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第54回大会報告

第54回東海公衆衛生学会学術大会の報告

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学術大会の概要

報告者:大会長 青木伸雄(静岡県厚生部理事)


第54回東海公衆衛生学会学術大会は、「生活習慣病の新しい予防時代における公衆衛生の役割」をメインテーマとし、平成20年7月26日(土)に静岡県男女共同参画センター「あざれあ」で開催された。午前は、開会式に引き続いて一般演題59(口演22、示説37)の発表があった。その内容は、健康づくり、母子保健、成人保健、高齢者保健、感染症、食品衛生などであった。その後、メインテーマと同一のテーマで特別講演(演者は水嶋春朔先生)が行われた。午後は、総会とシンポジウム「生活習慣病予防の実践活動」が行われた。尚、大会終了後に、静岡県の事業としての公開講座(演者は熊谷裕通先生、生活習慣病時代の慢性腎臓病対策―その狙いと食事療法の役割―)、および「いきいき東海サテライト集会」が開催された。
大会参加者は167名であり、内訳は、学会員100名、非学会員50名、学部学生等17名であった。地域別では静岡県77名、愛知県41名、名古屋市21名、岐阜県23名、三重県5名であった。職種別では学生を除き、保健師56名、医師44名、教員25名、栄養士18名、運動指導員4名、事務職3名、薬剤師2名、看護師2名、検査技師1名、放射線技師1名であり、多様な職種の方が参加された。
各発表について多数の質問あるいはコメントがあり、学部学生を含め参加者の公衆衛生への熱意が強く感じられた大会であった。多数の団体・企業から、また日本公衆衛生学会から協賛金・助成金をいただき、実行委員会委員、大会事務局(静岡県厚生部管理局政策監付(企画スタッフ))、ならびに会員等皆様のお陰で、当初の目的を達成できましたことを感謝申し上げます。


 特別講演『生活習慣病の新しい予防時代における公衆衛生の役割』

報告者:座長 尾島俊之(浜松医科大学)


特別講演は、横浜市立大学医学部社会予防医学教室・大学院医学研究科情報システム予防医学部門の水嶋春朔教授にお話して頂いた。まず、全国の47都道府県のデータを示しながら、ベンチマーキングによる現状把握の重要性のお話があった。社会保障給付費及び医療費の増加、医療機関で死亡する割合の増加、糖尿病や肥満者の増加などの現状があり、それを踏まえて、高齢者の医療の確保に関する法律による新しい制度設計が行われた。健診データやレセプト分析によって客観的指標で生活習慣病管理を行う必要がある。生活習慣病対策では、ハイリスク・ストラテジーだけでなく、ポピュレーション・ストラテジーも重要である。戦後の我が国の公衆衛生体制の基礎を築いた連合軍のサムス准将は、予防・医療・福祉・社会保障の四輪がバランス良く推進されることを強調したなどのお話を伺った。今後の公衆衛生活動は、単に保健予防だけではなく、特に医療に積極的に関わっていく必要があることを認識させられる講演であった。


 シンポジウム『生活習慣病予防の実践活動』

報告者:座長 巽あさみ(浜松医科大学)


今年4月1日から「高齢者の医療の確保に関する法律」による特定健康診査・特定保健指導が開始されている中、生活習慣病予防に関する有意義な発表が行われた。
岐阜県西濃地域保健所の清水先生は、生活習慣病予防対策としての食育を幼児・児童から中高生および働く人へ拡大推進する中で、生産者・流通業者の関係者参加により世代や機関を超えた活動が効果をあげていることを報告された。愛知県愛西市役所保健部健康推進課の高田先生は、肺ガンのSMRの高い地域特性を示し、対策の一つして未成年の喫煙防止をあげ、理論根拠を元に作成した幼児・低学年児童向け大型紙芝居が観た子どもから保護者への影響もあるとの教育効果を示された。三重県津保健福祉事務所の谷出先生は、一次予防、二次予防、三次予防という公衆衛生学の視点で専門職、職域、県、市による糖尿病予防研究会構築により生涯を通した健康づくりが可能になったことが報告された。ブリヂストン磐田工場門田先生からは、行動変容をするために、本人が自身の体で起こっていることを健康診断データから理解しイメージできるような指導や継続的な介入をするによって改善されたという結果を保健指導シートの紹介とともに示された。名古屋市瑞穂保健所松田先生は、運動を軸にしたボランティア育成(健康カレッジ)を大学と連携することによって、自主グループ化に発展可能となることを報告された。テーマ、内容とも時流に即したものであり、いずれも立派な取り組みであったことから、参加者には十分啓発・触発されたことと考えられる。



