ILCOR Advisory Statements: Advisory Statements of the International Liaison Committee on Resuscitation

【翻訳:救急医療情報研究会・有志】

目次

はじめに
Introduction
原文
成人の一次救命処置
Adult BLS
原文
二次救命処置の共通アルゴリズム
Universal Algorithm
原文
早期除細動
Early Defibrillation
原文
小児の心肺蘇生法
Pediatric Resuscitation
原文
個々の状況での蘇生
Special Resuscitation
原文


小児の心肺蘇生法
(Pediatric Resuscitation)


目 次


目的 (Purpose)

 このまとめは ILCOR の小児の心肺蘇生法検討委員会の審議を反映している。ILCOR の最終目的は国際的な蘇生法検討会議や協会によって出版されている各種ガイドラインの一貫性を形成することである。このまとめの目的は,現在の小児の一次および二次救命処置のガイドラインの矛盾点と論争点を照らしだし,考えられる解決策を概説し,この委員会の合意によって到達した推奨手技を提供することである。未解決な問題点が列挙されて、現在活用されているガイドラインにおける研究上の関心や調査のうちで、2、3の分野が強調されている。この報告書は,目立った論争(問題点)の無いガイドラインについては、必ずしもそのすべてをリストアップしてはいない。蘇生のためのアルゴリズムの図は,傷病者の状態の判断と対処の仕方の一般的な流れを図示しようと試みた。これは,できるだけ成人傷病者の一次救命処置 (BLS) および二次救命処置(ALS) のアルゴリズムを補足するように調整された。新生児の心停止に対する蘇生には、病因論や生理学、方法論に関して特有かつ困難な課題があるため、本委員会では新生児の初期蘇生法について検討するための独立部門を新設した。成人のアルゴリズムから派生した他の領域についても言及し,その根拠についても本文の中で説明している。

 小児のみを対象としたデータ(蘇生後の転帰に基づく妥当性)がないので、常識(表面的な妥当性)や、教えやすく教えられたことを維持できるかどうか(教育的効果の妥当性)を基にして、推奨したり、その根拠としたりした。推奨されている手技の実用性については、地域の資源(技術・人)や慣例に十分配慮した上で、常に検討されなければならない。この報告の編集に際して,アメリカ心臓協会(AHA),カナダ心臓・脳卒中財団(HSFC),ヨーロッパ蘇生会議(ERC),オーストラリア蘇生会議(ARC),南アフリカ蘇生会議(RCSA)などから出されている今日の小児のガイドラインの間にはほとんど違いがないということは,今回の委員会の参加者の驚きであった。


背景(Background)

小児心肺停止の疫学と経過,および小児の蘇生における評価と処置の優先順位と手技、手順は成人のそれらとは異なる。それゆえ、小児の蘇生のために作成されるあらゆるガイドラインは、新生児、乳児、小児、青年という各年齢層(訳注1)に特有のニーズについて明記することが不可欠である。しかし残念なことに,これらの成人との相違を示す特別のデータは、いくつかの理由で量質共に不足している。すなわち,(1)小児心停止は希である,(2)ほとんどの状況で、心静止であったとの記録が残されている症例の生存率は惨澹たるものである,(3)ほとんどの小児の研究では,対象患者の組み込み規準(訳注2)に不一致があり、また蘇生結果の定義や評価についても同様の問題がある)。小児蘇生技術を確証し,あるいはより一層良いものにするために、新生児のデータを含め、小児に特有のデータをさらに蓄積してゆく必要がある。

 一般に一次性の病院外心停止は、小児や青年においては、より高齢者におけるよりも少ない6-8。そして,小児おいては原発性の呼吸停止は,原発性の心停止より原因としてはより多いと思われる 9-13。しかしながら,小児の心停止に関するほとんどの報告は症例数が不十分であったり、除外規定のためにその研究結果を一般的、国際的な小児群に広く当てはめることが不可能であったりする。アメリカで15年間にわたって行われた病院前心停止に関するレトロスペクティブ(遡及的)な研究では,病院前心停止 10,992例中、30才未満であった症例はわずか 7%、8才未満の症例はわずか 3.7%であった6 。イギリスにおける病院内心肺蘇生法施行例のうち、0〜14才の症例はわずか 2%であった14

 小児の心停止が突然起こることはまれである。小児の心停止は、むしろ呼吸機能の悪化やショックが進行した場合の終末像であることが多く、典型例では徐脈が進行して脈なし電気活動や心静止に至る15,16。小児期および思春期の来院前心停止患者においては、心室頻脈や心室細動の頻度は 15%ないしそれ以下と報告されている6,7。さらに、心電図が第一対応者(ファースト・レスポンダー)によって評価された場合ですら、同様の頻度であった17,18

 ほとんどの研究の結果では,来院前心停止後の救命率は,約3%〜17%に過 ぎず,しかも生存者はしばしば神経学的に重篤な障害を残す7,9-11,15,17-23 。加えて,ほとんどの小児蘇生の報告は,研究計画がレトロスペクティブ(遡及的)であり,蘇生の定義および対象患者の組み入れ規準に一貫性のないことに問題が残る。結果として,特定の蘇生手技の効果についての結論は、統計学的な分析に基づいているものであっても、信頼できるものではない。これらの問題のいくつかは,小児ウツスタイン・スタイルのガイドラインにおいて定式化された、二次救命処置の結果を報告するための統一したガイドラインの適用によって改善されるべきである24。大規模なランダマイズされた多施設,多国間の臨床試験が明らかに必要とされる。

