帝京大学医療技術学部臨床検査学科
鈴木幸一教授の研究室HP

 

Laboratory of Professor Koichi Suzuki
Department of Clinical Laboratory Science, Faculty of Medical Technology
Teikyo University.  2-11-1 Kaga, Itabashi, Tokyo 173-8605, Japan
 
研究室は2015年4月より、国立感染症研究所ハンセン病研究センター
感染制御部第8室(感染診断室)から上記に移動しました。

〒173-8605 東京都板橋区加賀2-11-1
帝京大学医療技術学部臨床検査学科

代表電話:03-3964-1211(内線 46130)
FAX:03-5944-3354

教授室:2号館B1教授室7(内線46130)
研究室:大学棟5階FRU505-2(内線45597)

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帝京大学医療技術学部臨床検査学科 鈴木幸一教授の研究室HP

Department of  Clinical Laboratory Science, Faculty of Medical Science, Teikyo University
Laboratory of Professor Koichi Suzuki
 

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主な研究テーマ

あらゆる核酸の簡易迅速検出法の開発研究

 
 新型コロナウイルスのような新興感染症のゲノム情報がわかった時点ですぐに簡易検査が可能となる基盤技術の開発を行っています。専門的な知識、高額な装置、複雑なピペット操作などを必要としない、誰にでも簡単に出来る全く新しい方法を目指しています。いくつかの感染症についてはキット化を進めていますが、病原体ゲノムの検出だけでなく幅広く核酸を検出する方法になるはずです。
 
 
 

ブルーリ潰瘍を初めとする皮膚NTDsに関する研究

 
 ブルーリ潰瘍は西アフリカを中心にみられる皮膚抗酸菌感染症で、WHOが指定する「顧みられない熱帯病:Neglected Tropical Diseases (NTDs)」の1つです。菌は河川や池なので環境中の水に存在し、そこから感染すると考えられています。世界で年間約2,000例、日本でも数例の発症が報告されていますが、この病気の存在も余り知られておらず、診断がついていない症例も多く存在すると考えられます。
 私達はこれまで日本の症例の診断、感染源の特定、治療法の解析などを行ってきましたが、2018年から日本医療研究開発機構(AMED)の研究費を得て「西アフリカにおけるブルーリ潰瘍とその他の皮膚NTDs対策のための統合的介入」の研究を開始しました。
 この研究では、コートジボワールとガーナの研究機関や政府機関と共に以下の4つの研究を実施します。1) LAMP法とDNA chromatography法を組み合わせたブルーリ潰瘍の迅速診断法の開発。2) 携帯型DNAシークエンサーを用いた、患者由来の菌と環境中の菌を比較する分子疫学的研究による感染経路の特定。3) 新規に開発するスマートフォン・ツールを用いた遠隔皮膚診療システムを駆使したブルーリ潰瘍と皮膚NTDsのための統合型サーベイランスの構築。4) ブルーリ潰瘍やその他の皮膚潰瘍に対して、開発途上国の現状に即して実施可能な創傷治療法の提案と包括的患者マネーてジメント法の確立。
 
 
 

サイログロブリンが持つ遺伝子発現調整機構に関する研究


 サイログロブリン(Thyroglobulin; Tg)は甲状腺の最も主要な転写産物・タンパクであり、そのチロシン残基にヨードを有機化することでホルモン合成の基質となっています。しかしながら、私達はこのサイログロブリンが、甲状腺特異的な転写因子の発現を強く抑制することで濾胞機能を制御する重要な自己調節因子であることを明らかにしました。つまり、甲状腺全体としての機能は下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の制御下にありますが、個々の濾胞機能はそれとは全く独立して、濾胞内に蓄積するサイログロブリンの濃度依存性に負に調節されることを証明しました。これは、自己の産物によってその機能が抑制されるという、完全なネガティブフィードバック機構です。
 また、サイログロブリンが、TSH非存在下でも甲状腺や腎メサンジウム細胞の増殖を強く誘導することも示してきました。サイログロブリンは、TSHの作用を全く打ち消すほど強力な生理活性物質であり、生理的な濾胞機能の維持に中心的な役割を果たしています。しかしながら巨大分子であるサイログロブリンがどの様にして細胞にこのような作用を及ぼすのかについては未だ不明のままです。そのサイログロブリン作用に異常が起こった場合には、濾胞機能にも大きな影響を与えることは間違いありません。したがって、サイログロブリンが持つ作用機序が解明されることで、甲状腺濾胞機能の生理的維持機構が明らかになるばかりでは無く、発症の原因が不明である多くの甲状腺機能異常症や甲状腺腫や腫瘍の発症誘因が明らかになる可能性があると考え、研究を進めています。
 
 
 

