GeneReviews著者: Maartje Nielsen, MD, Elena Infante, MS, CGC, and Randall Brand, MD.
日本語訳者:箕浦祐子(札幌医科大学大学院医学研究科遺伝医学)・櫻井晃洋(札幌医科大学附属病院遺伝子診療科)
GeneReviews最終更新日: 2021.5.27. 日本語訳最終更新日: 2022.2.1
疾患の特徴
MUTYHポリポーシス (MUTYH関連ポリポーシスまたはMAPとも呼ばれる)は,大腸がん(CRC)の生涯リスクが著しく上昇することを特徴とする.典型的には,10~数100個の腺腫性結腸ポリープに関連するが,ポリポーシスがない状態でCRCを発症する人もいる.鋸歯状腺腫や過形成性/無茎性鋸歯状ポリープ,混合型(過形成性と腺腫性)ポリープなども生じる.十二指腸腺腫も一般的で,十二指腸がんのリスクも高まる.卵巣および膀胱のがん化のリスクも高まり,乳がんや子宮体がんのリスクが高まるというエビデンスもいくつか存在する.甲状腺結節や良性の副腎病変,顎骨嚢胞,先天性の網膜色素上皮肥大などの表現型も報告されている.
診断・検査
発端者において,分子遺伝学的検査で生殖細胞系列のMUTYHに両アレル性の病的バリアントが同定されれば,確定診断となる.
臨床的マネジメント
症状の治療:
大腸内視鏡で検出された疑わしいポリープは切除する必要があるが,ポリペクトミーだけではポリープの大きさと密度に対処できない場合,大腸亜全摘術または全結腸切除術を行う.異形成や絨毛性変化を示す十二指腸ポリープは,内視鏡検査時に切除するべきである.甲状腺超音波検査において異常所見があれば,甲状腺専門医が評価し,経過観察,手術,穿刺吸引細胞診の適切な組み合わせを決定する.
サーベイランス:
~2年ごとのポリープ切除を伴う大腸内視鏡検査を25~30歳の間に開始,30~35歳になったら,3ヶ月~4年ごとの上部内視鏡検査と側視型十二指腸鏡検査を行い,その後は初回所見に基づいてフォローアップを行う.1年ごとの身体検査および甲状腺超音波検査,皮膚科医による皮膚の検査も考慮する.
ヘテロ接合性の生殖細胞系列MUTYH病的バリアントがある人:家族歴に基づき,平均的な中等度リスクに対する大腸スクリーニングを提供する.
リスクのある血縁者に対する評価:
一見無症状のMAP患者の同胞に対して,発端者で同定されたMUTYH病的バリアントについて,分子遺伝学的検査によって遺伝学的状態を明らかにすることは,適切なサーベイランスを10-15歳のうちに開始し,ポリープを早期に発見し治療することで,罹患率や死亡率を下げるために有用である.
遺伝カウンセリング
MAPは常染色体劣性遺伝の形式をとる.理論上は,罹患者の同胞は25%の確率で罹患し,50%の確率で保因者となりCRCのリスクがやや高まる.残りの25%は罹患せず,保因者にもならない.家系内における病的バリアントが同定されていれば,リスクのある家系員の保因者検査やリスクのある妊娠に対する出生前診断は可能である.
訳注:日本では,本症に対する保因者検査や出生前診断は行われない.いずれにしても次世代への遺伝に関しては細心の遺伝カウンセリングが必要である.
MUTYHポリポーシスが疑われる所見
以下の臨床所見や家族歴のある人では,MUTYHポリポーシスを疑うべきである:
臨床所見
家族歴 常染色体劣性遺伝形式をとる大腸がん(±ポリープ)の家族歴
確定診断
発端者において,分子遺伝学的検査でMUTYHに両アレル性の生殖細胞系列病的バリアントが同定されればMAPの確定診断となる (Table1,Table2参照).
生殖細胞系列分子遺伝学的検査には,標的遺伝子検査 (単一遺伝子検査および/またはマルチジーンパネル)が含まれる.MAPの表現型は(疑わしい所見に記述のあるように)他の多くの遺伝性ポリポーシスや大腸がん症候群と共通する部分があるため(鑑別診断の項参照),MAP患者の多くはマルチジーンパネルを用いることで診断される.
