靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

譙周

 実は『三国演義』にはもう一人、気になる人がいる。譙周、字は允南、蜀の儒者で天文に詳しい。この人は、劉備が死に諸葛亮も死んだ後に、魏の大軍が押し寄せてきたとき、さっさと降参すべきだと強く主張した。たしか、劉備が蜀に乗り込んできたときも、前の領主であった劉璋に同じようなことを進言している。他にも諸葛亮やら姜維やらの北伐に、一貫して反対し続ける徹底した平和主義者である。だから威勢の良い講談小説の中ではあんまり評判は良くない。
 でも、それほど無茶苦茶に罵倒されているわけではない。何故か。下った相手が同じ漢民族だからじゃないかな。魏に下ったのを罵倒すると、魏もそのあとを襲った晋も、ひいてはその後の正統の王朝をも罵倒することになりかねない。正統は重んじなければならない。それが歴史に対する正しい認識というものです。だから手心を加える。これが金に対する宋の秦檜の態度となると、もう情け容赦無い批難の嵐、今もって杭州にある鉄像は唾を吐きかけられ、杖で打たれてますからね。
 そもそも蜀人の立場から言えば、劉璋も劉備も余所者に過ぎないんです。そんなものが振りかざす正義によって、蜀の平和が乱されるのは迷惑なんです。

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