鼠の草子
- 雑事
- by shenquzhai
- 2008/01/01
屠蘇の肴に御伽草子,今年は子年なので鼠の草子なんぞを。
ネズミの権の頭は,清水の観音に祈ったおかげで,人間の娘を妻として屋敷に迎えることができた。ところが,留守の間に障子の隙から家来たちの有様をのぞき見た姫君は,自分がネズミと結婚していたことを悟って屋敷から逃げ出す。権の頭は別れを嘆き悲しんで,世を儚んで,出家する。剃髪して「ねん阿弥」,その五戒を授かったときに申しけるは:
ネズミの権の頭は,清水の観音に祈ったおかげで,人間の娘を妻として屋敷に迎えることができた。ところが,留守の間に障子の隙から家来たちの有様をのぞき見た姫君は,自分がネズミと結婚していたことを悟って屋敷から逃げ出す。権の頭は別れを嘆き悲しんで,世を儚んで,出家する。剃髪して「ねん阿弥」,その五戒を授かったときに申しけるは:
あらありがたの御ことや。もっともたもちは申すべし。さりながら,すこしづつは御許し候へ。まづ第一に殺生戒は,海老、雑魚、蝗のたぐひ,口のまずき折節は,そつそと殺して給はらん,御許し給ふべし。第二偸盗戒は,御存じのごとく,蔵々室々の傍にて,俵兵糧食ひあけて,こぼれものをば御免あれ。そのほか,御寺方にてすまひせば,おこが、栗、柿、飴、おこし、胡桃、納豆、香の物、燈火の油筒,余る所を御免あれ。第三に邪淫戒をば,御心安くおぼしめせ。姫君に離れ参らせて,いかでさること候ふべし。さりながら,月に四五度は御免あれ,上人と談合申すべし。第四に妄語戒,自然猫の御坊とあひ候はば,はかりことを申すべし。第五飲酒戒は,御存じのごとく,それがしは御酒ばかりにて,命を続け申し候ふ。酒樽、酒甕の下にてたべ,酔ふほど給はり候ふまじ。大盃にあらずとも,十杯ばかりは御免あれ。かくのごとく御許し候はば,五戒においては,御心安くおぼしめせ,深くたもち申すべし。
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