[Synonyms:X-LinkedOpitzSyndrome(XLOS),X-LinkedOpitzG/BBBSyndrome]
Gene Reviews著者: GermanaMeroni,PhD.
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2023.10.1. 日本語訳最終更新日: 2024.4.20.
原文: MID1-RelatedOpitzG/BBBSyndrome
疾患の特徴
MID1関連OpitzG/BBB症候群(MID1-OS)は、顔面奇形(眼間開離,目立つ前額部,いわゆる富士額[widow’speak],広い鼻梁,上向きの鼻孔)、腎尿路生殖器の異常(尿道下裂、停留精巣、低形成/二分陰嚢)、喉頭気管食道奇形を特徴とする疾患である。罹患男性の約30%に、発達遅滞と知的障害がみられる。罹患男性の約半数に口唇口蓋裂がみられる。その他の奇形(罹患男性の50%未満に現れるもの)としては、先天性心疾患、鎖肛ないし異所性肛門、正中部脳奇形(Dandy-Walker奇形、脳梁や小脳虫部の無形成ないし低形成)などがある。同一家系内にあっても、臨床像には大きなばらつきがみられる。ヘテロ接合女性は、通常、眼間開離のみを有する。
診断・検査
男性発端者におけるMID1-OSの診断は、これを示唆する所見を有することに加え、分子遺伝学的検査にてMID1のヘミ接合性病的バリアントが同定されることをもって確定する。MID1の病的バリアントのヘテロ接合体である女性は、通常、単発性の眼間開離のみを有し、他のMID1-OS関連症候がみられることはごく稀である。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
定期的追跡評価 :
遺伝カウンセリング
MID1-OSはX連鎖性の遺伝形式をとる。複数の罹患者がいる家系にあっては、罹患者の母親は絶対ヘテロ接合者である。男性罹患者の母親がMID1の病的バリアントを有していた場合、各妊娠に際してそれを子に伝達する確率は50%である。病的バリアントを継承した男児は罹患者となる。病的バリアントを継承した女児は、ヘテロ接合体となり、通常眼間開離のみを呈する。家系内に存在するMID1の病的バリアントが同定されている場合には、リスクを有する女性血族に対するヘテロ接合体の検査や、出生前/着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
本GeneReviewの趣旨に従い、ここでは「男性」「女性」という用語を、臨床的管理の指針とすべく、出生時における生物学的性別という狭義の意味で用いることとする。
本疾患を示唆する所見
以下のような臨床所見、画像所見、家族歴を有する男性については、MID1関連OpitzG/BBB症候群(MID1-OS)を疑う必要がある。
臨床所見
画像所見
家族歴
家族歴は、X連鎖性遺伝に一致したもの(例えば、男性から男性への伝達なし)となる。ただ、わかっている範囲で家族歴がなかったとしても、本疾患の可能性が除外されるわけではない。
確定診断
男性発端者
男性発端者におけるMID1-OSの診断は、これを示唆する所見がみられることに加え、分子遺伝学的検査にてMID1にヘミ接合性の病的バリアント(pathogenicとlikelypathogenicの両方を含む)が同定されることをもって確定する(表1参照)。
女性発端者
MID1にヘテロ接合性病的バリアント(pathogenicとlikelypathogenicの両方を含む)を有する女性は、通常単発性の眼間開離を有するのみで、MID1-OSのその他の症候がみられることは非常に稀である。
注:(1)アメリカ臨床遺伝ゲノム学会(ACMG)/分子病理学会(AMP)のバリアントの解釈に関するガイドラインによると、「pathogenic」のバリアントと「likelypathogenic」のバリアントとは臨床の場では同義であり、ともに診断に供しうるものであると同時に、臨床的な意思決定に使用しうるものとされている[Richardsら2015]。本セクションで「病的バリアント」と言うとき、それは、あらゆるlikelypathogenicのバリアントまでを包含するものと理解されたい。
(2)MID1にヘミ接合性あるいはヘテロ接合性の意義不明バリアントが同定された場合、それは、本疾患の診断を確定するものでも否定するものでもない。
分子遺伝学的検査としては、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査,マルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング,ゲノムシーケンシング)が考えられる。遺伝子標的型検査の場合、臨床医のほうで、関与が疑われる遺伝子の目星をつけておく必要がある(「方法1」参照)が、網羅的ゲノム検査の場合、その必要はない(「方法2」参照)。
方法1
単一遺伝子検査