 一般演題(口演)『健康づくり 戮里泙箸

報告者:座長 鈴木輝康(静岡県富士健康福祉センター)


  • A−1「特定健診・保健指導にむけて ―県民トータルケア実施調査事業について 第2報―」

 メタボリックシンドロームに着目したリスクの高い対象者の選択と、生活習慣介入の程度による支援型別のメタボリックシンドローム改善効果を検討した。
 元来生活習慣病は、可逆的状態で、生活習慣の改善により、メタボリックシンドローム該当者を減少することができた。また、施設型では、介入により施設のプログラムに改善ができ、運動指導士による栄養士による栄養指導、個別相談等により、メタボリックシンドローム減少効果が高まり、保健指導実施後の成果を検証できた。

  • A−2「朝食摂取習慣の関連因子」

 朝食と生活習慣の関係を検討するために、県民意識調査の結果を用いて分析をした。朝食摂取は、朝の余裕時間を相関しており、睡眠時間とは関係がなかった。朝の時間は生活リズムに余裕があることを示しており、ストレスも少なかった。朝食摂取の習慣は、健康的生活習慣を維持するのに重要なポイントと考えられた。

  • A−3「中学生スポーツ活動中に起こる体調不良などの症状と食生活習慣との因果関係について」

思春期の中学生スポーツ活動時に起こりやすい体調不良を改善するために、食事、生活習慣との関係を分析し改善への手がかりを探った。体調不良の原因として、生活習慣では、夜更かしなどの生活習慣の乱れが目立ち、食生活では、菓子、ジュースなど炭水化物の摂取量が多いことが確認された。スポーツ活動中の体調不良や、事故を軽減するためには、朝食の摂取と野菜を含むバランスの取れた食事の摂取が重要と考えられたが、しかしそのような食事摂取慣習があるにもかかわらず、眠いなどの疲労感を訴えているものが69%おり、それは、トレーニングによる疲労感と考えられた。

  • A−4「運動指導時のリスク管理に関する調査と対策」

生活習慣病は動脈硬化の危険因子であり、強度の運動トレーニングは脳卒中、狭心症、心筋梗塞など脳・心血管障害を誘発する危険性が指摘されている。事実、調査施設中25%で、過去に、運動指導中くも膜下出血等の脳卒中や外傷など事故のために、救急車を呼んだ事故があった。賠償責任保険加入は、81.8%、医療機関との連携は71.2%と比較的高いが、定期的な救命救急トレーニングは42.4%と実施率が低く、安心してトレーニングができる体制作りが求められている。


 一般演題(口演)『健康づくり◆戮里泙箸

報告者:座長 加治正行(静岡市保健福祉子ども局保健衛生部)


  • A−5「生活習慣病予防を目的とした運動教室の健康関連QOLへの影響」

 基本健康診断で脂質または耐糖能に異常を指摘された161名を介入群と対照群に分け、介入群には運動実技教室と運動・栄養の講義を1年間実施し、対照群には調査とその結果に基づく保健指導のみを実施したところ、介入群では膝の痛みや体力低下が改善され健康感の向上も見られたが、対照群では大きな変化は見られなかったとの報告で、実技を交えた継続的な介入が効果的であると考えられた。

  • A−6「スポーツ行動と年収の関連についての研究」

 年収とスポーツ実施率との関連についてのユニークな研究発表で、若年・壮年期の男性では年収が高くなるほどスポーツ実施率は上昇し、一定の年収を超えると横ばいになる傾向が見られたが、女性では傾向がはっきりしないということであった。それに対して高齢者では男女とも中位の年収層にピークがあり、それ以上の年収層ではスポーツ実施率がむしろ低くなっていた。今後様々な交絡因子や因果関係等に関する調査・検討が期待される。

