[Synonyms:RPE65-RelatedLCA/EOSRD]
Gene Reviews著者: DanielLChao,MD,PhD,AmandaBurr,MS,CGC,andMarkPennesi,MD,PhD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、平岡美紀(北海道医療大学病院眼科)
GeneReviews最終更新日: 2019.11.14. 日本語訳最終更新日: 2023.7.15.
原文: RPE65-RelatedLeberCongenitalAmaurosis/Early-OnsetSevereRetinalDystrophy
疾患の特徴
RPE65関連Leber先天黒内障/早期発症重症網膜ジストロフィー(RPE65-LCA/EOSRD)は、通常、出生から5歳までの間に症状が現れる重度の遺伝性網膜変性症(IRD)である。中心視力には幅がみられる一方、重度の視覚障害が存在するにもかかわらず網膜の構造は何の問題もないかのごとく保たれていることが、本疾患の大きな特徴である。10歳未満の段階での視力は比較的安定しているものの、思春期には低下し始める。大多数の罹患者は、20歳までに法的盲(視力が20/200ないし視野が固視点から20°未満)に至る。20歳以降は視力がさらに低下し、30歳代までには全例が法的盲、多くが視力の完全喪失(光覚消失)に至る。ハイポモルフィックアレルを有する例では、これより軽症の表現型になることが報告されている。
診断・検査
発端者におけるRPE65-LCA/EOSRDの診断は、これを示唆する所見を有することに加え、分子遺伝学的検査にてRPE65に両アレル性の病的バリアントが同定されることをもって確定する。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
どのタイプの遺伝性網膜ジストロフィーにも言えることであるが、罹患者には、各栄養素がアメリカ農務省の推奨する一日摂取量の基準(ReferenceDailyIntake;RDI)に達するような、健康的でバランスのとれた食餌を摂取するようアドバイスを行う。夜間視力が低下するため、患者には、照明用懐中電灯の使用推奨を行う。通常、RPE65-LCA/EOSRDの子どもの知能は正常であるが、視力障害の結果としての学習障害や行動/精神医学的問題をもつ例もみられる。学習障害を有する例については、発達小児科医への紹介を通じて、継続的ケア支援プログラムへの登録に向けた検討を進めることが有益である。
網膜下遺伝子増強療法がFDAの承認を受けているが、これは、RPE65のタンパク質産物を使用する細胞に対して、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いてこの遺伝子の機能的コピーを供与することにより、機能喪失型のRPE65バリアントを補償(すなわち、視力を改善)しようというものである。分子レベルでRPE65-LCA/EOSRDの確認がなされた12ヵ月から65歳までの例がこの治療の対象となる。
定期的追跡評価:
眼科的症候、発達/教育上のニーズ、精神/行動の問題、家族への支援/情報資源の必要性に関し、一定間隔でフォローアップを行う。
避けるべき薬剤/環境:
RPE65-IRDではあまりみられないものの、眼を繰り返し突いたり押したりといった行為は、角膜ないし網膜にダメージを与える原因になりうるため、やめるよう指導する。
リスクを有する血縁者の評価:
遺伝子置換療法その他の治療により利益が得られる人を特定することを目的として、RPE65-LCA/EOSRD罹患者の同胞については、その遺伝学的状態を明確にすることが適切である。
研究段階の治療:
FDAの承認した遺伝子置換療法のバリエーションに関する臨床研究が、現在、進められている。レチノイドの経口補充も、可能性をもつ治療の選択肢として研究が進行中である。
遺伝カウンセリング
RPE65-LCA/EOSRDは、常染色体潜性の遺伝形式をとる。同胞は、受胎の段階で、罹患者である可能性が25%、無症状の保因者である可能性が50%、罹患者でも保因者でもない可能性が25%である。家系内に存在するRPE65の病的バリアントが同定された場合には、高リスクの妊娠に備えた出生前検査、ならびに着床前遺伝学的検査が可能となる。
本疾患を示唆する所見
以下のような臨床所見、網膜電図(ERG)所見、画像所見を有する例については、RPE65関連LCA/EOSRDを疑う必要がある。
臨床所見
