[Synonyms:Chitayat-Hallsyndrome]
Gene Reviews著者: Christian PSchaaf,MD,Ph.D. and Felix Marbach,MD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2021.11.4 日本語訳最終更新日: 2023.7.17.
疾患の特徴
Schaaf-Yang症候群(SYS)は、遺伝学的に関連のあるPrader-Willi症候群と複数の臨床症候を共有する稀な神経発達障害である。通常、出生時に筋緊張低下が全例に、遠位関節の拘縮が大多数の罹患者にみられる。乳児期から小児期にかけては、消化器/摂食の問題が特に顕著にみられるが、成人期には過食・肥満へと移行することがある。出生時には多くの罹患者に呼吸窮迫がみられ、約半数が挿管と機械換気を要し、約20%で気管切開が必要となる。関節拘縮、脊柱側彎、骨密度低下といった骨格症候がしばしばみられる。全罹患者が発達遅滞を呈し、正常低値から重度までのさまざまな幅の知的障害となって現れる。その他の所見としては、低身長、癲癇発作、眼の奇形、性腺機能低下などがある。
診断・検査
発端者におけるSchaaf-Yang症候群の診断は、分子遺伝学的検査にて、父親由来のMAGEL2にヘテロ接合性の病的バリアントが同定されることをもって確定する。MAGEL2を含む15q11.2の座位は、母性インプリンティングを受けている。つまり、母親由来のアレルは不活化されて、父親由来のアレルだけが発現する状態になっている。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
定期的追跡評価:
来院ごとに行うべきこと:
その他、行動評価を1年に1度、二重エネルギーX線吸収法(DXA)スキャンを5歳以降2年に1度、そして成人期は3年に1度、眼科医の推奨に従った形での眼科的評価、長期にわたり成長ホルモン治療を受けている例については睡眠ポリグラフ検査を年に1度あるいは睡眠を専門とする医師の推奨に従った頻度で行う。
遺伝カウンセリング
Schaaf-Yang症候群(SYS)は、常染色体顕性で母性インプリンティング性の遺伝形式(すなわち、父親由来のMAGEL2アレルに生じたヘテロ接合性病的バリアントに起因して疾患が生じる一方、母親由来のMAGEL2アレルはサイレンシングを受けているため、そこに病的バリアントがあっても疾患には至らない)をとる。SYSと診断された罹患者の約50%は、臨床的には非罹患者である父親からMAGEL2を継承した例で、残りはdenovoの例である。発端者において同定されたMAGEL2の病的バリアントを父親のほうも有していた場合、同胞の有するリスクは男女ともに50%となる。発端者の母親の家系内での再発リスクは、一般集団と同じである。家系内に存在するMAGEL2の病的バリアントが同定済の場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査や、着床前遺伝学的検査を行うことができる。
Schaaf-Yang症候群(SYS)の正式な臨床診断基準は、今のところ確立されていない。
本疾患を示唆する所見
以下に示す臨床所見、検査所見を有する例については、SYSを疑う必要がある。
臨床所見
本疾患を示唆する検査所見
診断の確定
発端者におけるSchaaf-Yang症候群の診断は、分子遺伝学的検査にて父親由来のMAGEL2アレルのヘテロ接合性病的バリアント(pathogenicとlikelypathogenicの両方を含む)が同定されることをもって確定する(表1参照)。
注:(1)MAGEL2を含む15q11.2の座位は母性のインプリンティングを受けている。すなわち、母親由来のアレルが不活化されているため、父親由来のアレルだけが発現するという状態である。
(2)アメリカ臨床遺伝ゲノム学会(ACMG)/分子病理学会(AMP)のバリアントの解釈に関するガイドラインによると、「pathogenic」のバリアントと「likelypathogenic」のバリアントとは臨床の場では同義であり、ともに診断に供しうるものであると同時に、臨床的な意思決定に使用しうるものとされている[Richardsら2015]。本セクションで「病的バリアント」と言うとき、それは、あらゆるlikelypathogenicのバリアントまでを包含するものと理解されたい。
(3)MAGEL2の父性アレルにヘテロ接合性の意義不明バリアントが同定された場合、それは、SYSの診断を確定するものでも否定するものでもない。