訳注1:原文中に newly born, infant, child, adolescent, young adultなどの語が出て来るが、筆者がどのような年齢で区分しているかは記載されていない。次の「Age Definitions: What Defines an Infant, Child, and Adult?」でも強調されているように、暦年齢のみならず、個人差による体格や、発育の違いによる質的な差などを考慮すべきことは当然であるが、本ステートメントに関する共通理解をもたらす上で一応の年齢区分を表示することが必要ではないか。

訳注2:本稿で出てくる統計用語 exclusion criteria と inclusion criteria については、以下のサイトを参照されたい。
http://wwwinfo.ncc.go.jp/jjco/fukuda/fukuda1.html


年齢区分の定義:乳児,小児,成人を区別するものは何か?
(Age Definitions: What Defines an Infant, Child, and Adult?)

 現在、蘇生の手順と手技の適用を決定するにあたって最も重要視されているのは傷病者の年齢である。しかし、年齢だけでの区別では不十分である。また、成人から小児を,小児から乳児を区別する単一のパラメータが存在しない以上、「小児」と「成人」を、どの年齢で区切ったところで、確かな根拠があるわけではない。以下に挙げる要素を考慮すべきである。

解剖学的要素

 乳児の上限がほぼ1歳である、ということでは見解が一致している。一般的に,ほぼ8才までの傷病者に対しては片手で心マッサージをすることができる。しかし,傷病者の体格や,救助者の体格、体力には個人差があるので,大人に対して行うような、2本の手で行 なう心マッサージの技術が必要となることもある。例えば,慢性疾患を持つ乳児なら、体格が小くて両手の親指と他の指で輪を作るようにして(circular hand technique)心マッサージをすることができる場合もあるだろうし、逆に、6〜7才の子供でも体格が大きい 場合には片手での心マッサージができないこともある。救助者の体格が小さい場合には、子どもの傷病者の心マッサージを効果的に行うために両手が必要となることもある(*)。

*訳注:年齢層ごとに推奨される心マッサ−ジの手技については図1を参照されたい。ここで circular hand technique とは救助者の両方の手掌を児の背部に入れて土台とし、両方の拇指で児の胸骨を圧迫する方法で、図1では encircling thumbs という名称で記載されている。

生理学的要素

 新生児は、生理学的な観点を導入することで蘇生介入の方法がどれだけ変わりうるかを示す一例である。胎生から新生児への移行期、すなわち周産期においては循環動態が変化する結果、大量の体外シャントが発生する可能性がある。液で満たされている肺胞は,最初の換気の際にはそれ以降の人工呼吸に比較してより高い圧で息を吹き込む必要がある。肺を膨らませ,またしぼませるための吸気、呼気の時定数と送気量は,解剖学的および生理学的発達に応じて調節する必要がある。

疫学的要素

 理想的には,蘇生手順は心停止の原因として最も可能性の高いものを想定して決めるべきである。新生児の場合は,呼吸不全に関連した心停止の可能性が最も高い。乳児期後期、および小児の場合は,呼吸不全や,ショック,神経学的機能不全の進行に関連して発生する心停止が多い。一般に、小児の病院前心停止の特徴は、心静止に先行する呼吸停止があり、それに伴って低酸素性,高炭酸ガス性の心停止に至ることであると言われている 10,25,26。この ため,(通信指令センターへの早期の連絡や除細動よりもむしろ)早期の人工呼吸,早期のCPRに集中することが妥当であろう。早期の効果的な酸素化や人工呼吸をできるだけ素早く行なわなければならない。しかし、不整脈による一次性の心停止も起こり得るので、心臓病を罹患している患者や、心筋炎の可能性が疑われるような病歴を持つ患者では、特に注意すべきである。

蘇生法の流れと救急医療システム(EMS)への連絡

 初期に行うべき救命処置の手順は、各地域における救急医療システム(EMS)への第 一報から現場到着までの所要時間、通信指令員への指令訓練の内容、および救急医療システム(EMS)の蘇生プロトコールによって決まる。 や指令課員の教育水準、救急医療システム(EMS)の 蘇生プロトコールによって決まる。加えて、一連の蘇生処置は、傷病者の心停止の原因 として最も可能性の高いものを配慮したものでなくてはならない。おそらく、40歳以下 の傷病者では、心肺停止の最大の原因は、呼吸不全または外傷、あるいは両者の合併で あり、6,8 ,一次性の心室細動(VF)の頻度は比較的低い。一連の蘇生法の手順を決定す る際、一つ重大な問題となるのは,心停止の原因が心臓によるのか呼吸によるのかとい うことである。また病因に基づいた処置によって蘇生を成功に導く可能性がどの程度存 在するのかは、心肺蘇生法に関するもう一つの未解決の問題である。


小児の一次救命処置(Pediatric BLS)