全視野網膜電図(ERG)所見
ERGは、網膜の視細胞と近位神経細胞層の機能状態を評価する電気生理学的検査である。
ERGは、数百万個に及ぶ網膜細胞の複合的反応状態を表すものである。RPE65関連LCA/EOSRDについて言うと、ERGはかろうじて検出される程度か、あるいは重度の異常がみられるかのいずれかである[Jacobsonら2009]。臨床症候の出現が遅め(1歳から5歳)の例についてはERGの所見はさまざまで、暗順応下(杆体)ERG、明順応下(錐体)ERGとも反応が見られる場合がある。
画像所見
FAFでは、網膜の健康状態を示すRPE・脈絡膜内の自発蛍光物質(例えば、リポフスチンやメラニン)を検出することができる。本疾患では、視覚サイクルにおける酵素阻害の結果として、短波長(SW)眼底自発蛍光の高度減少あるいは欠如が確認される。
OCTと近赤外線FAFで網膜中心部の構造が比較的保たれているにもかかわらず、SW-FAF信号がきわめて異常、あるいは検出されないという状況は、ほぼRPE65-LCA/EOSRDの疾患特異的所見と言うことができる[Lorenzら2004]。SW-FAFは、多くの場合、幼児でも麻酔なしで実施可能である。
OCTは、光学的画像診断技術の1つで、組織による光干渉の差を利用して高解像度の断面像(ミクロン単位)を合成し、網膜の厚みを測定したり、網膜変性において網膜のどの外層部分に問題が生じているかということを判定したりといったことに用いられる[Huangら1991,Huangら1998]。RPE65-LCA/EOSRDのOCT所見には幅がみられ、中心窩領域がよく保存される一方で、中心窩周囲の外顆粒層(ONL)の菲薄化がみられる場合がある[Jacobsonら2005,Jacobsonら2007,Maedaら2009]。
注:OCTを用いたRPE65-LCA/EOSRDの研究で、中心窩のONL層の厚みが加齢とともに減少したとするものが2つ[Jacobsonら2007,Cideciyanら2013]存在する一方、中心窩のONL層の厚みと年齢との間に特段の相関はみられなかったとする1研究[Chungら2019]もみられる。
診断の確定
発端者におけるRPE65-LCA/EOSRDの診断は、これを示唆する所見を有することに加え、分子遺伝学的検査にてRPE65に両アレル性病的バリアントが同定されることをもって確定する(表1参照)。
分子遺伝学的検査のアプローチとしては、遺伝子標的型検査(マルチ遺伝子パネル)と網羅的ゲノム検査(エクソームシーケンシング,エクソームアレイ,ゲノムシーケンシング)を組み合わせるやり方が考えられる。
注:単一遺伝子検査(RPE65の配列解析に続いて遺伝子標的型欠失/重複解析を行うやり方)が有用になるようなことはほとんどなく、通常、これは推奨されない。
遺伝子標的型検査の場合は、臨床医の側で関与が疑われる遺伝子の目星をつけておくことが必要となるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。LCA/EOSRDは遺伝的異質性の幅が非常に広い(「Leber先天黒内障/早期発症重症網膜ジストロフィー概説」のGeneReviewを参照)ため、「本疾患を示唆する所見」の項で述べた複数の所見を有する例についてはマルチ遺伝子パネル(「方法1」を参照)で診断がつく可能性が高く、RPE65-LCA/EOSRDては、ゲノム検査(「方法2」を参照)で診断がつく可能性が高いように思われる。
方法1
現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントが検出を抑えつつ、疾患の遺伝学的原因の特定に最もつながりやすいと思われるのは、RPE65ならびにその他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含む包括的LCA/EOSRD用マルチ遺伝子パネルであるように思われる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。
(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。
(3)検査機関によっては、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。
(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