最初に、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位の各バリアントを検出することを目的として、MID1の配列解析を行う。
注:用いる配列解析の手法によっては、単一エクソン、複数エクソン、遺伝子全体といったサイズの欠失/重複が検出されない場合がある。そのため、配列解析でバリアントが検出されない場合は、次のステップとして、エクソン単位や遺伝子全体といったサイズの欠失や重複を同定するための遺伝子標的型欠失/重複解析を行う。
方法2
表現型が典型的なものでないため、MID1-OSの診断を頭に入れるところにまで至らない場合は、網羅的ゲノム検査が選択肢となるが、その場合は臨床医のほうで原因遺伝子の目星をつける必要はない。エクソームシーケンシングが最も広く用いられるが、全ゲノムシーケンシングを用いることも可能である。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
遺伝子1 | 手法 | その手法で検出可能な病的バリアント2が発端者全体の中で占める割合 |
---|---|---|
MID1 | 配列解析3 | 90%4 |
遺伝子標的型欠失/重複解析5 | 10%6 |
臨床像
MID1関連OpitzG/BBB症候群(MID1-OS)は、顔面奇形、腎尿路生殖器の異常、喉頭気管食道奇形、先天性心疾患を特徴とする疾患である。発達遅滞と知的障害も多くみられる。臨床症候の現れ方は、同一家系内の罹患者間にあっても大きなばらつきの幅があることが報告されているが、顕著な臨床症候が現れるのは罹患男性のほうである。MID1に病的バリアント同定された例が、現在までに90例、その臨床の概要とともに報告されている[Gaudenzら1998,Coxら2000,DeFalcoら2003,Winterら2003,Pinsonら2004,Sora2005,Mnayerら2006,Ferrentinoら2007,Fontanellaら2008,Huら2012,Hüningら2013,Miglioreら2013,Jira2014,Liら2015,Maiaら2017,Perea-Cabreraら2023]
表2:MID1の病的バリアントの同定された男性X-OSにみられる臨床症候の出現頻度
臨床症候 | 男性患者の中でその臨床症候を有する例の割合 |
---|---|
眼間開離 | ほぼ100% |
尿道下裂 | 90% |
喉頭気管食道奇形 | 70% |
口唇裂口蓋裂 | 48% |
知的障害/発達遅滞 | 30% |
先天性心疾患 | 24% |
肛門異常 | 22% |
脳の異常 | 19/411 |
Fontanellaら[2008],Liら[2015],Maiaら[2017],Micaleら[2023],Perea-Cabreraら[2023]
罹患男性
顔貌と頭部の奇形
男性罹患者の顔貌は、大きな大泉門、目立つ前頭縫合、目立つ前額部、いわゆる富士額、眼間開離(これに内眼角開離が加わる場合あり)、広い鼻梁、上向きの鼻孔、耳介の低位と形態異常を特徴とする。片側性あるいは両側性の口唇口蓋裂が、罹患男性の約半数にみられる。口唇口蓋裂に伴って、摂食の問題や聴覚の障害が現れることもある。口腔に現れるその他の症候としては、高口蓋、舌癒着、小下顎症、部分性無歯症、新生児歯などがある[Robinら1996,Shawら2006,Fontanellaら2008,Maiaら2017]。
腎尿路生殖器の異常
多様な重症度の尿道下裂がMID1-OS男性の約90%にみられ、これに加えて停留精巣や陰嚢低形成/二分陰嚢等、その他の性器奇形を伴う例もしばしばみられる。重度の尿道下裂については、尿路機能障害(例えば、膀胱尿管逆流や水腎症)を伴う場合もある[Fontanellaら2008,Maiaら2017]。
喉頭気管食道(LTE)奇形
LTEの異常は、摂食時の咳や窒息、反復性の肺炎、生命に係わるような誤嚥を引き起こす可能性がある。LTEの奇形は、最重症であれば喉頭裂や気管食道裂、より軽症であれば気管食道瘻やLTEの運動不全の形で現れる。呼吸器系や胃食道系の症候の発生頻度については、おそらく過少に評価されているものと思われる。というのは、軽症例では嚥下機能障害の形でしか症状が現れず、しかもそれは経時的に改善していき、最終的には乳児期のうちに消失してしまうからである[Pinsonら2004]。
神経学的所見
MID1-OS罹患者のほぼ3分の1に、発達遅滞や知的障害がみられる。頻発するものとしては、歩行開始の遅延、注意持続時間の短縮、学習障害、言語の問題がある。ただ、症例によっては、外科的介入に伴う続発性のものとしてこうした遅れが生じているものもみられる。MRI検査を受けたMID1の病的バリアントを有する男性の約半数に、脳梁や小脳虫部の無形成や形成不全、Dandy-Walker奇形などの正中部脳奇形が確認されている[Fontanellaら2008]。
先天性心疾患
MID1-OS罹患男性の約24%に、先天性心疾患(例えば、心室中隔欠損、心房中隔欠損、大動脈縮窄、左上大静脈遺残、動脈管開存、卵円孔開存、総肺静脈還流異常)がみられる[Perea-Cabreraら2023]。
