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がんの在宅療養ガイド 研修会 沖縄 2016
【リレートーク & ワークショップ】がん患者さんが安心してわが家で過ごすために
テーマ4 お別れの時期 看取りのときとグリーフケア

第4章 お別れの時期
コーディネーター: 儀間 真由美さん(北山病院 緩和ケア認定看護師)
笹良 剛史さん(南部病院 医師)
儀間 真由美さんと笹良 剛史さんの写真
儀間 真由美さんと笹良 剛史さん
リレートーク
南部病院 笹良 剛史さん

私たち二人の対話形式で進めさせていただきます。「在宅療養ガイド」を印刷して患者さんにお渡ししているのですが、この第4章「お別れの時期」は渡しにくいところです。患者さんに「読んでください」というのは、自分の中で少し抵抗感があります。みなさんはこれをどのように使われるのか聞いてみたいと思います。では、大事な部分をかいつまんで読んでいきます。

看取りのときを迎える

「人生の最期を迎えるときに、あたたかく寄り添うには」どうしたらよいか、ご家族と話し合うときに伝えたいのが次のことです。

  • 本人の表面的な反応がなくなってきても、心の交流をもつことができる
  • 傍らにいて体に触れ、静かに話しかけることが大切
  • 死は避けられなくても、希望を見いだし、またその希望をかなえることができる
北山病院 儀間 真由美さん

反応がなくなってくると、どうしてもみなさん声をかけづらくなったり、触れづらくなったりすることがあるので、お子さんやご家族には「手を握ってあげて話してあげると聞こえているはずです」というような声かけや、ご家族でもできるマッサージを伝えることで、本人の安楽を保つようなケアにつながるということがあります。

笹良さん

「死が避けられなくても、希望を見いだして、かなえる」というのは難しいことなので、みなさんが実際にどのようにご家族と接しているのか、後で聞かせていただきたいです。病気が進むなかで、意識がある状態で、あるいは意識がなくなってご本人に確認ができなくなった状態のときに、葬儀のことなど、いろいろな準備をしましょうという話を私たちもするのですが、「葬儀の話なんて縁起でもない」という雰囲気がある場合もあります。私たちのなかにも抵抗感はありますが、とても大事な話ですし、中にはお葬式やお墓の話でも積極的にしてくれる人もいますが、かなり話しづらいことがあります。

  • 本人と葬儀について話すことは決してタブーではない。本人の意向に沿った旅立ちにするためにも、話ができるようであれば要望を聞いてみる
  • 葬儀会社に関する情報については、在宅支援スタッフが詳しい場合もある

葬儀について、ご本人に聞く雰囲気とか、最期の希望について話をするなかで、そういう話をするのがいいのだろうと思います。

儀間さん

在宅の場合は「亡くなった後にどうしたらいいのですか」というご質問もあります。私たちでいいのであれば、ご家族と一緒にお体をきれいにしたり、本人の気に入った服を着せてあげたりするといったご説明をします。例えば湯灌のサービスを受けたいとか、葬儀社に頼みたいということであれば、葬儀社に相談してもらうようにしています。やはりみなさん、ご本人に対しては「縁起でもない、そんなこと言わずにがんばって」と伝えることもあるのですが、葬儀などについて本人から話があったときに、どういう思いから、どういう要望をしたいのかなど、しっかり本人の思いを聞き出すことは必要なことだと思っています。

笹良さん

緩和ケア病棟だと、あのとき着ていた着物、あるいは買ったのに着ていなかった服を着させてあげたいといった話が出ることもあります。そうしたことを話し合うのは少し勇気がいることかもしれませんが、在宅でもできるかと思います。

最期が近づいたときの変化と対応を知っておく

「在宅療養ガイド」には「お別れのときの兆候の例」が示されています。死が近づいたことのさまざまな「兆し」を、まずご家族に説明して、こういうサインやいろいろなことが出てきますが、自然な経過なのだという話をします。

  • 死の前後に起こる身体的な変化について、事前に十分な説明を受け、対応方法を理解しておくことが大切
  • 家族や親族内で、最期の時期の過ごし方について方針を共有しておく
  • 亡くなったあとにも家族ができるケアがある

特に呼吸がゴロゴロした状況になると吸引したほうがいいのではないかとご家族が考えることもあります。あえぐような呼吸、下顎呼吸になってくるのは自然な反応だと事前に説明していないとパニックになるご家族もいますので、こうしたお話をしておくことが大事です。DNR(Do Not Resuscitate、今後の見通しや予後について理解した上で蘇生処置を行わないこと。DNAR:Do Not Attempt Resuscitateとして記載されることもある)の方針についても、以前に形式的に病院で説明を受けていることもありますが、最終的に「それでよろしいですか」というお話をしたり、特に救急車を呼ぶ/呼ばないということについてしっかりと確認しておいたりしないと大あわてすることになると思います。