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方法2
罹患者の呈する臨床所見が非定型的なものであるため、RPE65-LCA/EOSRDを頭に入れるところにまで至らないような場合は、網羅的ゲノム検査(この場合は、臨床医の側で関与が疑われる遺伝子の目星をつける必要はない)が1つの選択肢となる。エクソームシーケンシングが最も広く用いられているが、ゲノムシーケンシングを用いることも可能である。
エクソームシーケンシングで診断に至らなかった場合、臨床的に利用可能なようであれば、配列解析では検出されないエクソン単位の欠失や重複の検出を目的としたエクソームアレイも検討対象になりうる。
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表1:RPE65関連Leber先天黒内障/早期発症重症網膜ジストロフィーで用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1 | 方法 | その手法で病的バリアント2が検出される例の割合 |
---|---|---|
RPE65 | 配列解析3 | 99%超4 |
遺伝子標的型欠失/重複解析5 | 欠失の報告が1例あり6 |
臨床像
RPE65関連Leber先天黒内障/早期発症重症網膜ジストロフィー(RPE65-LCA/EOSRD)は、網膜が重度の変性をきたし、多くの場合、1歳未満の段階で視覚の症候が現れる疾患である[Cideciyan2010]。視機能は概して不良(ただ、一部には、幅はあるものの中心視力が保たれる例もみられる)で、しばしば眼振や瞳孔反応の鈍化あるいはほぼ消失といった状態を伴う。
視覚障害
中心視力の状態には幅がみられるものの、大多数の罹患者については重度の視覚障害がみられる(大規模調査の報告では、4-10歳の子どもの平均視力が20/126)[Chungら2019]。他の眼科的所見
全身所見
その他の遺伝子が原因で生じるLeber先天黒内障(「Leber先天黒内障/早期発症重症網膜ジストロフィー概説」のGeneReviewを参照)とは対照的に、RPE65-LCA/EOSRDについては、全身性の症候は報告されていない。遺伝型と表現型の相関
すでに数多くのRPE65の病的バリアントが同定されているものの、これまでのところ明確な遺伝型-表現型相関が確立されるには至っていない[Chungら2019]。
RPE65-LCA/EOSRDの重症度は、RPE65の病的バリアントの位置や種類とは関連しないのではないかと言われている[Katagiriら2016]。
疾患名
Leber先天黒内障(LCA)と早期発症重症網膜変性症(EOSRD)は、ともに臨床診断名であり、その定義に関しては、十分な合意が得られていない現状である。その結果、1人の罹患者に異なる診断名がさまざまにつけられる可能性がある。臨床的状況を表現する用語から遺伝子を基礎にした用語へと疾患の命名の流れが移ってきている今となっては、これら2つの表現型を表す用語として、RPE65関連LCA/EOSRDという名称がより適切であると考えられている。
発生頻度
アメリカ国内にRPE65関連遺伝性網膜ジストロフィー(RPE65-IRD)罹患者が1,000人から2,000人いると推定されている。なお、RPE65-IRDというのは、RPE65-LCA/EOSRDと典型的な網膜色素変性症(RP20型)の両方を含む名称である[Lloydら2019](「遺伝学的に関連のある疾患」の項を参照)。
RPE65関連IRDは、これまでにヨーロッパ系、中東系、南北アメリカ系、アジア系の出自をもつ人で報告されている[Kabirら2013,Vermaら2013,Ripamontiら2014,Katagiriら2016]。
RPE65-LCA/EOSRDは、LCA/EOSRDの5%-6%を占めると考えられている[Stone2007,denHollanderら2008,Cideciyan2010]。
LCAの発生頻度は、100,000人あたり2-3人[Koenekoop2004]から、81,000人に1人[Stone2007]の範囲とされている。
遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)
RPE65の生殖細胞系列病的バリアントに起因して生じるその他の表現型を表2にまとめて示した。
表2:RPE65アレルに起因する疾患
遺伝子 | 遺伝形式 | 疾患名 | 参考文献 |
---|---|---|---|