肛門異常
MID1-OS罹患男性の22%に肛門異常(例えば、鎖肛、異所性肛門)がみられる[Robinら1996,DeFalcoら2003,Pinsonら2004,Fontanellaら2008,Maiaら2017,Perea-Cabreraら2023]。
眼科的症候
これまでに、屈折異常や斜視の報告がみられる。
ヘテロ接合女性
ヘテロ接合女性の場合は、ふつう、眼間開離のみが現れ、他の症候(特徴的顔貌[上向きの鼻孔,短い鼻,短い口蓋垂,高口蓋,小下顎症],気管食道裂ないし食道狭窄,肛門異常)が現れることは稀である[Soら2005,Perea-Cabreraら2023]。
遺伝型-表現型相関
一般的に、遺伝型と表現型との間に相関はみられない。ミスセンスバリアント、ナンセンスバリアント、スプライス部位バリアント、フレームシフトバリアント等の病的バリアント、挿入、欠失などがすべて、同一家系内にあってさえ多様な表現型を示す[Maiaら2017]。
ただし2つだけ例外がある。
浸透率
MID1の病的バリアントが存在する例には、通常、MID1-OSの臨床症候が出現する。
疾患名について
本GeneReviewのタイトルとしたMID1関連OpitzG/BBB症候群は、Bieseckerら[2021]の提唱した2要素併記式の命名法、すなわち、メンデル型疾患については変異遺伝子名とその結果生じる表現型を組み合わせて示すやり方に倣ったものである。
OpitzG/BBB症候群はもともと、BBB症候群[Opitzら1969b]、G症候群[Opitzら1969a]という2つの別々の疾患として報告されたものである。しかしその後、1969年に報告されたこの2つの症候群が、実は同一の疾患であることが明らかとなり、現在ではOpitzG/BBB症候群と呼ばれている。
現在すでに用いられなくなった別の呼び名としては、尿道下裂-嚥下障害症候群、Opitz-Frias症候群、関連異常を伴う内眼角開離症、眼間開離-尿道下裂症候群などがある。
MID1-OSは、常染色体顕性OpitzG/BBB症候群とは別疾患であることに注意が必要である。
MID1の病的バリアントに関連するその他の表現型の存在は知られていない。
表3:MID1関連OpitzG/BBB症候群との鑑別診断に関係してくる遺伝子
遺伝子/遺伝学的メカニズム | 疾患名 | 遺伝形式 | その疾患の症候 | |
---|---|---|---|---|
MID1-OSと重なる症候 | MID1-OSと異なる症候 | |||
22q11.2欠失 | 22q11.2欠失症候群1 | AD |
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CASK | CASK関連FG症候群/XLID±眼振2(「CASK異常症」のGeneReviewを参照) | XL |
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EFNB1 | 頭蓋前頭鼻異形成症(OMIM304110) | XL |
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MED12 | MED12関連FG症候群(「MED12関連疾患」のGeneReviewを参照) | XL |
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SPECC1L | SPECC1L症候群3(常染色体顕性OpitzG/BBB症候群ならびにTeebi眼間開離症候群1[OMIM145420]とも呼ばれる) | AD |
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ZEB2 | Mowat-Wilson症候群 | AD |
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AD=常染色体顕性;XL=X連鎖性
最初の診断に続いて行う評価
MID1関連OpitzG/BBB症候群(MID1-OS)と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、もしまだ行っていなければ、多職種医療チーム(頭蓋顔面外科医,眼科医,小児科医,小児泌尿器科医,心臓病専門医,呼吸器科医,言語治療士,臨床遺伝医)により、表4にまとめた評価を行うことが推奨される。
表4:MID1関連OpitzG/BBB症候群:最初の診断後に行うことが推奨される評価
系/懸念事項 | 評価 | コメント |
---|---|---|
全身 |
過去の病歴、ならびに、口蓋、心臓、腎尿路生殖器系、下気道を中心とした身体の診査 |
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口唇裂口蓋裂 |