分子遺伝学的検査のアプローチとしては、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査,マルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング,ゲノムシーケンシング)を表現型に合わせて組み合わせて用いるやり方が考えられる。
遺伝子標的型検査の場合は、臨床医の側で関与が疑われる遺伝子の目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。「本疾患を示唆する所見」に記載した特徴的所見の組合せを有する例については遺伝子標的型検査(「方法1」参照)で診断がつくものと思われるが、SYSを頭に入れるところにまで至らない例については、ゲノム検査(「方法2」参照)で診断がなされることになろう。
方法1
表現型と検査所見からSYSが示唆されるようであれば、使用する分子遺伝学的検査のアプローチは、単一遺伝子検査、あるいはマルチ遺伝子パネルといったものになろう。そこでMAGEL2の病的バリアントが同定された場合は、両親に対する検査、あるいは発端者に対するメチル化感受性配列解析を行うことで、変異アレルが父性か母性かを確定させる必要がある。両親とも検査を行ったにもかかわらず発端者で確認された病的バリアントが検出されないといった場合の診断の確認には、メチル化感受性検査が必要となる。
最初に、父親由来アレルの病的1塩基バリアント、もしくは遺伝子内小欠失/挿入を検出するためのMAGEL2の配列解析を行う。
注:使用する配列解析の手法によっては、大きめの欠失/重複、あるいは遺伝子全体の欠失といったものは検出されないことがある。
配列解析でバリアントが検出されなかった場合は、次いで、大きめの欠失/重複あるいは遺伝子全体の欠失を検出するための遺伝子標的型欠失/重複解析を行うことになろう(例えば、定量的PCR,MLPA法,染色体マイクロアレイ検査)。
診断の確認用として、親子鑑定の検査/メチル化感受性検査が必要かと思われる。
現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝的原因の特定に最もつながりやすいのは、MAGEL2その他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含む新生児筋緊張低下,先天性関節拘縮,知的障害(ID),自閉症スペクトラム障害用マルチ遺伝子パネルであるように思われる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝学的検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
方法2
表現型からは、新生児筋緊張低下ないし知的障害を呈するその他数多くの遺伝性疾患と区別ができないといった場合は、網羅的ゲノム検査が検討対象になろう。
網羅的ゲノム検査の場合は臨床医の側で疑わしい遺伝子の目星をつけておく必要はない。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
ゲノム検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
表1:Schaaf-Yang症候群で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合 |
---|---|---|
MAGEL2 | 配列解析3 | 99%以上4 |
遺伝子標的型欠失/重複解析5,6 | 複数の孤発例あり7 |
臨床像
Schaaf-Yang症候群は、稀な父性由来の神経発達障害で、遺伝学的に関連のあるPrader-Willi症候群と複数の臨床症候が重なる疾患である。通常、出生時に筋緊張低下が全例に、遠位関節の拘縮が大多数の罹患者にみられる。
現在までに、父親由来のMAGEL2の病的バリアントを有する250を超える例が確認されている[Schaafら2013,Fountainら2017,McCarthyら2018a,McCarthyら2018b]。
本疾患に伴って現れる表現型上の特徴として以下に述べるものは、これらの報告に基づくものである。
表2:Schaaf-Yang症候群の代表的症候
症候 | その症候を有する罹患者の割合 | コメント |
---|---|---|
発達遅滞/知的障害 | 100% | |
筋緊張低下 | 100% | |
乳児期の筋緊張低下 | 95%-100% | |
乳児期の摂食障害 | 95%-100% | |
屈曲拘縮 | 85%超 | |
自閉症的行動 | 75%-85% | |
顔の形態異常 | 75%-85% | 尖ったおとがい,前額部の突出,耳介低位など |