RPE65 | AR | 定型網膜色素変性症(RP20型)1 | 「非症候群性網膜色素変性症概説」のGeneReview |
AD | コロイデレミア類似の表現型を伴う軽症網膜色素変性症 | Jaureguiら[2018],Hullら[2016] |
AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性
「Leber先天黒内障/早期発症重症網膜ジストロフィー概説」のGeneReviewを参照されたい。
最初の診断時に続いて行う評価
RPE65関連Leber先天黒内障/早期発症重症網膜ジストロフィー(RPE65-LCA/EOSRD)と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程ですでに実施済でなければ、表3にまとめたような評価を行うことが推奨される。表3には、評価ごとにその目的も併せて簡略に示した。なお、評価には一部、網膜下遺伝子補充療法(「症候に対する治療」の項を参照)を検討している例においてのみ適応となるものが含まれている。
表3:RPE65-LCA/EOSRD罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価
評価 | 目的 | |
---|---|---|
眼 | 最良矯正視力(BCVA) | 視力を確認し、将来、評価を行って比較するときのベースラインとするため。 |
屈折異常 | 屈折矯正用レンズ処方のため。 | |
細隙灯検査 | 白内障をはじめとする前眼部の状態の記録のため。 | |
倒像眼底検査 | 眼底所見の記録のため。 | |
動的視野検査1(Goldmann視野検査) | 全視野の詳細なマッピングを行い、ベースラインとするため。 | |
静的視野検査2 | 視野内各点の網膜の感度を確認し、ベースラインとするため。 | |
光干渉断層撮影(OCT) | 網膜の解剖学的構造を評価し、RPE65遺伝子置換療法がより有効と思われる例の特定につなげるため。 | |
眼底撮影 | 眼底所見の記録をとり、ベースラインとするため。 | |
眼底自発蛍光検査(FAF) | 網膜の健康状態のマーカーとなりうる網膜内の自発蛍光物質の存否を評価するため。 | |
全視野網膜電図(ERG) | 杆体の残存活性(暗順応下ERG)と錐体の残存活性(明順応下ERG)を評価するため。 | |
Full-fieldstimulusthreshold(FST)test*,3 | 進行性遺伝性の網膜疾患を有する患者のベースラインとして、また、将来FST試験を行ったとき、杆体・錐体関連の機能レベルの変化の確認に用いるため。 | |
Multi-luminancemobility*,4 | 標準コースをうまく移動しきることのできる最少輝度を確認することで、機能的視覚を評価するため。 | |
その他 | 発達評価 |
|
精神/行動 | 現状の感覚喪失(すなわち、盲)に基づく神経精神医学的評価。 | |
家族への支援/情報資源 | 以下に関する評価を行う。
|
|
臨床遺伝医/遺伝カウンセラーとの面談 | 遺伝カウンセリングのため。 |
*訳注:FSTtestは「全視野刺激閾値試験」、Multi-luminancemobilityは「多輝度移動能力試験」と訳すのが適切かもしれないが、訳語として実際に使用された例は確認できなかった。
症候に対する治療
RPE65-LCA/EOSRDの全罹患者対象
食事ならびに微量栄養素
タイプの別を問わず、遺伝性網膜ジストロフィーを有する罹患者については、USDAの推奨する一日摂取量の基準(RDI)の最低量をクリアできるだけの健康的でバランスのとれた食餌が推奨される(DHoffman–Visions2016)。RDIとして、オメガ3脂肪酸を豊富に含む魚や、抗酸化物質やルテインの豊富な濃緑色葉物野菜のような食物を1,2食分含めることも可能である。食餌から十分量の摂取が難しいときは、ドコサヒキサエン酸(DHA)/エイコサペンタエン酸(EPA)のサプリメントを500mg/日、ルテインサプリメントを10mg/日を目安に摂取することも検討対象になりうる。
照明器具の利用
夜間視力が低下するため、患者には照明用として懐中電灯の使用が推奨される。
発達遅滞/知的障害の管理に関する事項
RPE65-LCA/EOSRDの子どもは、通常、正常の知能を有するが、視覚障害のため学習に遅れが生じる場合がありうる。学習困難を抱える例については、発達小児科医への紹介とともに、継続的ケア・支援プログラムへの登録が有益なことがある。