  • A−7「企業内で実施した3人1組の参加による減量プログラムの効果」

 某企業の社員を対象に、3人1組になって12週間の減量プログラムに参加してもらった企画の成績報告であった。平均1.3kgの減量に成功していたが、以前同施設において自主的に参加した県民を対象に実施した「減量チャレンジラリー」では、減量の平均値は3.7kgであったことから、その成績には及ばなかった。しかしながら企業内で広く参加者を募り、減量にあまり関心のない人にも参加を呼びかける形で「ポピュレーション・アプローチ」に近い企画であり、健康教育・健康増進施策の一形態として有用と考えられる。

  • A−8「認知症状のある者に対するトレーニング効果」

認知症状のある高齢者に対して「低体力者用認知動作型トレーニングマシン」を用いたトレーニングを、週2回、3ヵ月間実施したところ、歩行動作が安定し、日常生活動作が改善したのみでなく、認知症状の改善が見られた例もあったとの報告で、今後の更なる発展が期待される分野である。


 一般演題(口演)『母子保健』のまとめ

報告者:座長 清水弘之(さきはひ研究所)


  • B−1「東三河北部医療圏内における産科医療の実態」

 妊産婦の個別聞き取り調査から、緊急時の適切な対応を求める声が大きいことが判明した。合わせて、通院しやすい場所に産科医療施設のあることを望んでいることがわかった。一方、グループインタビューでは、施設までの距離が遠くても医療の質の確保を望む声が大きかった。

  • B−2「3か月児健診で育児困難感に関するアンケートを実施して」

 名古屋市中保健所管内での調査である。育児困難感ありと回答したのは、約15%であった。直接的には、よく眠らない、ぐずってばかりいる、抱きにくいことなどで育児に困難を感じているが、妊娠中または出産時に身体的問題があった母親がより育児困難感を抱く傾向のあることがわかった。

  • B−3「思春期の男子を持つフルタイムで働く女性労働者の仕事と子育てに関する困難について」

 少なくとも高校1年生の男子を持つフルタイムで働く女性3名(全員40代)への面接調査の結果である。抽出された主な項目は、1)仕事と育児における役割葛藤、2)時間不足に基づく葛藤、3)思春期の性に対する焦り、4)母子分離に対する寂しさ、5)周囲からの情報の減少による子供の把握不足であった。

  • B−4「乳幼児健診で子育て支援のニーズを判定する基準 〜母子保健スキルアップ研修での討論から〜」

愛知県内市町村保健師24名、県保健所保健師4名による討論のまとめである。子育て上の問題点がどこにあるかの判定は重要であるが、それ以上に問題点に対する支援の実現性の有無についての判断が重要であり、かつ求められていると結んでいた。


 一般演題(口演)『成人・高齢者保健』のまとめ

報告者:座長 奥野ひろみ(静岡県立大学)


  • B−5「医療・介護職員の抑うつ度と脂質過酸化の関連性について」

 高齢者福祉施設職員に対して、脂質過酸化と抑うつの関連性についての横断研究の報告であった。抑うつスケールの得点といくつかの脂質過酸化を示す血液データには、相関がみられた。精神的な健康と身体的な健康の関連性が示唆されたことで、より研究が進展することが期待される。

  • B−6「高齢者の「食」を支える介護予防のあり方 〜家族力の低下を支える地域力を活かして〜」

 町の基本健康診査によって「低栄養の特定高齢者」と決定された対象の、生活実態を分析した報告であった。低栄養になりやすい高齢者の特徴を確認したことに基づき、町が実施すべきプログラムを示していた。今後のプログラムの展開〜評価に期待したい。

  • B−7「地域在宅高齢者に対する精神的健康における検討」

地域在住高齢者の精神的健康と地域交流についての横断研究の報告であった。今後高齢化が進み、1人暮らし高齢者が増加することが予測されている中で、彼らの精神的健康をどう向上させていくかは大きな課題であり、実践とどう結びつけるかが期待される。


 一般演題(口演)『感染症』のまとめ

報告者:座長 浜島信之(名古屋大学)