反応性の評価

 反応が認められない場合には、気道・呼吸状態の評価、補助が必要となる。乳児や頸部の損傷が疑われる患者は,反応を確かめる際に身体を揺すってはならない。

気道

 気道確保の手段として、頭部後屈あご先挙上または下顎挙上(特に頸椎が不安定であったり,頸部の損傷が疑われるときには下顎挙上)を用いることに関して は、従来から合意されているとおりである。他の手技,たとえば舌・下顎引き上げ法(the tongue-jaw lift)は,もし最初に行うべき換気法(あご先挙上法)が,頭の位置を再度取り直しても不成功ならば考慮されても良い。意識のない小児傷病者の気道閉塞の一番ありふれた原因は舌である27。気道内異物が,強く疑われるならば,意識のないどんな乳児でも換気より先に舌・下顎引き上げ法をして,口腔内をよく見ることが優先されるが,どんな傷病者でも換気が遅れても良いというデータはない。盲目的な除去や口腔内異物が疑われないのに口腔内を視診することは,次のような理由で効果的でないように思われる:気道の完全閉塞を引き起こしている異物は急いで一瞥するだけでは,普通見えないし,取り除くことができない可能性もあり,取り除く試みが逆に気管内へ押し込んでしまう可能性もある。CPR中,効果的な換気を確保するための気道の開通を維持していく適切な方法に関しては,もっと多くのデータが必要である。

人工呼吸

 乳児および小児への救助者による吹き込み人工呼吸のテクニックに関しては,一般的 な合意が得られている。しかしながら,人工呼吸が最初に行われるべき回数は,現在推奨されているのは2〜5回とバラバラである.1-5。最初の人工呼吸を何回行なうのが最善か、に関しては明らかなデータがない。(過去に)2回という最小限の人工呼吸が試みられるべきという合意があった。最初の人工呼吸を2回より多く行う理由は,1)低酸素と高炭酸ガス状態が心停止の原因として疑われる状態では、効果的 に換気を行なうことが必須であること、2)一般市民では2回だけの施行で効果的に換気できるかどうか疑わしいこと、3)無呼吸、徐脈を呈した乳児において、酸素化を改善し効果的な心拍数を回復させるためには、多分2回以上の人工呼吸が必要という印象があること、の3つである。

 最初の人工呼吸は,ゆっくりと1.0〜1.5秒以上かけ胸をはっきりと持ち上げるだけの 十分な力で吹き込む。胃の中へ息を吹き込んで腹部を膨満させてしまう可能性を認識し,そうならないように対処し,注意を払うべきである28-30

 最近の乳児への人工呼吸の適切な方法は、1歳までの乳児に対しては,口対口鼻 人工呼吸が良いとされている。しかし,この年齢層においては,口対鼻人工呼吸も適切であろう31,32

 乳児や小児にはもっと多くの換気(1分間当たりの呼吸回数)を,成人には1分当た りのもっと多くのマッサージ回数を強調することが今も合意されている。 現在の推奨されている呼吸回数の根拠は,年齢相当の正常呼吸回数と心マッサージと の兼ね合いと救助者が実際に行えるという条件などに基づいている。 (図1参照)。CPR中,理想的な呼吸回数は(実際のところ)わかっていない。

循環

 呼吸も反応もない傷病者の脈拍の有無を判定する方法について、その正確さや正確に判定するために要する時間に関して小児独自のデータはない。一般市民や健康管理者(healthcare providers)が傷病者の脈を正しく探り当て,脈拍数を測定するのは不可能であるという報告もある33,34

 小児において、CPR中の脈のチェックの有用性は疑問視されてきている35 。さらに,脈のチェックは,一般市民に教えるのはむずかしい。医療介護者でも、よく訓練されているなら脈の触知は可能であり,ややこしい器具を必要とせず,またもっと良い代替手段もないので,診断のために脈拍を探すのは当然の事と思われる。しかしながら,脈がはっきりと触知できないならば,蘇生が10秒以上遅延されるべきではない。

心臓マッサージ

いつ開始すべきか?

 脈を触れない患者や,重要臓器を充分に潅流することができないほどの徐脈の患者 は、すべて心臓マッサージがなされてよいという合意がある。乳幼児期の心拍出量は心拍数に大きく依存しているので,著しい徐脈は通常心マッサ ージの適応となる。

心マッサージを行う部位は?

 剣状突起の圧迫を避けるように注意しながら,胸骨の下半分を圧迫することになっている。

圧迫する深さは?

 圧迫の深さは絶対的な深さではなく,相対的な深さが推奨される(例えば,4〜5 cm の深さまで圧迫するというよりも胸の厚さの約1/3まで圧迫するというように)。

 心マッサージの効果は医療介護者によって評価されるべきである。心マッサージの評価の方法は,脈拍の触知や呼気終末炭酸ガス濃度の評価や,(動脈ラインが設置されているなら)動脈圧波形の分析などによる。心マッサージ中に触知する脈拍は,CPR中の動脈の血流というよりも静脈の血流を反映することが少なくない36が,健康管理者にとっては,脈拍触知は心マッサージの効果を知るための最も広く使われている実践的な「素早い評価法」であることに変わりはない。

1分間にどの様な割合で圧迫するか?

 1分間に約100回の割合で圧迫することが合意されている。しかし,間に人工呼吸が入るので,実際には1分間の患者への圧迫は100回未満となる。

心臓マッサージ対人工呼吸の比は?