学習障害/知的障害/教育上の問題に関するアドバイスは、国ごとに、もっと言うと国内にあっても地域ごとによって受けられる支援サービスの内容が違う。
包括的原則としては、次のようなことが挙げられる。
以下に述べる情報は、アメリカにおける発達遅滞/知的障害/教育上の問題を抱える例に対して管理を行う際の標準的推奨事項である。
0-3歳
作業療法、理学療法、言語療法、心理学的支援、特別支援教育、感覚障害支援といったものが受けられるよう、早期介入プログラムへの紹介が推奨される。これは、アメリカでは連邦政府が費用を負担して、罹患者個人の治療上の必要性にあわせて、すべての州で利用可能である。
3-5歳
アメリカでは、地域の公立学区(訳注:ここで言う「学区」というのは、地理的な範囲を指す言葉ではなく、教育行政単位を指す言葉である)を通じて要な評価が行われ、その上で、運動、言語、社会性の遅れをもとに認定された子どもに対し、個別教育計画(IEP)が策定される。通常は、早期介入プログラムがこうした移行を支援することになる。発達保育園は通園が基本であるが、必要に応じ、在宅サービスの提供も行われる。
全年齢
各地域、州、(アメリカの)教育関係部局が適切な形で関与できるよう、そして、患者に対する支援が確実に行われるよう、発達小児科医とよく話をすることが推奨される。押さえておくべき事項がいくつかある。
社会/行動上の懸念事項
法的盲の子どもは、学校で仲間に溶け込んで社会性を身につけることが難しいことがある。小児に対しては、応用行動分析(ABA)をはじめとする自閉症スペクトラム障害の治療で用いられる治療的介入の導入に向けた評価を行うとともに、実際にそれを施行することがある。ABA療法は、個々の子どもの行動上の、社会性や適応性に関する強みと弱みに焦点を当てたもので、ふつう、行動分析に関する学会認定士との1対1の場で行われる。
発達小児科医を受診することで、両親に対し、適切な行動管理の指針を指導したり、必要に応じ、注意欠如/多動性障害(ADHD)の治療薬を処方したりといったことも可能になる。
網膜下遺伝子補充療法
原理
RPE65-LCA/EOSRDの網膜下遺伝子補充療法は、もともと存在していた遺伝子(いくばくかの機能を残している可能性がある)を入れ替えようというものではなく、RPE65のタンパク質産物を産生する細胞に対し、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いてRPE65の機能的コピーを供与しようというものである。こうすることで、機能喪失をきたしたRPE65の病的バリアントを補償する形で機能的コピーが発現し、タンパク質産物の量を増加させて視力の改善が得られる。標準的な網膜硝子体手術の技法を用いて、それぞれの眼の中心窩領域(すなわち、中心視力を司る錐体の豊富な部分)の網膜下(網膜の下部)にAAVベクターを1回のみ注入する。
遺伝子補充療法の有用性を裏づけるデータ
RPE65cDNAを含んだそれぞれ別の組換えAAVベクターを用いて、5つの第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験[Bainbridgeら2008,Hauswirthら2008,Maguireら2008,Weleberら2016,LeMeurら2018]と1つの第Ⅲ相臨床試験[Russellら2017]が行われ、持続時間に幅はあるものの、網膜機能の改善が得られている。
◦ある1つの試験では、視感度(静的視野計測で判定)は当初、改善したものの、3-5年後には低下し、治療を行った眼の網膜変性が続いていることを示すデータが得られた[Cideciyanら2013,Jacobsonら2015b]。
◦別のある試験では、静的視野計測のデータは治療後1年目に改善したものの、治療後2-3年でベースラインにまで低下した[Bainbridgeら2015]。
◦上記以外の第Ⅱ相臨床試験では、小児において視力の改善(最良矯正視力で測定)が、治療後3年[Testaら2013]、5年[Pennesiら2018]と、先のものより長い持続期間でみられた。
なお、これらの臨床試験で得られた結果の違いは、ウイルスベクターや注入方法の違い、あるいは経時的変化の評価に用いた測定法の違いに起因するものである可能性があることを認識しておく必要がある。