  • C−1「CYP2C19遺伝子型を用いたピロリ菌除菌自由診療:第4報 除菌率」

CYP2C19の高活性型では第1次除菌薬での除菌率が低く、第2次除菌薬を初回に使用することが除菌率上昇に役立つ。大幸医療センターにてCYP2C19の遺伝子型検査を導入する前と導入したあとの初回治療者除菌率を比較したところ、検査導入前の除菌率は99例中の81.8%、検査導入後の除菌率は31例中の90.3%であり、有意ではないが除菌率は上昇した。更に症例を増やして確認作業が望まれる。

  • C−2「透析患者の不明熱に対する抗結核薬の診断的治療に関する研究の中間報告(第2報)」

透析患者では結核発症のリスクが一般人より数倍高という報告があり、経験的に一般抗菌薬が無効な不明熱に抗結核薬が診断的治療の目的で投与されている。研究参加施設に通院する透析患者7,866人中12人の臨床的不明熱患者が登録され、1万人年あたり10.2であった。うち6人に抗結核薬が投与されたが、必ずしも解熱効果は認められなかった。本年8月末で調査は終了し、最終報告が行われる。
・C−3「認定小規模食鳥処理場における汚染実態調査 −細菌汚染の現状−」
食鳥処理を行っている1施設においてE. coli、サルモネラ属菌、カンピロバクターの細菌検査を行い、と体、包丁作業台、軍手、水槽の水、精肉が汚染されていることが判明した。次亜塩素酸等での消毒工程がなく、軍手を使用するなど衛生管理が不備であり、処理場全体が広範囲に汚染されていた。食中毒の集団発生前に現状を把握できたことは評価される。

  • C−4「岩盤浴の実態調査」

週刊誌で「岩盤浴で大量の細菌が検出された」との報道があり、名古屋市内の岩盤浴11施設において一般細菌、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、カビ数を検査した。岩盤の微生物汚染は比較的少なく、清掃は全施設、消毒は10施設が行っていた。衛生状況の良好な施設が参加したためとも考えられ、参加しなかった施設での衛生状況の把握も必要となろう。


 一般演題(口演)『食品衛生・その他』のまとめ

報告者:座長 日置敦巳(岐阜県関保健所)


分野は様々であったが,いずれも,今後の公衆衛生推進に向けて興味ある発表であった。後日の発表者への問い合わせが容易となるよう,次回からは発表者のアドレスを掲載することが望ましいと考える。

  • C−5「チェックカラーHistamineの有用性と魚介類のヒスタミン産生について」

イワシ,サバ,マグロ,カジキなどに多く含まれるヒスチジンが,細菌の作用でヒスタミンに変換されると食中毒が引き起こされる。本報告では,簡易測定キットを用いてヒスタミン量を測定することにより,食中毒への迅速な対応が可能となることが示された。室温保管で24時間後には発症量を超えており,内蔵除去・洗浄後保管した場合にもヒスタミンは産生された。食中毒発生時のみならず,関係者への啓発にも活用が期待される。

  • C−6「産業看護職に対する認識についての研究 〜看護職と直属上司の比較を通して〜」

大・中規模の事業所に勤務する産業看護職とその直属上司への職務に関する調査で,看護職には組織・集団に対する予防活動に加え,コーディネート能力や企画能力が求められていることが示された。看護職に比べ直属上司は,健康教育の実施割合・業務拡大意識が高くなっており,どのような契機でそのような状況に至ったか,非常に興味深い。解明できれば,小規模事業所の担当者への意識づけにおいても応用することが期待できる。

  • C−7「保健師に必要な資質・能力の明確化に関する研究」

行政機関に勤務する保健師に対する意識調査で,必要な能力として,県では集団支援・危機管理,政令市では個別支援・事業評価,中核市では連携,市町村では集団支援・事業評価があげられた。中核市では継続勤務希望者の割合が低く,子育てや中核市になって間もないための混乱が影響している可能性が考えられた。世代ごとの特徴や,業務内容との関連の分析により,継続勤務・資質向上に向けた支援が強化されることを期待する。


 一般演題(示説)『座長前発表 戮里泙箸

報告者:座長 豊嶋英明(安城更生病院健康管理センター)


  • D−1「人工透析患者実態調査及び血糖値要精密者へのグループインタビュー結果から見えてきた生活習慣病予防対策 〜特定健康診査・特定保健指導を効果的に実施するためには〜」