眼の奇形 | 75%-85% | 内斜視,近視,斜視など |
行動異常 | 70%-80% | 衝動性,強迫性,頑固さ,他者を操作しようとする行動,皮膚むしり症/自傷 |
睡眠時無呼吸 | 70%-80% | |
呼吸窮迫 | 65%-75% | |
小さな手 | 65%-75% | その他の手の奇形:先細り指,彎指,屈指,短指,内転拇指 |
慢性便秘 | 65%-75% | |
体温の不安定性 | 60%-70% | |
小さな足 | 55%-65% | |
胎動の低下 | 55%-65% | |
胃食道逆流症 | 50%-60% | |
脊柱側彎 | 50%-60% | |
低身長 | 50%-60% | |
多食/肥満 | 30%-40% | 小児期後期/思春期に発症し、年齢とともに割合が上昇 |
癲癇発作 | 30%-40% | |
脊柱後彎 | 30%-40% | |
性腺機能低下 | 25%-35% | 外性器でみると、女性の15%-25%、男性の55%-65% |
筋緊張低下
幅はみられるものの、SYSの新生児はほぼ全例で筋緊張低下がみられ、中には重度のものもある。出生前の段階で胎動の低下の報告がなされることもある。筋緊張低下は、摂食障害や呼吸窮迫といった新生児期の症候としてみられるこれとは別の問題にもつながっていくものである。
消化器/摂食の問題
消化器/摂食の問題は、乳児期や小児期に特に顕著にみられるものの、その後、成人期には過食と肥満へと移行していくことがある。
身長
低身長は、身長が3パーセンタイル未満と定義されるが、これがSYS罹患者の約50-60%にみられる。McCarthyら[2018a]の報告した78人の罹患者のコホートでは、平均身長は、年齢比較でみたとき22パーセンタイルのレベルであった。
頭囲
頭囲については、大多数のSYS罹患者は正常である。
呼吸の異常
出生の段階で、多くのSYS罹患者に呼吸窮迫がみられ、全体のおおむね半数については挿管と機械換気が、約20%は気管切開が必要となる。
筋骨格症候
関節拘縮、脊柱側彎、骨密度低下といった骨格症候がしばしば見受けられる。関節拘縮については、出生前の段階で捉えられる場合がある。
発達遅滞(DD)/知的障害(ID)
SYS罹患者の全例にDDがみられ、その結果、正常低値から重度のIDに至るまで、さまざまな程度の知的障害が現れる。IDの重症度は、罹患者の有するMAGEL2の遺伝型の影響を受けるようである(「遺伝型-表現型相関」の項を参照)。
SYS罹患児は、平均で、ひとり座りが18ヵ月、這い這いが31ヵ月、歩行開始が50ヵ月である。
行動の問題
罹患者の約4分の3に自閉症的行動がみられる。
この行動が、ASDの他の症候がみられる例に現れるのか、それとも単発の症候として現れるのかという点については、まだよくわかっていない。
癲癇発作
焦点性発作あるいは全般発作が、少数の罹患者で報告されている[Fountainら2017,McCarthyら2018a]。
熱性疾患に続いて神経症候の悪化がみられたとしてNegishiら[2019]が報告した4人中の2人は、発熱後2-3日で発作を発症している。頭蓋のMRIで、1人には拡散強調画像における片側白質の高信号、残る1人にはT2強調画像で被殻・淡蒼球領域の両側性の高信号を認めた[Negishiら2019]。
眼
罹患者の大多数に眼の異常がみられ、具体的には、内斜視、近視、斜視に加え、眼振、小角膜などがある。眼の異常の数や重症度は罹患者間で大きく異なる。
尿路性器の異常
性腺機能低下は、男性における停留精巣や小陰茎を伴って出生の段階で明らかにみられる場合もあれば、その後の小児期や思春期に明らかになるような例もみられる。
顔面症候
顔面の形態異常は、そのほとんどが非特異的なものであるが、一定の頻度で現れるものも一部存在する。具体的には、尖った目立つオトガイ、前額部の突出がある(「本疾患を示唆する所見」の項を参照)。
その他の関連症候
成人の呈する表現型
成人罹患者7人のデータをもとに言うと、SYSの表現型には幅があるようである。
予後
多くは乳児期や小児期のものであるが、SYSには致命的な合併症が生じるリスクが比較的高いため、全体としてのSYS罹患者の寿命は短くなる。合併症の1つとして、中枢性・閉塞性無呼吸に起因する重度の呼吸窮迫がある。睡眠のモニタリング、パルスオキシメトリー、呼吸の乱れに対する警戒強化といった対応により、こうしたリスクはある程度軽減できる可能性がある。成人期まで生存できる可能性もあり、36歳で生存している1例の報告がみられる[Marbachら2020]。Prader-Willi症候群(「遺伝子の上で関連のある疾患」の項を参照)と同じく、SYS罹患成人は、肥満とその合併症(メタボリックシンドロームなど)を患う可能性がある。障害を有する成人の多くは高度な遺伝学的検査を受けていない現状にあるため、本疾患を有していてもそれが把握されないままになり、報告例が過少にとどまっている可能性が高い。