野生型RPE65ベクターを発現するAAV2/2の網膜下投与を行った第Ⅲ相臨床試験では、治療後1年の時点で、新規試験であるmulti-luminancemobilityでのパフォーマンスの向上という形で有効性判定の一次到達目標が達成され、その有益性が報告された[Russellら2017]。Multi-luminancemobilityというのは、網膜ジストロフィー患者のfunctionalvision評価専用に開発された検証済の移動コースを、罹患者が通過し終えて合格判定が出たときの最小輝度で等級づけようという検査法である[Chungら2018]。この結果を受けて、FDAはRPE65-LCA/EOSRD治療薬としてこの製品(voretigeneneparvovec,ルクスターナ[Luxturna]®,SparkTherapeutics,Inc)を承認するに至った。
動物モデルでの前臨床試験のデータについては、こちらをクリック(pdf)。
遺伝子補充療法の利用について
現在、組換えAAVベクターの製造元はSparkTherapeutics社のみであり、この治療が実施できるのは、認定を受けたRPE65治療センターのみである。
網膜下遺伝子補充療法を検討する上での条件
網膜下遺伝子補充療法の治療費支払い資格に関連する第三者支払機関関連の問題点
定期的追跡評価
表4:RPE65-LCA/EOSRD罹患者で推奨される定期的追跡評価
評価 | 目的 | 実施頻度 | |
---|---|---|---|
眼 | 最良矯正視力 | 視力評価のため。 | 年に1度 |
屈折異常 | 屈折矯正用レンズへの変更を要するかもしれないような屈折異常の変化様相の評価のため。 | 年に1度 | |
細隙灯検査 | 白内障をはじめとする前眼部の評価のため。 | 年に1度 | |
倒像眼底検査 | 疾患の進行把握が可能かもしれない眼底所見の評価のため。 | 年に1度 | |
動的視野検査 | 視野全体の変化の評価のため。 | 可能なら年に1度 | |
静的視野検査 | 視野内各点の網膜感度の変化を評価するため。 | 年に1度 | |
光干渉断層撮影(OCT) | 疾患の進行把握が可能かもしれない網膜の解剖学的構造の評価のため。 | 年に1度 | |
眼底撮影 | 疾患の進行把握が可能かもしれない眼底の変化を記録するため。 | 可能なら年に1度 | |
眼底自発蛍光検査 | もともと存在した網膜の健康状態が評価できる自発蛍光物質の変化状態を記録するため。 | 可能なら年に1度 | |
全視野網膜電図(ERG) | 杆体の残存活性(暗順応下ERG)と錐体の残存活性(明順応下ERG)を評価するため。 | 3-5年ごと | |
Full-fieldstimulusthreshold | 視細胞の残存機能を定量するため。 | 3-5年ごと | |
その他 | 発達/教育評価 | 発達/教育上のニーズを評価するため。 | 年に1度もしくは必要に応じて |
精神/行動 | 精神医学的治療や行動療法のニーズを評価するため。 | 年に1度もしくは必要に応じて | |
家族への支援/情報資源 | 家族向け情報資源や支援グループの追加ニーズを評価するため。 | 年に1度もしくは必要に応じて |
避けるべき薬剤/環境
眼を繰り返し突いたり押したりすることは、角膜や網膜の損傷につながるおそれがあるため、子どもに対しては、可能な限りこれをやめるよう指導する必要がある。
リスクを有する血縁者の評価
遺伝子置換療法その他の治療により利益が得られる人を特定することを目的として、RPE65-LCA/EOSRD罹患者の同胞については、その遺伝学的状態を明確にすることが適切である。
リスクを有する血縁者に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
研究段階の治療
遺伝子置換療法のバリエーション
RPE65-LCA/EOSRDの治療法としてFDAの承認が得られた遺伝子置換療法(すなわち、RPE65の全長タンパク質を発現するAAV2ベクターの網膜下注入)いくつかの臨床研究が進行中である。1つは、RPE特異的プロモーター下で駆動されたコドン最適化RPE65をもつAAV5カプシドのAAV2ベクター(AAV2/5)に関する第Ⅰ/Ⅱb相臨床試験(NCT02781480)である(マウスで、従来のベクターに比べ、RPE65の発現量増加が確認されている)[Georgiadisら2016]。
経口レチノイド補充