牧之原市内の人工透析患者35名中19名へのインタビューから、7割が腎疾患起因であったことから、特定健康診査ではメタボリックシンドロームのリスク以外の尿検査異常値についても注目し経年的変化の把握や受診勧奨を行っていく必要があることを示した。

  • D−2「学内全面禁煙と施設利用者の意識・行動変容に関する研究」

名市大がキャンパス内全面禁煙に踏み切った後、関係者の意識・行動の変化をアンケート調査した結果(回収数2,591、回収率58.7%)、病院利用者は大学所属者よりも全面禁煙を肯定的に評価しており、医療従事者の喫煙を否定的に考える人が多かった。今後、喫煙の害の情報発信を積極的に行うと共に禁煙サポートの体制を整えていくことの必要性を述べた。

  • D−3「静岡県市町における生活習慣病のSMRとその県内順位と地域差」

静岡県内42市町について全死因、がん、心疾患、脳血管疾患、糖尿病の標準化死亡比(SMR)を比較した結果、上記5死因全てについて、県東部で高く西部で低い分布をしており、これを生じた理由について自然環境、産業、栄養、性・年齢など人の属性分布等の要因から説明が試みられた。
・D−4「病院経営における医業未収金について」
医業未集金について厚生労働省、日本医師会の公開データと名古屋市立5病院のデータを分析し、未集金は病院や診療科によって異なることを示し、具体的な解決策を述べた。日本の医療への危機感の共有と、守る意識醸成の必要性を説いた上で、根本的解決策としてPrivate Finance Initiativeの適応が考えられるとの意見であった。


 一般演題(示説)『座長前発表◆戮里泙箸

報告者:座長 若井建志(名古屋大学)


  • D−5「愛知県における子どもの不慮の事故死亡の現状」

 愛知県における0〜14歳の小児の不慮の事故死亡について、平成1〜18年のデータを分析した報告である。不慮の事故による死亡は全体に減少傾向にあり、とくに交通事故と溺水が著減したとのことであった。死亡率についても死亡数同様の減少傾向を認めたとのことであるが、詳細な報告が望まれる。また死亡者は減少しているとしても、事故自体は減少していない可能性もあるとの指摘があった。

  • D−6「愛知県新城保健所管内におけるうつスクリーニング予備調査」

 厚生労働省による8項目の質問票による、主として高齢者(平均年齢71.4歳)を対象としたうつスクリーニング予備調査の報告である。二次スクリーニングの必要性の判定基準に該当した割合は36%であった。同時に実施した関連項目の調査からは、不眠のある者や悩みを相談できる相手がいない者において、質問票によるうつスコアが高いことが明らかになった。地域レベルでのうつの対策には、精神健康状態の増進(一次予防)が重要ではないかとの指摘があった。

  • D−7「ストリートチルドレンにおけるHIV感染の危険性とその予防について」

既存の資料研究、有識者へのインタビュー等を通じ、ストリートチルドレン増加の背景、直面している問題について検討した報告である。ストリートチルドレンは、社会の都市化と家庭内の要因により増加し、感染症、児童労働や物質依存、生活のために不特定多数の人間と性行為を持つことによるHIV感染リスクなどの問題に直面しているとのことであった。わが国においても保護制度の確立していない18歳以上を中心に、家庭にも地域にも居所のない若者が増えており、この問題は開発途上国だけのものではないとの指摘があった。


 一般演題(示説)『座長前発表』のまとめ

報告者:座長 永田知里(岐阜大学)


  • E―1「高齢施設入所者に対する音楽療法の有効性」

コントロール群を設定した無作為割付による介入研究であり、音楽療法の有効性を評価するのに適した方法論が用いられている。解析途中であるが、音楽療法群に夜間のナースコール回数の減少傾向が認められた。具体的に音楽療法の内容を問う質問がなされた。

  • E−2「色覚問題:障害と異常と特性と医療関係者としてどう向き合うか」

色覚検査による判定が拡大解釈され誤解や差別につながらないよう、新しいテスト法(CMT)の実施などの啓蒙活動、名古屋市交通局、名古屋市教育委員会との協力による取り組みが紹介された。医療関係者に対しての重要な問題提起となった。