儀間さん

以前に身体的な変化についてパンフレットをお示しして伝えたあと、ご家族に患者さんが亡くなった後で「以前読んだ通りでした」と落ち着いて言われたこともありました。何か困ったり、どうしようと思ったりしたときは、24時間いつでもかまわないので電話してくださいとお伝えしています。何かあっても必ず私たちがサポートするということを伝えて、ご家族に安心感を得てもらうということを心がけています。

亡くなった後の家族にできるケア、エンゼルケアとして、お口のお掃除や体を拭いたりとかはご家族みなさんでやっていただいています。最後にご本人が気に入っていた服とかをみんなで着せていただいて、お化粧もご家族一緒にして、できる限りのケアをご家族と一緒にすることで、後のご家族の悲嘆に影響があるのではないかと思います。

大切なひとを失ったご家族へ

笹良さん

お別れの後にご家族に起こる心と体、生活の変化などについてグリーフケアでご家族と関わることがあると思います。そういったときに、必ずできるかどうかは別として、大切なひとの喪失体験により、心身にこのようなことが起こるとご家族にお話しする機会があるかと思います。

私が体験したケースをご紹介します。ずっと以前ですが、家族一丸となって患者さんを支え、病院で亡くなる2日前に娘さんの結婚式に出席された方がいました。亡くなった後にご家族は「とても満足しています」とおっしゃっていましたが、四十九日に奥さんが海で発見されました。近くにいた方がすぐに気づいて助かったのですが、乖離状態でいつの間にか海に入っていたのです。精神科の先生にサポートしていただき、その後も紆余曲折がありましたが、結婚した娘さんに赤ちゃんができて、おばあちゃんとしての役割ができてはじめて回復しました。このケースで、ほんとうに亡くなった後のご家族の心のケアは重要だと思いました。実際に「在宅療養ガイド」にあるような身体症状、精神症状が出ます。体調を崩されて、伴侶を亡くされたすぐ後に亡くなる方もいらっしゃるので、そういった面でもグリーフケアは重要なことだと常日頃思っています。

儀間さん

沖縄だと、ナンカナンカ(七日ごとの法要)や一周忌、三周忌とかに合わせてお宅にうかがうこともあるかと思います。そのときのご様子から、正常な悲嘆ということであれば見守るのでもいいのですが、専門家が必要かなと思ったときは何らかの形で関わるとか、ほかのご家族に「気をつけて見ていただきたい」と伝えることが必要だと思います。

笹良さん

大切なひとが緩和ケア病棟で亡くなった場合、初七日が終わったあたりに来ていただいていろいろお話をします。「これまでチームとして患者さんを一緒に支え合ってきた仲間ということで、いつでも相談にきてください」と伝えるなど、ご家族がグリーフに向き合った後に自分らしい生活リズムに戻れるようなことをしていきたいと思います。グリーフケアについて情報を提供したり、例えばグリーフケアの会が沖縄にもありますので、そういった機関も「おきなわ がんサポートハンドブック外部リンク」に載っていますと伝えたり、患者会の方などこれまで関わった方たちと交流することもできるとお話することもあります。

亡くなる寸前とか亡くなった後に私たちがどのように声をかけるのかは非常に難しいところです。自分たちの中に悲しみというか、どう対応したらいいのか、患者さんの死に向き合う苦しさも感じます。自分たちにもグリーフケアをしないといけないと思っています。

ワークショップの様子1の写真
ワークショップの様子1
ワークショップ
穏やかな時間を過ごせるためにできること

穏やかな最期の時間を過ごせるために、私たちは何ができるのか

在宅、病棟で看ているそれぞれの立場で話が出ました。病棟でも在宅でも、最期が近づいていても患者さんに声をかけるようにご家族にうながしています。在宅の患者さんは生活音も聞こえているので、「お孫さんが走り回るような日常の音が聞こえるようにするといいでしょう」とお話しています。またご家族が抱え込まないように「何かあったらいってください」と声かけをして、少しでもご家族の不安を取り除くようにしています。病棟では、最期のときは個室で少しでも家族だけで過ごせる環境をつくるようにする。タブー視されるかもしれないけれど、葬儀のことなどについてもご家族と話をしておくほうが、いざというときにあわてないという意見も出ました。

ワークショップの様子2の写真
ワークショップの様子2

患者さんの家族を支援するスタッフの悲嘆をどのようにケアしているか

死は当たり前のことで避けられないということで、ご家族から「死ぬときは選べないのです、と声をかけてもらって、スタッフが受け入れられるようになった」という事例が出ました。スタッフが亡くなった患者さんのケアを振り返って、よかったことについて話し合い、自分のケアにつなげることができるのではないかという意見も出ました。

掲載日:2016年5月2日
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