靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

南陽原やら歴代三代記やら

古くからの友人に,小栗虫太郎『黒死館殺人事件』と戯れて三十年という,玩びの達人がいて,近ごろ相棒を得て,調査の進捗が速やかになっているらしい。慶賀すべきであろう。

そこで,友だち甲斐になにがな協力したいとは思うけれど,西欧のことにはとんと疎いので,中国および日本に関するところで少々。
桃源社版ではP94とP95に,黒死館の蔵書に関する記事が有る。
本邦では、永田知足斎、杉田玄伯、南陽原等の蘭書釈刻を始め、古代支那では、隋の経籍志、玉房指要、蝦慕図経、仙経等の房術医心方。
細かな詮索はあほらしいからおく。南陽原は,原昌克のこと。南陽は号である。著書に,『叢桂亭医事小言』『経穴彙解』などが有る。ミナミ・ヨウゲンではない。
また、抱朴子の「遐覧篇」費長房の「歴代三代記」「化胡経」等の仙術神書に関するものも見受けられた。
「歴代三代記」なんてものは無い。「歴代三宝紀」の誤りだろう。もっともこれは費長房が撰したといっても仏教史籍であって,仙人になりそこないの費長房とは関係無い。小栗氏の念頭にある費長房は『後漢書』方術伝とか『神仙伝』に登場する壷公の弟子のほうだろううが,「歴代三宝紀」の費長房は,成都の人で僧侶。北周武帝の廃仏によって還俗させられ,隋の文帝の仏教復興に伴い,召されて翻経学士となった。

本当は,「あほらしいからおく」などと言ってはいけない。あほらしいことをしこしこと調べ続けて三十年だから,玩びの達人なのである。

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