 乳幼児に対する心臓マッサージ対人工呼吸の理想的な比は分かっていない。教育的観点からいえば,あらゆる年齢に共通で、また一次救命処置、二次救 命処置にも共通の単一の心マッサージ対人工呼吸の比が望ましいであろう。最近,各蘇生法検討会議間で,心マッサージ対人工呼吸の比率が新生児では 3:1,乳 幼児では 5:1として合意された。成人のガイドラインとの違いの根拠は (1)小児心停止の最もありふれた病因は呼吸の問題であり,そのため人工呼吸が重 要視されるべきだということ, (2)乳幼児の生理的呼吸回数は成人のそれより多いこと, などである。実際の蘇生の回数(人工呼吸、心臓マッサージなどの回数)は 気道を確保するのに費やす時間 と救助者が疲れて何度も気道確保し直すことの影響に左右されるが、現時点で教育的 便利さの故に現在の推奨を変える根拠はあまりない。

 小児においては,体外心マッサージはいつも人工呼吸が伴われなければなら ない。心マッサージの1サイクルが終わる毎に、人工呼吸がなされなければならない。心マッサージと人工呼吸を同時に遂行することは避け,交互に行うことが推奨され ている。

救急通信指令センターへの連絡

 理想的には,一連の蘇生は心停止の原因によって決定されるべきである。小児心停止において,除細動を必要とする不整脈は比較的珍しく,いくつかの報告 では早期のバイスタンダーによる蘇生術により蘇生率が向上したという9,36,37 。しかしながら,一般市民に対しては、心停止の原因に基づいて異なる蘇生術の手順 を教える事は,実践的ではない。心停止の若い傷病者に対しては,「まず通報せよ」よりもむしろ「早めに通 報せよ」が推奨されているが,このことが何歳まで適応されるかということはまだ 決まっていない。 それぞれの地域の救急通信指令センターが対応出来るまでの時間や、指令セ ンターで電話による蘇生法指導が出来るかどうかが、上記の考慮すべき事より優先 する。

回復体位

 多くの回復体位が,特に麻酔からの回復時に小児の患者の処置に使われているけれど も,どんな特別の回復体位も,小児において科学的な研究に基づいて広く受け入れら れるというわけではない。理想的な回復体位として,以下の点を考慮することで合意されている。心停止の原 因,頚椎の安定性,気管への誤嚥の危険性,圧迫されている部位への注意,呼 吸・循環が十分に観察されるようにすること,気道が確保されていること,患者に いろいろ処置ができること,などである。

異物による気道閉塞の解除

 完全な気道閉塞に対して迅速に認識し,対処することは(各国の団体は)一致していることである。嵌入した気道内異物の除去法として背部叩打法,胸部圧迫法,腹部圧迫法の3つの方法が提言されている。その手順は各団体(蘇生法検討委員会)によって幾らか異なる。しかし,発表されたデータからは,或る一つの方法が他の方法に比較して勝るというものではない。乳児や新生児では上腹部の内臓が胸郭に保護されていないので,腹部圧迫法では医原性の外傷の危険性があるという点については一致しており,このため乳児と新生児には腹部圧迫法は推奨されていない。それに加えて、実際上から言って,背部叩打法は頭を低位にして行うべきであるので,年長児には物理的に困難であろう。新生児には背部叩打法や腹部圧迫法は危険性を秘めているので ,それよりも吸引法が推奨される。

感染防護対策

   健康管理者は,できるかぎり適切な防護器具を用いたり、universal precautionsに従った感染対策を講じるべきである。しかし、これらの器具の細菌・ウイルスに対する防護能力や、マスクの解剖学的な密着性、既に気道抵抗・死腔換気の増加している小児患者にそれらの器具を使用する事、小児の蘇生に伴う病原体伝染の実際のリスク、などの問題は解決されていない。



小児の二次救命処置(Pediatric ALS)

小児における自動体外除細動器(AED)

 心肺停止の小児の傷病者の中でVF症例がどれだけあるか本当のところわかっていない。病院到着以前に発生した小児心停止症例における初期の心電図診断については、報告が少なく、信頼性も乏しい。ほとんどの研究では、第一対応者によって救急通報後 6.2分以内に心電図波形が確認された場合ですら7,18、無脈性心室頻拍(VT)または VF が確認された症例は、全小児心停止症例の 10% 未満であった6,15-17,38。ある研究では,早期の除細動で治療されたVFは,現場であれ,病院であれ,心静止や脈なし電気活動よりも生存率は良かった20。 しかし,他の研究はこのデータを否定している7,18。自動体外除細動器(AED)の性能は向上したが、小児の VF/VTの治療に要するエネルギ−レベルは確定できていないし、VF/VTを診断・検出する性能についても評価は定まっていない。小児に対する AEDの適用については、年齢をも考慮すべきなのかもしれないが、対応後すぐに除細動器を装着し通電するという現行の(成人の)ガイドラインとほぼ同じでよいだろうと思われている。そのため、VF の早期発見とその治療が重視される小児の病態に関しては、さらなる研究が必要である。

