靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

東か西か

針術の故郷はどこか。『素問』異法方宜論に「砭石者,亦從東方來」とか「九鍼者,亦從南方來」とかあるから,ついつい中国の東南に在ると思ってしまう。しかし,本草学は植物の豊富な地方(東南)から生まれ,乾燥した沙石の域(西北)からは,取りあえず尖ったもので患部をつつく治療が始まったはずだという,至極真っ当な意見も有る。それに当時の中原の東隣に位置する斉の伝統を受け継いだはずの淳于意の治療は,ほとんどが湯液によっている。針も全く用いないではないけれど,どうもあんまり得意そうでもない。そして前漢の末頃に『針経』を著して世に行われたという異人は,涪水のほとりで釣りをしていた。涪水は蜀,今の四川省の中部を流れている。針術の故郷は,はたして中国の東か西か。

ついでにもう一つ,ミトコンドリアDNAを分析した結果によると,戦国時代中期の山東人はヨーロッパ集団に近く,また前漢末の山東人は中央アジアのウイグルやキルギスの集団に近いらしい。斉の伝統医学は,一体どこから来たのか。

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