靈蘭之室 茶餘酒後

   ……休息している閑な時間

読めてしまう

杏雨書屋所蔵の『太素』がカラー印刷で出版されて,ときどき「美術鑑賞」の気分で眺めているんですが,今まで気付かずに,何の疑問も無く読んでいたところに,俗字が見つかります。例えば,散には少なくとも三通り有ります。勿論,普通の「散」も有ります。
多いのは「𣪚」で,これは『干禄字書』に散の俗として載っています。その他に攵が支に変わった「𢻎」も有ります。攵はもともとは攴ですから,支にごくごく近いけれど,原鈔では右肩に一点が有るのだから,うっかり支と書いたのではなくて,しっかりと支と書いたわけです。原鈔では「支」にも「岐」にも右肩に一点が有ります。攵の右肩に一点という例は,今のところ見つけてません。
つまり,『太素』の原鈔の(変な言い方ですが)原本が書かれた時代には,俗字がどんどん生まれていたわけですね。「𢻎」は,『漢語大字典』を繙いたところ,『正字通』に「散字之譌」と載っている,とだけありました。俗字としてもあまり認識されてなかったみたいです。それでも,何の疑問も無く読んでいた。漢字っておもしろいです。知らない文字も読めてしまうと言う融通性が有る。でも,どこかでとんでもない読み間違いをしているという恐れも有る。

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