Gene Reviews著者: Katrina Tatton-Brown, BM BCh, MD, Trevor RP Cole, MB ChB, Nazneen Rahman, BM BCh, PhD.
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日:2022.12.1 日本語訳最終更新日: 2024.4.12.
原文: Sotos Syndrome
疾患の特徴
Sotos症候群の特徴は、特徴的な顔貌(突出した広い前額と長頭型の頭、前頭部・側頭部の疎な毛髪、眼瞼裂斜下、頰の紅潮、細長い顔、長いオトガイ)、学習障害(早期から現れる発達遅滞、中等度から重度の知的障害)、過成長(身長ないし頭囲が平均より2SD以上大きい)である。上記の3項目がSotos症候群の基本的3要素とされている。Sotos症候群の主たる症候としては、行動障害(最も顕著なのは自閉症スペクトラム障害)、骨年齢の亢進、心奇形、MRIやCTでみられる頭蓋の異常、扁平足を伴うこともある関節弛緩、母体の妊娠高血圧腎症、新生児期の合併症、腎奇形、脊柱側彎、てんかん発作などがある。
診断・検査
発端者におけるSotos症候群の診断は、分子遺伝学的検査で、NSD1のヘテロ接合性病的バリアント、もしくはNSD1を含む領域の欠失の同定をもって確定する。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
学習障害や言語発達遅滞、行動障害、心臓の異常、腎奇形、脊柱側彎、てんかん発作の管理については、専門分野の医師への紹介が望ましい。脳のMRIで頭蓋内圧亢進を伴わない脳室拡大が確認された場合、それに対する介入は推奨されない。
定期的追跡評価 :
低年齢の子ども、多数の合併症をもつ罹患者、ふつうより多くの支援が必要な家族に対しては、一般の小児科医による定期的診察を、そして年長の子どもやティーン世代の子ども、それほど多くの合併症を伴わない罹患者については、もう少し間隔を開けてチェックを行う。
遺伝カウンセリング
Sotos症候群は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。95%超の罹患者がdenovoの病的バリアントである。両親とも非罹患者である場合、発端者の同胞の有するリスクは低い(1%未満)。罹患者の子の有するリスクは50%である。家系内に存在するNSD1の病的バリアントが同定済の場合は、高リスクの妊娠に対する出生前検査や、着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
本疾患を示唆する所見
Sotos症候群の正式な臨床診断基準は確立していないが、次のような症候を有する例については、Sotos症候群を疑う必要がある。
特徴的顔貌(1歳から6歳までの間が特にわかりやすい)
注:成人期になっても顔の形は維持されるが、経時的に顎は広くなる(角張った形になる)。
学習障害
過成長
診断の確定
発端者におけるSotos症候群の診断は、分子遺伝学的検査でNSD1の病的バリアント(pathogenicとlikelypathogenicの両方を含む)のヘテロ接合、あるいはNSD1を含む領域の欠失を同定することで確定する(表1参照)。
注:(1)アメリカ臨床遺伝ゲノム学会(ACMG)/分子病理学会(AMP)のバリアントの解釈に関するガイドラインによると、「pathogenic」のバリアントと「likelypathogenic」のバリアントとは臨床の場では同義であり、ともに診断に供しうるものであると同時に、臨床的な意思決定に使用しうるものとされている[Richardsら2015]。本セクションで「病的バリアント」と言うとき、それは、あらゆるlikelypathogenicのバリアントまでを包含するものと理解されたい。
(2)NSD1にヘテロ接合性の意義不明バリアントが同定された場合、それは、本疾患の診断を確定するものでも否定するものでもない。
分子遺伝学的検査としては、表現型に応じ、遺伝子標的型検査(単一遺伝子検査,マルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(染色体マイクロアレイ解析、エクソームシーケンシング、エクソームアレイ、ゲノムシーケンシング)を組み合わせて用いるやり方が考えられる。
遺伝子標的型検査の場合は、臨床医の側で関連する遺伝子の目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。Sotos症候群の表現型のばらつきの幅は広い。そのため、「本疾患を示唆する所見」の項に記載された特徴的所見を呈する罹患者の場合は、遺伝子標的型検査(「方法1」参照)を選択することになろうし、Sotos症候群の診断を検討しにくいような非典型的症候を呈する罹患者については、ゲノム検査(「方法2」参照)を用いて診断が行われることになろう。
