A04・A05-4

A05-4 職場での合理的配慮について

治療を受けないけれど、吃音の影響がかなりある、という場合は、職場などに「合理的配慮」を求めることができます(電話での会話が難しい場合は電話が少ない業務に回してもらうなど)。法律的な根拠としては、「障害者差別解消法」があります。吃音は一般的な意味で「障害」に分類されるので、公的機関であれば合理的配慮をすることが義務となっています。私企業の場合は努力義務があります。

「配慮」というのは、気持ちだけという意味ではありません。具対的に企業に金銭的・人的負担が生じることがあります。
 例えば、吃音で電話が困難な場合は、他の人に電話をとってもらう必要があり、人員配置についての「配慮」が必要になります。上司に口頭で話すのが難しい場合は、業務手順を変更して、メールで報告・連絡・相談(報連相)することを了承してもらえるなら、配慮されたことになります。
 「合理的」とは、雇用主に過大な負担を生じさせない範囲で、という意味です。業種によっては(また、会社によっても)合理的配慮の範囲が狭いことがあります。
 例えば、「電車の車掌になりたいが、アナウンスをしないでいいように配慮して欲しい」という要望は、アナウンスをする車掌をもう1人余分に乗車させないといけなくなるので、会社に過度の負担を求めることになり、「合理的」ではないと判断されると思われます。どうしても車内アナウンスができない場合は、「車掌業務を免じる代わりに事務室での会計業務を担当する」などであれば合理的配慮の範囲になります。
 別の例では、病院勤務の医師の場合、扱っている病気の種類や担当患者の重症度によりますが、一般には院内PHSを使わないで業務を遂行することは困難です。いくら電話が苦手であっても、院内PHSを全く使わないことは、合理的配慮の範囲を超えると思われます。

「障害者差別解消法」は、障害があることだけが条件なので、何も申請する必要はありません。吃音がある成人の多くの方は手帳がなくても一般就労しておられるので、吃音があると一律に手帳の申請をする必要があるということはありません。就職してからも、職場の上司に事情を話すだけで、適切に配慮される場合も多いようです。
 合理的配慮に何らかの会社の負担が必要になる場合には、吃音があることを証明するために、医師の診断書を求められることがあります。
 ところが、診断書があっても合理的配慮をしてもらえない場合もあります。その理由は、「障害者差別解消法」においては、合理的配慮が私企業では法的義務となっていないからです。障害者手帳があれば、私企業であっても、合理的配慮が雇用者の義務になります。ただし、これは「障害者雇用促進法」によるので、一般就労ではなくて、福祉就労の枠での対応になる場合があり、会社によっては給料や昇進で一般就労とは差がつくこともあります。

一方で、残念ながら「合理的」とされる客観的な基準はないので、診断書や手帳の有無にかかわらず、現実には、会社や上司の裁量範囲がかなり大きくなっています。本人の希望する配慮の内容と、配慮して外してもらう業務の代わりにできる業務がどの程度あるか等によって、判断が変わります。また、同じ職場の人や会社の吃音の理解度によっても、違ってきます。合理的配慮をしてもらうためには、吃音であることを開示した上で、どういう配慮を希望するのか具体的に明示して、相談・交渉する必要があります。

例外的ではありますが、一部の大学では、吃音の合理的配慮を希望する学生に対して、診断書をもってしても「障害者差別解消法」に則った対応をしてもらえないことがあります。そのような場合も、障害者手帳があると、公的に障害者であることが認定されていることになるので、配慮してもらえるようになることがあります。
 吃音がある学生に対する配慮の例としては、発表を教授1人の前で行う、発表の代わりにレポートを提出する、語学の授業中の朗読をを免除してもらう、面接試験等で口頭で答える必要がある場合には、試験時間を延長する・筆談で答える、などがあります。

参考書籍
  • 飯村大智: 吃音と就職:先輩から学ぶ上手に働くコツ. 学苑社, 2019
  • 菊池良和: 吃音の合理的配慮. 学苑社, 2019
※ 合理的配慮の例と参考書籍を追記しました。(2020年1月、森)

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