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口唇口蓋裂に起因する難聴のリスクを有する例について聴覚評価 |
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腎尿路生殖器の異常 |
重度の尿道下裂を有する男性について、尿路機能不全の評価を目的とした超音波検査等、泌尿器科医による尿道下裂の評価 |
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喉頭気管食道奇形 |
摂食時の窒息、反復性肺炎、誤嚥を有する例について、喉頭鏡検査と胸部X線写真 |
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発達遅滞 |
発達評価 |
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先天性心疾患 |
心エコー |
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肛門異常 |
肛門の位置と開存性に関する評価 |
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眼症候 |
視力、屈折異常、斜視の可能性がある場合の、眼位の評価を含めた詳細な眼科的評価 |
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遺伝カウンセリング |
遺伝の専門医療職1が行う。 |
医学的、個人的な意思決定の用に資するべく、本人や家族に対し、MID1-OSの本質、遺伝形式、そのもつ意味についての情報提供を行う。 |
家族への支援/情報資源 |
臨床医、より広範囲のケアチーム、家族支援組織の手で行う。 |
以下の必要性の把握を目的とした家族や社会構造の評価
|
症候に対する治療
生活の質の向上、機能の最大活用、合併症の軽減を目的とした支持療法が推奨される。そのためには、多職種医療チーム(頭蓋顔面外科医,眼科医,小児科医,小児泌尿器科医,心臓病専門医,呼吸器科医,言語治療士,臨床遺伝医などで構成)の手で奇形の管理を行うことで、治療の調和を図ることが必要である(表5参照)。
表5:MID1関連OpitzG/BBB症候群:症候に対する治療
症候/懸念事項 | 治療 |
考慮事項/その他 |
---|---|---|
口唇口蓋裂 |
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腎尿路生殖器の異常 |
尿道下裂に関し、必要に応じ外科的介入 |
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喉頭気管食道奇形 |
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気道を十分に確保する上で、初期段階ではしばしば気管切開が必要。 |
発達 |
神経心理学的、ならびに教育的支援 |
MID1-OSの男児の多くに特別支援教育プログラムが必要。 |
先天性心疾患 |
先天性心疾患に対し、必要に応じ外科的修復術 |
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肛門異常 |
鎖肛に対する外科的介入 |
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眼科的症候 |
必要に応じ、眼科医による外科的治療ないし屈折矯正用レンズ |
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二次的合併症の予防
喉頭蓋の正常な機能が確保されるまでは、誤嚥のリスクを最小限に抑えるための、薬物による逆流防止療法が有用である。
定期的追跡評価
現段階でみられる症候の様相、支持療法に対する反応様相、新たな症候の出現様相といったもののモニタリングを目的として、表6にまとめたような評価が推奨される。
表6:MID1関連OpitzG/BBB症候群:推奨される定期的追跡評価
系/懸念事項 | 評価 | 実施頻度 |
---|---|---|
口唇口蓋裂 | 口唇口蓋裂をもつ例に対する頭蓋顔面チームによるフォローアップ | 頭蓋顔面の専門家の判断で |
聴覚 | 聴覚評価 | 年に1度あるいは必要に応じ |
腎尿路生殖器の異常 | 重症の尿道下裂ないしその他の尿路異常を有する例について、泌尿器科的フォローアップ | 泌尿器科医ないし腎臓専門医の判断で |
喉頭気管食道奇形 | 喉頭気管食道奇形を有する例について、消化器、呼吸器ないし外科チームによるフォローアップ | 必要に応じ |
発達 | 発達の進行状況や教育上のニーズに関するモニタリング | 来院ごと |
先天性心疾患 | 心疾患を有する例について、心臓のフォローアップ | 心臓病専門医の判断で |
肛門異常 | 肛門奇形を有する例について、消化器科ないし外科的フォローアップ | 消化器科医あるいは外科チームの判断で |