甲状腺濾胞機能調節機構の研究

 
 甲状腺の最小機能単位は特徴的な濾胞構造であり、そのような濾胞構造はそれを取り囲む全ての濾胞上皮が共有する1個の巨大な分泌顆粒に存在すると私達は位置付けています。甲状腺濾胞上皮細胞は、分泌、蓄積、吸収など複数の機能を有しており、その構造と機能は極めて特異なものがあります。このような濾胞構造の構築や機能発現の過程を発生や再生などの様々な局面から解析を進めています。
 
 
 

2本鎖DNA (dsDNA)による自然免疫活性化機構に関する研究


 私達は、病原体のDNA、組織傷害やアポトーシスの際に放出される自己ゲノムDNA断片、遺伝子治療やDNAワクチンで用いられるプラスミドそのものなど、2本鎖構造を持つあらゆるDNA (dsDNA)は、自然免疫系を強く活性化し、自己免疫反応を誘導するなど生体に有害な作用ももたらすことを報告しています。特に、特定の臓器の微小環境中の虚血再灌流やその他の原因による細胞傷害によって核外に漏出した自己ゲノムdsDNAが、近隣の細胞に取り込まれることによって上記の自然免疫活性化が起こるとすると、明らかな感染など特定の原因が明確では無い自己免疫疾患の発症誘因として有力です。これとは逆に、生理的に細胞が死滅する際のdsDNAには、何らかの生理的に有益な役割を担っている可能性も考えられます。私達は、このようなdsDNAを認識する細胞側のメカニズムや、そのような刺激が疾患の発症やワクチン効果などに与える影響に関して研究を進めています。
 
 
 

自然免疫活性化と自己免疫発症との因果関係に関する研究

 
 自己免疫疾患の多くは、複数の遺伝的要因と環境要因とが複合的に作用して発症する多因子疾患ですが、そのような異常な免疫反応を引き起こす直接の誘因は未だ不明のままです。甲状腺は代表的な自己免疫標的組織であり、感染やインターフェロン(IFN)投与を契機として自己免疫を発症する症例も多く報告されています。そのような症例は、自然免疫系の活性化が自己免疫発症に関与する可能性を示唆していますが、そのメカニズムは解明されていません。このような症例の自己免疫発症機序を明らかにすることは、発症誘因が明確ではない多くの自己免疫の病態の理解にも寄与すると考えられます。私達は、近年大きく進展した自然免疫系の役割に関する知見に基づき、甲状腺における自己免疫発症の分子機構を自然免疫系との関連において明らかにすることを目標として研究を行っています。また、これまでの私達の研究において既に候補の絞り込みが進んでいる小分子薬剤が持つ甲状腺における自然免疫作用の抑制機序を明らかにすることによって、全身的な免疫抑制などの副作用を回避可能な効果的な免疫抑制剤の開発に向けた研究を行っています。
 
 
 

抗酸菌の細胞内潜伏機構の研究


 抗酸菌は、マクロファージという免疫の中枢細胞の中で潜伏、寄生しますが、そのような細胞内寄生は、ハンセン病の起因菌である「らい菌」で最も顕著に認められます。逆に言うと、らい菌は細胞内に寄生しなければ生きていくことが出来ない、弱い菌であるとも考えられます。したがって、らい菌の細胞内寄生機構の研究は、他の抗酸菌の理解にも役に立つ格好のモデルになると考えられます。私達は、本来らい菌を排除する働きを持っているはずのマクロファージが菌を受容してしまうメカニズムに関して研究を行っています。その結果、らい菌感染によってファゴゾーム膜に誘導されるCORO1AToll-like-receptor (TLR)およびTNFαによるNF-κBIFNβの活性化を抑制することを見い出しました。一方、TLR2リガンドであるペプチドグリカン(PGN)でマクロファージを刺激するとCORO1Aの発現を抑制しますが、同じくTLR2を刺激するらい菌感染ではそのような抑制は見られませんでした。すなわち、らい菌は、感染による自然免疫の活性化を抑制するような働きを持っていると考えられます。このような菌と宿主間の相互作用を明らかにすることで、感染や発症の分子機構や新しい治療標的が見つかるものと考え研究を進めています。
 
 
 

らい菌貪食マクロファージにおける脂質蓄積機構の研究


 らい腫型(L)ハンセン病において、らい菌は組織マクロファージのファゴゾーム内に充満する脂質の中で生存しますが、そのように大量の脂質の蓄積を可能にするような分子機構は不明です。私達は、らい菌が感染すると細胞内に脂質を蓄積する働きがあるADRPadipose differentiation-related protein)やperilipinの発現が誘導され、逆に脂質の異化作用に関わるHSL (hormone-sensitive lypase)の発現が抑制される事を見い出しました。加熱死菌にはそのような作用はありませんでした。また、実際のハンセン病患者皮膚病変部の細胞でもそのような変化が起こっていること、および治療によりそれが正常化することなどを明らかにしました。これらのことから、らい菌はマクロファージ内に脂質を蓄積させることによって、自身の生存しやすい環境を作り出しているのではないかと考えられました。そのような機構の詳細が明らかになることで、それを阻害することによる新しい治療法の開発へ向けた研究を展開しています。
 