遺伝型-表現型相関
c.1996dupCが最も多くみられる病的バリアントで、罹患者の40%-50%にこれがみられる。これ以外のトランケーションバリアントを有する罹患者と比べ、c.1996dupCのバリアントを有する例は、関節拘縮の生じやすさ、より重度の呼吸器合併症、より顕著な発達遅滞、極度の知的障害の占める割合の高さといった点で、より重度の表現型を示す[McCarthyら2018a]。
c.1996delCの病的バリアントは、これまでにこのバリアントの存在が判明している9例すべてが、出生前・周産期致死であることが判明している[Mejlachowiczら2015,Fountainら2017,Guoら2019]。
浸透率
父親由来のMAGEL2アレルに病的バリアントを有する例については、罹患者が男性であるか女性であるかを問わず、浸透率は100%であると考えられる(すなわち、全例がSYS関連症候を呈することになる)。母親由来のMAGEL2アレルに病的バリアントを有する例については、罹患に至ることはない。
疾患名
Joblingら[2018]は、1990年に初めて報告されたChitayat-Hall症候群[Chitayatら1990]の原因が、父親由来のMAGEL2アレルに生じたヘテロ接合性の病的バリアントにあることを明らかにし、SYSと遺伝学的病因が共通であることを示した。
SYSが遺伝学的に独立した疾患であることが報告される以前の段階では、Schaaf-Yang症候群罹患者はPrader-Willi様症候群(PWLS)と診断されていた可能性が考えられる。
PWLSは、PWSと表現型の類似する遺伝学的に異質な疾患群を包括的に表す用語と考えられている[Cheon2016]。
発生頻度
これまでに250人を上回る数のSYSが報告されている。SYS罹患者は男女両性に及び、民族による発生頻度の違いもみられない。
Prader-Willi症候群(PWS)は、15q11-q13領域にある父性発現、母性サイレンシングの遺伝子群が失われる(欠失,母性片親性ダイソミー15,インプリンティング障害)ことにより生じる疾患である。この領域には、MAGEL2をはじめ、タンパク質をコードする父性発現の遺伝子がいくつか存在する。PWSとSchaaf-Yang症候群の間には、臨床的に大きく重なる部分がみられる(「鑑別診断」の項を参照)。
表3:Schaaf-Yang症候群(SYS)との鑑別において注目すべき神経発達障害
遺伝子/遺伝学的メカニズム | 鑑別対象疾患 | 遺伝形式 | 鑑別対象疾患罹患者におけるその症候の出現頻度 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
知的障害/発達遅滞 | 自閉症スペクトラム障害 | 新生児期の筋緊張低下 | 乳児期の摂食障害 | 遠位関節の拘縮 | |||
PWCR内の欠失,母性UPD,インプリンティング障害1 | Prader-Willi症候群 | 脚注2参照 | +++ | ++ | +++ | +++ | ± |
ERGIC1 LGI4 SCYL2 SYNE1 TOR1A |
先天性多発性関節拘縮症(「SYNE1欠損症」のGeneReviewならびにOMIMPS617468を参照) | AR | ++ | - | ばらつきあり | ばらつきあり | +++ |
SMN1 | 脊髄性筋萎縮症1型 | AR | - | - | +++ | +++ | - |
16q22の中間部欠失3 | 16q22欠失症候群(OMIM614541) | AD(孤発例) | ++ | - | ++ | +++ | - |
AGRN ALG2 ALG14 CHAT CHRNA1 CHRNB1 CHRND CHRNE COL13A1 COLQ DOK7 DPAGT1 GFPT1 LRP4 MUSK MYO9A PREPL RAPSN SCN4A SLC18A3 SLC5A7 SLC25A1 SNAP25 SYT2 VAMP1 |
先天性筋無力症候群4 | AD AR |
+ | - | ++ | ++ | ++ |
+++=その疾患の中心的症候,++=その疾患においてさまざまな程度でみられる症候,+=その疾患で稀にみられる症候,-=通常、その疾患ではみられない症候;AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性;PWCR=Prader-Williクリティカル領域;UPD=片親性ダイソミー
