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ご挨拶

認知神経科学会 理事長 山口 修平   この度、杉下理事長、武田理事長、本村理事長の後任として第4代理事長に就任しましたのでご挨拶させていただきます。まず自己紹介ですが、バックグランドは神経内科医で、認知神経科学との関わりでは、視覚注意や前頭葉機能に関心を持ち、事象関連電位、機能的MRIなどの手法で研究を行ってきました。認知神経科学は認知機能を生み出す脳の生物学的メカニズムを科学的に研究する学術分野です。その対象は、言語、記憶、注意、情動、視覚認知、聴覚認知、遂行機能、意思決定さらには意識など広範な認知分野を含み、歴史的には心理学と神経科学の両方からのアプローチがなされ、この30年余りで飛躍的に進歩した領域であります。私が本学会の第15回学術集会を2010年に松江で主催した際の挨拶文の一部を以下に再掲します。

  『 今年の学術集会では「認知神経科学と臨床医学の接点」をメインテーマといたしました。認知神経科学の分野は、この10数年間で大きく様変わりしております。機能的MRIや近赤外線スペクトルスコピーなどの非侵襲的な脳機能測定手法により、これまで病巣研究や心理学的手法により推定されていた脳機能の解析がより精緻なものになり、神経ネットワークの解析も可能となってきました。また経頭蓋磁気刺激で作成した仮想病変を使った研究も可能となっております。これらの技術による、注意、記憶、情動、言語といった高次脳機能の解明には目をみはるものがあります。さらに近年、脳機能研究成果のインパクトは徐々に臨床医学にも拡がりつつあり、精神・神経疾患の診断・治療に応用されつつあります。本学会は、医学、心理学、生理学、発達心理あるいは比較認知など様々な分野の研究成果の情報交換が可能な学際的学会であります。

 これは13年前のメッセージですが、その後も認知神経科学は神経科学の中で益々重要な領域となり、当然のことながら研究者も大きく増加しています。一方で本学会の成り立ちを振り返ると、永江シンポジウムという名称で神経心理学に興味を持つ臨床研究者が集まり、1986年に研究会をスタートしたことが出発点となります。その頃の私は駆け出しの神経内科医で、杉下守弘先生や小林祥泰先生からのお誘いをきっかけとして参加するようになりました。当時の研究会は、海外の著名な神経心理学者、例えばGazzaniga(分離脳研究者)やMesulam(進行性失語症発見者)などを招聘し、合宿形式で20-30人位のメンバーで語り合うもので、私自身も貴重な経験をさせていただき神経心理学に興味を持ち始めました。ちなみにCognitive Neuroscience(認知神経科学)の名前はGazzanigaによって提唱され、彼は1994年にスタートしたCognitive Neuroscience Societyの創始メンバーの一人で、年次総会がサンフランシスコ、ボストン、ニューヨークのいずれかの都市で開催され、私も機会があれば参加しております。

 本学会は1996年に杉下守弘先生を理事長として正式にスタートし、神経心理学を主体としてさまざまな分野の研究者が集まりました。臨床神経心理学以外に、認知心理学、神経生理学、発達心理学、比較認知科学、機能脳科学など、極めて多彩な脳科学領域の研究者が参加してきました。神経心理学分野だけを見ると、高次脳機能障害学会や神経心理学会と領域は重なっていますが、本学会はより学際的である所がユニークな点であります。古典的な病巣研究は神経心理学に重要な知見をもたらしましたが、多くの学際領域間で議論が行われてきたことが、新たな発見やブレイクスルーあるいはパラダイム・シフトをもたらしてきました。その意味で本学会が臨床医学と接点を持ちながら、多彩な研究領域の研究者の参加を増やしていくことは、学会の発展にとって極めて重要な今後の課題であります。

 本学会はすでに27回の学術集会を開催しています。それぞれの学術集会は大会長の努力で素晴らしい成果をおさめてきました。その一方で会員数がまだ400人台と規模の小さい学会にとどまっています。この学会がカバーする研究領域は広いものの、それに見合った研究者、特に若手研究者の参加が得られておらず、人の広がりがまだ十分ではありません。会員数を増やすにはそれだけの魅力を学会が示す必要がありますが、その点でも不十分な状況です。本学会の役員についても若返りが必要で、学会の運営に新しいアイデアやエネルギーを取り入れることが学会の発展に必要と考えています。それと同時に、学会誌についても充実を図る必要があります。すでに学会誌は電子ジャーナルとしてホームページからのダウンロードが可能となっていますが、そのメリットを活かすためにも、多くの研究者を刺激する論文を数多く掲載する努力が必要であります。このように本学会には多くの課題があることは事実ですが、学会員の皆様のご協力をいただきながら、課題解決とともに学会を盛り上げ発展させるよう努力を続けていく所存ですのでよろしくお願い申し上げます。

認知神経科学会 理事長 山口 修平

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