静脈路の確保

 心停止の傷病者には,蘇生のための輸液と薬剤を投与するために,静脈路を確保する 必要がある。しかしながら、一次救命処置により循環をサポートすると同時に、 適切な呼吸を確保することが、まず第一である。薬剤を投与するために経静脈または経骨髄は好ましいルートではあるが,39-43,静脈路の確 保が遅れるときには,気管内ルートも使うことができる。気管内に投与されたエピネフリンの血中濃度は,静脈投与時より低いと思われる。薬剤濃度、希釈液の量また投与経路により、薬剤投与量を増加する必要が生じ得る44-47。特に6才までの傷病者には,脛骨の骨髄内ルートは静脈確保として有用であると合意 されている48,49。 また新生児には,緊急の静脈路として,臍静脈が見つけやすくしばしば使われている。

エピネフリンの投与量

 一般的に、エピネフリン(アドレナリン)の初回投与量は静脈内投与の場合、0.01 mg/kg (1:10000 溶液の 0.1 mL/kg )、気管内投与の場合には 0.1 mg/kg(1:1000 溶液の 0.1 mL/kg)であると考えられている。しかし、2回目以降の静脈内投与、および気管内投与では初回投与から、0.1 mg/kg ( 1:1000溶液の0.1 mL/kg )とすべきであり、これは Class IIaの推奨である。その理由は、反応がなく脈も触れない乳幼児の心停止例では悲惨な転帰に終わりやすいこと、また、エピネフリンの大量投与が有効であることを示唆するいくつかの動物実験、および小児を対象とした一つのレトロスペクティブ(遡及的)臨床研究50-54があることに基づいている。

 適切な心肺蘇生法を実施したにもかかわらず,エピネフリンの2回目までの投与で自己心拍が戻らない場合には,しばしば悲惨な転帰に終わる11,17,21。未熟児のように、頭蓋内出血のリスクの高い患者の場合、エピネフリンの大量投与には特に懸念がつきまとう。エピネフリン大量投与は、第1にその有効性が成人症例において否定的であること55,56、第2に全身的な高血圧および頭蓋内圧上昇(特に新生児において)、心筋内出血,心筋壊死57,58などの潜在的な有害作用があることの2点から、今後の研究によって有用性が示唆されない限り、この治療を推奨することには慎重にならざるを得ない。

心室細動(VF)に対する除細動・薬剤投与の手順

 VFと無脈性心室頻拍(VT)は乳幼児では比較的珍しい。薬剤の入手可能性や習慣の違いのため、薬剤の呼び方や2回目の除細動に用いるエネルギー量、次回薬剤投与までに試みるべき除細動の回数(図2参照)には地域による若干の違いがあるが、薬剤の投与量と除細動に用いるエネルギー量、およびVF/無脈性心室頻拍に対する処置手順に関しては、概ね一致した見解がある。まず最初に行なうべき治療は、2 J/kg から始め,最大 4 J/kgに至る3回連続の除細動である。以後、薬剤投与に続いて行なう最高3回までの連続除細動の手順は,各国の習慣と訓練実態に基づく。すなわち次のような例である。まず、最高3回までの除細動(2 J/kg, 2 〜 4 J/kg, 4 J/kg)を行い,次いで,アドレナリン(エピネフリン)の投与と心マッサージ。さらに最高3回までの除細動(4 J/kg)を行い,次に、アドレナリン(エピネフリン)を増量して反復投与,さらに、最高3回までの除細動(4J/kg)を行い,今度はその他の薬剤(リグノカイン(リドカイン)) の使用や,除きうる原因に対する治療を考慮する(一般的小児蘇生法基準,図3および図4参照 )。

CPRに伴う合併症

 乳幼児では,適切に行われた蘇生術による合併症の報告はまれである。CPR が適切行われた際の重大な合併症(肋骨骨折,気胸,気腹,出血,網膜出血,など)は, 小児では成人よりもはるかに少ないと思われる59-66。 ごく最近の研究では,蘇生訓練のいろいろな技術水準の救助者が行って,長くかかっ てしまった蘇生術にも関わらず,医学的に重大な合併症は患者の3%にしか起きなか った59。このため,小児では、脈がない,著しく徐脈で ある,あるいは、脈の有無を救助者が自信を持って判定できない、のいずれの場合でも胸部圧迫が行われるべきであるとの合意がある。



新生児のためのガイドライン (Guidelines for the Newly Born)

 米国内のデータベースや世界保健機構(WHO)、シアトル・キング郡 EMSシステ ムから得た情報67 を総合すれば、新生児のための早期処置手順を確立することが重要であることがわかる。米国では病院外出産は全出産の 1%だけだが、この場合の新生児死亡率は(病院内出産の)2倍以上となっている。全世界では 500万人以上の新生児が死亡しており、全出産の 56%が施設外出産である。新生児死亡率は高く、これらの死のうち 19%は新生児仮死によるものと思われる。データが明らかなのは死亡率に関してだけである。新生児仮死や不適切な新生児蘇生による合併症発生率はこれよりもはるかに高いと考えられる。全世界では、簡単な気道の処置により救命できる可能性がある新生児仮死症例は年間 90万件以上と推定されている。それゆえに、新生児の ILCORガイドラインが価値ある目標であることは意見の一致するところである。