  • E−3「路上から社会を考える 〜野宿者の結核問題から〜」

学生実習からの発表で、野宿者の特に結核蔓延に関する状況を調べたものである。学生の自主性が目立つ。結核予防の課題から雇用や福祉、社会保障の問題など社会構造について考察するに至った。

  • E−4「教職員のストレスとメンタルヘルス:大規模全数調査より」

サンプルサイズの大きな調査であったが、これも学生実習からの発表である。教職員のストレッサー、ストレス反応、コントロール度等を評価し、メンタルヘルス対策に役立てようとするものである。実習とはいえ統計的解析もよく学習されていた。


 一般演題(示説)『座長前発表ぁ戮里泙箸

報告者:座長 佐甲 隆(三重県立看護大学)


  • E−5「高齢者の健康生活調査について」
  • E−6「高齢者の健康状態について」
  • E−7「高齢者の生活満足度について」
  • E−8「高齢者の活動能力について」


このセクションでは、E-5,6,7,8の4題共に、G県S町に住む全高齢者を対象にした健康関連アンケート調査の結果報告が行われた。まず、中日本自動車短大の水野先生から、生活状況と健康度について報告があり、対象者の一般傾向として、持ち家に息子夫婦と同居、あるいは夫婦のみで生活し、7割に病気があるものの、自分では比較的元気と思う者の割合が高いとされた。次に、東海学院大学の大森先生から、健康状態の報告がなされた。対象者の主観的健康度は高く、病気の有無以外の要因の影響が推測され、また高血圧対策の重要性を指摘された。岐阜女子大の井上先生からは、生活満足度は比較的高く、病気の有無や、家庭内の役割の有無が影響するとの指摘があった。最後に中部学院大の水野先生から、ADL、拡大ADL、体力関連項目の尺度評価を用いた活動能力についての報告がなされ、いずれも、活動能力は加齢に伴って低下するものの、全体的に高いことが示された。今後、これら、健康度、満足度、活動能力に関連する他の要因についても検討されるとのことで、より詳細な要因分析が期待された。


 一般演題(示説)『自由質疑発表』のまとめ

報告者:青木伸雄(静岡県厚生部理事)


 東海公衆衛生学会においては、今回初めて座長をおかない示説発表の場が設けられた。全体として各発表について、多数の質問あるいはコメントが寄せられ、学会参加者の公衆衛生への熱意が感じられた。発表内容は栄養、運動、喫煙、生活習慣病、学校保健、環境保健、高齢者の健康、東洋医学に関連するものなど多岐にわたっていた。

  • 01「科学的ウォーキング教室参加者におけるBMIと食品摂取頻度の関連について」

 静岡県版食品摂取頻度調査票を用いて、肥満群と非肥満群の食品摂取頻度の差を検討し、肥満群ではおにぎりの摂取頻度が高いことなどの報告があった。調査法の長所と限界などについてのコメントがあった。

  • 02「若年者向けの「ウエストすっきりダイエット」指導」

 若年肥満者にさまざまな支援を行い、平均体重1.7kgの減少、HbA1c、尿酸などの検査所見の有意な改善が見られた。最初の動機付けと適度な支援継続はダイエット効果を高めたと考えられたという報告であった。

  • 03「食事におけるGlycemic Indexとライフスタイルとの関連」

 高山市の約3万人のコホート研究の成績である。食物頻度調査票よりGIを推定するという特色ある研究を行い、GIとライフスタイルとの関連を検討した。男性では、白米、食パン、炭酸飲料など、女性では、白米、食パン、クラッカーやあられ等がGIの得点に寄与していたという研究である。

  • 04「社会生活基本調査による年齢階級別食行動の記述疫学」

 平成18年度社会生活基本調査(n=124947)のデータを用い、15〜34歳の食事行動を検討した。全ての年齢層で一定時間に食事をとる者は平日の方が多く、20〜24歳の食事行動が少なく、行動率を低くする因子(食事にかける時間、欠食など)を考慮した国民の食事行動を追求する必要があることが報告された。
・05「体重の増減に関連する要因 〜AGESプロジェクト〜」
 愛知県内の要介護認定を受けていない高齢者において、女性では転倒、残存歯が少ないことが体重減少および増加の危険因子であり、新聞を読む・家族親戚と会うことは体重減少および増加の予防因子であるという大規模調査報告であった。