C症候群(OMIM211750)
遠位関節の拘縮、三角頭蓋、新生児期の呼吸障害、筋緊張低下、重度の発達遅滞を呈し、臨床症候に基づき2歳の段階でC症候群(CD96の病的バリアントに起因して生じる常染色体顕性遺伝疾患)と暫定的な診断を受けたが、その後(19歳時点)、エクソームシーケンシングによりMAGEL2のdenovoの病的バリアント(c.1912C>T;p.Gln638Ter)が同定され、SYSと判明した1例が存在する[Urreiztiら2017]。
最初の診断に続いて行う評価
Schaaf-Yang症候群と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表4にまとめた評価を行うことが推奨される。
表4:Schaaf-Yang症候群罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価
系/懸念事項 | 評価 | コメント |
---|---|---|
体格 | 成長パラメーターの測定 | 乳児期/小児期における発育不全、ならびに成人期における肥満に関する評価を目的として行う。 |
消化器/摂食 | 消化器/栄養/摂食のチームによる評価 |
|
呼吸器 | 睡眠ポリグラフ | 閉塞性・中枢性睡眠時無呼吸の評価を目的として行う1。 |
筋骨格 | 小児期、思春期の例について、脊椎の前後・側方位のX線写真撮影 | 脊柱側彎の評価を目的として行う。 |
整形外科/物理療法・リハビリテーション/理学療法・作業療法面での評価 | 以下の評価を含むものとする。
|
|
小児期以降、股関節と下部脊椎に対するDXAスキャン2 | 骨密度の評価を目的として行う。 | |
発達 | 発達評価 |
|
精神/行動 | 神経精神医学的評価 | 12ヵ月超の罹患者について:睡眠障害,注意欠如/多動性障害,不安,ならびに自閉症スペクトラム障害を示唆する徴候など、行動上の懸念に関するスクリーニング。 |
神経 | 神経学的評価 | 癲癇発作が懸念されるときは脳波を検討。 |
眼 | 眼科的評価 | 視力障害,異常眼球運動,斜視の評価を目的として行う。 |
尿路生殖器 | 身体の診査による性器低形成や思春期発達(思春期の人と成人のみ)に関する評価 | 下記への紹介を検討する。
|
内分泌,脂質代謝 | 治療開始時点の記録としての臨床検査3 | |
遺伝カウンセリング | 遺伝の専門医療職4の手で行う。 | 医学的、個人的な意思決定の用に資するべく、本人や家族に対し、Schaaf-Yang症候群の本質、遺伝形式、そのもつ意味についての情報提供を行う。 |
家族への支援/情報資源 | 以下の必要性に関する評価
|
症候に対する治療
表5:Schaaf-Yang症候群罹患者の症候に対する治療
症候/懸念事項 | 治療 | 考慮事項/その他 |
---|---|---|
体重増加不良/成長障害 |
|
嚥下障害の徴候や症候がみられる場合は、臨床摂食評価やX線嚥下検査を躊躇なく行う。 |
メタボリックシンドロームを伴う肥満 |
|
|
胃食道逆流症 | 標準治療 | |
便秘 | 必要に応じ、便軟化剤,消化管運動促進剤,浸透圧性薬剤,下剤 | |
低身長 | 成長ホルモン治療を検討 |
|
乳児期の急性呼吸窮迫 | 急性の呼吸窮迫に対する侵襲的あるいは非侵襲的補助換気 | 呼吸障害が重篤で長期間にわたるような場合は、気管切開が必要になることも考えられる。 |
睡眠時無呼吸 | 非侵襲的換気(例えば、CPAP)の終夜使用 | 睡眠時無呼吸の検査/睡眠検査を躊躇なく追加で行うようにする。 |
骨格異常 | 拘縮,内反足,脊柱側彎に対し、整形外科医による標準治療 | |
骨密度低下 | 内分泌内科医による標準治療 |
|
発達遅滞/知的障害 | 「発達遅滞/知的障害の管理に関する事項」の項を参照 | |
てんかん | 抗痙攣薬を用いて経験豊富な神経内科医の手で行われる標準化された治療 |
|
視力の異常,斜視 | 眼科医による標準治療 | 早期介入プログラムあるいは学区を通じて行う地域の視覚サービス。 |
停留精巣 | 泌尿器科医による標準治療 | |
性腺機能低下 | 小陰茎(伸ばしたときの長さが-2SD未満)の男性について、乳児期初期にテストステロンを用いた短期治療を検討する。 | |
思春期の異常 | 内分泌内科医による標準ホルモン治療 | |
甲状腺機能低下 | 甲状腺ホルモン補充療法 | |
家族/地域社会 |
|
|
発達遅滞/知的障害の管理に関する事項