マルチジーンパネルに関する概論はここをクリック.遺伝学的検査を発注する臨床医向けのより詳細な情報についてはこちらを参照のこと.
Table1.
MUTYHポリポーシスに用いられる生殖細胞系列分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | この方法により検出可能な病的バリアント2を有する割合 |
---|---|---|
MUTYH | 配列解析3 | -99%4 |
遺伝子標的欠失/重複解析5 | 脚注6参照 |
Table2.
APC変異のないポリポーシス患者における,ポリープの数とMUTYH両アレル性生殖細胞系列病的バリアントの検出頻度
Number of Polyps | Detection Frequency of Biallelic Germline MUYTH Pathogenic Variants |
---|---|
1-19 | 2% (25/1,430) |
10-19 | 2% (58/2,634) |
20-49 | 11% (60/540) |
20-99 | 7% (306/4,425) |
50-99 | 21% (22/107) |
100-999 | 16% (133/809) |
>1,000 | 8% (2/24) |
Grover et al [2012], Stanich et al [2019], Terlouw et al [2020]から引用
発端者の生殖細胞系列分子遺伝学的検査よりも先に腫瘍組織の検査が必要となることは通常ない.しかしながら,状況によっては必要な場合もある(第三者支払い方針など).他にも,発端者の過去の腫瘍を見直すことで,どの生殖細胞系列の分子遺伝学的検査を勧めるかを決める一助となる可能性がある(つまり,単一遺伝子検査かマルチジーンパネルを用いるか).
体細胞のKRAS分子遺伝学的検査は,非典型的な臨床所見(CRCおよび0~ごく少量の腺腫)を示す発端者を含む進行CRCsに対して,MUTYH生殖細胞系列分子遺伝学的検査をすることが望ましい患者を見つけるために,よく日常的に実施されいる [van Puijenbroek et al 2008, Guarinos et al 2014, Aimé et al 2015, Viel et al 2017].
臨床像
MUTYHポリポーシスは,大腸がん(CRC)の生涯罹患リスクが著しく高いことを特徴とする(60歳までに43-63%,適切なタイミングでサーベイランスをしない場合,生涯リスクは80-90%).十二指腸や卵巣,膀胱の悪性腫瘍のリスクも高まり,乳がんや子宮体がんのリスクが高まるというエビデンスもいくつか存在する.(Table3).
Table3.
一般集団と比較した70歳までのMUTYHポリポーシス患者のがん発症リスク
がんの部位 | 一般集団のリスク1 | MAPに関連するリスク2 | 発症年齢中央値 |
---|---|---|---|
大腸 | 5.5% | 60歳までに43-63%;サーベイランスをしなければ生涯リスク80-90% | 48歳 |
十二指腸 | <0.3% | 4% | 61歳 |
卵巣 | 1.3% | 6-14% | 51歳 |
膀胱 | 1-4% | 女性で6-8%;男性で6-25% | 61歳 |
乳房 | 12% | 12-25% | 53歳 |
子宮体部 | 2.9% | -3% | 51歳 |
胃 | <0.7-1% | 1% | 38歳 |
膵 | 1.6% | 注釈3参照 | |
皮膚 | -20%4 | 注釈3参照 | |
甲状腺 | 0.6-1.8% | 注釈3参照 |
結腸ポリープおよびがん.MAP患者の多くは10~数百個の結腸ポリープを持ち,発症年齢中央値は約50歳である.MAP患者は,結腸の腺腫に加え,鋸歯状腺腫や過形成性/無茎性鋸歯状ポリープ,混合型(過形成性と腺腫性)ポリープなども生じる [Sieber et al 2003, Chow et al 2006, Boparai et al 2008, O'Shea et al 2008].注意したいのは,17人中8人のMAPで1つ以上の鋸歯状腺腫や過形成性および/または無茎性鋸歯状ポリープを有していた.この8人のうち3人の所見は鋸歯状ポリポーシス症候群の基準に合致していた(鑑別診断の項参照) [Boparai et al 2008].多数(>20個)の過形成ポリープが直腸に(点在して)集合しているのが,MAP患者の16人中10人にみられた.