 次に述べるものは、一次救命処置勧告ガイドラインの準備案として予定されているものであるが、新生児の場合、一次救命処置と二次救命処置とを明瞭に区別できるわけではない。新生児の二次救命処置に対する特別な ILCOR勧告ガイドラインの策定は、この報告の範囲外である。ILCORの構成組織が近い将来、新生児の二次救命処置について発表する事が望まれる。新生児の出産はたいてい予測できるので、小児や成人に対して予期せぬ一次救命処置を実施する場合より、はるかに高い確率で人手や器具を準備する事が出来る。理想的には、母親は最適な器具や新生児の蘇生に関して訓練されたスタッフがいる場所で出産すべきである。もしこれが不可能ならば、そのときは必ず出産場所に基本的な器具が備えてある事、あるいはそのような出産に必要な基本的な器具が分娩介助者のところに持ってこられなければならない。そのような器具には次に述べるものが含まれるだろう。

 生まれたばかりの新生児は、娩出後数秒以内に自発呼吸をするだろう(たいていは、泣くことで明らかになる)。この間に、介助者は暖かいタオルで新生児を乾かさなければならない。そして、新生児の体温を低下させないために濡れたシーツを取り除かなければならない。もし体がぐったりしていて泣いていなければ、直ちに蘇生が必要である。

新生児の一次救命処置

 (Fig 5 新生児の一般テンプレートを参照のこと)

1.刺激と反応性のチェック

a.新生児をタオルで拭いたり足の裏を軽く叩くことは最もよい刺激である。新生児を、強く叩いたり、揺すぶったり、お尻を叩いたり、逆さまに持つことは禁忌であり危険である。

b.啼泣の評価:出生直後によく泣く事は、初めての呼吸が十分なものであるという証として、一般的に認められている。もし泣いていれば、それ以上の蘇生の努力はおそらく必要ないだろう。

c.規則的な呼吸の評価:例え呼吸のパターンは不規則であっても、酸素化 に十分なだけの呼吸でなければならない(すなわち、中心性チアノーゼが持続しないこと)。正常な呼吸がなく、時々「あえぎ呼吸(gasping)」が混じるときは、一般的に危機 状態を意味しており、不十分な呼吸状態として治療されなくてはならない。 もし呼吸がほとんどなければ、通報するか助けを求めること。

2.気道の確保

a.気道をきれいにすること。もし血液か胎便がみとめられれば特にきれいにすること。このことは新生児にとって特に重要である。なぜなら気道が狭いので気体 が流れる時に高い抵抗を生み出すことになるから。気道をきれいにすることは、同時に呼吸を刺激する事になる。分泌物の除去は吸引器(バルブシリンジ、吸引カテーテル)によって 行わなければならない。別の方法としては、救助者の指に布を巻いて分泌物の除去を行ってもよい。

b.頭部を「においかぎ(sniffing)」ポジションにすること。 そして、過度の首の屈曲や過伸展は気道を閉塞する可能性があるので特に避けるこ と。

c.十分訓練された処置者が 必要な器具を用いて対応できる場合:新生児が大量の胎便で汚れていたなら、 最初の蘇生の処置として気管を吸引しなければならない。そのためには気管内挿管をして、利用できるどのような器具を使ってでも気 管内チューブに直接つないで吸引し そして吸引を続けながら気管内チューブを引き出すこと。もし胎便が回収(すなわち吸引)されたら、上記の気管内チューブを利用 した吸引を、吸引物が十分薄くなって、一般的に行われているように気管内チュー ブを通して標準の吸引チューブで吸入できる様になるまで繰り返す必要がある。

3.呼吸のチェック

a.啼泣の評価。もし強く泣いていたら、それ以上の蘇生の努力は必要とはしない。 啼泣が弱いか無い場合:空気の出入りと胸の動きを見て、聞いて、感ること。 そして自発呼吸の徴候を探ること。

b.もし自発呼吸が無いか不十分(あえぎgasping)なら、人工呼吸が必要である。この状態の新生児をこれ以上刺激することは、貴重な時間を無駄にする。

4.呼吸

a.バッグマスクは、人工呼吸のために最も効果的な器具の一つでは あるが、他の様々のの器具があり、また開発されつつある。その地域で利用できるもの、費用、習慣を考えて使用すればよいだろう。

b.もし、蘇生の器具が利用できないのであれば、口対口鼻人工呼吸を用いる ことを考えなければならない。母親の口で、乳幼児の口と鼻を有効に覆うことが可能かどうかについては、 いくらかの論議が存在するが、新生児については口と鼻両方か ら換気することをまず試みることで意見が一致している。新生児の顔には母親の血液や他の体液が付着しているので、救助者にはこれらによる感染の危険がある。口対口鼻人工呼吸を試みる前に、迅速に可能な限りこの物質を拭き去ること 。

c.胸部が明らかに挙上するのに十分な量の空気を新生児の気道に吹き込むこと 。

d.人工呼吸が効果的に行われているかどうかの目安として、胸部の挙上に注意する こと。もし、不十分であれば、頭部の位置を調整したり、気道をきれいにしたり、 口と鼻を完全に覆ったり、吹き込む圧力を強くする事を考える。

e.おおよそ30〜60回/分の速さで人工呼吸をすること。

f.最初の吹き込みは、小さくて液体に満ちている気道の抵抗にうち勝つために、 より高い吹き込み圧力が必要になることもある。

5.反応性の評価

a.30秒から1分人工呼吸を行ったあと、再び反応をチェックすること。それでもなお反応がなければ、人工呼吸を行い、毎回の吹き込みによる十分な胸部の挙上を注意深く観察すること。

b.啼泣や自発呼吸の他、脈拍を確認することによって反応性を評価することもできる。ただし、脈拍の確認は新生児の場合困難なこともあるので、脈の確認のために充分な人工呼吸がおろそかにならないよう注意が必要である。

c.人工呼吸を続け、評価すること(ステップ2を繰り返す)。 これは十分な反応(啼泣、呼吸、心拍数100回/分以上)があるか または、より高度な処置が可能となるまで、人工呼吸をしながら状態観察を続ける。もし、有効な自発呼吸が再開したなら、新生児を横向けにして回復体位にする。