方法1
表現型や検査所見から、Sotos症候群の診断が示唆される場合は、分子遺伝学的検査として、単一遺伝子検査、あるいはマルチ遺伝子パネル検査が用いられることになる。
NSD1の配列解析を行うことで、ミスセンス・ナンセンス・スプライス部位バリアントや遺伝子内の小欠失/重複等が検出されるが、通常エクソン単位あるいは遺伝子全体の欠失/重複については検出されない。順番としては、最初に配列解析を行う。そこで病的バリアントが見つからないようであれば、次に、遺伝子内の欠失ないし重複を検出するための遺伝子標的型欠失/重複解析を行う。
注:染色体マイクロアレイ解析(CMA)は、オリゴヌクレオチドあるいはSNPのアレイを用いて、配列解析では検出できないようなゲノム全体にわたる大きな欠失/重複(NSD1を含む)を検出しようとするものである。発達遅滞を有する罹患者の多くについては、Sotos症候群の可能性を考慮する以前の段階で、評価の一環としてすでにCMAが行われていることが多いように思われる。現在、臨床で使用されているCMAは、NSD1領域も検出対象になるようデザインされている。解像度の点では、遺伝子標的型の欠失/重複解析のほうがCMAより高いように思われるものの、NSD1の配列解析とCMAで診断に至らなかった例については、遺伝子標的型欠失/重複解析で欠失/重複が検出される可能性は低いように思われる。
現状の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の原因となった遺伝子を同定しうる可能性が高いのは、NSD1その他の関連遺伝子を含むマルチ遺伝子パネル検査であるように思われる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
本疾患に関しては、欠失/重複解析を含むマルチ遺伝子パネル検査が推奨される(表1参照)。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。
遺伝子検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
方法2
罹患者の示す表現型が非定型的で、診断名としてSotos症候群を検討しにくいような場合は、網羅的ゲノム検査(この場合、臨床医の側で関与が疑われる遺伝子の目星をつける必要はない)が最良の選択肢となる。ゲノム検査としては、エクソームシーケンシングが最も広く用いられているものの、ゲノムシーケンシングを使用することも可能である。
エクソームアレイ
エクソームシーケンシングで診断がつかない場合は、もし利用可能なら、エクソームアレイが検討の対象となる。
網羅的ゲノム検査の基礎的情報についてはここをクリック。
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エピジェネティックシグネチャー解析/メチル化アレイ
Sotos症候群罹患者では、末梢血白血球に特徴的なエピジェネティックシグネチャー(疾患特異的に現れるゲノムワイドなDNAメチル化プロファイルの変化)がみられることがわかっている[Aref-Eshghiら2019,Aref-Eshghiら2020,Levyら2021]。そのため、以下に該当する例については、末梢血サンプル、もしくは保存血から抽出したDNAのエピジェネティックシグネチャー解析を行うことで病名を明らかにすることも、検討対象になりうる。
(1)Sotos症候群を示唆する臨床所見を有しつつも、配列解析やCMAでNSD1の病的バリアント(pathogenicとlikelypathogenicの両方を含む)が検出されない例。
(2)Sotos症候群を示唆する臨床所見を有し、分子遺伝学的検査にてNSD1に臨床的意義の不明なバリアントが確認されている例。
表1:Sotos症候群で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 手法 | その手法で病的バリアント2が検出される発端者の割合 |
---|---|---|
NSD1 | 配列解析3 | 45%-80% |
CMA4 | 15%-50%5,6 | |
遺伝子標的型欠失/重複解析7 | 20%-55%7,8 |
臨床像
NSD1の異常を有する266人のデータを基礎として、Sotos症候群の臨床症候は、主要症候(罹患者の90%以上に現れる)、大症候(15%-89%に現れる)、関連症候(2%以上15%未満に現れる)の3つに分類されている[Tatton-Brownら2005b]。