CRC患者の分子遺伝学的検査によって,結腸ポリープなくCRCを発症したMUTYH両アレル性生殖細胞系列病的バリアント保有者の最大1/3を明らかにした[Croitoru et al 2004, Farrington et al 2005, Balaguer et al 2007, Cleary et al 2009, Pearlman et al 2017].罹患者の少数で(0-3.7%),Lynch症候群を疑う表現型を呈する家系の発端者において,MUTYH両アレル性生殖細胞系列病的バリアントが見つかった.
あるレポートでは,MUTYHのCRC患者の平均生存期間は,マイクロサテライト不安定検査を受けていない家族歴不明の大腸がん(腺がん)の患者より長かったと報告されている [Nielsen et al 2010].MAPのCRC患者の5年生存率は78%だった(年齢,がんのステージ,性,サブタイプ,国,診断年で調整しても,対照群より良好だった).
十二指腸ポリープおよびがん.MAP患者の17-34%に十二指腸ポリープが生じる.十二指腸がんの生涯リスクは約4%である [Nielsen et al 2006, Vogt et al 2009, Walton et al 2016].
卵巣がん.MAP女性では,卵巣がんの発症が増加し,生涯リスクは6-14%,発症年齢中央値は51歳[Vogt et al 2009, Win et al 2016].両アレル性MUTYH生殖細胞系列病的バリアントは,卵巣がん女性のコホートではあまりみられなかった(1/7,646) [LaDuca et al 2020].
膀胱がん.膀胱がんの発症は顕著に増加し,生涯リスクは女性で6-8%,男性6-25%で,診断時年齢中央値は61歳である(45-67歳) [Vogt et al 2009, Win et al 2016].
その他のがん
MAP患者におけるその他の腸管外所見
ヘテロ接合体
ヘテロ接合性の生殖細胞系列MUTYH病的バリアントのある人のCRCのリスクは,大規模な集団ベースおよび家族ベースの研究においてわずかに増加した [Jenkins et al 2006, Jones et al 2009, Win et al 2014].ヘテロ接合性MUTYH 62人の前向き研究では,結腸ポリープと上部消化管ポリープ頻度は増加しなかった[El Hachem et al 2019].
ヘテロ接合性MUTYH における腸管外腫瘍のリスクについてははっきりしていない.Win et al [2016]の報告では,胃,肝胆系,子宮体部,乳房のがんの累積リスクがわずかに増加した.他の症例対照研究では,ヘテロ接合性MUTYH と乳がんまたは肝細胞がんのリスクとの関連は見られなかった[Baudhuin et al 2006, Beiner et al 2009, Out et al 2012, Fulk et al 2019].
ヘテロ接合性のMUTYH病的バリアントが,膵神経内分泌腫瘍(NET) 45人中2人に,副腎皮質腫瘍(ACC)160人中8人に同定された[Pilati et al 2017, Scarpa et al 2017].家族性小腸NETの発端者15人中2人が,家族性でない小腸NET患者215人中4人が,ヘテロ接合性MUTYH病的バリアントp.Gly396Aspを有していた[Dumanski et al 2017].両アレル性MUTYH生殖細胞系列病的バリアントではNETやACCのリスクは非常に低いため,ヘテロ接合性のMUTYH病的バリアントがNETやACCのリスクとなるのかどうかはわからない.
遺伝子と表現型の関連
機能的研究では,病的バリアントのc.536A>Gとc.1187G>Aにはグリコシラーゼ活性に違いがあることが示された[Banda et al 2017].これらの違いは臨床的特徴にも見られる:ホモ接合のc.536A>Gは,より深刻な表現型を呈し,ホモ接合のc.1187G>Aに比べて約8年早く発症する[Lubbe et al 2009, Nielsen et al 2009b, Terdiman 2009, Morak et al 2010].
p.Glu324His(集団によってはマイナーアレル頻度が最大50%)のような他の一般的なバリアントとがんのリスクとの関連についても報告[Banda et al 2017]があるが,そのリスクはメンデル遺伝形式に基づかず,直接的な治療選択に影響しない.
病名
MUTYHポリポーシスの旧名に“常染色体劣性腺腫性ポリポーシス”という用語がある.
以前MYHと呼ばれていた遺伝子は、現在ではMUTYHとなっている.