6.心臓マッサージ

 a.一般の人の場合:新生児の蘇生において、 新生児に対する心臓マッサージは訓練されていない人 には勧められない。救助者が単独のときは特にそうである。換気は、新生児にほとんどの場合で最も必要なものである。しかし、心臓 マッサージにより人工呼吸の効果が減少するかもしれない。68

 b.訓練された処置者の場合:もし十分に訓練された処置者がその場にいて 、適切な換気によっても状態が改善されなければ、次に述べる手段をとらなければ ならない:

  1. 脈拍を調べる。新生児においては、脈拍は親指と人差し指の間で 臍帯の基部を軽くつかむことによって最も簡単に触れる。

  2. もし聴診器があれば、胸部を聴診し心音を調べてもよい。

  3. 10秒までに心拍数を評価すること。もし心拍数が60回/分以下で明らかに増加しないのであれば、心臓マッサージを開始する。もし心拍数が60回/分以上で増加するようであれば、人工呼吸のみを続行しつつ、60秒後に心拍数を再評価しても良い。

  4. 新生児の心臓マッサージは3回連続して行い、それに続いて1回の人工呼吸を行う(比率:1サイクルあたり3回の心臓マッサージと1回の人工呼吸)。速さは1分間におおよそ120の動作(-c-c-c-v-c-c-c-v- すなわち、-心マ-心マ-心マ-人工呼吸-心マ-心マ-心マ-人工呼吸-)である。

  5. 心拍数が60〜80回/分以上になるまで、あるいは二次救命処置として酸 素投与や、気管内挿管、エピネフリンが投与できるまで、おおよそ60秒毎に心拍数を 再評価し続ける。

7.その他の新生児に関する問題

 a.体温調整:体温喪失の減少のために新生児を乾かすことに加えて、蘇生の間中、乾いたタオルや毛布で児を包むこと。濡れた場所や液体の溜まった場所から新生児を移すこと。蘇生に成功したらすぐに、児を母親の胸(胸部)の肌の上に直接置き、 毛布で母児を覆うこと。

 b.感染防御:手洗いと手袋を着用すること。もし利用できるのであれば、 分泌物と接触するときの一般的注意事項(universal precautions)を利用すること。 清潔なタオル、毛布や器具を使用し、 救助者の血液や他の液体への暴露を避けること。

 c.臍帯:新生児が蘇生する前に臍帯を切断する必要はない。臍帯は児が自発呼吸を開始し、臍帯の脈拍が止まった後でなら切断してもよい。可能な限り、切断する器具や臍帯の結索糸は滅菌されていなければならない。これらは20分間の煮沸により滅菌してもよい。密閉パックされた新品の剃刀の刃は滅菌する必要はない。もし滅菌された器具がなければ、清潔な器具を使用しなければならない。臍帯は結索糸で2ヶ所を結ぶこと。剃刀、はさみまたはナイフを使って、結び目の間の臍帯を切断すること。

 d.母親のことも忘れてなならない。よく観察し、出産の合併症の可能性に注意すること。過度の膣からの出血、発作、感染は最も一般的な出産における母体の合併症である。母体と児を援助するための処置者を手配すること。


研究(Research)

 小児や新生児の臨床における蘇生結果のデータが不足していることから、 勧告を科学的に正当化することは困難となった。それゆえ、小児を対象とした臨床的なプロスペクティブ(前向き)研究を発展させることや、特に小児や新生児の問題に迫るような実験的あるいは動物の蘇生モデルを発展させることが、最も重要となる。データの収集は小児のウツタイン・スタイル・ガイドラインに従うものとする24,69。具体的なデータが緊急に必要とされている分野としては、心停止の病因論、処置の奏効率、合併症の頻度と程度、短期的、長期的に見た場合の神経学的または総合的な機能予後、教育の効果、蘇生手技に要する費用、が挙げられる。


論争のある領域、未解決の問題、そして追跡調査の必要性
(Areas of Controversy, Unresolved Issues, and Need for Additional Research)

 ILCOR小児検討委員会は世界共通の勧告声明を作成することの難しさを認識して いる。検討委員会では、北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、南アフリカで実施されている現行のガイドラインの理論的根拠について入念に再検討して、共通ガイドライン策定の動きの前から特に研究が必要と考えられていた、議論の多い領 域をはっきりさせた

 これらの問題点のいくつかを列挙する。

  1. 最初の蘇生処置とそれに続く一連の手順を定める際、心停止の原因に依拠するべきか、それとも現前の心リズムをうまく回復させる可能性のあるものにかけるべきか。(例:原因を考えるなら、小児の場合、低酸素による心停止。しかし、VFは除細動するのが最も望ましく、うまく蘇生できる。)

  2. 蘇生中あるいは蘇生後のVFに対して、一般的には何が用いられているか。

  3. 気道確保の後にまず試みるべき人工呼吸の回数は?(アメリカ心臓協会とカナダ心臓・脳卒中財団は2回、ヨーロッパ蘇生会議は5回、オーストラリア蘇生会議は4回、南アフリカ蘇生会議は2回、ILCORは2〜5回の人工呼吸)。

  4. 新生児および(または)乳児にとって、成人の口対幼児の鼻人工呼吸法は、成人の口対幼 児の口鼻人工呼吸法より優れているのか?