主要症候(Sotos症候群罹患者の90%以上にみられる)
大症候(Sotos症候群罹患者の15%-89%にみられる)
主要症候
特徴的顔貌
顔面形態は、Sotos症候群の最も特異的な診断基準である。しかし同時に、観察者の経験不足が最も露呈しやすいものでもある。Sotos症候群の顔面形態は、出生時すでに明らかにみられるものであるが、1歳から6歳にかけて、最も目立つようになる。頭は長頭型、前額部は幅広で突出している。前頭部や側頭部の毛髪はしばしば疎となる。眼瞼裂は、多くの場合斜下する。頰の紅潮がみられることもある。小児期には狭く長い顎を呈するが、成人になると顎の幅は広くなる[Allanson&Cole1996,Tatton-Brown&Rahman2004]。年長の子ども、あるいは成人になっても顔面の特徴は残ってはいるものの、より軽微になっていることがある[Allanson&Cole1996,Tatton-Brownら2005b]。
学習障害
初期における発達指標の遅延が非常に多くみられる。また、体格が大きいことに加え、筋緊張低下と協調運動の障害のため、運動技能に大幅な遅れがみられることがある。Sotos症候群罹患者の大部分に、一定程度の知的障害がみられる。そのばらつきの幅は広く、軽度学習障害(罹患者は独立生活を送り、家庭を築くことができる)から、重度学習障害(罹患者は成人として独立した生活を送ることが難しい)までみられる。知的障害のレベルは、一般に生涯を通じて一定である[Tatton-Brownら2005b,Fosterら2019]。Sotos症候群の子どもの学習障害は、言語能力や視空間認知に相対的な強みがあり、非言語的推論能力や定量的推論能力に相対的な弱みをもつ[Laneら2019]。
過成長
Sotos症候群では、出生前に起源をもつ過成長がみられる。出産はふつう正期産である。出生時の身長はおおむね98パーセンタイル、頭囲は91パーセンタイルと98パーセンタイルの間である。平均出生時体重は正常範囲内にある(50-91パーセンタイル)。
罹患児は、10歳未満の段階で急速な線形成長を示すことが多い。同学年の子どもより、かなり背が高いとの報告が多い。身長あるいは頭囲が平均より2SDを超えて大きい子どもがおおむね90%に及ぶ[Tatton-Brownら2005b]。ただ、成長は親の身長の影響も受け、中には成長パラメーターが98パーセンタイルに至らない罹患者もみられる[Cole&Hughes1994,Tatton-Brownら2005b]。
成人になると身長は正常に復することもあるが、大頭症は通常、全年齢にわたって続く[Agwuら1999,Fosterら2019]。成人の最終身長に関するデータは不足しているが、男女とも成人期の最終身長のばらつきの幅は広い[Agwuら1999,Fosterら2019]。
DeBoerら[2005]による成長データに関する研究も、Agwuら[1999]のデータを裏打ちするもので、NSD1の病的バリアントを有する罹患者について、指極/身長比が大きく、座高/身長比が小さく、手が長いことを明らかにしている。こうしたデータから、Sotos症候群にみられる身長の増大は、主として四肢長の増大によるものであることがわかる[Agwuら1999,deBoerら2005]。
大症候
行動障害
多方面にわたる行動障害の問題が、あらゆる年齢層で多くみられる。これまでに、自閉症スペクトラム障害、恐怖症、攻撃性などが報告されている[Shethら2015,Laneら2017,Laneら2019,Fosterら2019,ならびにTatton-Brownの私信]。体格の大きさ、無邪気さ、社会的手がかりに関する無知などの要素が、しばしば仲間とのグループ形成の難しさにつながっている[Fineganら1994]。こうしたことは、Sotos症候群の臨床診断を受けた罹患者(NSD1の病的バリアントをもつ人ともたない人の両方を含む)に関する1研究で確かめられている。その研究ではさらに、Sotos症候群罹患者においては、注意欠如多動性障害はあまりみられないことが示されている[deBoerら2006]。
骨年齢の亢進
骨年齢は、成長速度の加速化を反映する指標であることが多く、思春期前の罹患児の75%-80%で亢進がみられる。ただ、骨年齢は、有意と解釈する「閾値」の設定のしかた、評価法、評価者の主観的誤差、評価時年齢などにより、結果の解釈が大きく影響される。
心奇形
罹患者の約20%に心奇形がみられる。その程度は、単一で自己限定性のもの(例えば、動脈管開存、心房中隔欠損、心室中隔欠損)から、重度で複雑性の異常まで大きな幅がみられる。互いに血縁関係のないSotos症候群の2例で、左室緻密化障害が報告されている[Martinezら2011]。また、大動脈拡張を呈するSotos症候群の3成人例の報告がみられる[Hoodら2016]。