  • 06「青壮年者を対象とした身体活動量増加のための歩数計の活用とその有効性の解析」

 男性社員1128人について歩行数調査、質問紙調査、医学的検査を実施した。歩行数の増加は、肥満者の減少、血圧・血液検査値等の改善と相関し、HDLの改善には運動強度よりも歩行数を増やすと効果が大きいことが示唆されたという報告であった。

  • 07「週休制度・就業体制とスポーツ実施の関連」

 社会生活基本調査(n=86581人)では、週休1日の群より休日の多い群でスポーツ実施率が高い傾向が見られた。休日が少ない者、あるいは不定休の者がスポーツをできる環境整備の必要性がみられたという報告であった。

  • 08「男子高校生の喫煙意識の変化について 〜02年度、07年度調査の比較〜」

 愛知県下のA私立高校男子調査では、喫煙のイメージが良い・将来喫煙したいの回答が減少、健康に有害という認識が増加した。しかし喫煙のメリットとして、ストレス解消が増加した。これらの背景要因について考察を加えた。

  • 09「保育園又は幼稚園に所属する年中児の保護者における喫煙状況」

 T市内の17の園の保護者に質問紙調査を行い、母親の喫煙率は16%、いつかやめたい者は約75%、同居家族での喫煙割合は57%、喫煙場所を決めていない者は20%であったという実態調査報告であった。

  • 10「事業主の健康管理意識を高めるために 〜「ふじ職域健康知得報」と「事業主健康相談」〜」

 「事業主健診」を実施されていない割合が24%であり、このことは、事業規模が小さい、事業主自身が健診を受けていない、義務づけを認識していないことが関連しているようであった。

  • 11「更年期女性のツボ刺激による症状の変化」

 45〜55歳、女性ホルモン療法を受けていない32名において、10ヶ所のツボ刺激を1回30分、週2回、4週間実施した。簡易更年期指数(ほてり、発汗、冷え、動悸、いらいら、頭痛、疲労、肩こり)は、週数が多くなるほど、すべて有意に減少し、ツボ刺激は更年期症状を改善すると考えられたという報告であった。

  • 12「本態性低血圧における東洋医学的女レ戟iおけつ)」

 本態性低血圧患者45名のうち、女レ撃ヘ89%にみられ、手掌紅斑、季肋部圧痛点、月経障害、臍傍部圧痛抵抗(右)、顔面黒色の順に多く、生活習慣改善について考察を加えたという報告であった。

  • 13「保育園における発熱と欠席率の分析」

 福岡県下某市保育園の乳幼児23620名について、園内での体温を説明変数とし、翌日の欠席を目的変数とした繰り返しのあるロジスティック回帰分析を行い、回帰曲線と信頼区間を求めた。ある日の38.5℃以上の発熱は、翌日50%以上の確率で欠席し、39℃以上でも欠席率は更に増加したことなどを報告した大規模多施設コホート研究成果が得られた。

  • 14「高齢者の生活自立に係る要因の検討 − 静岡県高齢者生活実態調査の分析 −」

 静岡県の無作為抽出された高齢者の6年後の変化について検討した。自立度の低下要因は、年齢、性、がん、脳卒中などであった。定期的歩行、早歩きの習慣は予防要因と考えられた。家事や家庭内の仕事を続けられる支援の必要性が示唆されたというコホート研究である。

  • 15「コホート研究による高齢者の主観的健康感の悪化因子の検討:AGESプロジェクト」

 AGESプロジェクトのデータを用いて、主観的健康感(良い群とそうでない群)を従属変数とするロジスティック回帰分析を行った。男女とも主観的健康感は、治療中、処方薬数6種類以上、SOC低群、うつ状態、IADL9点以下などでオッズ比が高く、飲酒では飲むがたくさんは飲まないでオッズ比が低かったなどの結果が報告された。

  • 16「認知症予防活動に園芸をとりいれて −90歳以上の高齢者を対象にして−」

 対象者は4名。種をまいて育っていくことを観察した。認知機能検査、前頭葉機能検査の3か月における変化は有意ではなく、認知機能は維持された。参加者の表情、言動を観察したところ、達成感、満足感から評価したならば良い傾向がみられたと考えられるという報告であった。

