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がん医療フォーラム 出雲 2017/がん患者さんと家族を支える在宅療養について考える
【基調講演】がん患者さんを支える情報づくりと地域づくり

渡邊 清高さん(帝京大学医学部内科学講座 准教授/腫瘍内科・がん情報)
渡邊 清高さんの写真
渡邊 清高さん
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まずはじめに、今回は貴重な機会をいただきまして、島根県出雲市でがん医療フォーラムを開催させていただくことをお礼申し上げます。共催いただきました「出雲いのちをみつめる市民の会」の皆さま、そして伊藤副市長様よりごあいさついただきましたが、出雲市、出雲市役所の皆さまから多大なご支援をいただき、こういった会ができましたことをお礼申し上げます。

ただいまご紹介いただきましたが、日本人の2人に1人が何らかのがんにかかることがわかっています。がんとともに生きる社会とは、どういった社会なのかということを、このフォーラムを通じて皆さまと一緒に考えてまいりたいと思います。

がんと向き合う、がんとともに生きる社会へ

1981年にがんが日本人の死亡原因1位になりました。人口の高齢化とともにその数は年々増えています。年間36万人の方ががんで亡くなり、1年間に86万人の方が新しくがんと診断されています。最新のデータでは、男性は63%、女性では47%の方が一生のうちに何らかのがんにかかると推測されています。ということは、今座っておられるご自分か隣の方のどちらかががんになるということです。がんは特別な病気ではなく、むしろがんになることを前提とした社会づくり、地域づくり、仕組みづくりというのが大切になってくるということです。

一方で診断や治療が進歩して、「がんイコール死」ということではなく、病気とつき合いながら、あるいは再発の不安と向き合いながら生活を続けるということが一般的になりつつあります。治療成績がよくなるのはとてもいいことです。近年では胃がん、大腸がん、乳がんでは5年生存率が70%を超えてきています。ということは、存命しながら治療を継続する、あるいは過去に治療を受けていた方が家庭生活、社会生活を継続しながら過ごされている。そういった方をどのように支えていくのかということを患者さん、ご家族、当事者だけでなく、みんなで考えていかなければならない。そういう課題を突き付けられていると言えると思います。

講演の様子の写真
講演の様子

患者さんとご家族のための情報づくり

そうした中で、今日のキーワードは「情報」です。情報は、いろいろな治療を決めるときや、これからの療養先を考える場合に役に立ちます。そういった意味で信頼できる情報がどこにあるかを知っていただく機会ということで、このフォーラムを開催させていただきました。

インターネットでは国立がん研究センターがん対策情報センターの運営している「がん情報サービス(http://ganjoho.jp)外部リンク」が役に立ちます。信頼できる情報をわかりやすく読んでいただく、実際に使っていただくということを考えてつくられたウェブサイトです。よろしかったら「がん情報」で検索してご覧いただければと思います。

診断されたときにはいろいろな情報が必要になってきます。病気のこと、治療のこと、どんな検査を受けるのだろう、お金はどのくらいかかるのか、何を食べればいいんだろうとか。そんな情報をぜひ知っていただければということで、「患者必携 がんになったら手にとるガイド外部リンク」 という手引書をつくっています。がん情報サービスのウェブサイトでご覧いただけます。さらに患者さん自身がわかったこと、聞いておきたいことを取りまとめる手帳「わたしの療養手帳外部リンク」もあります。

身近な地域の療養情報の重要性

病気や治療についての情報は全国どこでもそんなに差はありませんが、具体的にどこに相談すればいいのか、どういったところに問い合わせればいいのか。そういったときに役に立てていただきたいのが、身近な医療機関とか相談窓口をまとめた「地域の療養情報外部リンク」です。こうした複数の情報を組み合わせて、ぜひご自分の力にしていただければと考えて、私は地域の療養情報を集めた冊子をつくるプロジェクトに関わってきました。

