、心室中隔欠損、心房中隔欠損、大動脈縮窄、左上大静脈遺残、動脈管開存、卵円孔開存)がみられる[Robinら1996,Fontanellaら2008]。
肛門の異常
X-OS罹患者の約20%に肛門の異常(例えば、鎖肛、異所性肛門)がみられる[Robinら1996,De Falcoら2003,Pinsonら2004,Fontanellaら2008]。
眼科的症候
これまでに、屈折異常や斜視の報告がみられる。
ヘテロ接合の女性
ヘテロ接合の女性の場合は、ふつう、眼間開離のみが現れ、他の症候(特徴的顔貌[上向きの鼻孔,短い鼻,短い口蓋垂,高口蓋,小下顎症],気管食道裂ないし食道狭窄,肛門の異常)が現れることは稀である[Soら2005]。
遺伝型-表現型相関
一般的に言うと、遺伝型と表現型との間に相関はみられない。ミスセンスバリアント、ナンセンスバリアント、スプライス部位バリアント、フレームシフトバリアント等の病的バリアント、挿入、欠失などがすべて、同一家系内にあってさえ多様な表現型を示す[Pinsonら2004]。
ただ2つだけ例外がある。
浸透率
MID1の病的バリアントが存在することは、取りも直さずX-OS臨床症候を有するということにつながるのが普通であるが、最近、浸透率の低下を示す1例が報告されている[Ruiterら2010]。
疾患名について
Opitz G/BBB症候群はもともと、BBB症候群[Opitzら1969b]、G症候群[Opitzら1969a]という2つの別々の疾患として報告された。しかしその後、1969年に報告されたこの2つの症候群が、実は同一の疾患であることが明らかとなり、現在ではOpitz G/BBB症候群と呼ばれている。
現在すでに用いられなくなった別の呼び名としては、尿道下裂-嚥下障害症候群、Opitz-Frias症候群、関連異常を伴う内眼角開離症、眼間開離-尿道下裂症候群などがある。
X連鎖性Opitz G/BBB症候群(X-OS;OSX;Ⅰ型)は、常染色体顕性Opitz G/BBB症候群(ADOS;Ⅱ型)とは別物であることに注意が必要である。
頻度
X連鎖性Opitz G/BBB症候群の発生頻度は、男性の50,000人に1人から100,000人に1人の間にある。
MID1の病的バリアントに関連するその他の表現型の存在は知られていない。
表3:X-OSとの鑑別を要する疾患
鑑別すべき疾患 | 遺伝子/遺伝機構 | 遺伝形式 | 鑑別を要する疾患の臨床症候 | |
---|---|---|---|---|
X-OSと重なる症候 | X-OSと異なる症候 | |||
常染色体顕性Opitz G/BBB症候群 (ADOS;Opitz G/BBB症候群Ⅱ型) |
SPECCIL 22q11.2欠失1 |
AD |
|
|
FG症候群2 | MED12 FLNA CASK |
XL |
|
|
頭蓋前頭鼻症候群 (OMIM 304110) |
EFNB1 | XL |
|
|
Mowat-Wilson症候群 | ZEB2 | AD |
|
|
AD=常染色体顕性;XL=X連鎖性
FG症候群1型は、MED12の病的バリアントに起因して生じる(「MED12関連疾患」のGeneReviewを参照)。
FG症候群2型(OMIM 300321)は、FLNA(座位はXq28)の病的バリアントにより生じる。
FG症候群3型(座位はXq22.3)(OMIM 300406)。
FG症候群4型(OMIM 300422)は、CASK(座位はXp11.4)の病的バリアントにより生じる。
FG症候群5型(Xq22.3に連鎖)(OMIM 300581)。
最初の診断に続いて行う評価
X連鎖性Opitz G/BBB症候群と診断された罹患者については、疾患の及んでいる範囲や治療のニーズを把握するため、もしまだ行っていないようであれば、多職種医療チーム(頭蓋顔面外科医,眼科医,小児科医,小児泌尿器科医,心臓病専門医,呼吸器科医,言語治療士,臨床遺伝医)の手で、次のような評価を行うことが推奨される。
重度の尿道下裂を有する男性については、腎・尿路の異常を把握するための超音波検査を行う。
症候に対する治療
多職種医療チーム(頭蓋顔面外科医,眼科医,小児科医,小児泌尿器科医,心臓病専門医,呼吸器科医,言語治療士,臨床遺伝医などで構成)の手で奇形の管理を行うことで、治療の調和を図ることが必要である。
気道を確保するため、初期段階でしばしば気管切開が必要となる。
X連鎖性Opitz G/BBB症候群男性に対しては、多くの場合、特別支援教育プログラムが必要となる。
口唇裂口蓋裂に伴って二次的に生じる音声言語の問題に対する治療
二次的合併症の予防