頭蓋のMRI/CTでみられる異常
Sotos症候群でNSD1の病的バリアントを有する罹患者においては、その大多数で頭蓋のMRI/CTの異常が検出される。そのうち最も多いのは、脳室拡大(特に側脳室三角部領域)である。その他に、正中偏位(脳梁の低形成ないし無形成、巨大大槽、透明中隔腔)、脳萎縮、矮小小脳虫部などがある[Waggonerら2005]。
関節弛緩/扁平足
Sotos症候群では、少なくとも20%に関節弛緩がみられると報告されている。
母体の妊娠高血圧腎症
Sotos症候群罹患児の妊娠時、約15%の母親に妊娠高血圧腎症がみられる。
新生児期の合併症
新生児に黄疸(最大65%)、筋緊張低下(最大75%)、哺乳不良(最大70%)がみられることがある。これらについては自然的改善がみられることが多いものの、少数については治療介入が必要となる。
腎奇形
NSD1の病的バリアントを有する罹患者の約15%に腎奇形がみられる。そのうち最も多いのは膀胱尿管逆流である。非活動性膀胱尿管逆流を呈する罹患者もみられ、成人期には腎機能障害が現れることがある。
脊柱側彎
罹患者の約30%に脊柱側彎がみられるものの、装具や手術が必要になるほど重度のものは稀である。
てんかん発作
Sotos症候群罹患者の約25%については、生涯のある時点で非熱性痙攣をきたし、その一部は継続的治療を要する。これまでに、欠神、強直間代発作、ミオクローヌス性発作、複雑部分発作の報告がみられる。
関連症候
腫瘍
Sotos症候群罹患者の約3%に腫瘍の発生がみられる。その種類は多く、仙尾部奇形腫、神経芽細胞腫、仙骨前神経節腫、急性リンパ性白血病、小細胞肺癌、星細胞腫などがある[Hershら1992,Tatton-Brown&Rahman2004,Theodoulouら2015]。DeBoerらは、こうした問題を見直して整理し、NSD1の病的バリアントを有するSotos症候群と、NSD1の病的バリアントを有しないSotos症候群罹患者の間の比較を行っている[deBoerら2006]。
その他種々の臨床症候
Sotos症候群には、その他さまざまな臨床症候が現れる。そのうちのいくつか、例えば便秘であるとか、慢性中耳炎に起因する聴覚の問題といったものは、かなり多くみられる。以下に示す症候は、Sotos症候群罹患者の2%以上15%未満にみられる[Tatton-Brownら2005b]。
遺伝型-表現型相関
NSD1の異常を有する234人のSotos症候群罹患者を評価したところ、遺伝子内に病的バリアントを有する罹患者に比べ、5q35の微小欠失を呈する罹患者のほうが過成長の程度が低く、学習障害の程度が重度であったという[Tatton-Brownら2005b]。
Sotos症候群に関連するその他の臨床症候(心奇形、腎奇形、てんかん発作、脊柱側彎)については、遺伝子内の病的バリアントと5q35の微小欠失との間でみられる遺伝型-表現型相関は明らかになっていない。また、遺伝子内の病的バリアントの種類(ミスセンスとトランケーション)と表現型との相関、病的バリアントの位置(5’側と3’側)と表現型との相関についても、明らかになっていない[Tatton-Brownら2005b]。
浸透率
NSD1の分子検査は、現在、遺伝子診断の検査機関で広く行われている。しかし現在に至るまで、発端者の親や同胞でNSD1の病的バリアントの存在が判明した人が無症候であったという例は報告されていない[Douglasら2003,Rioら2003,Türkmenら2003,Tatton-Brownら2005b]。このことから、Sotos症候群の浸透率は100%であるように思われる。
注目すべきことは、表現型の現れ方がきわめて多様であるという点である。同じ病的バリアントをもつ罹患者同士、そしてそれが同一家系の罹患者同士であっても、表現型の現れ方は異なることがある[Tatton-Brownら2005b,Donnellyら2011]。
疾患名について
Sotos症候群は、以前、脳性巨人症と呼ばれていた。しかし、この用語は時代にそぐわず、もはや使用すべきではない。
頻度
Sotos症候群の発現頻度は、14,000生産児に1人と推察される[著者らの未公表データ]。
NSD1の異常は、Sotos症候群の診断に高い特異度と感度を示す。臨床診断で、Marshall-Smith症候群や非特異性過成長症、あるいは自閉症スペクトラム障害を伴う大頭症の罹患者等、Sotos症候群以外の診断が下りている500人以上の罹患者について、分子遺伝学的検査を行った諸報告でも、NSD1の病的バリアントは1例も検出されていない[Türkmenら2003,Tatton-Brownら2005b,Waggonerら2005,Buxbaumら2007]。
