二次医療データは「真実」を語る?薬剤疫学研究の落とし穴と賢い情報の読み解き方

https://bmcmedresmethodol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12874-019-0695-y

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Guillermo Prada-Ramallal氏らが執筆した「Bias in pharmacoepidemiologic studies using secondary health care databases: a scoping review」というタイトルの論文で、BMC Medical Research Methodology誌に2019年に掲載されたものです。

この論文は、医療記録や行政データベースから得られる臨床データや治療データが、臨床研究や疫学研究に新たな機会をもたらす一方で、これらのデータベースには固有の限界があり、新たなバイアスが生じやすいという背景に基づいています。

この研究の目的は、二次データベースに基づく観察的臨床研究に特有のバイアスを構造的にレビューし、それらのバイアスを軽減するための戦略を提案することです。

調査方法としては、2000年から2018年までの科学文献をMEDLINE、EMBASE、Web of Scienceで自動検索し、さらに参考文献リストの手作業による相互チェックで補完したスコーピングレビューが行われています。対象となったのは、二次データベースを用いた医薬品疫学研究における何らかのバイアスの存在を指摘することを主目的とした、意見論文、方法論的レビュー、分析研究、シミュレーション研究、編集者への手紙、または撤回論文です。

結果として、合計117の論文がこのレビューに含まれており、潜在的なバイアスに関する出版物の数が増加傾向にあることが示唆されています。

この論文はスコーピングレビューであるため、個々のバイアスの詳細なメカニズムを深く掘り下げるというよりは、どのようなバイアスが存在し、それらに関する出版物が増加傾向にあることを示唆している点が主眼となります。

  • 情報バイアス (Information bias):
    • 誤分類 (Misclassification):
      • 曝露(薬剤使用)やアウトカム(疾患の発生)の定義が不正確であることによる誤分類。例えば、診断コードが正確でない場合や、薬剤処方データが実際の服用状況を反映していない場合などが考えられます。
      • 論文の参考文献にも “Misclassification of current benzodiazepine exposure by use of a single baseline measurement” (Ref. 164) という記述があり、これは薬剤曝露の誤分類を示唆しています。
    • 測定バイアス (Measurement bias): データベースのデータ収集方法や記録方法に起因するバイアス。
  • 選択バイアス (Selection bias):
    • 適応による交絡 (Confounding by indication): 薬剤が特定の症状や疾患を持つ患者に処方されるため、その薬剤の効果と疾患の重症度や他の特性が混同されること。これは二次データベース研究で最も一般的なバイアスの一つです。
    • 健常者バイアス (Healthy user bias): 健康意識の高い人が特定の薬剤を服用する傾向があるため、その薬剤が実際以上に良い効果を持つように見えてしまうバイアス。
    • プロトコール逸脱による選択バイアス (Selection bias due to protocol deviation): データベースの特性上、特定の患者群が分析から除外されたり、逆に過剰に含まれたりすることによって生じるバイアス。
  • 交絡 (Confounding):
    • 残余交絡 (Residual confounding): 既知の交絡因子が十分に調整されていない、あるいはデータベースに利用可能な情報がないために調整できない交絡因子によるバイアス。
  • 時間関連バイアス (Time-related bias):
    • イモータルタイムバイアス (Immortal time bias): 観察期間中に「生存している」ことによってのみ曝露される期間が生じ、それが観察期間中に「死亡する」といったアウトカムから保護されるように見えてしまうバイアス。これは特に、薬剤曝露の開始時点とアウトカムの観察開始時点の定義が不適切だと発生しやすくなります。論文の参考文献にも “Immortal time bias in observational studies of drug effects in pregnancy” (Ref. 167) や “Understanding and avoiding immortal-time bias in gastrointestinal observational research” (Ref. 166) といった記述が見られます。
    • 不測の期間バイアス (Immeasurable time bias): 病院での入院期間など、特定の期間がデータとしてうまく捕捉できないことによって生じるバイアス。参考文献にも “Immeasurable time bias due to hospitalization in medico-administrative databases” (Ref. 165) とあります。
    • 追跡期間の不均一性 (Heterogeneity in follow-up time): 患者によって観察期間の長さが異なることによって生じるバイアス。

