聴神経腫瘍




                                                                                         
  東京医大 脳神経外科における
                            

        
          聴神経腫瘍手術の実際


後頭蓋窩、特に聴神経腫瘍を代表とする小脳橋角部腫瘍
の手術は、多数の脳神経と腫瘍が接触あるいは
癒着していることから、脳神経外科の中でも最も難易度の高い手術の1つです。この部分に到達するための
手術アプローチは多数あります (図1参照)。
各手術法の特徴の解説はこちらです。

しかし日本の現状では、脳神経外科では脳神経外科的アプローチ (後頭蓋窩法・拡大中頭蓋窩法)のみ、
耳鼻咽喉科では耳鼻科的アプローチ (経迷路法・後迷路法・中頭蓋窩法)のみが選択され、腫瘍を手術
するチームによっておのずと手術アプローチが決まることがほとんどです。すなわち、
手術を行う科によって
自動的に手術方法が限定されてしまっているのが現状
といって差し支えないと思います。

東京警察病院脳神経外科では、
脳神経外科的アプローチ・耳鼻咽喉科的アプローチのどちらも得意として
おり、十分な経験を有しています。このために、患者さんの腫瘍の腫瘍の種類や発生部位によって最適な
手術アプローチを使い分けていることが特徴
です。
このように、術者側の要素で手術方法が限定されることなく、患者さんの病状に最もそぐう方法を適用して
良好な手術成績をおさめている施設は全国でも限られています。当科の手術成績はこちらです。

 
聴神経腫瘍の手術は、患者さんにとっては全くイメージがつかめないものと考えます。実際の手術野を
解説して、患者さんの理解を高めることを目的としてこのコーナーをアップしました。漠然としか理解できな
かった神経と腫瘍の関係などがつかめると思います。
 まずは、日本で最も多く行われている、後頭蓋窩法 (脳神経外科的アプローチ)による術野を腫瘍の
大きさごとに提示します。腫瘍のサイドはいずれも
右側で統一してあります。そして、顔面神経の
走行と腫瘍の残存の関係などについては、患者さんによって様々ではありますが、大体その条件で
最も確率の高い結果を代表例として示してあります。したがって、必ずこうなるということではなく、
絵よりも多く腫瘍が残ったり、実際には全摘ができたりと、バリエーションがあります。
 腫瘍の柔らかさや神経との癒着の程度、顔面神経モニタリング反応の減衰度などが、そのバリエーション
の要因となります。
 内耳道内に腫瘍を残存させると再発を起こしやすいことが指摘されています。以下のどのパターンでも、
切除後に基本的には内耳道内に腫瘍が残存していないことに注目してください。顔面神経上にはどうしても
癒着が強く、モニタリングの反応が低下しやすい場合には腫瘍をやむなく残存させても、内耳道内には残存
させないことが、再発させないためのコツと言えます。

 それでは、我々脳神経外科医の戦いの場にご案内しますので、じっくりと御覧ください。


 
絵の見方:

   右の聴神経腫瘍を後頭蓋窩法 (後頭下アプローチ)で行っている状態で、向かって左が頭頂部
    の方向、右は頸部の方向。 
    略語は、SPSが上錐体静脈洞、Vが三叉神経、
Co.が蝸牛神経、VIIIが内耳神経 (蝸牛・前庭神経)、
   
VIIかつピンク色で示したのが顔面神経、VIが外転神経、LCNsが下位脳神経群で、腫瘍は灰色
    の塊で示してあります。*印は残存腫瘍を表します。
    上の絵が腫瘍の切除前の状態、下の小さい絵が切除を終えた状態で、いずれも手前にある小脳
    を省略してあります。



小さい聴神経腫瘍の場合


 小さい聴神経腫瘍 (内耳道内や10mm未満)を手術する場合は、通常は顔面神経だけでなく、全摘と
聴力保存を目的
としていることがほとんどです。したがって、術後には、顔面神経と蝸牛神経、場合に
よっては、腫瘍の発生起源でない方の前庭神経も残ります


      

中ぐらいの大きさの聴神経腫瘍の場合


  中の小の腫瘍


  中等度の大きさの腫瘍でも、比較的小さめの腫瘍であれば (20mm未満)は、術前に有効聴力が
保たれていれば、やはり聴力保存を企図する手術の対象
となります。


  

          




  中の大の腫瘍

   中等度の大きさの腫瘍で、比較的大きめの腫瘍であれば (20-30mm)は、基本的には聴力保存の
対象とはなりません。むしろ顔面神経機能を温存することに注意を注ぎます。

  この大きさになると、顔面神経がかなり薄く広がっていることが多く、術中顔面神経モニタリングに
したがって多少の腫瘍を顔面神経上に残す可能性が上がってきます。この時に、顔面神経の走行に
よって腫瘍を残す程度が左右されるというのが現実です。なぜなら、以下に示します「不利な走行」では、
腫瘍と顔面神経の癒着している距離が圧倒的に長く、全摘を行うと、顔面神経機能を低下させてしまう
危険性が高まります。反対に「有利な走行」では全摘がしやすいばかりでなく、聴力保存の可能性も
追求できることがあります。
  このように、手術中に顔面神経の走行を把握して、「相手に合わせて切除範囲をコントロールする」
ことと、「顔面神経モニタリングを駆使して、顔面神経麻痺をきたさないでかつ限界近くまでギリギリまで
切除する」ことが真のプロフェッショナルの仕事
であると考えています。
  以下に中の大の聴神経腫瘍における、顔面神経の走行のパターンと確率の高い切除結果をお示し
します。  


     
「顔面神経機能保存に有利な走行」
      
        腫瘍と癒着している顔面神経の距離が短かく、素直な走行であっるため、全摘をしやすい
        パターンです。蝸牛神経も温存されやすい走行ですが、残念ながらこのパターンの頻度は
        少ないのが現状です。


       
 

     
「顔面神経の標準的な走行」

        最も頻度の高い顔面神経の走行のしかたです。顔面神経モニタリングにしたがって
        わずかに顔面神経上に腫瘍を残存させる傾向があります。

      



     
「顔面神経機能保存に不利な走行」

        顔面神経が一旦上方に持ち上がったあとに引き返して内耳道にはいってゆくタイプで、
        腫瘍と癒着している顔面神経の距離が最も長く、顔面神経が薄く広がっている部分も
        大きいことが多いです。この走行の頻度は2番目に多く、切除後の腫瘍の残存は、他の
        パターンに比較してどうしても大きくなりがちです。

      
                                

                    「不利な走行」の場合でも顔面神経機能を保存しながら、
                    再発しないようにこのぐらいの切除は行います (約95%切除)。



大きな聴神経腫瘍の場合

   大きさな聴神経腫瘍 (30mm以上)に対しては、脳幹の圧迫の解除と顔面神経機能の温存が
   目標となり、聴力保存は通常は企図しません。腫瘍の残存は大きくなる傾向があります。



      
    術前    術後

                    大きな腫瘍の場合には、顔面神経が薄く広がっていることが多く、
                    どうしても一部の顔面神経上に一部腫瘍が残存することが多くなります。
                    しかし、この取り方をすれば、顔面神経麻痺は起こらず、再発もしません。



  以上の数パターンを見て頂ければ、腫瘍の大きさによって、全摘や聴力温存のできるチャンスや
  顔面神経機能温存のために腫瘍を一部残存させなければならない状況が発生することが
  ご理解頂けると思います。
  すなわち、腫瘍が小さいほど、顔面神経の走行も素直であり、蝸牛神経も保存しやすいのです。
  手術成績が大きさによって左右されていることもご納得できるのではないでしょうか。




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