頻度
北ヨーロッパ,オーストラリア,USの一般集団におけるヘテロ接合性生殖細胞系列MUTYH病的バリアントは1-2%と推定されている[Al-Tassan et al 2002, Cleary et al 2009, Win et al 2017].The Genome Aggregation Database (gnomAD)では,幾分低い頻度が報告されている(~0.8%).これらの数値から,両アレル性生殖細胞系列MUTYH病的バリアントの頻度は2万~6万人に1人と推定される.
MAPは全CRCの0.7%,腺腫の数の少ない(<15-20)家族性または若年性CRCの0.5-6%と推計される[Sieber et al 2003, Cleary et al 2009, Lubbe et al 2009, Landon et al 2015, Pearlman et al 2017].Table 4参照.
Table4.
CRC診断年齢によるMAP患者の割合
両アレル性MUTYH病的バリアント | CRC診断年齢 | |
---|---|---|
%(n) | 範囲 | |
1.3% (52/3,976) | 0.5%-6.2% | <50 歳 |
0.3% (28/11,150) | 0.0%-0.6% | >50 歳 |
Nielsen et al [2011], Landon et al [2015], Pearlman et al [2017]から引用
CRC=大腸がん
遺伝学的に関連する疾患
GeneReview に記載されている疾患の他に,MUTYHの両アレル性生殖細胞系列病的バリアントに関連する表現型は知られていない.
MUTYHポリポーシス(MAP)は,臨床的所見,病理学的所見,遺伝形式,分子遺伝学的検査などにより,他の遺伝性ポリポーシスや大腸がんと区別できる.
Table5.
MUTYHポリポーシスの鑑別診断を考慮する疾患
がん易罹患性症候群 | 遺伝子/遺伝的機構 | MOI | ポリープ/大腸がん | 関連がん | その他の特徴/備考 |
---|---|---|---|---|---|
APC-関連ポリポーシス (GRJ_apc) |
APC | AD | Attenuated (軽症型) FAP:
|
|
|
NTHL1 関連ポリポーシス | NTHL1 | AR |
|
12/29の患者に大腸以外のがん
|
|
Lynch 症候群 (grj_Lynch) (遺伝性非ポリポーシス大腸がん) |
MLH1 MSH2 MSH6 PMS2 |
AD |
|
|
|
Peutz-Jeghers症候群 (GRJ_pjs) |
STK11 | AD | ・消化管過誤腫性ポリープ ・ポリープは小腸が最頻 ・腺腫性結腸ポリープも起こりうる ・CRCリスク: 39% |
|
|
若年性ポリポーシス症候群 (GRJ_JPS) |
BMPR1A SMAD4 |
AD |
|
|
遺伝性出血性毛細血管拡張症(SMAD4関連) |
PTEN 過誤腫症候群 (GRJ_pten) |
PTEN | AD |
|
|
|
遺伝性混合ポリポーシス症候群(OMIM 610069,601228) | BMPR1A GREM1 dup 15q13-q14 2 |
AD |
|
デスモイド腫瘍,前立腺がん,十二指腸腺がんが1例で報告されている4 | まれな疾患(数家系) |
鋸歯状ポリポーシス症候群(OMIM 617108) | RNF43 | AD |
|
不明(検査未実施の家系員で様々ながんの報告がある) | まれな疾患(数家系) |
AD = 常染色体優性遺伝;AR = 常染色体劣性遺伝;CHRPE = 先天性網膜色素上皮肥大;CRC = 大腸がん;FAP=家族性大腸腺腫症;MAP= MUTYHポリポーシス;MOI=遺伝形式;MSI = マイクロサテライト不安定性
最初の診断後の評価項目
MUTYHポリポーシス(MAP)と診断された人において,疾患の程度や必要とされるものを確かめるために,(診断のための評価として実施していない場合)この項にまとめた評価方法が推奨される.
今のところ,MAPのその他の大腸外病変に対する評価については,最初の診断時には推奨されていない.