  5. 意識のある小児の窒息への対処の手順で、背部叩打、腹部圧迫、胸部圧迫のうち最も適 切なものはなにか?また、幼児へ換気を試みる前に口腔内の異物を確認するべきか?

  6. 乳児と小児に最適の回復体位は?

  7. 脈が無いときあるいは脈が遅すぎる場合に、ALSでは毎分何回以下の心拍数の時、心臓マッサージを開始しなければならないか(現在の徐脈の定義は、アメリカ心臓協会とカナダ心臓・脳卒中財団は 60/分未満。ヨーロッパ蘇生会議は 60/分未満。オーストラリア蘇生会議は 40〜60/分未満。南アフリカ蘇生会議は 60/分未満。ILCORは 60/分未満)。

  8. 心臓マッサージの最適の深さはどれくらいか?(胸部の厚さの 1/3〜1/2なのか、インチやセンチメートルの明確な数値なのか。ILCORはおおよそ胸部の厚さの1/3)

  9. 各年齢層に対する最適の心マッサ−ジ-換気の比率は? 新生児から成人まであらゆる傷病者に施行できる共通の比率は選べないのか。

  10. エピネフリンの適量は?(ILCOR:初回のアドレナリン(エピネフリン)の投与量は 0.01 mg/kg、それ以降は0.1 mg/kg)

  11. 小児のVFにおいて薬物治療の後実施すべき除細動のエネルギーと除細動の実施回数は?(ILCOR:薬物投与の後、2 J/kg, 2 〜 4 J/kg, 4 J/kg その後は 4 J/kgで 1 〜 3回)

  12. もし、除細動と初回のエピネフリンが有効でなければ、他の薬剤(例えばリドカインやリグノカイン)を使うべきか?

  13. AEDsを正確に確実に小児の患者に使用できるのか?

  14. アシドーシスがあると考えられる小児の患者においてアルカリ化剤はどのような役割を果たすか?

  15. 規則的な心調律がない小児の患者の蘇生における経皮ペーシングの役割は何か?

  16. 新生児に医療介護者が使用すべき一連の処置は何か?

  17. 新生児・乳児・小児にILCORガイドラインを適応した場合、心停止の予防、蘇生達成率、心肺停止から回復した例の神経学的予後にはどのような効果が見られるか。

 小児の心肺停止の疫学と成績、小児蘇生における評価と介入の優先順位、技法、順序は、成人の場合とは異なる。小児検討委員会は、アメリカ心臓協会、カナダ心臓・脳卒中財団、ヨーロッパ蘇生会議、オーストラリア蘇生会議、南アフリカ蘇生会議の各団体が提唱して実施しているガイドラインが、あまりにも一致していることに驚かされた。現在の相違点は、科学的な論点というよりも、地域や地方の好みや、訓練のネットワーク、慣習に基づくものである。小児のアルゴリズム/意思決定ツリー図では、評価や介入について、成人のものと対応する共通の流れに従おうとしている。

 小児のプレホスピタル心肺停止からの生存者の平均は、おおよそ3〜17%しかなく、生存者はしばしば神経学的に荒廃している。大半の小児の蘇生報告は遡及的研究のデザインであって、蘇生の定義と対象患者の組み込み基準が首尾一貫していないために悩まされた。大規模な無作為抽出多施設多国間臨床試験によるALS介入の成果を報告する際には、 統一されたガイドラインを注意深く思慮深く適用することが必要となるのは明らかだ。ILCORの小児に関する勧告声明は、必然的に発展し続ける生きたガイドライン となるだろう。世界中で幼児や小児の蘇生成果の改善に心を砕く国内外の組織 によって育まれてゆくからである。


Appendix

Pediatric ILCOR Participants

Robert Bingham, MD (European Resuscitation Council [ERC]); Jon Bland, MD (ERC); David Burchfield, MD (AHA/American Academy of Pediatrics [AAP]); Leon Chameides, MD (AHA); Mary Fran Hazinski, MSN, RN (AHA); John Kattwinkel, MD (AHA/AAP); Efraim Kramer, MD (Resuscitation Councils of Southern Africa); Vinay Nadkarni, MD (AHA); Linda Quan, MD (AHA); F.G. Stoddard, PhD (AHA); James Tiballs, MD (Australian Resuscitation Council); Patrick Van Rempst, MD (ERC); Arno Zaritsky, MD (AHA); David Zideman, MD (ERC); and Jelka Zupan, MD (World Health Organization).


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(Click the name of the first author to read the abstract.)

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