現在、RPE65の酵素産物の代替物になる可能性をもつものとしての経口レチノイド補充の研究が進行中である。Rpe65欠損マウスに9-cisレチノイドを経口投与し、劇的治療効果がみられたことが、1つの概念実証(proofofconcept)となった[VanHooserら2000,VanHooserら2002]。11-cisレチナールは非常に不安定で、医薬品開発には適さないため、9-cisレチナールが用いられたことが注目点である。付け加えると、9-cisレチナールはphototransduction能を有するイソロドプシンと結合する。
RPE65関連LCA(n=7)、LRAT関連LCA(n=7)のいずれかを有する14人の患者に対して、QLT091001(合成9-cis酢酸レチナール)の経口補充を1週間行う第Ⅰ相臨床試験が行われた[Koenekoopら2014]。この薬剤は、良好な結果を示し、大多数の患者で、視力やGoldmann視野検査の改善がみられた。14患者中6人については、1週間の単回治療後1年以上にわたって改善が持続していた。
第Ⅰb相多施設追跡試験で、RPE65関連LCA(n=13)、LRAT関連LCA(n=5)のいずれかを有する18人の患者に対するQLT091001の1週間経口補充がなされた[Schollら2015]。その結果は、先に行われた第Ⅰ相臨床試験と一致するもので、大多数の患者で2ヵ月後には視力の改善がみられた。加えて、治療に対し反応がみられた例では、反応がみられなかった例に比べ、OCTで視細胞外節長が有意に長かったことから、この治療法が視細胞損傷から防護することが示唆された。この治療を受けた患者において、治療後、網膜全体にわたって杆体関連機能の急速な改善が併せてみられたことは注目に値する[Jacobsonら2015a]。
可逆的副作用がしばしばみられた。その具体的内容は、頭痛、疲労、羞明、光視症、紅斑、顔面紅潮、悪心・嘔吐、トリグリセリド・LDL・コレステロール・AST・ALTレベルの上昇、HDL・サイロキシンレベルの低下といったものであった。また、レチノイドに共通することが知られているクラスエフェクトとしての頭蓋内圧亢進も報告されている。
この経口レチノイドについては、第Ⅲ相臨床試験が計画段階にある。経口レチノイドは、視覚サイクルの障害を伴う遺伝性網膜疾患に単独療法として用いた場合の有用性だけでなく、遺伝子治療と組み合わせることで、さらなる相乗効果を生む可能性も併せもっている。
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
注:現時点で本疾患に関する臨床試験が行われているとは限らない。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
RPE65関連Leber先天黒内障/早期発症重症網膜ジストロフィー(LCA/EOSRD)は、常染色体潜性の遺伝形式をとる。
家族構成員のリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
RPE65-LCA/EOSRD罹患者の子は、RPE65の病的バリアントに関し、ヘテロ接合者(保因者)となる。
他の家族構成員
発端者の親の同胞は、RPE65の病的バリアントの保因者であることに関し、50%のリスクを有する。
ヘテロ接合者(保因者)の特定
リスクを有する血縁者に対して保因者の検査を行うためには、事前に、家系内に存在するRPE65の病的バリアントを特定しておく必要がある。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
リスクを有する血族に対して行う早期診断・早期治療を目的とした評価関連の情報については、「臨床的マネジメント」の中の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。
家族計画
出生前検査ならびに着床前遺伝学的検査
家系内に存在するRPE65の病的バリアントが特定されている場合は、高リスクの妊娠に備えた出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。出生前検査の利用に関しては、医療者間でも、また家族内でも、さまざまな見方がある。現在、多くの医療機関では、出生前検査を個人の決断に委ねられるべきものと考えているようであるが、こうした問題に関しては、もう少し議論を深める必要があろう。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:RPE65関連Leber先天黒内障/早期発症重症網膜ジストロフィー:遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specificデータベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