喉頭蓋の正常な機能が確保されるまでは、誤嚥のリスクを最小限に抑えるための、薬物による逆流防止療法が有用である。
定期的追跡評価
存在する奇形の種類に従って、以下のような定期的フォローを行う。
リスクを有する血縁者の評価
リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「Clinical Trials.gov」、ならびにヨーロッパの「EU Clinical Trials Register」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
X連鎖性Opitz G/BBB症候群は、X連鎖性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
したがって、父親については評価や検査は不要である。
注:1人の女性に複数の罹患児がある一方で、他の血族に罹患者はいない、そしてまた、その女性の白血球DNAにおいて病的バリアントが検出されないといった場合、その女性は生殖細胞系列モザイクの可能性が高いものと考えられる。
発端者の同胞
同胞の有するリスクは、母親が保因者であるか否かにより変わってくる。
その病的バリアントを継承した男児は罹患者となる。
病的バリアントを継承した女児は保因者となり、通常、眼間開離のみを示す。
それは、母親が生殖細胞系列モザイクを有している可能性が残っているからである。
発端者の子
軽症の罹患男性が病的バリアントを次世代に継承する可能性は以下の通り。
他の家族構成員
発端者の母方の伯母(叔母)は、その病的バリアントのヘテロ接合者(保因者)である可能性があり、その伯母(叔母)の子についても、性別次第で、ヘテロ接合者(保因者)ないし罹患者となるリスクを有する。
注:分子遺伝学的検査を行うことで、家系内で新生の病的バリアントが生じた人を特定できる可能性がある。その人が誰であるかを明らかにすることができれば、家系の広い範囲における遺伝的リスクの状況を明らかにする上で有用である。
ヘテロ接合者(保因者)の検出
発端者の有する病的バリアントが明らかになっている場合は、リスクを有する女性の血族に対して分子遺伝学的検査を行って、その遺伝子の状態を明らかにしておくことで、非常に多くの情報が得られることになる。
注:(1)このX連鎖性疾患のヘテロ接合(保因者)の女性には、ふつう、眼間開離のみが現れる。
(2)ヘテロ接合者の女性を特定するためには、
(a)その家系の有する病的バリアントをあらかじめ明らかにしておくこと
(b)罹患男性に対して検査を行うことができないときは、分子遺伝学的検査として、最初に配列解析を行い、これで病的バリアントが検出されないときは、遺伝子標的型の欠失/重複解析を行うことが必要となる。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
家族計画
遺伝的リスクの確定、保因者の状態であることの明確化、出生前/着床前遺伝子検査を受けるかどうかの話し合いといったことに最も適しているのは、妊娠前の時期である。
・現に罹患者や保因者である、あるいは保因者である可能性があるといった若い成人に対しては、遺伝カウンセリング(子に生じる可能性のあるリスクや、子を儲ける上での選択肢についての説明を含む)を提供することが望ましい。
DNAバンキング
検査の手法であるとか、遺伝子・アレルのバリアント・疾患等に対するわれわれの理解が、将来はより進歩していくことが予想される。そのため、分子診断が確定していない(すなわち、原因となった遺伝子の変化が判明していない)発端者のDNAについては、保存しておくことを考慮すべきである。
出生前検査ならびに着床前の遺伝子検査
血族の1人でMID1の病的バリアントが同定された場合は、出生前検査ならびに着床前遺伝子検査を行うことが可能となる。出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
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分子遺伝学
ここで表の形で示した分子遺伝学やOMIMの情報が、GeneReviewsの他の箇所で述べられた内容と異なることがあるかもしれない。
その場合、表のほうがより最新の情報を反映していることがありうる。 ―編者注。
表A:X連鎖性Opitz G/BBB症候群の遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | 座位別データベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