以下に述べる内容は、アメリカにおける発達遅滞者、知的障害者の管理に関する一般的推奨事項を挙げたものである。ただ、そうした標準的推奨事項は、国ごとに異なったものになることもあろう。
0-3歳
作業療法、理学療法、言語治療、摂食治療、乳児のメンタルヘルスサービス、特別支援教育、感覚障害支援といったものが受けられるよう、早期介入プログラムへの紹介が推奨される。これは、アメリカでは連邦政府が費用を負担して、罹患者個人の治療上のニーズに対する在宅サービスが受けられる制度で、すべての州で利用可能である。
3-5歳
アメリカでは、地域の公立学区(訳注:ここで言う「学区」というのは、地理的な範囲を指す言葉ではなく、教育行政単位を指す言葉である)を通じて発達保育園に入ることが推奨される。入園前には、必要なサービスや治療の内容を決定するために必要な評価が行われ、その上で、運動、言語、社会性、認知等の機能の遅れをもとに認定された子どもに対し、個別教育計画(IEP)が策定される。通常は、早期介入プログラムがこうした移行を支援することになる。発達保育園は通園が基本であるが、医学的に不安定で通園ができない子どもに対しては、在宅サービスの提供が行われる。
全年齢
各地域、州、(アメリカの)教育関係部局が適切な形で関与できるよう、そして、良好な生活の質を最大限確保する支援を親に対してできるよう、発達小児科医とよく話をすることが推奨される。押さえておくべき事項がいくつかある。
それを超える部分については、罹患児のニーズに基づいて、自費での支援治療が検討されるようなこともある。
行う治療の種類については、発達小児科医が個別に推奨を行う。
IEPサービスを受ける人たちのため、公立学区はその人が21歳になるまでサービスを提供しなければならないことになっている。
DDAは、アメリカの公的機関で、認定を受けた人に対してサービスや支援を提供している。認定基準は州によって異なるものの、ふつうは、診断名やそれに伴う認知/適応障害の度合に従って決定がなされる。
運動機能障害
粗大運動機能障害
微細運動機能障害
摂食、身だしなみ、着替え、筆記などの適応機能に問題が生じる微細運動技能の障害に関しては、作業療法が推奨される。
口腔運動機能障害
口腔運動機能については、来院ごとに評価を行うようにする。そして、摂食時の窒息/嘔吐、体重増加不良、度重なる呼吸器疾患への罹患、特別な理由の見当たらない摂食拒否といった状況がみられる場合は、臨床的摂食評価やX線嚥下検査を行うようにする。罹患児が、口からの摂食を安全に行える状況にあることが前提ではあるが、協調運動の改善、あるいは、感覚の関係した摂食の問題の改善を支援する手段として、摂食治療(ふつう、作業療法士あるいは言語治療士がこれを担当する)が推奨される。安全性を確保するため、食餌にとろみをつけたり、冷やしたりといったことが行われることがある。摂食機能の障害が重篤な場合には、経鼻胃管あるいは胃瘻造設が必要になることもある。
コミュニケーションの問題
表出言語に障害をもつ罹患者に対しては、それに代わるコミュニケーション手段(例えば、拡大代替コミュニケーション[AAC])に向けての評価を検討する。AACに向けた評価は、その分野を専門とする言語治療士の手で行うことが可能である。この評価は、認知能力や感覚障害の状況を考慮に入れながら、最も適切なコミュニケーションの形を決めていこうというものである。AACの手段としては、絵カード交換式コミュニケーションシステムのようなローテクのものから、音声発生装置のようなハイテクのものまで、さまざまなものがある。一般に信じられていることとは反対に、AACはスピーチの発達を妨げるようなものではなく、むしろ理想的な言語発達に向けた支援を与えてくれるものである。
社会/行動上の懸念事項
小児に対しては、応用行動分析(ABA)をはじめとする自閉症スペクトラム障害の治療で用いられる治療的介入の導入に向けた評価を行うとともに、実際にそれを施行することがある。ABA療法は、個々の子どもの行動上の強みと弱み、社会性に関する強みと弱み、適応性に関する強みと弱みに焦点を当てたもので、ふつう、行動分析に関する学会認定士との1対1の場で行われる。
発達小児科医を受診することで、両親に対し、適切な行動管理の指針を指導したり、必要に応じ、注意欠如/多動性障害の治療に用いられる薬を処方したりといったことも可能になる。
深刻な攻撃的、破壊的行動に関して懸念があるときは、小児精神科医への相談という形での対応が考えられる。
定期的追跡評価
表6:Schaaf-Yang症候群罹患者で推奨される定期的追跡評価
系/懸念事項 | 評価 | 実施頻度 |
---|---|---|
成長/摂食 |
|
来院ごと。 |
消化器 | 便秘に関するモニタリング | |