過成長を示し、Sotos症候群と誤認される可能性のある状況を表2にまとめた。
表2:過成長を示し、Sotos症候群との鑑別診断を検討すべき状況
鑑別対象疾患 | 遺伝子 | 遺伝形式 | 鑑別対象疾患の臨床症候 | |
---|---|---|---|---|
Sotos症候群と重なる症候 | Sotos症候群と異なる症候 | |||
EZH2関連Weaver症候群(Weaver-Smith症候群)1 | EZH22 | AD |
|
|
Cohen-Gibson症候群1,4(OMIM617561) | EED | AD |
|
|
SUZ12過成長症候群1,5 | SUZ12 | AD |
|
Sotos症候群と異なる症候については、Weaver症候群と非常に類似している。 |
Beckwith-Wiedemann症候群(BWS) | 脚注6参照 | AD | 出生時体重ないし出生時身長がしばしば+2SD以上。 |
|
Simpson-Golabi-Behmel症候群1型 | GPC3 GPC4 |
XL | ・出生前後にまたがる過成長 ・さまざまな程度の知的障害 |
|
Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群(PTEN過誤腫症候群を参照) |
PTEN |
AD |
|
|
FMR1 |
XL |
|
|
|
母斑性基底細胞癌症候群(Gorlin症候群) |
PTCH1 |
AD |
|
|
Malan症候群10(OMIM614753) |
NFIX |
AD |
|
|
AD=常染色体顕性;XL=X連鎖性
Sotos症候群との鑑別診断に関して、頭に入れておくべき上記以外の異常に、次のようなものがある。
Sotos症候群類似の表現型を示すものとして、4p重複、20pトリソミーモザイク[Faivreら2000]、22q13.3欠失症候群がある。
過成長の罹患者の中には、上記いずれの疾患の診断基準も満たさないが、過成長以外の症候(例えば、学習障害や特異顔貌)を併せもち、背景に遺伝子の問題が存在する可能性の高い例が数多く存在する。非特異性過成長は、遺伝的異質性を有する一連の疾患群であって、複数の原因によって生じているものと考えられる。
最初の診断に続いて行う評価
Sotos症候群と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、以下の評価を行うことが推奨される[Tatton-Brown&Rahman2007]。
症候に対する治療
臨床的な問題(例えば、心奇形、腎奇形、脊柱側彎、てんかん発作等)が発見された場合には、適切な専門医への紹介が推奨される。脳のMRIの結果、脳室拡大が確認された場合でも、Sotos症候群の場合は「停止性水頭症」で閉塞性ではなく、頭蓋内圧亢進を伴うこともないことが多いので、ふつう、シャント手術は不要である。頭蓋内圧亢進が疑われる場合には、神経内科医や脳神経外科医と連絡を取り合いながら診査や管理を進めるようにするのが適切である。
発達遅滞/知的障害の管理に関する事項
Sotos症候群罹患者に現れる可能性のある学習障害、行動障害、言語障害については、アメリカでは発達遅延者、知的障害者に向けた推奨として、次のような内容のものがある。ただ、そうした推奨は、国ごとに異なったものになることもあろう。
0-3歳
作業療法、理学療法、言語治療、摂食治療が受けられるよう、早期介入プログラムへの紹介が望ましい。これは、アメリカでは連邦政府が費用を負担して行われる制度で、すべての州で利用可能である。
3-5歳
アメリカでは、地域の公立学区(訳注:ここで言う「学区」というのは、地理的な範囲を指す言葉ではなく、教育行政単位を指す言葉である)を通じて発達保育園に入ることが推奨される。入園前には、必要なサービスや治療の内容を決定するために必要な評価が行われ、その上で個別の教育計画(IEP)が策定される。
5-21歳
全年齢
各地域、州、教育機関が適切な形で関与できるよう、そして、良好な生活の質を最大限確保する支援を親に対してできるよう、発達小児科医とよく話をすることが推奨される。罹患者個々のニーズに応じ、個別の支援療法を検討するのが望ましい。
具体的にどのような種類の治療が推奨されるかという点については、発達小児科医が策定することになろう。
アメリカにおいては、
運動機能障害
粗大運動機能障害
微細運動機能障害
摂食、身だしなみ、着替え、筆記といった適応機能に影響を及ぼすような微細運動技能の障害に対しては、作業療法が推奨される。
