靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

むくい と てあて

天草本『伊曾保物語』蟬と蟻との事
或冬の半に蟻ども數多穴より五穀を出いて日に曝し 風に吹かするを 蟬が來てこれを貰うた 蟻の云ふは 御邊は過ぎた夏秋は何事を營まれたぞ 蟬の云ふは 夏と秋の間は吟曲に取紛れて 少も暇を得なんだに由て 何たる營もせなんだ と云ふ 蟻 實に實に其分ぢや 夏秋謠ひ遊ばれた如く 今も秘曲を盡されてよかろうず とて 散々に嘲り 少の食を取らせて戻いた

万治絵入本『伊曾保物語』蟬と蟻との事
さる程に 春過ぎ 夏闌け 秋も深くて 冬の比にもなりしかば 日のうらうらなる時 蟻 穴より這い出で 餌食を干しなどす 蟬來つて 蟻に申すは あな いみじの蟻殿や かかる冬ざれまで さやうに豐に餌食を持たせ給ふものかな 我に少しの餌食を賜び給へ と申しければ 蟻 答へて云く 御邊は 春秋の營みには 何事をか し給ひけるぞ といへば 蟬 答へて云く 夏秋 身の營みとては 梢にうたふばかりなり その音曲に取亂し 隙なきままに暮し候 といへば 蟻申しけるは 今とても など うたひ給はぬぞ 謠長じては 終に舞 とこそ承れ いやしき餌食を求めて 何にかは し給ふべき とて 穴に入りぬ

『ウソッポぃ物語』やむはむくいというくすしのこと
さる程に 春過ぎ 夏闌け 秋も深くて 冬の比にもなりしかば 日のうらうらなる時 富み榮えたる醫師ども 在るべきところより這い出で 笑いざわめきけるところに 蕩兒のなれのはて來つて 醫師どもに申すは あな いみじのくすし殿や 老いてなお 健やかに過ごし給ふものかな 我ははや病み衰えたるよ いかにもして癒いてくれよ 健やかにしてくれよ と申しければ 醫師 答えて云く 御邊は 若く盛んなるときを 何如にして過ごし給いけるぞ といえば 蕩兒 答えて云く 若きころは 別に身のおもんぱかりも無く ただ美酒を呑み 紫煙を吐き 好女を追い カラオケにうたうばかりなり その娯しみに紛れて 隙なきままに養生 鍛錬とては思いもよらず候 といえば 醫師申しけるは 今とても など 酒呑み戯れ給はぬぞ 不攝生にて 終に病むは 報いとこそ承れ いまさらに療治を求めて 何にかは し給ふべき とて 内に入りぬ

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