これらのバイアスは、二次医療データベースの特性(データの二次利用、臨床目的で収集されたデータ、非体系的なデータ収集など)に起因することが多く、医薬品の効果を正確に評価するためには、これらのバイアスを理解し、適切に対処することが極めて重要となります。

ナチスの悪夢が生んだ「生命倫理」:ヘルシンキ宣言と現代医療への問い

中村利仁先生のヘルシンキ宣言にかかる記事をAIに提供して、解説してもらいました。

Vol. 378 ナチスドイツとヘルシンキ宣言 | MRIC by 医療ガバナンス学会

私はこの領域に明るくないですが、記事内容の史実上のファクト確認はしました。

少し補足があったほうが良いと思いましたのは「暗殺を合法化する法律が制定された」という表現は、特定の粛清を事後的に正当化した法律であり、一般的な暗殺合法化法ではない点です。

粛清後、ヒトラー政権はこの行動を正当化するため、**1934年7月3日に「国家の自己防衛に関する法律」**を制定しました。

この法律は、6月30日から7月2日の行動を事後的に合法化するもので、ヒトラーの命令による殺害を「国家の緊急措置」として正当化しました。

つまり、裁判なしの殺害を合法とする前例が作られたのは事実ですが、これは「暗殺を合法化する一般法」ではなく、特定の事件に対する事後法です

(阿部良男『ヒトラー全記録 20645日の軌跡)


🕰️ 歴史の中の「普通の人々」と非倫理的行為

ナチス・ドイツが政権を握ったのは1933年のことでした。彼らは選挙と議会の手続きを通じて合法的に政権を獲得し、「授権法」という法律によって、国会の承認なしに法律を制定できる独裁体制を築きました。

このようにして整えられた法制度のもとで、ナチスはユダヤ人や障害者、ロマ(ジプシー)などを対象とした迫害政策を進めていきました。驚くべきことに、これらの政策の多くは、**当時のドイツ国内法に照らして「合法」**とされていたのです。


🚂 協力した「普通の人々」

ナチスの政策は、少数の狂信的な指導者だけで実行されたわけではありません。ユダヤ人を強制収容所に送る列車を運行したのは、日々の業務をこなす鉄道員たちでした。行政文書を処理したのは、地方の役所の職員たちでした。彼らの多くは、命令に従い、法に従って行動していたにすぎないと感じていたのです。


🧪 医学研究の名のもとに

医学の分野でも同様のことが起きました。ナチス政権下では、戦争や人種政策に関連した非人道的な人体実験が行われました。これらの実験には、低温実験、高高度実験、毒物や感染症の投与、双子の遺伝子研究などが含まれます 。

これらの実験を行ったのは、特別な狂人ではなく、当時の基準では「優秀」とされた医師や研究者たちでした。彼らもまた、国家の命令や法制度に従って行動していたのです。


⚖️ 戦後の裁きと倫理の空白

第二次世界大戦後、ナチスの戦争犯罪を裁くためにニュルンベルク裁判が開かれました。その中の一つが「医者裁判」と呼ばれる法廷で、人体実験に関与した医師たちが裁かれました。

しかし、裁判官たちはすぐにある問題に直面します。これらの行為を裁くための明確な国際的な法律や倫理基準が存在しなかったのです。つまり、「これは明らかにおかしい」と感じながらも、それを法的にどう裁くかが難しかったのです 。


📜 ニュルンベルク綱領の誕生

この問題を解決するために、アメリカの軍医レオ・アレキサンダーらが中心となって、人間を対象とする医学研究における倫理原則を10項目にまとめたのが「ニュルンベルク綱領」(1947年)です。

この綱領では、被験者の自発的な同意や、不必要な苦痛の回避研究の社会的意義などが明確に定められました。これは、現代の医学倫理の出発点となり、後の「ヘルシンキ宣言」などにも大きな影響を与えました。

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