口腔運動機能障害
罹患者が、口からの摂食を安全に行える状況にあるということが前提ではあるが、口腔機能の制御がうまくいかないために摂食が困難であるという場合には、作業療法士あるいは言語治療士による摂食治療が推奨される。
コミュニケーション障害
出言語に障害をもつ罹患者に対しては、それに代わるコミュニケーション手段(例えば、拡大代替コミュニケーション[AAC])に向けての評価を検討する。
社会/行動に関する懸念事項
小児に対しては、応用行動分析(ABA)をはじめとする自閉症スペクトラム障害の治療で用いられる治療的介入の導入に向けた評価を行うとともに、実際にそれを施行することがある。ABA療法は、個々の子どもの行動上の強みと弱み、社会性に関する強みと弱み、適応性に関する強みと弱みに焦点を当てたもので、ふつう、行動分析に関する学会認定士との1対1の場で行われる。
発達小児科医を受診することで、両親に対し、適切な行動管理の指針を指導したり、必要に応じ薬を処方したりといったことも可能になる。
深刻な攻撃的、破壊的行動に関して懸念があるときは、小児精神科医への相談という形での対応が考えられる。
二次的合併症の予防
膀胱尿管逆流症を有する罹患者に対しては、抗生剤の予防投与が必要となる。
定期的追跡評価
幼少の子ども、多科の協力が必要な多くの合併症を有する罹患者、家族への支援がふつうより多く必要な場合などは、一般小児科医による定期的な評価が推奨される[Tatton-Brown&Rahman2007]。
年長の子ども、ティーン世代の子、合併症の少ない罹患者の評価は、それほど頻繁に行う必要はないと考える医師が多いようである。
表3:Sotos症候群罹患者について推奨される定期的追跡評価
懸念する臓器系 | 評価 | 頻度 |
---|---|---|
心臓 | 心臓病専門医による評価 | 定期検診時に行う。 |
心エコー |
|
|
血圧チェック | 定期検診時に行う。 | |
骨格系 | 脊椎の彎曲に関する診査 | |
尿路系 | 非活動性尿路感染症をチェックするための尿検査と尿培養 | |
眼 | 眼科的検査 | 懸念を感じた際に行う。 |
耳 | 聴力検査 |
注:がん検診は推奨されていない[Villaniら2017]
リスクを有する血縁者の評価
リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
研究段階の治療
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
Sotos症候群は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の同胞の有するリスクは、発端者の親の有する臨床的、遺伝学的状況によって変わってくる。
発端者の子
他の家族構成員
他の血族の有するリスクは、発端者の母親の状況によって変わってくる。仮に母親もOFD1の病的バリアントを有していたとすると、その血族にあたる人はすべてリスクを有することになる。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
見かけ上denovoと思われる病的バリアントを有する家系についての考慮事項
Sotos症候群発端者のいずれの親も、NSD1の病的バリアントを有しておらず、Sotos症候群の臨床症候も示していないということであれば、発端者のもつその病的バリアントはdenovoのものである可能性がきわめて濃厚である。ただ、代理父、代理母(例えば生殖補助医療によるもの)、もしくは秘匿型の養子縁組といった医学とは別次元の理由が潜んでいる可能性もある。
家族計画
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
分子遺伝学的検査
家系内に存在するNSD1の病的バリアントが特定されている場合は、Sotos症候群に関し高リスクの妊娠に備えた出生前検査や、着床前遺伝学的検査が可能である。表現型の現れ方については継代的なばらつきがみられるため、出生前の分子遺伝学的検査の結果に基づいて子に現れる表現型を正確に予測するということはできないことに注意が必要である。
出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
超音波検査
超音波検査では、出生前診断を正確に行うことはできない。Sotos症候群でみられる大頭症や身長の過大といった症候については、超音波検査で検知可能ではあるが、これらはいずれも非特異的症候に過ぎない。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:Sotos症候群の遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specificデータベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
