代表挨拶

林 康紀

私たちはほんの一瞬の体験を、何年経っても記憶として思い起こすことができます。この能力こそ、自分を自分たるものとしています。私たちは日常的に記憶を形成し、思い起こしているのに関わらず、その仕組みは明らかではありませんでした。

しかし、神経科学のさまざまな技術は長足の進歩を遂げています。たとえば、GFPなどの蛍光プローブを応用することにより、神経細胞の活動や単一のシナプスの生化学反応、さらには単一分子の動態を可視化することができるようになりました。また、チャネルロドプシンなどを用いると任意の神経細胞の活動を自由なタイミングで制御できるになります。さらに、いつもは結合していない神経細胞同士に人工的にネットワークを形成させることもできるようになりました。

今こそ、記憶現象を分子から神経回路、そして行動科学などさまざまなレベルから解明するのに機が熟したと言えましょう。

本領域は、日本国内の7つの研究室、アメリカMax Planck Florida Institute for Neuroscience (MPFI)、フランスInterdisciplinary Institute for Neuroscience (IINS)がタイアップすることによって記憶現象という複雑な生命現象を解明していくものです。それぞれの研究室に所属する若手研究者が相互に交流することで、互いに協力し合うだけでなく、頭脳循環を図っていきます。記憶という共通の関心を持つ一方、独自のアプローチで補完し合う研究室が一つの傘下に入ることで、相乗的効果が期待でき、この分野への科学的な貢献が得られ、世界的な影響力を持つと期待されます。

研究代表者
林 康紀