一般的な病気や治療のこと以外に、身近な地域についての情報も必要です。地元にどんな医療機関があるのか、相談窓口があるのか、在宅の施設があるのか。例えば島根県で利用できるサービス、あるいは患者会や患者支援団体など話ができるような窓口、そういったものを盛り込んだ情報があるといいわけです。島根県ですと『しまねのがんサポートブック 外部リンク』というものがありまして、全国でもかなり早い時期につくっていただきました。地域に密着した情報について考えてみますと、ただそこに「情報がある」だけではなく、そこに住んでいらっしゃる患者さん、ご家族、施設の方が普段どんなことでご苦労されているのか、悩んでいらっしゃるのかを「見える化」する。本にするとか、ホームページで見られるようなかたちにする。そのことによって、情報が活用されて、中身もよりよくなり、より使いやすく、わかりやすいものになっていく。さらに、こうした情報が活用されることで、実際の地域にいらっしゃる患者さん、ご家族の支えになる。そういった情報のサイクルがとても大事なのではないかと、いろいろな地域の取り組みを通して感じてきました。

地域ごとの療養情報は2017年7月時点で36道府県で作成され、改訂も含めると延べ80冊以上が作成されています。これらはインターネットで全部見ることができます。このような情報が整備され、また市区町村ごと、二次医療圏ごとに整備されているところもあります。そういった地域の情報を実際の生活とか、身近な環境、自宅に近い環境で生活するときの参考にしていただければということで、こうした情報を広げる取り組みをしています。

在宅療養に必要な情報をまとめるプロジェクト

地域の情報づくりの取り組みと並行して、今日ご紹介させていただく『ご家族のための がん患者さんとご家族をつなぐ在宅療養ガイド』 をつくりました。日本では、在宅療養というものを考えた場合に、ご本人ももちろん重要ですが、一緒に住んでいらっしゃるご家族や周りの支援者の方がどう感じていらっしゃるのか、不安にどう向き合っていくのかという視点が、とても大切になります。そうしたことから、ご家族向けの本として、このガイドをつくってまいりました。

これは2015年にインターネット上(がんの在宅療養 http://homecare.umin.jp) で公開したところ、ぜひ実際に手にとって読みたいといったご意見をたくさんいただきましたので、書籍のかたちにして、実際に手にとって読んでいただけるようになっています。この会場でも展示していただいていますので、よろしければご覧いただければと思います。

この本の内容は、在宅療養ではどのような心構えをしておけばいいのかといった一般的な知識とか、周りの医療従事者、在宅の医師とか看護師といった方との関係づくりなど、家族としてあるいは支援者としての関わり方のヒントにしていただけるものです。また看取りの時期も含めた向き合い方についても、わかりやすく、親しみやすい言葉で、イラストなども交えながら会話形式でお伝えするものになっています。

このガイドについて、内容はとても大切なことで参考になるというご意見や、在宅療養について知っておきたい情報がまとまっているというご評価をいただきました。一方で、その情報はどこで手にとれるのかとか、どういった方が具体的に相談にのってくれるのかといったご質問をいただくことも、とても多くなりました。情報が「そこにある」ことではなくて「誰がどのように伝えるか」が大切だというご意見です。そうしたご意見を踏まえて「地域におけるがん患者の緩和ケアと在宅療養情報 普及と活用プロジェクト」を立ち上げました。つまり情報があるだけでなく、実際にそれが広がっていって、現場で使われ、役に立つことが大切なのではないかと考え、本日開催するフォーラムや研修会を企画してきました。

出雲の在宅療養について考える

今回、インターネット上でアンケートをさせていただいて、参加者の一部の方からいろいろなご意見をいただきました。「患者さん、ご家族の声についてしっかり考えたい」「一人の出雲市民としてしっかり考えたい」など。また本日は学生さんにもたくさん参加していただいておりますが、「これからの看護学生としての学び・経験に役立てたい」「在宅療養の具体的なイメージを知りたい」「具体的な事例について勉強したい」「施策はあるけれど、実際に出雲は、島根はどうなのかを考えたい」といったご意見をたくさんいただきました。

さきほどお話しました『ご家族のための がん患者さんとご家族をつなぐ在宅療養ガイド』などの情報をつくってきた中で、さまざまな職種の方、あるいはチームとして関わることが大切だと思っています。地域によって、あるいは患者さんやご家族を取り巻く環境によって、チームづくりというのは変わってくると思います。今日はこのフォーラムの中で、出雲での取り組みについてお話をうかがえると思いますし、皆さまとご一緒に考えることができればと考えております。

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掲載日:2017年9月25日
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