呼吸器 | 睡眠時無呼吸,誤嚥,呼吸不全の徴候や症候に関するモニタリング | |
睡眠ポリグラフ | 長期間、成長ホルモン治療を受けている例については年に1度1、もしくは睡眠専門医の指示に従った頻度で。 | |
筋骨格 |
|
来院ごと。 |
DXAスキャン | 5歳から始め、2年に1度。 成人期は3-5年に1度。 |
|
発達 | 発達の進行状況、ならびに教育上のニーズのモニタリング | 来院ごと。 |
精神/行動 | 自閉症スペクトラム障害の徴候,不安,注意力,攻撃的あるいは自傷的行動に関する評価 | 年に1度。 |
神経 |
|
来院ごと。 |
眼 | 眼科医による評価 | 眼科医の判断に従った頻度で。 |
内分泌 | 10歳から17歳まで、思春期の徴候や症候、ならびに適切な思春期発達が進んでいるかどうかの評価 | 来院ごと。 |
雑/その他 | ソーシャルワーカーの支援(例えば、緩和/息抜きのためのケア,在宅看護,地域の情報資源について)やケアコーディネーションに関する家族のニーズの評価 |
DXA=二重エネルギーX線吸収測定法
リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
Schaaf-Yang症候群(SYS)は、常染色体顕性で母性インプリンティング性の遺伝形式(すなわち、父親由来のMAGEL2アレルに生じたヘテロ接合性病的バリアントに起因して疾患が生じる一方、母親由来のMAGEL2アレルはサイレンシングを受けているため、そこに病的バリアントがあっても疾患には至らない)をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
父親が体細胞・生殖細胞系列モザイクであった例が実際に報告されている[Patakら2019]。
注:父親の白血球DNAを検査しても、体細胞モザイクの全例でこれが検出されるわけではない。
発端者の同胞
発端者の同胞の有するリスクは、発端者の父親の遺伝学的状態によって変わってくる。
SYSの浸透率は100%(すなわち、父親由来のMAGEL2にヘテロ接合性の病的バリアントを有するすべての例に本疾患の症候が現れる)と考えられている。ただし、現れる臨床症候については、家系間でのばらつきが予想される。
発端者の子
SYSの発端者の子がMAGEL2の病的バリアントを継承する可能性は50%である。発端者が男性の場合、子の中でヘテロ接合者となったものは罹患者となる。発端者が女性の場合、ヘテロ接合となった子に症候が現れることはない(「浸透率」の項を参照)。
他の家族構成員
SYSは、常染色体顕性で母性インプリンティング性の遺伝形式をとることから:
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
家族計画
DNAバンキング
検査の手法であるとか、遺伝子・病原メカニズム・疾患等に対するわれわれの理解が、将来はより進歩していくことが予想される。そのため、分子診断の確定していない(すなわち、原因となった病原メカニズムが未解明の)発端者のDNAについては、保存しておくことを検討すべきである。詳しくは、Huangら[2022]を参照されたい。
家系内に存在するMAGEL2の病的バリアントが同定されている場合は、出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査を行うことが可能となる。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。
現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:Schaaf-Yang症候群:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|
MAGEL2 | 15q11.2 | MAGE様タンパク質2 | MAGEL2 | MAGEL2 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。
リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:Schaaf-Yang症候群関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)
605283 | MAGE-LIKE 2; MAGEL2 |
615547 | SCHAAF-YANG SYNDROME; SHFYNG |
分子レベルの病原