NSD1 | 5q35.3 | H3リシン36特異性ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ | Nuclear receptor binding SET Domain protein 1 (NSD1) @ LOVD | NSD1 | NSD1 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:Sotos症候群関連のOMIMエントリー(閲覧はすべてOMIMへ)
117550 | SOTOS SYNDROME; SOTOS |
606681 | NUCLEAR RECEPTOR-BINDING SET DOMAIN PROTEIN 1; NSD1 |
遺伝子構造
NSD1は22のエクソンから成る(NM_022455.4)。遺伝子ならびにタンパク質に関する情報の詳細は、表Aの「遺伝子」の項を参照のこと。
病的バリアント
これまでに100種以上の病的バリアントが報告されている。変異のホットスポットとして同定されたものは存在しない[Douglasら2003,Kurotakiら2003,Rioら2003,Türkmenら2003,Faravelli2005,Tatton-Brownら2005b]。
表Aを参照のこと。
NSD1をまたぐ5q35の1.9Mbの反復性微小欠失が、そのほとんどは日本人のSotos症候群罹患者であるが、日本人以外でも何人かの罹患者で報告されている[Kurotakiら2003,Tatton-Brownら2005a,Visserら2005]。この微小欠失の集団間での分布の違いについてのデータは、まだ明らかになっていない。微小欠失の大多数は、近接する低コピー反復配列間で非相同アレル相同組み換えが起きることによって生じる[Kurotakiら2003,Tatton-Brownら2005b,Visserら2005]。こうした反復性欠失の切断点は、その多くが共通しており、特異的クロマチン構造が誘因となって反復性の交叉イベントが増加し、これにより5q35において組み換えのホットスポットが生じやすくなっているものと考えられる[Visserら2005]。
正常遺伝子産物
SD1がコードする2,696のアミノ酸から成るタンパク質、H3リシン36,H4リシン20特異性ヒストン-リシンNメチルトランスフェラーゼのもつ機能については、十分なデータが得られていない。これは、脳、腎、骨格筋、脾、胸腺、肺で発現する。
NSD1には、少なくとも12の機能ドメインが存在する。
これらのドメインの中で最も特徴的なものは、クロマチン状態の制御に係わるヒストンメチルトランスフェラーゼ中に存在するSETドメインとSAC(SET-associatedCys-rich)ドメインである。NSD1のSETドメインは、特色あるヒストン特異性を有し、ヒストンH3上のリシン残基36と、ヒストンH4上のリシン残基20(K36H3とK20H4)をメチル化する[Rayasamら2003]。PHDも、通常はクロマチンレベルで作用するタンパク質中でみられる。PWWPは、タンパク質-タンパク質間の相互作用に関与し、メチルトランスフェラーゼで多くみられる。
NSD1の核内受容体であるNID-LならびにNID+Lは、コリプレッサーやコアクチベーターの中にみられることが多い核内受容体である[Huangら1998]。こうした特徴的なドメインが存在することから、NSD1は、細胞の状態に応じて転写を抑制方向にも促進方向にも調節できる転写修飾因子として働くヒストンメチルトランスフェラーゼではないかと考えられている[Kurotakiら2001]。
異常遺伝子産物
Sotos症候群は、NSD1の機能喪失に起因して生じる。NSD1の機能喪失により、どのようにしてSotos症候群が生じるのかという点に関しては、現時点ではわかっていない。
ratory.GenetMed.2005;7:524–33.[PubMed]
Gene Review著者: Trevor RP Cole, MB ChB, Katrina Tatton-Brown, BM BCh, Nazneen Rahman, BM BCh, PhD
日本語訳者: 末國久美子,三澤未来(お茶の水女子大学)
Gene Review 最終更新日: 2007.3.23. 日本語訳最終更新日: 2009.3.10
原文: Sotos Syndrome