RPE65 | 1p31.3 | レチノイドイソメロヒドロラーゼ | RPE65 @ LOVD | RPE65 | RPE65 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:RPE65関連Leber先天黒内障/早期発症重症網膜ジストロフィー関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)
180069 | RETINOID ISOMEROHYDROLASE RPE65; RPE65 |
204100 | LEBER CONGENITAL AMAUROSIS 2; LCA2 |
分子レベルの病原
正常の視細胞は、発色団の11-cisレチナールが光子によりall-transレチナールへと異性化されることで光を感知している。この発色団は、杆体・錐体のオプシンと結合してロドプシンやその他の視物質を形成し、光伝達の中心的役割を担っている。その後、all-transレチナールは、続けて光シグナル伝達を行うため、視覚サイクルと呼ばれる経路で、再び11-cisレチナールへと変換される必要がある。RPE65は、all-transレチナールから11-cisレチナールが再生される際の鍵となる律速酵素である。
そのため、RPE65が機能しない状況下では、11-transレチナールから11-cisレチナールへの再生が行われないことになり、視細胞内での光伝達が欠損し、網膜変性に至る。これはレチニルエステルの蓄積に起因すると思われる。
疾患の発症メカニズム
病的バリアントはすべて、RPE65の機能を完全に失わせるか、重度に減弱させるといった状況を引き起こす機能喪失型アレルであると考えられている。
RPE65特異的な検査技術上の考慮事項
これまでに報告されている200を超える病的バリアントのほぼすべてが、配列解析で検出しうるものである。ただ、1つだけ、早期発症網膜色素変性症と診断された1家系6人の子どもで、エクソン1-7にまたがるホモ接合性の欠失の例が存在する[Al-Gazali&Ali2010]。
表5:RPE65の注目すべき病的バリアント
参照配列 | DNAヌクレオチドの変化(別表記1) | 予測されるタンパク質の変化 | コメント[参考文献] |
---|---|---|---|
NM_000329.2 | c.1103A>G (c.T1156C) |
p.Tyr368His | ドイツ人集団における創始者バリアント[Yzerら2003,Astutiら2016] |
c.292_311del | p.Ile98HisfsTer26 | コスタリカにおける創始者バリアント[Glenら2019] | |
c.242G>T | p.Arg81Ile | ||
c.419G>A | p.Gly140Glu | ||
c.1338G>T | p.Arg446Ser | ||
c.11+5G>A | p.? | 多くみられる病的バリアント[Astutiら2016,Chungら2019] | |
c.271C>T | p.Arg91Trp | サウジアラビアとチュニジアで多くみられる病的バリアント[Astutiら2016] |
表中のバリアントは、著者の提供したものをそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独立した立場でバリアントの分類を確認したものではない。GeneReviewsは、HumanGenomeVariationSociety(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準じた表記を行っている。命名法の説明に関しては、「QuickReference」を参照されたい。
Gene Reviews著者: DanielLChao,MD,PhD,AmandaBurr,MS,CGC,andMarkPennesi,MD,PhD.
日本語訳者: 佐藤康守(たい矯正歯科)、平岡美紀(北海道医療大学病院眼科)
GeneReviews最終更新日: 2019.11.14. 日本語訳最終更新日: 2023.7.15.[in present]
原文: RPE65-RelatedLeberCongenitalAmaurosis/Early-OnsetSevereRetinalDystrophy