MAGEL2は15q11.2のPrader-Williクリティカル領域(PWCR)内にあって、母性インプリンティング(サイレンシング)により父性の発現を示す単一エクソンの遺伝子である。これはMAGEタンパク質ファミリーに属するMAGEL2タンパク質をコードする。MAGEL2はE3RINGユビキチンリガーゼであるTRIM27(tripartitemotifcontaining27)と結合して、その活性を調節する。MAGEL2、USP7(ユビキチン特異的ペプチダーゼ7)、TRIM27は、エンドソームに共局在することがわかっており、そこでMUST(MAGEL2-USP7-TRIM27)タンパク質複合体を形成する。そして、この複合体は、WASHアクチン核形成促進因子のユビキチン化により、レトロマー媒介性のエンドソームタンパク質のリサイクルを促進する[Tacer&Potts2017]。MAGEL2タンパク質の機能が障害されることで、オートファジーが損なわれると同時に、その他のユビキチン化依存性細胞プロセスにも影響が及ぶ可能性があると予測されている。実際に、MAGEL2のトランケーションバリアントにより、罹患者由来の線維芽細胞において、オートファジーが減少し、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質経路(mTOR)の発現が亢進するとのデータがある。罹患者の細胞から作製した人工多能性幹細胞(iPSC)由来ニューロン(iNeuron)は、mTOR活性の亢進、ならびに樹状突起の形成障害を示す[Crutcherら2019]ことから、SYSは、細胞レベルにおいては神経細胞の発達障害として現れることが示唆されている。
PWCR内でMAGEL2の占める位置を考えたとき、MAGEL2の父親由来アレルに病的バリアントを有する例のほうが、平均としてみたとき、父親由来15番染色体のPWCR内の隣接遺伝子欠失によって生じたPWSの例よりも高次脳機能の障害レベルが高いことは驚くべきことである。さらに言うと、父親由来染色体のPWCR内の、MAGEL2は含むがSNORD116クラスターは含まない領域の非定型の小さめの欠失を有する例では、典型的なPWS罹患者よりさらに軽度の表現型を示す場合がある[Kanberら2009]。このことは、単に父性アレルからのタンパク質の発現が失われたという状況と比較したとき、MAGEL2のトランケーションバリアントが、新機能獲得型(neomorphic)効果あるいはドミナントネガティブ効果をもつということを示唆するものである。これに代わる考え方として、父性アレルが存在しない状況下では、母性のMAGEL2アレルから「漏れ」程度の発現が生じているのではないかとの考え方も、可能性として議論されている[Buitingら2014]。
疾患の発症メカニズム
父性アレルの機能喪失型である。
MAGEL2特異的な検査技術上の考慮事項
MAGEL2はインプリンティング遺伝子である。父親由来の病的バリアントによってのみ疾患が引き起こされる。したがって、バリアントの解釈にあたっては、両親の検査が重要な意味をもつ。
表7:SMAD4の注目すべき病的バリアント
参照配列 | DNAヌクレオチドの変化 | 予測されるタンパク質の変化 | コメント[文献] |
---|---|---|---|
NM_019066.4 NP_061939.3 |
c.1996dupC | p.Gln666ProfsTer47 | 反復性の重症型病的バリアント[McCarthyら2018a] |
c.1996delC | p.Gln666SerfsTer36 | 報告されているものはすべて出生前あるいは周産期致死性[Mejlachowiczら2015,Fountainら2017,Guoら2019] |
上記のバリアントは報告者の記載をそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独自に変異の分類を検証したものではない。GeneReviewsは、HumanGenomeVariationSociety(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準拠している。
命名規則の説明については、QuickReferenceを参照のこと。
Gene Reviews著者: Christian PSchaaf,MD,Ph.D. and Felix Marbach,MD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、石川亜貴(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2021.11.4 日本語訳最終更新日: 2023.7.17.[in present]