眼科的症候 | 眼科的評価 | 眼科医の判断で |
家族/地域社会 | 家族の感じているソーシャルワーカーの支援(例えば、緩和/息抜きケア,在宅看護,地域の情報資源など)やケアコーディネーション、新たな質問(例えば、家族計画)が生じたときの追加の遺伝カウンセリングの必要性に関する評価。 | 来院ごと |
リスクを有する血縁者の評価
リスクを有する血縁者に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
MID1関連OpitzG/BBB症候群(MID1-OS)は、X連鎖性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
注:1人の女性に複数の罹患児がある一方で、他の血族に罹患者はいない、そしてまた、その女性の白血球DNAにおいて病的バリアントが検出されないといった場合、その女性は生殖細胞系列モザイクの可能性が高いものと考えられる。
発端者の同胞
同胞の有するリスクは、母親の遺伝学的状態によって変わってくる。
(注:同一家系内の罹患者間にあっても、臨床症候の現れ方には大きなばらつきの幅があることが報告されている。)
発端者の子
軽症の罹患男性がMID1の病的バリアントを伝達する可能性は以下の通り。
他の家族構成員
男性発端者の母方の伯母(叔母)や母方のいとこは、MID1の病的バリアントに関してリスクを有する。
注:分子遺伝学的検査を行うことで、家系内でdenovoの病的バリアントが生じた人を特定できる可能性がある。その情報が得られれば、家系の広い範囲における遺伝的リスクの状況を明らかにしやすくなる。
ヘテロ接合体の特定
リスクを有する女性血族に対してヘテロ接合体の検査を行う上では、事前に家系内に存在するMID1の病的バリアントを同定しておくことが必要である。
注:このX連鎖性疾患のヘテロ接合体である女性は、眼間開離のみを有していることがふつうである。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
家族計画
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
家系内に存在するMID1の病的バリアントが同定されている場合は、出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:MID1関連OpitzG/BBB症候群:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | 座位別データベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
MID1 | Xp22.2 | E3ユビキチン-タンパク質リガーゼMidline-1 | MID1 @ LOVD | MID1 | MID1 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:MID1関連OpitzG/BBB症候群関連のOMIMエントリー(閲覧はすべてOMIMへ)
300000 | OPITZ GBBB SYNDROME; GBBB |
300552 | MIDLINE 1; MID1 |
分子レベルの病原
MID1は9つのコーディングエクソン、ならびに可変性、選択性の5’非翻訳領域から成る[Quaderiら1997,Gaudenzら1998,Perryら1998,VandenVeyverら1998,Coxら2000,Landry&Mager2002]。MID1は、微小管アンカー型のE3ユビキチン-タンパク質リガーゼ、Midline-1をコードしており[Cainarcaら1999,Schweigerら1999,Coxら2000]、ホスファターゼ2Aの分解を調節するE3ユビキチンリガーゼとして働く[Liuら2001,Trockenbacherら2001,Shortら2002]。細胞内や発生過程においてこのタンパク質が果たしている役割は、まだ完全には解明されていないが、ありふれた非遺伝学的疾患で一定の役割を果たしている可能性が報告されている。現在わかっている知見に関しては、Baldiniら[2020]によるレビューがある。
病的バリアントとしては、ミスセンスバリアント、ナンセンスバリアント、微小欠失、イントロンスプライシングバリアント、挿入があり、その部位は遺伝子全体に分布するものの、大多数は3’末端近くで生じる。MID1の遺伝子全体の欠失や、単一エクソンの欠失、重複の報告もみられる[Winterら2003,Ferrentinoら2007,Fontanellaら2008,Hüningら2013,Miglioreら2013,Micaleら2023]。
疾患の発症メカニズム
ミスセンス型ならびにトランケーション型の産物については、微小管への親和性が低下する。その病原性メカニズムは、E3ユビキチン-タンパク質リガーゼであるMidline-1の微小管上における機能喪失にあるものと考えられる。