  • 17「岐阜・西濃地域の地下水の水質形成と変遷」

 岐阜・西濃地域の地下井戸水15本・井戸水14本の溶存イオンを分析した。平野北西部の地下水は降水と鉱物の反応によるCa-HCO3型の水質であった。大垣市から海津市にかけての地下水は、降水による涵養が少なく、軟水化が進行していたという報告であった。

  • 18「安倍川の濁りの原因と生態系への影響について」

 安倍川本流とその支流の生態系調査を行った。今後の淡水域の生態系調査の一助とするために、付着藻類について検討した。安倍川本流とその支流の間に有意な差がみられたものは、浮遊物質量、透視度、濁度であり、pH、BOD、全窒素などには大きな差はなかった。両河川の藻類の属構成に差がみられた。今後の検討方法についても報告があった。

  • 19「マムシ咬傷における抗毒素血清の疫学的意義」

 佐久間病院でのマムシ咬傷例の抗血清使用群では、非使用群に比し、年齢が若く、血小板が低く、LDHが高かった。初診時腫脹の程度が高いと抗血清を選択する傾向があった。抗血清使用有無による治療効果には今回は差がなかった。これは対象が軽症者のみであったことの影響が考えられた。抗血清使用には、十分な検討と患者への説明が求められているという報告であった。

  • 20「新任保健師の担当地区アセスメント研修プログラム ―実践と成果−」

 新任期の「担当地区アセスメント研修」について、自由記載調査票を用いて成果を検討した。A市の新任保健師12名を対象とした。参加者は、研修運営については、情報交換の場などとして捉えていた。研修内容については、地区アセスメントの体験の場として、研修の効果は、担当地区の特徴や課題の明確化、仕事への取り組み姿勢の確認として捉えていたということが報告された。

  • 21「高齢者における治療の中断は要介護のリスク要因なのか?」

 AGESプロジェクトの一環の研究である。要介護認定を受けていない高齢者9474人に質問紙調査を行った。追跡期間は3年間。比例ハザードモデルで解析。治療中の高齢者で要介護状態になる者が多かった、前期高齢者では自己都合で治療中断のハザード比も有意に高かったなどの報告があった。

  • 22「地震災害時における地区組織と一般ボランティアのあり方についての検討〜石川県能登半島地震の現地調査より〜」

石川県能登半島地震の現地調査(インタビュー・地区踏査)を行ったところ、一般ボランティアは、被災者から受け入れ難いので、区長や地元の人に関与してもらうと、被災者からの信頼が得られると考えられたと報告であった。


 公開講座『生活習慣病時代の慢性腎臓病対策−その狙いと食事療法の役割−』

報告者:青木伸雄(静岡県厚生部理事)



学術大会に引き続いて公開講座が開催された。講師の熊谷弘通教授(静岡県立大学食品栄養科学部)から、慢性腎臓病(CKD)の新しい概念・合併症・医療費・一次二次三次予防・危険因子の時代的変遷・疾患ステージ別対策・栄養療法の役割・CKD大規模研究などについて最新の情報を提供していただいた。参加者に好評であった。


 いきいき東海(全国いきいき公衆衛生の会東海支部)サテライト集会

『子ども、働き盛り、高齢者の全てを巻き込んだポピュレーションアプローチを目指して』

報告者:尾島俊之(浜松医科大学)


 いきいき東海世話人の加藤恵子氏(愛知県健康福祉部健康対策課)、犬塚君雄所長(愛知県尾張福祉相談センター)の進行により、まず尾島から「特定健診・保健指導とポピュレーションアプローチ〜全国の事例紹介〜」として概念整理と事例紹介が、次いで大串文子氏(東海市市民福祉部保健福祉課)から「地域で支え、地域が動く子育て支援を目指して〜母子保健の現場から〜」として東海市での取り組みと悩みについての2つの話題提供が行われた。それを受け、小グループに分かれて、参加者同士の意見交換が行われた。その後、場所を移して情報交換会が行われた。参加者同士の交流に主眼を置いた集会となった。

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