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ご挨拶
人間の学としての認知神経科学

  本学会の理事長に推挙され、会員へ、どのようなメッセージを届けていくべきか書き直しの連続でした。結局、この学問について考えてきたことを示しました。本学会が今後すすむべき道を考える縁(よすが)に少しでもなれば望外のよろこびです。

  それぞれの学会には創立の経緯、いわば出自があります。日本神経学会は日本精神神経学会から独立したものであり、日本神経心理学会は日本神経学会の神経心理学セッションから生まれ、日本高次脳機能障害学会(旧 日本失語症学会)は失語症検査作成などを目的とした韮山カンファレンスが淵源でした。

  本学会の起源は夏休みの勉強会です。永江和久(1984年没)と親しくしていた幾人かが一周忌(彼はプロテスタントであったので、この表現は正確ではありませんが)の折に、合宿で行う定期的な研究会の発会を決めたことです。永江は内科医で、福岡県久山町における脳血管障害の日米共同研究において、失語症検査を担当するメンバーでした。当時(1980年代)は画像診断の革新と相俟って、神経心理学の隆盛の時代で、各地にさまざまな研究会が設立された時期です。この研究会のユニークな目的は、海外の有力な研究者と膝詰めの議論をしようというものでした。これが1986年から1995年まで続いた永江シンポジウムです。筆者は永江と近い立場にいたため、この会については敢えて触れませんでした。2019年学会の教育講演と本稿に限り記すことにしたものです。


(神経心理学、行動神経学、認知神経学)

  Henri Hecaenをneurologist-neuropsychlogistと称した追悼文を読んだことがあります。米国で神経心理学neuropsychologyがどのような位置にあるのか。二人で阿蘇の山なみを見ながらのVictor Henderson(南カリフォルニア大)との会話です。

  Neuropsychologyはアメリカでは、あくまで心理学です、その一分野です。 日本ではね、神経病理学、神経生理学などと並んで神経科学の一分野と捉えているけど、、。 その内容ならbehavioral neurologyが相当します、アメリカでは。

  ここで医学サイドからみた「神経心理学」の領域を私なりにまとめると、18世紀末のGallの骨相学に端を発し、19世紀末から20世紀初頭にかけての失語、失行、失認の古典的業績があり、20世紀末葉には注意、記憶、遂行機能、脳梁機能、ワーキングメモリが神経心理学研究のテーマに加わり、21世紀に入ると、共感empathy、社会認知が範囲に加わり、現在に至っています。

  認知神経科学会は1996年に発足しました。当時は認知神経学cognitive neurologyという用語は国内では殆ど使われていませんでした。個人的にはbehavioral neurologyという用語はたいへん気に入っていましたが、適切な邦訳がないようです。「行動」というコトバは既存のニュアンスが強いため、この領域を表す新しい用語になり難いと感じたのです。認知神経学cognitive neurologyはこの領域を包含するチカラを持った用語であると思っています。

  では、今後この会をどうすすめるか。 私の現場はベッドサイドです。”Bedside is your laboratory”というLouis Caplanの言葉は、私のような病院臨床を専らとしている人に勇気を与えるものでしょう。臨床医の仕事の原型は患者と出会う、すなわちヒトがヒトに会うということです。ヒトは生物学的な存在であると同時に社会的な存在です。私の専攻分野である臨床神経学でも事情は同じです。 From reading to neurons(Albert Galaburda)という書がありますが、本学会ではこのひそみに倣って“from society to gene”と捉えるべきではないかと考えています。その視座はさまざまです。私のような市中病院の臨床もあれば、研究施設、教育現場、などもあります。さらに政治、経済や芸術、文化への脳神経系の関与も考察の範囲に含めるべきではないかと考えています。またヒト以外の生物の研究も人間理解に資するでしょう。臨床推論というジャンルもあります。患者、被験者の分析のみならず、観察する側の医師や研究者の行動の脳科学による分析も人工知能との関連で、研究の対象に加わってくるのではないでしょうか。

  本学会はこれまで、理事長や歴代の大会長の構想力と個性で牽引されてきました。自然なことではありますが、本当の主役は一般会員であるべきで、議論の主要な場所は一般演題であるのが理想です。定説や権威に捉われず、もう一歩踏み込んだ率直な議論のできる学会を築いていきたいと考えております。

認知神経科学会 理事長 本村 暁

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