症状に対する治療
外科的処置に関する情報を含む,診療上のパラメーターは以下の資料に概説されている:
結腸ポリープおよび結腸がん.MUTYHポリポーシス患者に対するサーベイランスガイドラインは,attenuated(軽症型)FAPのガイドラインに類似する.ポリープの大きさや密度が部分的な結腸切除を必要とするくらい進行し,ポリペクトミーだけでは管理できなくなるまでは,1-2年ごとの大腸内視鏡とポリペクトミーが推奨される [Lipton & Tomlinson 2006, Sampson & Jones 2009].結腸切除術の絶対的な適応は,CRCの確証または疑い,あるいは重大な症状(閉塞,出血など)であるが,これらの症状はCRCがない場合にはまれである.相対的な適応としては,内視鏡での管理が合理的でない>6mmの多発腺腫,サーベイランス中に顕著に増加した腺腫,高度異形成を伴う腺腫,あるいは大腸の検査が満足にできない状態(無数の矮小腺腫があったり,大腸内視鏡検査へのアクセスやコンプライアンスに制限がある場合)などが含まれる.
結腸切除術の形式には以下のものがある:
処置の選択は,臨床的な状況に応じて異なる.
十二指腸ポリープ.ポリープの管理はFAP患者に対するそれと同様である.ポリープの絨毛変化や高度異形成を示す,または直径1cmを超える,症状があるなどの場合,内視鏡的あるいは外科的に十二指腸および/または膨大部の腺腫を切除する[Wallace & Phillips 1998, Saurin et al 1999, Kadmon et al 2001].手術の選択肢として膵温存十二指腸切除術があり,乳頭部に病変がなく,がんの疑いもない場合にはよい適応となる.膵頭十二指腸切除術(Whipple法)は病勢が進んだ状態に実施されるが,十二指腸乳頭部が関連している,またはがんが見つかるか強く疑われる場合に考慮されるべきである.
甲状腺の異常所見は,甲状腺の専門医によって,経過観察,手術,穿刺吸引細胞診の組み合わせで最適なものを選択し,評価するべきである [LaGuardia et al 2011].
一次病変に対する予防
多くのMAP患者において,結腸ポリープの数は限られており,定期的な大腸内視鏡によるポリペクトミーのサーベイランスで十分CRCを予防できる.それゆえ,大腸内視鏡はサーベイランスとCRCの予防に有用である.
十二指腸/膨大部周辺の腺がんのリスクを減少させるために,ポリープの絨毛変化や高度異形成を示す,または直径1cmを超える,症状があるなどの場合,内視鏡的あるいは外科的に十二指腸および/または膨大部の腺腫の切除を考慮すべきである.
サーベイランス
Table6.
MUTYHポリポーシス患者に推奨されるサーベイランス
臓器>関連事項 | 検査 | 頻度 |
---|---|---|
結腸 | ポリープ切除を伴う大腸内視鏡 | 25-30歳から開始し,1-2年ごと1, 2 |
十二指腸/胃 | 上部消化管内視鏡および側視型十二指腸鏡検査3 | 30-35歳から開始し,3ヶ月から4年ごと1, 4 |
消化管外悪性腫瘍 | 毎年の身体検査を考慮5;甲状腺超音波検査も考慮してよい5 | 毎年 |
皮膚科専門医による皮膚の評価を考慮5 | 一度または毎年 |
ヘテロ接合性の生殖細胞系列MUTYH病的バリアント
ある既報ではMAP患者の血縁者の62人のMUTYHヘテロ接合体に対して大腸内視鏡を実施したところ,一般集団と比べて腫瘍性病変のリスクが増加する可能性が示唆されたが,これらの結果はフォローアップの強化を支持していない.それゆえ,MUTYHヘテロ接合体に対しては集団検診の効果も期待できるし,家族歴に基づく平均的な中等度リスクの大腸検診を提供することも可能である.
避けるべき化学物質/環境
今のところ,MUTYHポリポーシス患者の症状の重症度に影響する外的要因や生活習慣などに関する研究は行われていない.
MAPの一卵性双生児に関する症例報告では,双子の片方が喫煙者の場合,非喫煙の姉妹よりもより深刻な表現型を呈したというものがあり,喫煙はポリープの進展に影響する可能性がある.この双生児は2人とも約30個の小さい低悪性度の腺腫があったが,喫煙者の方では3つの大きめ(6-10mm)の腺腫と1つの70mmの局所性高悪性度腺腫が見つかった[Casper et al 2018].
リスクのある血縁者の評価
発端者でMUTYHの病的バリアントが分子遺伝学的検査によって同定された場合,適切なサーベイランス(10-15歳から開始)を受けてポリープに対する早期発見や治療をすることで効果的に罹患率や死亡のリスクを減少させるために,一見症状のないMAP患者の同胞の遺伝的状態をはっきりさせることは大切である.