 
 

らい菌ゲノム中の偽遺伝子や非翻訳領域を含む発現の網羅的解析


 らい菌は試験管内培養が出来ず、菌の生物学的性質や病原性に関する研究進展の妨げになっています。2001年にらい菌ゲノム全塩基配列が決定された結果、蛋白をコードする遺伝子数が少なく、偽遺伝子の数が多いという極めてユニークな菌であることが明らかになりました。私達は、らい菌においてRNAとして高レベルで発現するゲノム領域を同定し、らい菌ゲノム情報を活用してその解析を行うことで菌の生物学的特性を見い出す目的で、全長約3.3 MBのらい菌ゲノム2本鎖双方向に対し、短いプローブをオーバーラップさせ、ゲノム全域をカバーするタイリングアレイを作製しました。その解析の結果、偽遺伝子や非翻訳領域からも高レベルで発現するRNAが多数存在することが判明しました。さらに、これらRNAの発現パターンが症例によって異なることや、一部のRNAは治療後早期に消失することなどが明らかとなりました。これらの研究を進めることで、これらのRNA発現パターンを調べることで予後の予測や治療効果の判定に利用できると考え研究を行っています。
これら一連の研究成果は、偽遺伝子や非翻訳領域由来RNAが、感染や細胞内寄生に関連した未知の作用を持つ可能性を示唆するとともに、らい菌という研究対象となりにくかった特殊な菌が、このようなRNA研究の格好のモデルとなる可能性を示すと考えられました。
 
 
 

自然免疫活性化をアジュバンドとして用いる効果的ワクチンの開発


 ワクチンの免疫原性を高めるために汎用されてきたアジュバントの多くは、病原体成分を用いたものであり、有効性は高いものの毒性が強く臨床応用上の問題となっていることから、安全かつ効果的なアジュバントの開発は、次世代型ワクチンの応用にとって必要不可欠です。近年このアジュバント効果がToll様受容体(TLR)を始めとするパターン認識分子群下流のシグナル伝達系の活性化によって介在されることが明らかになってきました。また、ヒトと実験動物ではワクチン効果に差があることが評価上問題となっています。私達は、Toll様受容体下流のアダプター分子群を直接活性化することで強力なアジュバント効果が得られることを示してきましたが、TLRやその下流のアダプター分子群を直接活性化する有効なアジュバントの開発に向けた研究を行っています。
 
 
 

遺跡から発掘された骨からの病原体の検出などの古病理学研究


 遺跡から発掘された人骨にハンセン病、結核、梅毒などの痕跡が骨病変として見られる場合があり、従来考古学の専門家等により鑑定が行われ記録が残されてきました。最近そのような骨に病原体の一部やそのDNAが残存している場合があり、骨からDNAを抽出してPCRなどを行うことで、それらの病変を起こした起因菌のDNAを検出可能であることが報告されるようになってきました。これにより、従来肉眼的鑑定に頼ってきた古病理学的診断を科学的手法で確定することが可能となります。また、必ずしも記録が残っていない古代の感染症の伝播や発症率、あるいは当時の患者と社会の関わりなどに関して大きな情報が得られると考えられます。私達は、日本で初めて遺跡から発掘された古人骨から、らい菌のDNAを証明しました。また、鍋被り葬という頭に鍋や鉢被せる特異な埋葬法は、ハンセン病などの死者に対して行われたのではないかとの伝承がありました。私達は鍋被り葬人骨からも、らい菌DNAを検出し、それが正しいことを証明しました。また、これらの人骨が手厚く葬られていたことや、骨に大きな病変を生じるまで生き長らえていたという事実から、過去のハンセン病患者が必ずしも差別ばかりを受けていたわけでもないことも推察されました。
 
 
 

地球温暖化に伴う水系細菌叢変化の網羅的解析


 地球温暖化などの環境の変動を真っ先に受ける生物は増殖速度が早い細菌であることは周知であり、それが変異原性の同定などにも用いられる理由でもあります。細菌は生物体系の底辺を形成し、その変動は高等生物に直接間接の影響を与えます。細菌をはじめとするあらゆる生物は単体では存在しておらず、細菌叢として多種が共生していることが知られています。私達は、地球温暖化の影響を細菌叢の変動として捉えるためのDNAマイクロアレイを開発し、環境の変化による水系細菌集団の変化を網羅的に評価しようと研究を行っています。そのような手法によって温暖化などの環境変化と細菌集団の変動の相関を示すことは、地球温暖化の効果的なモニターを可能とするとともに、長期的影響を推測するための重要な指標となると考えられます。