靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

『素問』と『霊枢』と

『素問』と『霊枢』と,本当はどちらが古いんだろう。これは文献的にちゃんと考証しての意見ではなくて,単なる印象なんだけど,ひょっとすると『霊枢』のほうが古いんじゃないか。
『霊枢』の編纂にはかなり明確な意図が有って,「余欲勿使被毒藥,無用砭石,欲以微針,通其經脉,調其血氣,營其逆順出入之會」がそれだと思う。経脈を調整して治療効果を得たいという,当時としては新しい主張である。現代人がイメージする針治療はここから出ている。
そこでは却けられている砭石が,『素問』の針治療の中心であるから,『素問』のほうが古いと言われるわけだけど,『素問』には『霊枢』で提起された新しい針治療も有る。つまり『霊枢』では仮説として持ち出されたことが,『素問』では公理となって,そこから話が展開されている場合が有りそうに思う。つまり,『素問』には明確な編集意図は無くて,雑多な論文集という性格が強いのではないか。古いものも有るが,新しいものも有る。
『素問』にもともと有った針治療は砭石を用具として血液を対象としていた。そこへ『霊枢』は微針を用具とし経脈を対象とする針治療を提起した。現在は,経脈という未証明のルートが有ると言われ,それは実は血管のことだったと言われはじめているが,やはりむしろ営血が行くものは血管であり,経脈を対象とするとは衛気を対象とすることである,としたほうが,すっきりするのではあるまいか。そうであれば,我々が理想とする針治療の大部分が,接触あるいは浅刺で効果をあげているのは当然のことである。
衛気とは経脈から離れて融通無碍に流散するものである,とイメージされがちだけれど,実はそうでもないんじゃないか。

Comments

Comment Form