MID1 | Xp22.2 | E3ユビキチンリガーゼ Midline-1 |
MID1@LOVD | MID1 | MID1 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。
遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:X連鎖性Opitz G/BBB症候群関連のOMIMエントリー(閲覧はすべてOMIMへ)
300000 | OPITZ GBBB SYNDROME,TYPEⅠ;GBBB1 |
300552 | MIDLINE 1;MID1 |
遺伝子構造
MID1は9つのエクソン、ならびに可変性、選択性の5’非翻訳領域から成る[Quaderiら1997,Gaudenzら1998,Perryら1998,Van den Veyverら1998,Coxら2000,Landry & Mager 2002]。
遺伝子ならびにタンパク質に関する情報の詳細は、表Aの「遺伝子」の欄を参照のこと。
病的バリアント
現在までに、約85人のX連鎖性Opitz G/BBB症候群(X-OS)罹患者に、MID1の病的バリアントが見出されている[Gaudenzら1998,Coxら2000,De Falcoら2003,Winterら2003,Pinsonら2004,Soら2005,Mnayerら2006,Ferrentinoら2007,Fontanellaら2008,Huら2012,Hüningら2013,Miglioreら2013,Jiら2014,Liら2015]。
p.Arg277Ter、p.Arg368Ter、p.Arg495Terなど、アルギニンのコドンが終止コドンに置き換わるタイプのいくつかの病的バリアントについては、反復性である[Coxら2000,Pinsonら2004,Preiksaitieneら2015]。
その他の病的バリアントとしては、ミスセンスバリアント、ナンセンスバリアント、微小欠失、挿入があり、その部位は遺伝子全体に分布するものの、大多数は3’末端近くで生じる。
MID1遺伝子全体の欠失、単一エクソンの欠失や重複も報告されている[Winterら2003,Ferrentinoら2007,Fontanellaら2008,Hüningら2013,Miglioreら2013]。
表4:このGeneReviewで取り上げたMID1の病的バリアント
DNAヌクレオチドの変化 | 予測されるタンパク質の変化 | 参照配列 |
---|---|---|
c.829C>T | p.Arg277Ter | NM_000381.3 NP_000372.1 |
c.1102C>T | p.Arg368Ter | |
c.1483C>T | p.Arg495Ter |
上記のバリアントは報告者の記載をそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独自にバリアントの分類を検証したものではない。
GeneReviewsは、Human Genome Variation Society(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準拠している。
命名規則の説明については、Quick Referenceを参照のこと。
正常遺伝子産物
正常遺伝子産物はE3ユビキチン-プロテインリガーゼMidline-1である。
これは、微小管に結合して[Cainarcaら1999,Schweigerら1999,Coxら2000]、ホスファターゼ2Aの分解を制御するE3ユビキチンリガーゼとして作用する[Liuら2001,Trockenbacherら2001,Shortら2002]。
このタンパク質が細胞の内部、ならびに発生の過程で果たす機能の役割については、今もって明らかになっていない。
異常遺伝子産物
ミスセンスバリアントの産物ならびにトランケーションを起こした産物については、微小管への親和性が低下する。
異常遺伝子産物の病原性メカニズムは、E3ユビキチン-タンパク質リガーゼであるMidline-1の微小管上における機能喪失にあるものと考えられる。
Gene Reviews著者: Germana Meroni, PhD.
日本語訳者: 佐藤康守 (たい矯正歯科),櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2018.4.5 日本語訳最終更新日:2022.6.23[ in present]