遺伝カウンセリングの目的に関する,リスクのある血縁者の検査の問題については,遺伝カウンセリングの項を参照のこと.
現在研究中の治療
広範な疾患や症状の臨床研究に関する情報は,アメリカではClinicalTrials.govを,ヨーロッパではwww.ClinicalTrialsRegister.euを参照のこと.注:この疾患に関する臨床試験は現在行われていない.
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
MUTYHポリポーシス(MAP)は,常染色体劣性遺伝形式をとる.
患者家族のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
他の家族構成員
発端者の両親の同胞はいずれも50%の確率でMUTYH病的バリアントの保因者である.
ヘテロ接合体の発見
リスクのある血縁者に対する保因者検査をするためには,家系内のMUTYH病的バリアントがあらかじめ同定されている必要がある.
MUTYH病的バリアントを1つまたは2つ持つ人のパートナーは,その子どものMAPのリスクを明らかにするために,MUTYHの保因者かどうかを判定する分子遺伝学的検査を提案されるかもしれない.
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断,早期治療を目的とするリスクのある血縁者に関する情報は,マネジメントとリスクのある血縁者に対する評価を参照のこと.
家族計画
出生前診断および着床前の遺伝学的診断
家系内の罹患者にMUTYH病的バリアントが同定されていれば,MAPに対するリスクのある妊娠の出生前診断および着床前の遺伝学的診断は可能である.
医療の専門家の間や家族内においても,出生前診断に対する考え方の相違が存在しうる.ほとんどの施設では出生前診断を行うか否かの決断は両親に委ねているが, これらの問題を議論することは有益である.
(訳注:日本ではMUTYHポリポーシスにおける出生前診断および着床前診断は行われていない)
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www.ostomy.org
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
Table A.
MUTYHポリポーシス:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体座位 | タンパク質 | 座位特異的データベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
MUTYH | 1p34.1 | Adenine DNA glycosylase | MUTYH homepage - Colon cancer gene variant databases | MUTYH | MUTYH |
データは以下の標準的参照資料をもとに作成した:遺伝子はHGNC,染色体座位は OMIM,タンパク質は UniProt.リンクが提供されたデータベース(座位特異性,HGMD ,ClinVar )の詳細についてはここをクリック.
Table B.
MUTYHポリポーシスに関するOMIMの情報(View All in OMIM)
604933 | MutY DNA GLYCOSYLASE; MUTYH |
608456 | FAMILIAL ADENOMATOUS POLYPOSIS 2; FAP2 |
分子病態
DNA塩基除去修復は,電離放射線,様々な化学酸化剤,活性酸素種によって引き起こされるDNA損傷の修復に重要な役割を担っている.ヒトでは,酸化損傷による最も変異原性の高い種は8-オキソ7,8-ジヒドロ-2'-デオキシグアノシン(8-オキソ-dG)で,これは通常のシトシンの代わりにアデニンと誤対合する傾向がある.これにより,DNA上でG:C>T:Aのトランスバージョンが起こる[Isidro et al 2004].
DNA塩基除去修復では,以下の酵素が連携して,DNA損傷で生じた8-oxo-dGによる変異誘発を防いでいる.
疾患発症メカニズム.アデニンDNAグリコシラーゼが機能しないと,複製後のDNA娘鎖にG:C>T:Aトランスバージョンが蓄積されることになる.様々な研究で,このトランスバージョンはMAP患者の大腸がんのDNAに共通して見つかっている.これらの病的バリアントはアデニンDNAグリコシラーゼの機能を喪失させるものである[Lipton & Tomlinson 2004].
MUTYH特有の検査施設で技術的に配慮すべき点.MUTYHは異なるアイソフォームをコードする複数の転写バリアントを持つ(www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/4595).これらのアイソフォームは,ミトコンドリア局在シグナル(MLS)を含むN末端の構造が異なる. 推定される核局在シグナル(NLS)は, N末端とC末端の両方に位置する. MUTYHのMLSとNLSの機能的意義は完全には解明されていない.グリコシラーゼ活性レベルと組織ごとの発現レベルのどちらかまたは両方が異なる可能性がある [Ma et al 2004].
