東京大学医学部附属病院 肝胆膵外科・人工臓器移植外科

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診療実績

原発性肝がん

肝細胞がんに対する治療成績

肝細胞がんに対する肝切除は慢性肝疾患を背景としていることが多く術後肝不全を回避するためには肝機能に応じた肝切除範囲の選択が必要です。
当科では腹水の有無、血清総ビリルビン値およびICG負荷試験の3項目で評価する幕内基準に従って肝切除範囲を決定しており術後合併症率は10.7%、術後90日死亡率も0.67%と非常に低い水準を保持しています。
また、肝細胞がんは肝切除後も再発率が5年で80%と高率でありますが、当科ではこれまで肝細胞がんの門脈血流を介した微小肝内転移を切除する系統的肝切除の有効性を報告しており、系統的肝切除を積極的に行うことで術後5年無再発生存率は28%、5年累積生存率は64%と非常に良好な成績を収めています。

肝細胞がんに対する治療別生存率予測モデル

日本肝がん研究会、第16回-19回全国原発性肝がん追跡調査データ(肝細胞がんを有する43,904人の患者さん)の解析に基づく「肝細胞がんに対する治療別生存率予測モデル」を報告いたしました。
肝細胞がんの腫瘍個数と最大腫瘍径を入力することで1)手術、2)肝動脈化学塞栓術、3)焼灼療法の予測生存率が算出されます。

腫瘍個数と腫瘍径からみた5年生存率の比較

Kawaguchi Y, et al. American Journal of Gastroenterology 2021; 116:1698-1708より改変引用

生存率予測モデルはこちら

肝細胞がん再発に対する治療

肝細胞がんの再発に対しては肝切除だけでなく当院消化器内科と連携し肝機能や腫瘍進行度に応じてラジオ波焼灼術、肝動脈化学塞栓療法、化学療法等を適切に選択し治療を行っています。

進行肝内胆管がんに対する治療

脈管侵襲を伴う進行肝内胆管がんに対しても積極的に手術を行っており血管再建が必要な症例では異物感染を予防するために人工血管を使用せず凍結保存静脈ホモグラフトを用いた再建(2016年4月より保険収載されました)を行っています。

転移性肝がん

大腸がん肝転移に対して有効な化学療法が存在しなかった時代でも、切除だけで約30%で10年生存得られることを切除の有効性を当教室は示しました。

また、大腸がん肝転移再発に対しては、当教室では約70%に起こる再発に対して、50-60%の割合で積極的に再切除を行ってきました。
1回目、2回目、3回目の繰り返しの切除で比べてみても、治療効果は回を重ねても変わらず、再発には再切除が極めて有効であることを示しました。

近年では大腸がん肝転移に有効な化学療法が研究され、消化器内科と協力して切除困難もしくは不能例に対して、まず分子標的薬を含めた化学療法を行い、著効して切除可能となれば、即切除(Conversion)する方針としています。
最初は切除困難であった肝転移の症例も化学療法施行後に切除可能となり、切除し得た例が増えてきております。

当教室では、術前に正確な肝機能と残肝容量の評価を厳密に行っております。
残肝容量が不足していても、門脈塞栓術、2期的肝切除、肝静脈再建などの技術を駆使し、高難度な肝切除も安全かつ治癒的に行えています。

また、神経内分泌腫瘍、消化管間質腫瘍など、大腸がん以外の肝転移についても、関連診療科と連携して切除適応を決め、肝切除を行っています。

膵がん

肝胆膵外科、消化器内科、放射線科、病理医が集まるキャンサーボードですべての症例に対して術前ステージングを行い、術前化学療法を行うか直接手術を行うかを決定しています。術後も半年間の化学療法を行っています。
初診時に切除が困難な場合でも消化器内科と共同で化学療法を行い切除の可能性を追求しています。
教室での切除後の1、3、5年生存率は79%、47%、34%です。

胆管がん

胆管がんは腫瘍進展範囲の診断が難しいことも多いですが、当院では消化器内科と連携して詳細な術前検査による適切な術式決定を行っています。
閉塞性黄疸で発症することも多く、内視鏡的ドレナージを施行して血清ビリルビン値を改善させてから手術に臨んでいます。
また、肝門部領域胆管がんに対しては片肝切除以上の大量肝切除が必要な場合が多く、術後肝不全リスクを軽減させるために門脈塞栓術を施行する場合があります。
この内視鏡的ドレナージや門脈塞栓術は入院を要しますが手術までの待機期間によっては一時退院していただき、術前に再入院していただきます。
教室での切除後の1、3、5年生存率はそれぞれ89%、64%、47%です。

胆嚢がん

胆嚢がんは壁深達度により進展形式や予後が大きく異なるとされます。
胆嚢がんの手術では壁深達度によって切除の範囲が異なり、小規模な切除から大規模な切除まで様々な術式が適応となります。
当院では術前の超音波内視鏡検査、CT、MRIおよび術中超音波検査によって切除前の壁深達度を詳細に診断し、適切な術式決定を行っています。
また、胆嚢がんはリンパ節転移をきたすことも多いとされます。
リンパ節の適切な切除範囲決定のために、先述の画像診断に加えてリンパ節の術中迅術中迅速診断を行うことで、適切なリンパ節の切除範囲を決定しています。
進行した胆嚢がんの場合には、片肝切除以上の大量肝切除が必要な場合があり、術後肝不全リスクを軽減させるために門脈塞栓術を施行する場合があります。
教室での切除後の1、3、5年生存率はそれぞれ85%、62%、54%です。

手術件数の推移

肝細胞がん、肝内胆管がん、転移性肝がん、肝門部領域胆管がんなどの悪性腫瘍を中心に積極的な手術を行っています。
肝細胞がんは腫瘍が経門脈的に転移することが知られており、肝機能と残肝容積などの条件を考慮し、腫瘍が含まれる門脈の支配領域ごと切除する系統的切除を積極的に行い根治性を高めており、これまでに肝細胞がん症例の55%に施行されてきました。
この系統的切除のためには門脈の支配域を術中に正確に把握する必要があり、全国に先駆けて術前シミュレーションやICG蛍光法を導入し安全で正確な系統的切除を行っています。
また、腹腔鏡下肝切除やロボット支援下肝切除などの低侵襲手術も導入し、安全性、根治性を損なわずに患者さんへ侵襲の少ない手術行っています。
詳細は「内視鏡専門外来」のページをご参照ください。

内視鏡専門外来

術前シミュレーション
【画像】術前シミュレーション1
【画像】術前シミュレーション2
ICG蛍光法
【画像】ICG蛍光法
肝切除手術件数
【画像】肝切除手術件数

膵切除、胆管切除

膵がん、膵嚢胞性腫瘍(IPMN, MCN, SPN, SCNなど)、膵神経内分泌腫瘍、胆管がんなどを中心に積極的な手術を行っています。
2022年には高難度肝胆膵外科手術(膵全摘術、膵頭十二指腸切除、リンパ節郭清を伴う膵体尾部切除[膵原発浸潤性悪性腫瘍、NET]は61例施行されています。
また、腹腔鏡下膵切除やロボット支援下膵切除などの低侵襲手術も導入し、安全性、根治性を損なわずに患者さんへ侵襲の少ない手術行っています。
詳細は「内視鏡専門外来」のページをご参照ください。

内視鏡専門外来

膵・胆管切除手術件数
【画像】膵・胆管切除手術件数

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