靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

八犬伝を二年半で読む

江戸時代の読本は,文章とともに挿絵も読まなければならない,という意見には,なるほどとは思うけれど,考えてみれば,その刊行のまどろこしさも追体験するのが望ましい。もう,私たちにはむずかしいことだろうけど。新聞雑誌の連載とか,テレビの連続ドラマの展開を,はらはらどきどきなんてことも,もはやほとんどあり得ない。
『南総里見八犬伝』は,刊行に二十八年もかかっている。そこで,後の展開を挿絵でほのめかしておくなんてことも有った。だから,熱心な読者は,それをたよりにああでもないこうでもないと,楽しむというか苦しむというか。で,そうした熱心な読者の中には,完結を待ちきれずに身まかった例が多いらしい。そりゃ二十八年ですからね。
文化十一年に肇輯,二年後に二輯,三年後に三輯,次の年に四輯,三年後に五輯,四年後に六輯,三年後に七輯,二年後に八輯の上帙,次の年に下帙,二年後に九輯の上帙,次の年に中帙,次の年に下帙の上,次の年に下帙の中,次の年に下帙の下の甲号,次の年に下帙の下の乙号の上套,次の年に下帙の下の乙号の中套,次の年に下帙の下編の上,次の年に下帙の下編の中,次の年に下帙の下編の下。
我々だって,これに則って,二十八年というわけにはいかないのなら,年を月に置き換えて,二十八ヶ月で読むなんてことは可能だろうけれど,残念ながら,筋書きのあらましはすでに知ってしまっている。はらはらどきどき,待ち遠しい,なんてことはもうできない。

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