最新のHGVSの推奨によれば,最長の転写産物であるDNA参照配列 (NM_001128425.1)が与えられている.報告されている塩基およびアミノ酸のバリアントは,157番目の塩基(53番目のアミノ酸)以降では,最大42塩基(14アミノ酸)までの違いがある可能性がある.報告されたバリアントについて,既報を検索する際には注意が必要である.
Table7.MUTYHの特筆すべき病的バリアント
参照配列 | DNA塩基の変化 | 予測されるタンパク質の変化(別名)1 | 備考[参考文献] |
---|---|---|---|
NM_001128425.1 NP_001121897.1 |
c.536A>G | p.Tyr179Cys (p.Tyr165Cys) |
一般集団の1-2%が保有する一般的な病的バリアントで,北欧集団の全MUTYH病的バリアントの90%以上を占めている [Al-Tassan et al 2002, Cleary et al 2009];MAP患者の70%以内は、これらのバリアントの少なくとも1つを保有している[Nielsen et al 2009b]. |
c.1187G>A | p.Gly396Asp (p.Gly382Asp) | ||
c.312C>A | p.Tyr104Ter | パキスタン人に多い [Dolwani et al 2007, Khawaja & Payne 2007, Prior & Bridgeman 2010] | |
c.857G>A | p.Gly286Glu | 日本人および韓国人でみつかった [Kim et al 2007, Yanaru-Fujisawa et al 2008] | |
c.1147delC | 北欧集団に多い [Nielsen et al 2009b] | ||
c.1214C>T | p.Pro405Leu | ドイツ人に多い[Nielsen et al 2005] | |
c.1227_1228dup | スペイン・ポルトガル・チュニジア人に多い[Gómez-Fernández et al 2009, Abdelmaksoud-Dammak et al 2012] | ||
c.1437_1439del | p.Glu480del | イタリア人に多い[Gismondi et al 2004] | |
c.1438G>T | p.Glu480Ter | 英国インド人集団の創始者バリアント [Dolwani et al 2007] | |
Del exons 4-16 | スペイン・ブラジル・フランス人に多い[Rouleau et al 2011, Torrezan et al 2011, Castillejo et al 2014] |
表に掲載されているバリアントは著者らから提供された.GeneReviews のスタッフはバリアントの分類分けの検証はおこなっていない.
GeneReviews はHuman Genome Variation Societyの標準的な命名規則に従っている(varnomen.hgvs.org).命名法の解説については, Quick Reference を参照のこと.
がんと良性腫瘍
一般的に,MAPのがんは結腸の近位に位置することが多く,腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が多いことから、Lynch症候群や散発性のミスマッチ修復(MMR)欠損のがんにやや似ている [Nielsen et al 2009a].Lynch症候群のがんで共通してみられるHLA classⅠ発現の消失が,MAPのがんでもよくみられる.また,Lynch症候群のがんと同様に,MAPのがんの大部分はほぼ2倍体であり,コピー数変化のないヘテロ接合性喪失(LOH)の染色体領域が頻繁にみられる [Lipton et al 2003, Middeldorp et al 2008].
最近の研究では,MAPのがんと腺腫について全エクソーム解析が行われた [Weren et al 2015, Rashid et al 2016, Viel et al 2017].全般的に,過剰なG:C>T:Aトランスバージョンと特異的な配列状況(AGAAまたはTGAAモチーフで優先的に起こるトランスバージョン)の組み合わせにより,MAP腫瘍の新しい変異シグネチャーを特定し,signature36と名づけられた[Viel et al 2017].
MAPのがんの全体的な変異率は,マイクロサテライト安定性(MSS)のがんよりも約2倍高いとされる.一方,MSI CRCsはMSS CRCの10倍近く変異率が増加することを特徴としている [Viel et al 2017].MAPをFAPの腫瘍と比較すると,結腸と十二指腸の腺腫でより高い変異負荷が認められた [Rashid et al 2016, Hurley et al 2018].MAPの腫瘍における高い体細胞変異率は,Lynch症候群やMMR欠損大腸腫瘍と同等の免疫システムの活性化が期待され,抗PD-1抗体などの免疫療法に感受性を示す可能性がある[Le et al 2015].しかしながら,MAP患者においてそのような臨床研究は実施されていない.現在開発中のワクチン計略もMAPに有効である可能性があるが,これについてもさらなる研究が必要である.